第7章 3 仮面の呪い
部屋に入ると、彼はマントを外して鎧を脱ぐとテーブルに置いた。ひょっとすると・・着替えをするのだろうか?
「あ、あの・・・着替えるんですか?」
すると黙って頷く彼。
「ああ。それなら着替えが終わるまで部屋の外で待っていますね。」
そう言って出て行こうとすると肩を掴んで引き留められた。
「危ないから・・・ここにいろって事・・・ですか?」
尋ねると、やはり頷く。
・・ひょっとすると・・・この神殿の中は危ない場所なのだろうか・・・?だけど・・。着替えをしている男性と同じ部屋にいるのはやはりまずいだろう。
「大丈夫ですよ、ほんの少しの間ですから・・・。」
ドアノブを回して出ようとすると、彼はドアの前に立ちふさがり鍵をかけると何やらメモを書き出した。
『ここにいる兵士たちは皆危険だ。女が1人でいると何をされるか分からない』
私はそのメモを読んで衝撃を受けた。そ、そんな・・・。それなら絶対に1人にはなれない!
「わ・・分かりました。この部屋にいさせて貰います。」
すると彼はフウと溜息をつくと再びメモを書いてよこした。
『絶対に部屋を出る時は声をかけろ』
「はい、分かりました。」
頷くとようやく納得してくれたのか、彼は着替えを出してくると背中を向けて服を脱ぎ始めた。
私は慌てて彼に背中を向けて椅子に座り、静かに着替えが終わるのを待っていた。
そして少し待った後に肩を叩かれた。振り向くと彼は白いシャツに茶色のボトムスというラフな格好に着替え終わっていた。ただ・・やはり鉄仮面は被ったまま。
「その仮面・・・苦しくないですか?」
すると彼はメモを書いて渡す。
『初めは苦しかったけど、もう慣れた』
そんな・・・慣れたなんて・・・・・嘘に決まっている。だってこのマスクのせいで水も食事も口にする事が出来ない。いくら喉の渇きも飢えも無いと言われても・・辛いと思う。寝る時だって外す事は出来ないのだ。そしてソフィーに歯向かえば鉄仮面に締め付けられて苦しめられる。
記憶も無くし、言葉も話せなくなってしまった彼の心境を想うと・・・気の毒でならない。このマスクのせいで・・・声を奪われ、彼女は愛しい聖女に愛を囁く事だって出来ないのだ。なんて可哀そうな・・・。
思わず涙ぐむと、彼は困ったようなしぐさをみせ・・・そっと私を抱き寄せ、頭を撫でて来た。
まるで慰めているかのように・・・。
ああ・・・・でも、やっぱり私はこの腕の中を・・・この温もりを覚えている。
でも、この人はマシューでは無い。・・・だってこの人には紋章がある。
それなら一体・・・貴方は誰なの・・・?でも駄目だ。この人の腕の中は・・私の物では無い。
「あ、あの・・・すみません。泣いたりして・・・もう大丈夫ですから。」
言いながら軽く押すと彼は静かに後ろに下がる。
「お疲れでしょうから・・・どうぞ私に構わずベッドで横になって下さい。大丈夫です。何処にも行きませんから。」
そして椅子に腰かけた。
彼はそんな私を少しだけ見つめていたが・・やはり疲れているのだろう。
ベッドに入ると、何故か私の方を見つめている。
「・・・どうかしましたか?私がいると・・寝にくいですか?それなら貴方の視界に入らない場所に移動しますよ?」
そう言ってタンスの陰に椅子を持って行こうと立ち上がると、手首を捕まえられた。
・・・引き留めているのだろうか?
