第7章 14 聖女の証は消えない

「どうも怪しいな・・?お前、本物の聖女『ソフィー』なのか?」


テオは威嚇するような目でソフィーを睨み付けている。


「え・・?な、なにを言ってるのですか?私は・・本物のソフィーですよ。現に・・・彼の被せられた呪いの仮面を外したのも私ですし。」


ソフィーはまるで縋るようにマシューを見つめた。


「ええ。そうですよ、テオ先輩。彼女がいなければ・・俺は未だに仮面の呪いに苦しめられていました。」


マシューはテオからソフィーを守るように前に進み出ると言った。

マシュー・・・やっぱり貴方は・・・もう私の元へは・・帰って来てくれないんだね・・・。再び目に涙が滲んできた。


「ジェシカがここにいないなら僕はもう行くよ。彼女を探しに行かなくちゃ。」


ダニエル先輩が生徒会室を出ようとするとノア先輩が呼び止める。


「ダニエル、僕もジェシカを探しに行くよ。それじゃあね。」


「あ、ま、待って下さいっ!ダニエル様、ノア様っ!」


ソフィーが声を掛けるとノア先輩が振り返った。


「言っておくけど・・・僕は聖剣士じゃ無いから関係無いよ。大体生徒会室に一緒に来たのはジェシカがいるかもしれないと思ってついて来ただけだからね。」


どこか冷たい視線でソフィーを見る。

そして2人は生徒会室から出て行ってしまった。

え・・・・?2人とも・・どうしてしまったの?

てっきり私は『魅了』の魔力が戻ったソフィーに恋していると思っていたけど・・?

私には今起こった出来事が信じられなかった。


「へえ・・・。」


一方のテオは何故か嬉しそうにダニエル先輩とノア先輩が部屋を出て行く様子を眺めている。


「いいから。放って置け、ソフィー。あの2人は聖剣士では無いのだからな。好きにさせておけばいいんだ。」


アラン王子はどこか投げやりな感じで言う。


「ああ。別に構う事は無い。それで・・生徒会から全校生徒に呼びかけてくれるんだろうな?今は魔族の男が1人で門番をしているんだ。一刻も早くソフィーを聖女と皆に宣言し、聖剣士達を呼び集めなければならない。」


デヴィットの言葉にテオが言った。


「別に俺が呼びかけなくても、そこにいる聖女様が本物なら自分の力で聖剣士達に呼びかける事が出来るだろう?俺はお前達に力を貸すつもりはないな。」


「何だって?」


アラン王子の顔つきが険しくなる。


「今は一刻を争う事態だって分かってるのか?こうしている間にも破壊された門から魔物達が溢れてくるかもしれないんだぞ?」


デヴィットは怒りを必死で押さえながら言う。


「それなら、こんな所にいないで『ワールズ・エンド』の門を修復する方法でも考えた方がいいんじゃないか?本物の聖女様なら門を元の姿に戻すことなんかお手の物じゃないか?」


テオが挑発した様子でソフィーの方を見た。テオ・・・貴方一体何を考えているの?その言い方は・・・まるで今そこにいるソフィーは偽物だと言ってるように聞こえるけど?


「テオ先輩。まさか・・・まだ彼女の事を偽物だと思っているのですか?」


マシューの問いかけにテオが言った。


「ああ・・・そうだな。本物の聖女なら・・・ジェシカの事をないがしろにするような言い方をするとは思えない。お前の為に・・全ての魔力を捧げたジェシカを・・・。そう思わないか?ジェシカ。」


