第5章 1 嫉妬
「ジェシカ・・・。」
公爵がいなくなり、2人きりの空間になった所で、デヴィットが私の方を振り向いた。
「は、はい・・・。」
「あれは・・・ドミニク公爵だよな?俺の見間違いで無ければ・・・。」
「そ、そうです・・。」
「俺には・・お前達がキスし合っているように見えたが?」
デヴィットの言葉にカッと頬が染まるのを感じた。そしてデヴィットはそれを見逃さなかった。
無言で私に近付いてくると、両手で頬に手を添えて自分の方へ向けさせると彼は言った。
「ジェシカ・・・。お前とドミニク公爵は・・・ひょっとして・・・深い仲になったことがある・・のか・・?」
その言葉に私はますます顔が赤くなるのを感じ・・・一方のデヴィットは顔色が真っ白になっていく。
「う・・・嘘・・・だろう・・?」
しかし、私はその言葉に首を振った。もう・・・隠していても仕方が無い。
すると何を思ったか、デヴィットは立ち上がると部屋を出て行こうとする。
「ま・・・待って!何処へ行くんですか?!」
デヴィットの袖を掴んで私は言った。
「・・・ダニエル達を起こしてくる。」
デヴィットは私の方を振り向きもせずに言うと、部屋を出て行ってしまった。
そして現在―
「あ、あの・・・・。」
今私の目の前には右から順にグレイ、ルーク、デヴィット、ダニエル先輩、マイケルさんがソファを何故か一列に並べて座っている。
そして私はテーブルを挟んで、1人彼等と向き合う形で座らされている。
「「「「「・・・・・」」」」」
全員私の事をじっと見つめている・・・が、デヴィット以外は困惑した表情で私を見ている。
重苦しい沈黙を破ったのは・・やはりデヴィットだった。
「ジェシカ。・・・説明して貰おうか?」
腕組みしながらジロリと私を射抜くような瞳で見つめるデヴィット。
「え・・・・?せ、説明・・・ですか・・・?」
何故?何故私は今こんな形でまるで尋問の様な事をされているのだろう?
「そう、説明だ。あそこにいたのは・・・新しく生徒会長になったドミニクだよな。」
「は、はい・・・。そうですが・・・。」
ううう・・。まるで針のむしろ状態だ。
「ねえ・・ところでこれは一体何の真似なの?」
すると突然ダニエル先輩が手を上げて質問して来た。え?何も分からずにここに座らされているの?!
「うん、俺も不思議に思っていた。何故俺達はここに座らされているのかな・・・?」
マイケルさんも不思議そうな顔をしている。
「「あの・・・一体これはどういう事ですか?」」
おおっ!出たっ!グレイ&ルークのシンクロ率は正にマックス状態だ。
「お前たちは黙っていろ!」
そしてそんな彼等を一喝するデヴィット。う~ん・・・やはり似ている。アラン王子とデヴィットは何処か・・似ている。
「「はい・・・。」」
おお~返事までグレイとルークはハモるのか・・・。等と感心していると・・・。
「ジェシカ、余所見をするな。」
「すみません・・・。」
まるで学校の先生のように注意してくるデヴィット。
「ねえ。何でこんな事してるのか分からないけど、ジェシカが可哀そうじゃ無いか。それより僕はお腹が空いたよ。朝食を食べに行きたいんだけどな。」
ダニエル先輩の言葉にマイケルさんも言った。
「いいねえ。このホテルの1Fのレストランに皆で食事に行かないかい?」
「いいですね。行きます。」
グレイが手を上げる。
「では早速行きましょう。」
ルークが立ち上ると、私とデヴィット以外の全員が立ち上った。
「さあ、ジェシカ。僕達と一緒に食事に行こう。」
ダニエル先輩が笑顔で手を差し伸べてきたので、私はその手を取ろうとし・・・。
「ジェシカッ!」
デヴィットの右腕が突然光り、私の左腕も輝きだした。え?な、何で突然?!
そして気付けば私はデヴィットの腕に中にいた。
「え?デヴィットさん?!」
「おい!デヴィット!ジェシカを放せよ!これからジェシカは僕達と朝食を食べに行くんだから。」
ダニエル先輩が怒って抗議するとデヴィットは言った。
「・・・悪いが朝食はお前達だけで行ってくれ。俺は・・・ジェシカと話があるから。」
言うとデヴィットは突然転移魔法を使い・・・気付けば私はホテルの外に立っていた。
デヴィットは無言で私の身体を離すと言った。
「・・・少し・・歩かないか・・?」
その声は・・・とても寂し気に聞こえた。
「はい・・・分かりました・・・。」
デヴィットは私の数歩前を歩き、私は俯いて彼の後ろを歩いている。
そのまま少し歩き続けると、デヴィットは1軒のカフェの前で足を止めた。
「朝食でも・・・食べるか?」
そして私を振り返った。
デヴィットは窓際の丸テーブルから、じっと窓の外を眺めている。
そんな彼の横顔を黙って見つめる私・・・それにしても何故?どうしてこの店に来たの?このカフェは・・デヴィットが愛を告白して来たカフェじゃないの。
デヴィットは一体・・・何を考えて私をこの店に連れてきたのだろう?いや・・・それとも私の考えすぎ?たまたま今回もこの店を選んだだけだとか・・・?どっちにしろ居心地が悪い事、この上ない。
「どうしてなんだ・・・。」
突然デヴィットが私の方を振り向くと言った・
「・・?」
どうして?それは私の台詞なのだけど・・?
