第8章 3 魔王覚醒の理由

 私が名前を呼んだので、フレアとアンジュが不思議そうにこちらを見た。


「あら、ジェシカ。貴女、魔界の王の名前を知っていたのね?」


フレアが不思議そうな顔で私を見た。


「へえ~凄いね。この『狭間の世界の王』であるこの僕もまだ彼の名前を知らなかったのに・・・。」


アンジュも球体に映し出されている公爵を見つめながら言った。


「お、おい・・・・ジェシカ・・・。こ、この男って・・・。」


テオは指先を震わせながら公爵を指している。


「う、うん・・・。間違いない・・。この方は・・ドミニク・テレステオ公爵。」


何故?何故公爵が魔界の王なの?それに・・・何故今魔界にいるの?!

私には謎だらけだった。


「な・・何故なの・・?」

私は唇を震わせながら、誰にともなく言っていた。

「何故・・・ドミニク公爵が・・・魔界の・・・王なの?彼は・・彼は人間だったはずよ・・・!」


私は思わず公爵が映っている球体を抱え込んだ。熱い・・・!球体が焼けるように熱い・・っ!


「キャアアッ!貴女、一体なにするのよっ!」


フレアが驚いて悲鳴を上げる。


「ウワアッ!ジェシカ!君、一体急にどうしのさっ?!」


マシューも私の突然取った行動に声を掛けてきた。


「お、おい!ジェシカッ!落ち着けっ!」


するとそこへテオが私を後ろから羽交い絞めにしてきた。


「あ・・・。」


そこで私はようやく我に返り、球体から身体を離した。

私の手の平は・・熱で真っ赤になっていた。


「・・・・大丈夫か?ジェシカ?」


「う、うん・・・。ごめんなさい。皆さん・・・突然大声を上げて・・おかしな真似を・・・。」


「う、うん・・・。別に僕は大丈夫だけど・・・・それより、ジェシカどうしたんだい?彼は・・・君の知合いなの?」


アンジュが尋ねて来た。

知り合いも何も・・・。


「こ、この男性は・・私と・・・ここにる彼と同じ学院の学生なの。年齢は私と同じ18歳の・・・青年・・・。」


どうして?嘘でしょう?公爵・・・・。貴方は魔族だったの?だから・・・私は魔族の香りに魅せられて・・・。何度も何度も・・・貴方と・・・。貴方は聖剣士では無かったの?


呆然としている私に、そっとテオが声をかける。


「ジェシカ・・・。落ち着け、まずは・・・座ろう。」


促されて私が椅子に座ると、フレアが口を開いた。


「人間の貴女は気が付いていなかっただろうけど・・私は気が付いていたわよ。初めて『ワールズ・エンド』で彼を見た時から・・・。でも本人はその事に気が付いていなかったから何も声を掛けなかったわ。と言うか、それどころじゃなかったのよ。

マシューの事があったから・・・。」


そこまで言いかけて、フレアは何かに気が付いたかのようにアッと言う顔つきで私を見た。


「そ・・・そう言えば、マシューよっ!ジェシカッ!あ・・貴女・・・確かマシューを愛していたはずよね?それなのに、どうして別の男と一緒にいるのよっ!し、しかも・・・キスまでして・・。全く・・・マシューやノアだけじゃ飽きたらず・・・って訳かしら?!」


