※第6章 7 呪縛、再び・・・※大人向表現強め

 夢を見た。

とてもとても幸せな夢を・・・・。

青空の下。

私は大好きなあの人と手を繋いで美しい花畑を歩いている。

そして彼は私をじっと見つめると、笑顔で言う。

—大好きだよ、ジェシカ—


私も・・。

私も誰よりも・・この世界で一番貴方が好き・・・。愛してる—。



チュンチュン・・・。


鳥の鳴き声が聞こえてくる。

う・・・。

私は身じろぎした。・・・静かな寝息・・・近くに誰かいるの・・?何故か抱き寄せられているようにも感じる・・・。


やがて何度か睫毛を震わせて、私はゆっくり目を開けて・・・。


「!!」


一瞬で目が覚めてしまった。

何と私は仮面男に抱き締められたまま眠っていたのだ。

い、一体何故・・?ひょっとして、無意識のうちに眠っている間にこの仮面男に擦り寄っていたのだろうか・・?

でも、幾ら何でもこのままではまずい。抱き締められている腕を動かそうとしてもびくともしない。


う~ん・・・困った・・・。


「あの~すみません・・・。」


私は仮面男に顔を近付け、声をかけた。


「・・・」


しかし仮面男はよく眠っているのか目を覚まさない。だけど・・・どうして私は初対面の男の人に抱きしめられたまま平気で眠れたのだろうか・・・。何の警戒心も持たずに・・・。


その時・・ふと、あの魔族特有の香りが辺りに漂っている事に気が付いた。

え?この香りは・・・っ?!


すると・・・


「ジェシカッ!!」


突然公爵が転移魔法でこの牢獄に現れ・・・私が床の上で仮面男に抱き締められている姿を見て顔色を変えた。


「お・・おいっ!そこのお前・・・ジェシカに何をしているんだっ!」


その声にようやく仮面男は目が覚めたのか、腕を解いた。


「ジェシカッ!!」


公爵は私を抱き起すと、腕に囲い込んで仮面男を怒鳴りつけた。


「おい!お前・・・一体彼女に何をしたんだっ?!」


しかし仮面男は返事をしない。黙ったまま立ち上がるとこちらを見た。


「聞こえないのか?返事をしろっ!」


「待って下さいっ!ドミニク様っ!ま・・まずいですよ・・。これでは私の事を庇っていると言ってるようなものでは無いですか・・・っ!」


「あ・・・・。」


そこでようやく公爵は我に返った。


「・・すまなかった。いきなり怒鳴りつけて・・・今更こんな事を言うのもなんだが・・この話は・・黙っていてくれないか・・・?頼むっ・・・!」


公爵は仮面男に頭を下げた。


「・・・・。」


しかし、相変わらず仮面男は無言だ。


「あの、ドミニク様・・・。この方は昨夜嵐の晩に突然私の元へやって来たんです。・・・恐らく私のことを心配して。・・ドミニク様の使いで来た方だと思ったのですが・・・?」


「いや・・。俺は知らない。」


公爵は首を振った。


「だが・・・・。」


言うと突然公爵は私を強く抱きしめると言った。


「すまなかった・・・っ!あんな嵐になるなんて・・・。怖かっただろう?心細かっただろう・・・?どうしても・・・昨夜はソフィーの相手をしなくてはならなかったんだ・・・ッ!」


するとそれまで黙って私と公爵を見守っていた仮面男が動いた。


「う・・・。」


唸りだした思った矢先・・・突然私達に近寄り、公爵の腕を振りほどき、私の腕を掴むと自分の腕に囲い込んできたのだ。


「お・・・お前・・・っ!一体何を・・・っ!」


公爵は一瞬何が起こったのか分からない様子だったが、すぐに我に返ると叫んだ。


「ジェシカを放せっ!!」


しかし仮面男は首を振るとますます強く私を抱きしめてくる。

え・・・?一体、今何が起こっているのだろう?いや・・・。でもそれ以前に・・私はこの腕の中を知っている。一体この人物は・・・?


「一体・・・どういうつもりだ?早くジェシカを俺に渡せ・・・。」


突然公爵の雰囲気が変わった。禍々しいオーラが身体から徐々に滲み出てくる。

顔つきも変わり、目が怪しく光り始めた。

・・・どうしてしまったのだろう。まさか・・・ソフィーの呪縛が・・・っ?!

公爵を止めないと・・・っ!!


「お・・・おねがいっ!離してくださいっ!」


私は仮面男の顔をじっと見つめた。すると彼は何かに打たれたかのように一瞬ビクリとなるが・・素直に手放した。


「ドミニク様っ!!」


私は公爵に駆け寄った。


「ジェ・・・ジェシカ・・・。た、頼む・・・。俺を助けてくれ・・・っ!」


公爵は頭を両手で押さえて苦しんでいた。


「ドミニク様っ!お願い、しっかりして下さいっ!」


駆け寄ると公爵は私を強く抱きしめて来た。


「う・・・。ジェシカ・・・ジェシカ・・・。」


公爵は目を閉じ、顔を歪ませながら私の名を呼び続けている。


「・・・っ!」


背後で仮面男の息を飲む気配を感じた。この公爵の状態・・・普通じゃない・・。



「・・・お願いします・・。」

私はドミニク公爵を抱きしめたまま仮面男を振り返った。


「どうか・・・私と公爵だけの・・2人きりにさせて頂けますか・・・・?」


「・・・・。」


仮面男は黙って私をみつめている。・・・何故だろう。仮面に隠されてその素顔は分からないのに・・・・。何故か仮面の下のその顔は・・・とても悲しんでいるように私には思えた・・・。

次の瞬間、仮面男は視線を逸らすと一瞬でその場から消え失せた。


「ドミニク様・・・。お願いです。どうか・・・正気に戻って下さい・・。」


私は公爵に自ら口付けた。すると・・公爵は私の頭を押さえつけ、乱暴な位い深い口付けをしてくる。そしてその体勢のまま床に組み伏せられた。

次に公爵は私の服に手をかける。・・・いいですよ、公爵・・・。それで貴方の呪縛が解けるなら・・・。


私は目を閉じ・・・公爵に応じた・・・。



「すまなかった・・・。ジェシカ・・・。こんな・・・こんな・・・乱暴な抱き方をして・・・。」


冷たい床の上・・・公爵が私を抱き締めながら泣いている。


「いいんですよ。ドミニク様・・・。それでソフィーの呪縛が解けるなら・・・。」


私は泣いている公爵の頬に触れると言った。


「昨日の・・・夜の事だ・・・。ソフィーはお前の件で・・すごく荒れていたんだ。

ソフィーはその日、自分の機嫌が悪い時は・・・いつも俺を求めて来るんだ・・。

昨夜も・・・それで・・・。嵐なのは分かっていた・・。いいや・・違うな。今にして思えば・・・あんな天気の荒れた夜だったから・・・敢えて俺に相手をさせて・・・お前の元に行かせようとしなかったんだ・・・っ!」


公爵は私を強く抱きしめると激しく嗚咽した。

どうして、こんな事に・・・。公爵の辛い胸の内が痛いほど伝わって来る。どうすれば彼をソフィーの呪縛から・・・解き放つ事が出来るのだろう・・・。

私も・・・公爵の事を思い・・・2人で抱き合い、涙した—。




狭いベッドの上で抱き合った後・・・公爵が言った。


「ジェシカ・・・今夜、この牢獄から逃げるんだ。」


「え・・・?で、でも・・明日までここにいるのでは・・・?」


公爵は首を振った。


「いや・・・。多分、もう間違いなくソフィーには俺がここに来ているのはバレている。そして・・・徐々に俺が再びソフィーの呪縛にかかりかけている事も・・。どうすればこの呪縛から逃げられるか今迄考えていたけれども・・もう無理そうだ。」


公爵はベッドから起き上がり、服を着ると言った。


「さっき・・・お前があの仮面の男に抱き締められているのを見た時、一瞬で目の前が真っ赤に染まってしまったんだ・・・。激しい怒りの様な感覚が・・・俺の中に芽生えて・・乱暴な感情が沸き上がってくるのを・・・。このまま、お前の側にいたら・・・今にお前にもっと酷い事をしてしまいそうになる・・・。だから・・・俺の事はもう忘れてくれ・・・。元々ここから逃がして・・・俺の目の届かない遠い場所で・・・幸せになって貰いたいと思っていたんだ・・・。」


「ドミニク様・・・・っ!」

一体何を言ってるの?ソフィーに支配されて・・・自分を失ってもいいと言うの?


「彼等に・・・連絡を入れて来る。ジェシカ・・・今までありがとう。愛していたよ・・・。そして・・どうか幸せに・・・。」


公爵は悲し気に笑うと転移魔法で姿を消した。


「ドミニク様っ!!」


咄嗟に手を伸ばすも・・・その手を掴むことは出来なかった。



そして、この直後・・・大変な事件が起こるとは私は予想もしていなかった—。


















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