第6章 8 魔族の襲来、そして再会

 公爵が監獄塔から消えてすぐの事・・・。

突然無数の悲鳴、叫び声、そして・・・恐ろしい獣の咆哮が響き渡るのが聞こえて来た。

所々、外で大声が響き渡る。


「だ・誰かたすけてくれーっ!!」

「ウワアアアーッ!!こ、こっちに来るなっ!!」


え?一体何の騒ぎなの・・・?!この悲鳴は・・只事じゃないっ!!

私は牢獄の窓から下を覗き見て驚いた。

そこには第一階層で見た事がある異形の姿の魔物達が・・ソフィーの兵士を襲っていた。

身体が半分腐り果てたような獣や・・人型の化け物。巨大な角に爪を振りかざす、まるで熊の様な姿の魔物・・・・・。

何故?一体どうしてこんな事に・・・。何故・・・・ここに魔族が・・・っ!!


「ど、どうしよう・・・っ!」

閉じ込められている扉をガチャガチャ回しても開かない。押しても引いてもビクともしない。どうしよう・・・っ!逃げられない・・・っ!

いや・・でも待って・・。ここにいるのが一番安全なのかもしれない。ここはとても高い塔の上。しかも扉は頑丈な鍵がかかっているし、唯一の窓は鉄格子が嵌められている。


「そうよ・・・。ここにいれば・・きっと・・きっと大丈夫・・・・・っ!」


その時、何かが爆発するような音がして、塔が大きグラリと傾いた。え・・?う、嘘・・。

慌てて鉄格子にしがみ付き、外を覗くと、そこには巨大な鳥が火を吐きながら森を焼き払おうとしている。


「そ・・・そんな・・・・鳥の魔物までいたなんて・・・。」


すると1羽の巨大な鳥の魔物と目が合ってしまった。


「あ・・・。」


巨大鳥は塔を目指して真っすぐに飛んでくる。


「キャアアッ!!」


急いで鉄格子の窓から離れると同時に激しい衝突音と共に砂埃を上げてばらばらと崩れ落ちる石の壁。そして・・・現れたのは私の体の大きさをはるかに超えた・・まるでカラスを巨大化したような鳥が・・・目を光らせて立っていた・・・。



 その巨大鳥は私を見ると、鋭いくちばしを開けて、翼をはためかせた。

も、もう駄目・・・・っ!!