「何だって?!ジェシカッ!き・・・君はこの男とキ・・キスをしていたって言うのかいっ?!よ・・よくも僕のジェシカに・・・っ!」


そう言ってアンジュはテオに掴みかかる。


「ちょ・・ちょっと待てッ!誰が僕のジェシカだって?!い、いや!それよりも・・ジェシカッ!ノアが一体どうしたって言うんだっ?!」


テオはアンジュに抵抗しながら私に必死に訴えて来る・・。

もう収集が付かない状態だ。仕方が無い・・・・。

私は皆が落ち着くまでじっと待つ事にしたのだった―。



それから約30分後―。


「皆・・・・落ち着いた?」

私は3人を見渡しながら尋ねた。


「落ち着くも何も・・・私は初めから冷静よ。騒いでいたのはあの2人の男じゃ無いの。」


フレアはアンジュとテオをチラリと一瞥すると言った。


「お・・男って・・・。おい!僕はこれでも一応この世界の王なんだからなっ?!もう少しを敬意を払った言い方をしてもいいんじゃないかなッ?!」


「何っ?!お前がこの世界の王だってっ?!女みたいな外見だから、女王の方がお似合いなんじゃないかっ?!」


テオは先ほどの恨みがあるのか、とんでもない事を言い出した。


「何だって?!この僕の何処が女なんだよっ!」


「煩いっ!女みたいな外見だって言っただけだろうっ?!」


「「うう~ッ!」」


息を揃えて激しく睨み合うのを止めたのはフレアだった。


「はいはい、分かったからそこまでにして頂戴。全く・・・こんな騒がしい環境じゃお腹の子に悪い影響が出そうだわ。」


フレアは自分のお腹を愛おしそうに撫でながら言う。


「「・・・・。」」


流石にその台詞を聞いたアンジュとテオは静かになった。


「はい、じゃあジェシカ。さっきの話は・・もう終わりにしましょう。貴女のその短く切られた髪とか・・・やつれた感じとか見れば・・・今ここにマシューがいない理由も・・・何となく察しがつくから。」


「フレアさん・・・。」


「それじゃ、あの・・・魔界の王の事について話したほうがいいわね。」


フレアが言う。


「ああ。そうだね。・・・魔界の王なんだから、フレア。君から話しなよ。」


アンジュはフレアに言った。


「お願いします。フレアさん。」


「ああ、何故ドミニクが魔界の王なのか・・・聞かせてくれ。」


私とテオは交互に言った。


「ええ。いいわ。まずは・・・魔界の王についての事なんだけど・・・。これは第3階層に住む魔族なら全員が大人達から教えられてきた事だから誰もが知ってる話なんだけど・・・。」


フレアは語りだした。


今から数百年前、魔界は神界を支配する為の足掛かりとして人間界を征服しようとした。それを神界・・正しくは『狭間の世界』の者達が人間達に協力し、戦いを挑み、ついには英雄と呼ばれた人間界の王と聖女、『狭間の世界の王』との戦いに敗れた魔王は消滅してしまった。ただし、魔王は肉体が滅ぶ前に魂だけを人間界に解き放つと宣言をした。やがて、いずれ時が来れば魔王として目覚めた自分が魔界に戻って来れるようにその魂には魔王の記憶が植え付けられていると言われている・・・。



「そ・・・それじゃ、初めからドミニク様は・・・魔王の魂が宿っていたと言うの・・?」


私の問いにフレアが答えた。


「ええ。その通りよ。その証拠が・・・あの黒髪と左右の瞳の色の違いね。あの姿は私達の間で言い伝えられている魔王の肖像画、そのものの姿よ。だから・・・彼の持つ魔力もそうだけど、姿を見て一目で分かったわ。」

その後、フレアは何かに気付いたのか私を振り返ると言った。

「ああ、それにね・・・。確かこれは別に聞いた話なんだけど・・・魔界の王は特に人間の女性を・・・強く魅了する力を持っていると言われているんだけど・・・・。ジェシカ・・・心当たりはある?」


「え?」

その言葉に私は一瞬心臓が止まりそうになった。そうだ、私は・・・気付けば公爵の香りに酔わされて・・・何度も何度も・・・。

「・・・・。」

だけど、こんな事・・皆の前で答えられず、思わず黙ってしまう。


「ジェシカ?」


テオが心配そうに声を掛けてきた。アンジュは何故か青ざめた顔で私を見つめている。


「・・・まあいいわ。私が知ってる話はそれ位ね。」


フレアは肩をすくめると言った。

するとアンジュが手を挙げた。


「それじゃ、僕が知ってる魔王の話をするよ。魔王が自分の肉体が滅ぶ時に言った言葉・・・いずれ、人間の肉体を持って生まれ変わるだろうと聞かされた先代達はそうはさせまいと、魔王の身体から抜け出した魂に封印をかけたんだ。決して、その魂が目覚めないようにと・・・。多分今までもずっと魔王は同じ魂を持って何度も何度もこの世に生まれ変わってきていると思うんだけど・・・いつもその力が目覚める前に人間の肉体が力尽きて亡くなっていった・・・。それが、今回何故魔王として目覚めてしまったのか・・・考えられる理由がある。」


「考えられる理由って・・・?」


「多分、彼のすぐ側に・・・・邪悪な魂を持った人物がいた。そしてその人物によって悪影響をもたらされ・・・・とうとう魔王として覚醒してしまった・・・。」


アンジュの言葉に・・・私が真っ先に浮かんだのは誰だったのかは言うまでも無かった—。




 

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