言いながらテオは私が隠れていたクローゼットを開け放った。


「「ジェシカッ?!」」


アラン王子とデヴィットが私の姿を見て同時に声をあげる。


突然クローゼットを開けられた私は驚きのあまり、固まってしまった

すると次の瞬間・・・テオは私の腕を引き寄せると強く抱きしめ、彼等に言った。


「いいか?俺の愛するジェシカを苦しめたお前達に協力する気は一切無い。何が聖女だ。ジェシカの力を平気で奪えるような女を俺は聖女だとは認めないからな。」


「テ・テオ・・・。」


一瞬私とマシューの視線が合ったが・・・やはりマシューの目には・・・何の感情も伝わっては来なかった。


「ほら!分かったらさっさと立ち去れっ!俺は聖剣士じゃ無いから・・お前の言う事等聞くつもりはないからな。」


「分かりました・・・行こう、ソフィー。」


マシューはソフィーの肩を抱きよせると言った。私は・・そんな彼の姿を見たくなくて目を伏せた。


一方のソフィーは呆然としたまま、マシューに連れられ、生徒会室を出て行った。

しかし、何故かアラン王子とデヴィットは出て行こうとしない。


「何だ?まだ何か俺に用があるのか?お前たちはもうソフィーの聖剣士なんだから早く聖女様の元へ行けよ。」


「「・・・。」」


アラン王子もデヴィットも・・・何か言いたげに見えたが、結局ソフィーの後を追うように生徒会室を出て行った。


「テオ・・・。」

2人きりになると私は彼に声を掛けた。


「何だ?ジェシカ。」


テオが優しい笑みを浮かべながら私を見た。


「な、何も皆の前であんな演技をしなくても・・・。」


「演技?ジェシカには・・・あれが演技に見えたのか?」


テオが真剣な目で私を見つめる。


「だ・・・だって、私にはもう・・・『魅了』の魔力も残っていないのだから・・。」


「だから・・俺がお前を愛するはずは無い・・・そう言いたいのか?」


テオは私の頬に手を添えると言った。


「ジェシカ。お前には・・・『魅了』の魔力なんか無くたって・・・十分に人を惹き付ける魅力があるよ。現に・・・俺がそうなんだから・・。」


テオは私を抱き寄せると耳元で囁いて来た。


「マシューは・・・馬鹿な男だ。ジェシカ程・・・魅力的な女はいないって言うのに・・あんな女に移り気するなんて・・。ジェシカ・・・。お前はこれからどうする?何か・・・考えがあるんだろう?俺は・・・何処までもついて行くよ。」


「テ、テオ・・・。」

私はテオにしがみ付くと言った。

「テオは・・・あのソフィーは・・偽物だと思うの・・・?」


「ああ・・・・。そうだ。あの女は・・俺の良く知ってるソフィーに間違いないな。何せ俺は裏生徒会のメンバーで・・・ずっとあのソフィーの側にいたんだからな。他の連中は何も気が付かなかったかもしれないが・・・あの女。俺を一目見た瞬間に顔色が変わったんだぜ?」


テオは私を抱きしめたまま語る。


「そ、そんな・・・それじゃ・・・私は偽物のソフィーに・・・自分の聖女の力と・・・魅了の魔力を渡してしまったの・・・・?」

どうしよう、私は・・・取り返しの付かない事をしてしまった。

まさか・・あの城にいたのが・・・偽物のソフィーだったなんて・・。


するとテオが言った。


「ジェシカ・・・本当にお前・・・自分の魔力を渡したのか?もう・・失ってしまったと思っているのか?」


え・・?一体どういう意味・・・?


「ジェシカ。自分の左腕を見て見ろよ。」


テオが私から身体を離すと言った。


「え・・・?」

するとテオは突然私の左の袖を上に引き上げると・・・そこにはまだ聖女になれる証の紋章が残されていた。


「いいか。ジェシカ・・・。一度身体に浮かび上がった紋章って言うのは・・絶対に消える事は無いんだ。・・・誰にも奪う事は出来ないんだよ。だからお前の聖女の力はまだ消えていない。もう一度・・・お前が聖女になれる可能性は幾らでもあるんだからな?その気になれば・・・マシューの聖女に戻る事だって・・・出来るはずだ。」


どこか悲し気にテオは言った。


「だけど・・・。俺はもう誰にもお前を渡したくは無い・・・。」


そしてテオは再び私を強く抱きしめた—。











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