※マシュー・クラウド(モノローグ)②(大人向け内容有り)

 次に目を覚ました時・・・俺は異変に気が付いた。何だ?頭に何か被せられている。慌てて部屋を見渡すも視界が悪くて首を動かさなくては当たりの様子を知る事が出来ない。

どうやらここは粗末な部屋だと言う事が分かった。

鏡・・・鏡が見たい。何処かに鏡は・・・。ふらつく身体で、重たい頭を何とか持ち上げ、俺は部屋の中に鏡が無いか探し・・・ベッドの下に小さな手鏡が落ちている事に気が付木、拾いあげ、鏡を覗き込み、悲鳴を上げた。・・・いや、上げたつもりだった。

何故・・・あげたつもりだったという表現をしたかと言うと・・・それは俺は確かに叫んだはずなのに、言葉が出てこなかったからだ。その事実に気付き、再び叫んだ俺は・・・絶望した。

何故だ・・・?何故声が出てこないのだ・・?しかも俺が被っている鉄仮面は何とも言えず恐ろしい雰囲気を醸し出している。そうだっ!この鉄仮面を外せばいいんだ!俺は鉄仮面に手をかけ・・再び声にならない叫びをあげた。外そうとしただけで、万力で締め上げられるように鉄仮面に圧がかかる。しかも鉄仮面の裏側に鋭利な何かが仕込まれているのか、俺の顔を傷付けた。鋭い痛みが走り、血が出て来るのが分かった。

ポタリポタリと血が仮面の中から垂れてくる。

俺は瞬時に悟った。駄目だ・・・少しでもこれを外そうと考えると・・俺の身体を傷つけようとする力が働くのだ。・・・駄目だ・・・外そうとしては・・・っ!

何とか心を落ち着け・・・そこで新たな事実に気が付き、再び俺は叫びそうになった。


俺の名前は・・・何だ?俺は・・・一体誰なんだ?何故こんな鉄仮面を被っている?そして・・ここは・・・一体何処なんだ・・・っ!!


 その時・・・ガチャリといきなりドアが開かれ、見た事も無い3人の人物が現れた。

真ん中にいたのは珍しい髪質の女・・。美人の部類に入るのだろうが、意志の強そうな口元に、吊り上がった瞳は嫌悪感しか感じられなかった。


傍に控えて居る男は片側の男は金の髪、もう方側は黒髪と、全く正反対のタイプの男が付き従っている。なんて目をしているんだ・・・・。2人とも生気が無い顔をしている。



「あら、ようやく意識を取り戻したようね。」


珍しいピンクの髪色の女が声を掛けて来る。だが・・・言葉を出そうとするも、声が出せない。


「フフフ・・・・。いいざまね。これから貴女はここに住んで・・・私の手足となって働いてもらうわよ。まずは邪魔なジェシカが消えた事だし・・あの女を魔界の封印を解いた稀代の悪女として全校生徒の前に名前をさらけ出して・・・私がこの学院の女王に君臨するのよ。抵抗するものは・・・容赦なくさばく。これから貴方にもこ2人と共に・・・その役割を担て貰うわよ?私の聖剣士さん。」


聖剣士・・・・?聖剣士って一体何の事だ・・?学院・・?ここは何処かの学院なのか・・・?駄目だ、頭に靄が懸ったようで・・何もわからない。それにこの邪魔な仮面のせいで視界も悪いし、周囲の音も聞き取りにくい。ただ・・・ジェシカと言う名前・・この名前を聞いただけで・・・乾ききった俺の心に一滴の水が落ちて・・・染みわたっていくような感覚だけは・・・孤独な心を癒してくれるように感じた・・・。



 あれからどのくらいの日数が経過したのだろうか?この仮面のせいで俺は一切飲食を口にする事が出来なくなっていた。しかし・・・不思議な事に飢えも乾きも感じる事が無かったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。

この聖女ソフィーと言う女は兎に角軽蔑の対象でしか無かった。

毎晩寝室に色々な男を引き入れては乱れ切った生活をし・・・徐々に彼女に忠誠を誓っていた聖剣士達は1人、2人と・・その数を減らしていき、最終的に残ったのは俺をふくめ、アラン王子、ドミニク公爵・・・そして僅か10名ほどの聖剣士のみだった。勿論俺以外は・・・全員ソフィーと深い仲になっているのは言うまでも無かった。