私は思わず目を閉じ・・・。


「ジェシカーッ!!」


私の名を呼ぶ声が聞こえた。

あ・・・あの声は・・・・あの懐かしい声は・・・っ!!私の目に涙が浮かぶ。


その声の主は巨大鳥の前に立ちはだかると、剣を引き抜いて飛び上がり、一撃で巨大鳥の頭を貫くと同時に、そのまま床に突き刺した。

激しい砂埃が巻き起こり、ガラガラと音を立てて崩れていく監獄塔。


「ジェシカッ!!掴まれッ!!」


差し出された彼の手を掴むと、その人物は私を抱きかかえて地面へ向けて跳躍した。


そしてストンと地面に降り立つと私を見下ろし・・笑顔を見せた。


「ジェシカ・・・無事で良かった・・・。」


その懐かしい声の主は・・・。


「ヴォ・・・・ヴォルフッ!!」

懐かしい・・ヴォルフの香り。

私は彼の首に両手を回し・・・胸に顔を埋めて彼の名を呼びながらいつまでも泣き続けた・・・。


「ジェシカ・・・。待たせたな・・・。」


ヴォルフは私の髪を撫でながら耳元で囁くのだった—。



「ジェシカ・・・。少しは落ち着いたか?」


ひとしきり泣いて・・・ようやく落ち着いた頃・・・。ヴォルフが私の頬に両手を添えると顔を覗き込んできた。


「う、うん・・・。ごめんね・・・いきなり泣いて・・・。私の泣き顔を見たらどうしたらいいのか分からなくなるから困るって前に言われてたのに・・・。」


「な・・何言ってるんだ。ジェシカ。あ、あの話は忘れてくれ。でもジェシカ・・・髪の毛・・・・随分切ってしまったんだな・・・。あんなに長くて綺麗だったのに・・。」


ヴォルフが私の短くなった髪の毛に触れながら言った。


「う、うん・・・。この世界に戻ってきた時・・・色々あったから・・切ってしまったの。」


「そうか。・・・でも・・・その髪型も・・・良く似合ってるぜ。」


ヴォルフは愛おしそうな目で私を見つめると言った。そして・・・・。


「おい。ジェシカ・・・。さっきからそこに立っているあの男は・・・一体何だ?」


「え?」


ヴォルフの見つめている方向を見ると、そこには鉄仮面を被った彼が立っていた。


「ま・・・まさか・・・私の事が心配で・・・来てくれたんですか?」


すると仮面の男性は黙って頷くと・・・転移魔法で一瞬で姿を消してしまった。


「ジェシカ・・・。誰だ?今の男は・・・。」


「さ・・さあ・・。実は私も良く知らなくて・・・。」


「ふーん。そうか・・・。気のせい・・・かもな。」


ヴォルフの言葉に私は尋ねた。


「気のせいって・・?」


「いや・・・、何でも無い。それより、ジェシカ。一体何があったんだ?この世界に現れた魔物達は・・・全部第一階層に生息する魔物達だった・・・。もしかして・・・『ワールズ・エンド』の魔界へ続く門を・・・お前・・開けたのか・・?」


「え・・・・?ヴォ、ヴォルフ・・・。今・・・何て言ったの・・・?」


私は声を震わせながら尋ねた。


「ジェシカ・・・お前・・・何も知らなかったのか・・・?人間界と魔界を繋ぐ・・門が開けられてしまっているぞ。」


「え・・・?そ・・・そんな・・・っ!い、一体誰が・・。」


「そうか・・・開けたのはお前じゃ無かったんだな・・。それを聞いて安心した・・いや、安心してちゃ駄目だ。早い所・・・門を閉じないと、このままだとどんどん第一階層の魔物達が人間界へ溢れかえるぞ。・・・あいつらは知性も何も持たない本能だけで生きている様な奴らだから・・・凶暴で何をしでかすか分からない。」


「そ・・それなら今すぐ行かないと・・・っ!」


「でも・・・ジェシカッ!お前は駄目だっ!行くなっ!」


いつになく真剣な目でヴォルフが私を引き留める。


「ヴォ、ヴォルフ・・・・?」


「いいか、ジェシカ。今・・一番危険な場所が『ワールズ・エンド』なんだ。俺はこの世界に来る途中、魔物達と戦っている大勢の騎士たちの姿を見たよ。彼等は皆必死になって魔物達を『ワールズ。・エンド』で足止めしようと必死で戦っていた。そして取りこぼしてしまった魔族達が、この辺り一帯を襲っていた。」


「ヴォ、ヴォルフ・・・。」


「俺は正直焦った・・・。辺り一帯はかなりの惨状で・・。必死でお前の気配を探って・・・でも、本当にお前は・・・運が良かったよ・・・。あと少し発見が遅れていたら・・・お前はあの魔物に・・・。」


そしてヴォルフは私を抱きしめて来た。彼の身体は・・・やはり魔族なのに冷たくはなく・・そして・・身体は・・・とても震えていた。


「心配かけてごめんなさい。そして・・・助けてくれてありがとう・・・。」


私はヴォルフの背中に手を回し・・・彼の胸に顔を埋めた。

懐かしい・・・魔族のヴォルフの香り・・・。やっぱり私は魔族の香りが・・・好きなんだ・・。


その時、森の奥から私を呼ぶ声が聞こえて来た。


「ジェシカーッ!!何処にいるんだ?!」

「頼むっ!いたら・・・返事をしてくれッ!!」

「ジェシカッ!お願いだから・・・出て来てよ・・・っ!。」


声を聞いたヴォルフが尋ねて来た。


「おい、ジェシカ・・・。あの声の連中は・・?」


「あの声の人達はね・・・・私の・・大切な人達なの・・。」


「ふ~ん・・・。で・・・ジェシカ。俺は・・・・どうなんだ?」


「勿論、ヴォルフだって・・・私の大切な・・・仲間だよ?」


「仲間・・・か。」


ヴォルフは苦笑しながらも言った。


「それじゃ・・・ジェシカ。大切な・・・仲間たちの所へ向かうか?」


ヴォルフが私に手を差し伸べて来る。


「うん。」


私はその手を取ると頷いた。

そして私はヴォルフと・・・大切な私の仲間達の元へと歩き出した—。


ヴォルフには尋ねたい事だらけだけども・・・今は『ワールズ・エンド』へ彼等と再び向かわなければ—。

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