『ここにいろ』
彼はメモを寄こしてきた。
・・・やっぱり彼は・・マシューでは無いだろう。彼はこんな不愛想な話し方をする人では無かったから。
「はい。分かりました。ここにいます。」
ニッコリ笑って言うと、ようやく彼は安心したのか少しだけ身じろぎすると・・・すぐに寝息が聞こえて来た。
・・・余程疲れていたのだろう。無理もない・・・・12時間も寝ずに、魔物と戦ったのだから。
「お休みなさい・・・。」
私は眠っている彼にそっと呟いた。
・・・それにしても・・・特にする事も無いし、私も正直に言えば疲れている。
少し寝かせて貰おう・・・。
私は机に突っ伏すと・・そのまま眠ってしまった。
ああ、温かいな・・・。
ドクドクドクドク・・・・規則正しい心臓の音と、すぐ側で誰かの寝息が聞こえる。
何だかすごく安心する・・・。誰かの腕に抱かれているような感覚を覚える。
だから私は自分からその誰かに擦り寄り・・再び深い眠りに就く・・。
「う・・・ん・・・。」
気が付くと私は布団の中にいた。少しの間は自分の身に何が起こっているか理解出来なかった。
え・・・と・・・確か椅子に座ったまま机の上に突っ伏して・・そこから先は・・?
だけど今はベッドの中。しかも誰か人の気配を感じる。
ま・・・まさか!慌てて飛び起きると、私は仮面の剣士と同じベッドで眠っていたらしい。
そして彼の方は未だにぐっすりと眠っている。
慌てて時計を確認すると、あれから6時間以上経過していた。そ・・・そんなに私は眠っていたんだ。もしかして・・・テーブルに伏して眠っていた私を彼が自分のベッドへ運んできたのだろうか?自分から彼のベッドへ入り込むなんて事はとてもあり得ない。
その時、突如隣で眠っている彼が苦し気にうめき声を上げ始めた。
・・・ひょっとすると・・何か夢を見てうなされているのだろうか?
「うううう・・・。」
彼は苦し気に仮面に手を掛けた。・・・まさか・・仮面を・・・外そうとしてる?
そんな事をしたら・・・!
「駄目ですっ!」
必死で彼の両手を押さえる。仮面をはずそうとしたら、彼は・・・また頭から出血してしまうかもしれない。
それでも彼は苦し気に仮面から手を外さない。とても・・・私の手では抑えきれそうにない。
「お願い!やめて!」
私は必死になって彼に抱き付いて耳元で訴えた。
「お願い・・・仮面から手を外して。また貴方が苦しむ姿を・・・もうこれ以上見たくは無いの・・・。だから・・・お願い・・・っ!」
これはきっと仮面にかけられた呪いだ・・・。ソフィーは彼を手放した後も・・この仮面を被せ、彼を呪いで苦しめているのだ。
私は彼の上に乗って押さえつける形になっていた。・・・そうじゃ無ければとてもでは無いが私の力では彼を押さえられなかったからだ。
それでも彼はうめき声をあげて暴れるのをやめようとしない。
ひょっとすると・・・彼はほぼ毎日このように苦しめられていたのだろうか?あの時私は夢で見た光景が蘇って来る。
聖女は歌を歌って彼の治癒をしてあげていた。だけど・・・私は彼女では無い。
私には・・・今苦しんでいる彼を助けてあげる手段が無い。本当に・・・私はこの世界で・・なんて役立たずの人間なのだろうか・・・。
「ごめんなさい・・。」
何時しか私は暴れる彼を押さえながら泣いていた。
「こんなに・・・貴方が苦しんでいるのに・・・今の私は何も貴方にしてあげる事が出来ない・・。本当に・・・ごめんなさい・・。」
私の涙が彼の被らされている仮面にポタポタと垂れていく。
その時・・・私の涙が彼のマスクの隙間から流れ落ちていき・・・。
突然彼の仮面が光り輝き始めた。
「あ・・・!な、何これ・・・っ?!」
余りの眩しさに目が開けていられない。思わずぎゅっと目を閉じて・・・やがて徐々に光が消えていくのを感じ・・・ようやく私は目を開けた。
すると・・・あれ程暴れていた彼が今は穏やかな寝息を立てて眠っている。
「え・・・・?な、何?治まった・・の・・・?」
私は彼を覗き込むが・・・先程の暴れていたのがまるで嘘の様だった。
「良かった・・・。兎に角今は落ち着いて・・・。」
だが・・・いつまでも彼をこのままにしておくわけにはいかない。
一刻も早く人間界と魔界を結ぶ門の修繕方法と・・・。
「彼の仮面を外す方法を見つけないと。」
私は眠っている彼の右手を握りしめた―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます