第6章 9 ヴォルフと3人の男達
森の奥からデヴィット、アラン王子、ダニエル先輩が姿を現した。デヴィットにアラン王子は聖剣士の姿をしている。
3人は私を遠目から見て、笑みを浮かべて駆け寄って来るが、隣に立つヴォルフの姿を見ると、顔色を変えた。
「おい!貴様は誰だっ?!ジェシカの手を離せっ!!」
いきなりデヴィットが剣を抜くとヴォルフに向かって突き付けてきた。
「ま、待って下さい!デヴィットさんっ!」
魔族であるヴォルフに何て事を・・・!!
「デヴィットの言う通りだ。ジェシカから離れろ。さもないと・・・。」
イヤアアッ!ア・アラン王子まで・・・・。
「へえ~っ・・・。」
しかしヴォルフは何を考えているのか、笑みを浮かべると繋いでいた手を離して今度は私の肩を抱き寄せてきた。
「ヴォ、ヴォルフッ!」
この3人の前でこんな事をするなんて・・・一体ヴォルフは何を考えているのよ!
「さもないと・・・どうなるんだ?」
ヴォルフは何処か楽しそうに口角を上げて、3人を見渡した。
「ねえ・・・君は・・・誰なんだ?」
1人、冷静に対応するのはダニエル先輩。
「俺はヴォルフ。ジェシカの恋人候補に名前を挙げている者だ。」
そう言うと私を背後から強く抱きしめて来た。とうとうヴォルフは・・・争いの火種を投下してしまったっ!!
「「「何だと~ッ!!」」」
途端に3人が剣を構える。ああ・・・もう嫌だ・・・。
「3人供・・やめてくださいッ!!ヴォルフも・・離してっ!」
「・・・分かったよ。」
ヴォルフが腕の力を弱めたので、彼から身体を離すと私は3人の前に立ちはだかり、両手を広げると言った。
「お願いです。ヴォルフに剣を向けないで下さい!」
「ジェシカ・・・。何故そいつを庇うっ?!」
デヴィットが叫ぶ。
「彼・・・ヴォルフは私の命の恩人です。先程魔物に襲われそうになったところを助けくれたんです。それに・・・彼は魔族の男性なんです。私が魔界に行った時も・・何度も私を助けてくれた方なんです。・・・だから・・どうか・・剣を降ろして下さい。」
「何?そ、その男・・・魔族だったのか?!」
アラン王子が驚いた様子で声を上げた。
「い・・・言われてみれば・・・俺達人間とは違って・・若干耳が大きいような・・・。」
デヴィットはヴォルフの耳を見た。
「うわあ・・・僕・・・魔族なんて初めて見たよ。」
ダニエル先輩は感心している。
「ああ、俺達は第3階層と呼ばれる魔界に住んでいる高位魔族だ。勿論・・・人間の女と結婚して子供を作る事だって可能だからな。」
そう言うと再びヴォルフは再び私を腕に囲い込んだ。
結婚して、こ・子供を作るなんて・・・・っ!またヴォルフは余計な一言を言ってくれる。
「「「そんなのは認めないっ!!!」」」
3人は同時に叫んだ。
「いいかっ!俺はジェシカの聖剣士なんだっ!お前の様な魔族になど絶対に渡さない!認めないからなッ!いい加減にその手を離せっ!!」
デヴィットが叫ぶ。
「そうだっ!ジェシカはなあ・・・俺の国の后になるんだっ!さあ、早くこっちにジェシカを渡せっ!」
アラン王子が喚く。
「ジェシカはね、僕の領地に来るんだよ、前から言ってるけど、僕はジェシカ以外の女性は受け付けないんだからなッ!!」
ダニエル先輩も負けじと言う。
「ふ~ん・・・。で、この中にマシューって奴は・・いるのか?」
ヴォルフがまたもや爆弾発言をする。
「な・・・に・・・。マシューだと・・・?」
ピクリとデヴィットが反応する。
「え・・?マシュー・・・?あの聖剣士のか?」
アラン王子が言う。
「マシューって男なら、ここにはいないよ。」
ダニエル先輩の言葉を聞くと、ヴォルフはニヤリと笑った。
「よーし、そうか。なら安心だ。お前らは所詮俺の敵じゃあないな。」
ヴォルフは満足そうに言う。
「お、おい・・・今のは一体どういう意味・・・。」
アラン王子がそこまで言いかけ時・・・突然森の奥から10体以上の異形の化け物が襲って来た。