俺も何回もソフィーに迫られたが・・・頑なに拒否して来た。俺には・・嫌悪感しかない女を抱く事等出来なかったからだ。

 聖剣士がいなくなった事により、今度はソフィーは学院のごろつき共を自分直属の兵士に置く事に決めた

こうして怪しげな男達が神殿に入り浸るようになり・・いつしか彼等は女子学生達を連れ込むようにもなってきていた。

本当に・・ここは狂った世界になってしまった。

だけど、本当に狂いたいと一番願っていたのは他でも無い、俺自身であった。

俺は・・・こんな仮面を被らされ一生生きていかなければならないのだろうか・・?狂えるものなら、いっそ狂ってしまいたい。

誰か、誰か俺を助けてくれ・・・。

こうして益々俺の心は深い闇に囚われていく・・・。



 ここ最近、神殿でソフィーの姿を見かける事が無くなった。

噂によるとソフィーは神殿を占拠するだけでは飽き足らず、森の中に城を手に入れ、そこ拠点にうつしたという。

彼女の今の一番のお気に入りはアラン王子からいつの間にかドミニク公爵へとシフトしており、ほぼ二人きりでそこの城に入り浸るようになっていた。・・・そこで毎晩何が行われているのかは・・・聞くまでも無い。


 

 ある日、学院中に手配書が張られ始めた。手配書に記された女の名前・・ジェシカ・リッジウェイ。・・何故だろう。初めて聞く名前なのに・・・この名前を目にするだけで心がざわつく。だけど・・・手配書に描かれた人物は俺を落胆させた。吊り上がった眉、気の強そうな口もとはどれも気に食わない顔の作りだった。ただ、彼女の栗毛色の髪に紫の瞳だけは好感が持てた。


 俺の主・・・ソフィーは命じた。この女を見つけ次第、必ず自分の元へ連れてくるようにと。しかし俺はそれに抵抗し・・・気を失うまで仮面を締め付けられるという責め苦を何度も負わされた。そしてそんな俺を看病してくれたのが、茶色の髪を二つに結わえた眼鏡をかけた・・根暗なタイプの女だった。

どう言う経緯化はしらないが、彼女はソフィーに幽閉されていたのだが・・・ジェシカの手配書が張られ始めた頃から俺の傷の手当をしてくれていた眼鏡の女の姿も見なくなった。他の聖剣士の話によると、彼女を神殿に残しておくのは危険だとドミニク公爵が進言した為、湖畔の何処かにある城に移されたという話を聞かされたが・・真実かどうかは定かでは無い。

 そして・・・それから数日後・・・アラン王子が神殿から姿を消した。

しかし、ソフィーはもうアラン王子には興味が無くなっていたのか、姿を消した事を報告されても顔色1つ変えなかったらしい。・・・あの女らしいな・・・。


 アラン王子が消えた数日後・・・真夜中に侵入者が現れたと報告が入った。

俺は飛び起きると剣を握りしめ、神殿の外へ出た。そして息を飲んだ。

何とそこにはアラン王子がいたのだ。・・初めは全くの別人だと思っていた。何故なら顔つきが・・・目の輝きが全く違っていたのだ。

彼の顔は生気にみなぎり・・・瞳は美しいアイスブルーの光を湛え・・必死である女性の名前を呼んでいた。

「ジェシカ」と―。

ジェシカ・・・。まただ、その名前を聞くだけで・・・真っ暗だった俺の心に一筋の明るい光が灯されるように感じる。何故なのだ?

アラン王子に聞けば分かるだろうか・・・。

俺は彼等の前に立ちはだかった。・・・攻撃など加えるつもりは無かった。ただ俺はジェシカと言う名前について聞きたかっただけなのに・・彼等は顔色を変えて襲い掛かって来た。

すると仮面が反応する。コロセ・ヤツラヲコロセ・・・と。

ここ最近仮面から声が聞こえるようになってきた。

この声にあらがおうとすると勝手に鉄仮面が俺に制裁を加えて来る。締め付け、鋭利な刃物で俺の皮膚を傷付ける。

ヨセ・ヤメロ・・・・言う通りにするから・・やめてくれっ!!


そして俺は気付けば剣を振りかざし・・・・彼等に襲い掛かっていた—。






 

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