第7章 4 彼女の行方
「あ・・・。」
突然彼の手を握りしめていると、相手から握り返してくる気配を感じられた。
恐る恐る覗き込むと彼は頭を動かして私に視線を送っている。
「あ、あの・・・目が覚めたんですか?」
尋ねると、コクリと首を振る。そして彼は起き上がると、メモを書いてよこしてきた。
『ありがとう、お前のお陰で助かった』
メモにはそう書かれていた。
「え・・・?気が付いていたんですか・・・?」
すると彼は首を縦に振る。
「私は・・・何もしていませんよ。あの時だって何があったのか分かっていませんし・・・。あ、そう言えば・・貴女の聖女は確かアメリアでしたよね?彼女は・・・今何処にいるのか・・・心当たりはありませんか?」
しかし彼は何故か無反応だ。そして何かメモを書き始め、私に手渡してきた。
『俺を手当てしてくれた女性の名前は分からないし、彼女は俺の聖女では無い。」
「え・・?で、でも・・・貴方の傷を・・歌を歌って治してくれていた女性は・・・その女性ですよね?」
「・・・。」
しかし彼は首を捻り、メモを書いて渡してきた。
『歌を歌って治して貰った事はない。彼女はいつも血を拭きとって、熱を持った身体を濡れたタオルで冷やしてくれていただけだ。』
う~ん・・・。なんか少し夢と違うような・・・?それともあの夢はこれから起こる未来の夢だったのだろうか?
「すみません。私の勘違いだったようですね。では今の貴方には聖女はいないと言う事ですね。」
「・・・。」
しかし彼は何か考え込んでいるかのようにだ俯いている。そして何かメモを書き始めた。
『お前は聖女なのか?』
「え・・・?」
彼はじっと私を見つめている。
「は、はい・・・。一応は・・そうみたいですけど・・・?」
『それなら俺の聖女はお前だ』
困った・・・。この人は・・私が聖剣士全員の聖女だと・・思っている。
「あ、あの・・・私は・・・聖剣士全員の聖女では・・・無いんです。これは聞いた話なのですが、聖女にも2種類あって・・・聖剣士全員の聖女になれるだけの力を持つ女性と・・・強い絆で結ばれた関係の・・・特定の相手だけの聖女に慣れる女性の二通りがあるそうで・・・私は後者の方です。」
彼は暫く考え込んでいたようだが・・・・再びメモを書いて渡してきた。
『ならお前を俺の聖女にしてくれ』
私はそのメモの内容を読んで仰天した。きっと・・・この彼は聖女付きの聖剣士になると言う事がどういう事なのか・・・・理解していないのだろう。でも・・・何故そこまで彼は強さを求めるのだろう?今だって十分強いのに・・・。
「あ、あのですね・・・。聖女を持つ・・・と言う事は簡単な事では無いんですよ。大体・・・お互いに理解し合い、尚且つ同意の元で・・・。」
って何を言っているのだろう、私は。終いに自分で何を言いたいのか分からなくなってしまった。」
「と・・・とにかく貴方と私では・・・無理ですよ。それに・・貴方には大切な方がいるでしょうから・・・。」
そこまで言うと私は椅子から立ち上った。
「アメリアさんを・・・一緒に探しに行きませんか?」
私と仮面の剣士は森の古城へとやってきていた。この城も・・・魔物達に踏み荒らされたであろう痕跡が至る所に残されていた。
建物が崩れた場所・・・破壊された階段に大きく穴が空いた床に天井・・・。
「ここを襲って来た魔物達はどうなったんだろう・・・。」
城の中へ足を踏み入れた私は見るも無残な光景を見て呟いた。
すると彼はメモを渡してきた。
『この城を襲って来た魔物の群れは俺が全て倒した』
「え・・?貴方が魔物を・・あの・・第一階層から現れた恐ろしい異形の魔物の群れを・・・。」
私は彼を改めて見つめた。
鉄仮面の奥に見えるその目は・・・何処か懐かしさを感じる。知っている・・・。私は絶対にこの人を知っている。でも・・貴方は誰なの・・?