「くそっ!魔族の群れかっ?!」
デヴィットが剣を構える。
「おい!あんな連中を俺達のような魔族と一緒にするな!ジェシカッ!俺の側に来い!!」
ヴォルフが私に手を伸ばす。
「ヴォルフッ!」
言われてヴォルフに手を伸ばすと、しっかりと握られる。
「おいっ!それは俺の台詞だっ!!」
アラン王子がまたもや訳の分からない事を叫ぶ。
ヴォルフはアラン王子を気にも留めずに一瞬で巨大オオカミに姿を変えた。
その姿を見て驚愕する3人の男性陣。
<全員両耳を塞げっ!早くしろッ>
ヴォルフは私を尻尾で守るように隠すと、咆哮を上げた。
途端にその衝撃音で倒れて行く魔物達。第1階層の魔族達はヴォルフの放ったオオカミの遠吠えで一瞬で全滅してしまった。
「す、凄い・・・。」
デヴィットが剣を構えたまま呆然として倒された魔物の群れを見つめている。
「これが・・・魔族の力・・・なのか?」
アラン王子はオオカミの姿に変えたヴォルフを見ながら言った。
「それが君の本来の姿なの?」
ダニエル先輩が尋ねるとヴォルフが言った。
<いや、この身体は第1階層の門番をしていた魔物だ。この俺が身体を乗っ取っただけだ。さっきのが俺の元の姿だ。よし、ジェシカ。俺の背中に乗れ>
ヴォルフは尻尾を私の身体に巻き付け、自分の背中に乗せると言った。
<今から『ワールズ・エンド』へ向かうが・・お前たちはどうする?何なら・・・俺の背中に乗せてやろうか?>
オオカミの姿でヴォルフはニヤリと笑った。おおっ!オオカミの顔で笑うとは・・・物凄い違和感だっ!!
「な・・何だと・・・?」
デヴィットは明らかに屈辱的な顔でヴォルフを睨む。
「だ・・・誰がお前の背中など乗るかっ!神殿までは・・転移魔法で・・・後は馬に乗って行ってやるッ!」
アラン王子はご丁寧に移動方法を語る。
「あ、それじゃ僕は君の後ろに乗せて貰おうかな。」
ダニエル先輩は手を挙げた。
「この・・・馬鹿ッ!お前・・男のプライドが無いのかっ?!」
デヴィットがダニエル先輩に文句を言った。
「煩いなあっ!僕はプライドなんかどうだっていいんだよっ!そんな事より一分一秒だってジェシカの側にいたいんだよっ!」
そう言うとひらりと私の後ろに飛び乗ると私を背後から抱きしめて来た。
「「あっ!!」」
デヴィットとアラン王子が同時に声を上げる。
「ダ・ダニエル先輩・・。まだこの恰好するのは・・・は、早くないですか?」
するとヴォルフが言った。
<おい、ダニエルとか言ったな・・・。あまりジェシカに馴れ馴れしくすると降ろすぞ。>
「何でだよっ!乗せてやろうかって言ったのはそっちだろっ!」
ああ・・・ヴォルフが加わった事で新たに喧嘩が勃発しそうだ・・・。
「そ、そんな事よりも・・・早く『ワールズ・エンド』まで行かないと!」
私が言うと、ヴォルフが頷いた。
<ああ・・・そうだな。門がもし開きっぱなしなら、そこから際限なく魔物達が溢れて来るぞ。普通の人間ではあいつらを処理するのは厄介だろう。よし、ジェシカ。それじゃしっかり掴まっているんだぞっ!お前達も急げよっ!>
ヴォルフはデヴィット達に言い残すと、風のように走り出した。
神殿に着くと、そこは酷い有様だった。
ソフィーの寄せ集めの兵士たちは負傷してあちこちに倒れている。そしてそんな彼等の脇には何者かによって倒されたのか、無数の魔物達が絶命していた。
「え・・・?い、一体誰が・・・この魔物達を倒したんだろう・・・?」
ダニエル先輩が驚いた様に言った。
<ああ・・確かにすごいな・・・。確実に急所を狙って一撃で倒しているぞ・・・。一体誰が・・。い、いや!その前に・・・まずは『ワールズ・エンド』へ向かわなくてはっ!>
そして私達を乗せたヴォルフは『ワールズ・エンド』へ向かって走り始めた—。
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