『どうした?』
彼は筆談で私に尋ねてきた。どうしよう・・・。彼は・・自分の記憶が全く無いと言っていたけど・・・。でも・・・無駄とは思いつつも私はどうしても確認してみたかった。
「あの・・・貴方は・・ひょっとして私の事を・・・知っていますか?」
彼はじっと私を見つめていたが・・・無言で首を振った。ああ・・やっぱり・・・。でも・・・本当は私達は既にお互いの事を・・良く知り合った仲なのではないだろうか・・?でも、それを確かめる術は・・・何も無いのだ。仮面の下の素顔さえ確認出来れば・・・全てがはっきり分かるのに、無理に外そうとしたり、外す事を考えただけで、ソフィーがその鉄の仮面にかけた呪いが発動する。
どうして?どうしてソフィーはここまで酷い事をこの彼にしているのだろう?
彼はそれ程ソフィーの逆鱗に触れる事をしてしまったのだろうか・・?
目の前の彼が不憫で、再び私の目に涙が滲む。
「・・・・。」
涙を浮かべている私を彼を見て戸惑っている気配が伝わって来る。
「あ・・。ご、ごめんなさい。」
涙を拭うと、彼に背を向ける。すると彼がそっと私の事を背後から遠慮がちに抱きしめて髪に顔埋めてきたのが分かった。
その時・・・私は気付いてしまった。彼は・・・仮面の下で泣いている。
どうして・・どうして彼は泣いてるの?やっぱり・・無くした記憶の中に・・わたしがいるの・・・?
そして暫く私達は崩れ落ちた城の中で彼に背中から抱きしめられる形で・・・立っていた—。
「こんなに崩れ落ちた城の中では・・・アメリアさんがいるとは思えませんね。」
私達は瓦礫に埋もれた古城の内部をアメリアの姿を求めて歩き回っていた。
「・・・彼女の事が心配ですよね・・・。貴方の愛する女性なのですから。」
すると前方を歩く彼が急にピタリと足を止めて振り返った。
「・・・・。」
彼は何か言いたげな様子で立っている。
「?どうかしましたか?」
首を傾げると、彼はメモを取り出し、サラサラと書くと何故か押し付けるように私にメモを渡してきた。
『違う、お前が探している女は俺が愛している女では無い』
「え・・・?」
私は思わず手渡されたメモと彼を交互で見る。そうか・・・。
やはり私が見たあの夢は・・ここから先の未来の夢なのかもしれない。それとも、只の夢だったのか・・・。いずれにしろ勘違いしてしまったのだから謝っておかないと。
「すみません。変な事を言ってしまって・・・。」
すると、彼は一瞬私の髪に触れ・・・すぐに手を引っ込めると再び瓦礫の中を歩き始めた。
だけど・・・私は大きな穴が空いている天井を見上げて思った。
とてもこんな場所にアメリアが居るとは思えない。もしかすると・・他にソフィーは隠れ家を持っていたのだろうか・・?
「あの・・・すみません。ソフィーは神殿とこの城以外に・・どこか別に拠点を持っていませんでしたか?」
彼は暫く考え込んでいたが・・・何かを思い出したかのように顔を上げた。
『俺は行った事は無いが、噂によるとこことは別に湖のほとりに小さな城があり、そこによくソフィーが出掛けていたという話を耳にした事がる。』
彼が渡してきたメモを見て、私は思った。ひょっとするとソフィーはアメリアをその城に移したのでは無いだろうか?
「あの・・・探してみませんか?その城を・・・。手掛かりは湖ですよね?私・・・絶対に彼女を見つけ出したいんです。きっとアメリアなら・・・彼女さえ見つかれば今の現状を打破できると思います。」
私は仮面の騎士を見上げると言った。
・・・私の中では確信があった。夢で見た人物は・・・アメリアでは無かった。でも私には分かった。
そう、本当の聖女は・・・アメリアだと言う事が―。
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