「どうして・・お前の周りには大勢の男達が・・群がってくるんだ?・・最も俺も人の事を言えた義理じゃないが・・・やはり・・お前の持つ『魅了』の魔力のせいなんだろうか・・?」
「それは・・・。」
そこまで言って、私は口を閉ざしてしまった。そんな事は・・・私が一番知りたいことなのに。何故この小説の中の悪女である私に・・本来、小説のヒロインであるソフィーの魔力が備わっているかなんて・・・。
「すまない・・・お前に・・そんな話しても・・・困るよな・・・。ハハ・・馬鹿だよな。俺って・・・自分だけが特別かと思っていたけど・・・考えてみればお前には愛している男だっているって言うのに・・・。」
自嘲気味に笑うデヴィットに・・・私は何と声を掛ければ良いか分からなかった。
「た、確かに・・・公爵とは・・関係を1度持ちましたが・・・そ、それは・・別に愛とか・・・そう言った類の物では無いですから・・・。」
言葉を新調に選びながらデビットに語る。
「その当時・・・・ドミニク様は・・・今と同様にソフィーに操られていたんです・・・。私は・・すごく怖かった・・・。このままドミニク様が私を今に捕らえて・・死刑宣告をするのでは無いかって・・・。でも、その暗示を解いてくれたのがマシューだったんです。
「え・・?」
そこで初めてデヴィットは困惑の表情で私を見た。
「わ・・・私、マシューに言われたんです・・。もっとドミニク様を受け入れて、安心感を与えてあげれば暗示が解けていくだろうって・・・。それで・・私は休暇の日に公爵に会いに行ったんです。一緒に過ごせば・・公爵の混濁した記憶と暗示が解けるかなって思って・・。そして・・その時に公爵に言われたんです。私だけの聖剣士になれないかって。でもその時は・・もうマシューが私の聖剣士だったので返事が出来なくて・・。」
デヴィットは黙って私の話を聞いている。
「で、でも・・・ドミニク様は苦しんでいました。時折ソフィーの声が聞こえてきて・・私をもっと憎めと訴えて来るって・・・だけど・・・私の姿を見たり、声を聞いてると・・その忌まわしい声が遠ざかっていくって・・・。だから・・私にもっと触れたいってドミニク様が・・・・。私自身も・・ドミニク様の暗示が解けないと・・身の危険を感じて、それで・・・。後は・・・。」
俯いてデヴィットの出方を待つ。
「・・・・。」
デヴィットは・・何を考えて聞いているのだろうか?私の事を身持ちが悪い女だと思って聞いているのだろうか?段々目頭が熱くなっていく・・・。
「私の事・・・軽蔑しますか?」
半分涙目になり、デヴィットを見上げるとようやく彼は自分の感情を露わにした。
「この・・・馬鹿ッ!軽蔑なんて・・・するはず無いだろう?!お前は・・お前自身の身を守る為に・・・ドミニクと関係を持ったんだろう?」
「デヴィットさん・・・。」
「すまない・・・。あれは・・単なる俺の嫉妬だったんだ。俺は・・勘違いしていた。自分だけが特別と思っていたけど・・考えて見ればジェシカ。お前にとっての特別は・・マシューだったんだものな。」
「あ・・・。」
マシューの名前を口に出されて・・私は黙ってしまった。
デヴィットはそんな私を見てフッと笑った。
「でも・・・アラン王子にしろ、ドミニク公爵にしても・・・偶然にお前は聖剣士と聖女の誓いを交わしていたんだな・・・。恐らく前代未聞じゃないのか?1人の聖女が複数の聖剣士と誓いを交わすなんて。最も・・・今のところ正式な聖女と聖剣士の関係を持つのは俺だけどな?」
「デ・デヴィットさん・・。」
突然彼は何て事を口に出すのだろう。思わず彼の言葉に頬を染めると、デヴィットはフッと笑みを浮かべた。
「だが・・これはある意味チャンスかもしれないぞ?アラン王子もドミニクもお前の聖剣士であることに間違いはない。そうじゃ無ければお互いの紋章が輝きあうなんて事はないからだ。聖剣士と聖女の誓いは絶対だ。きっと・・・ソフィーの暗示なんか・・・ねじ伏せられるに決まってる!」
「ほ・・・本当・・・ですか・・?」
私はデヴィットの顔をじっと見つめた。
「ああ、だから・・・ジェシカ。お前が・・・アラン王子の暗示を解くんだ。いや・・恐らくお前にしか出来ないだろう。だとしたら・・日が経つにつれて暗示を解くのが厄介になってきそうだから・・よし、早速だが・・・今日、これから神殿へ侵入するか?」
「はい!」
「よし、それじゃ・・・・朝食を食べたらすぐに・・・ホテルへ戻って、皆に話そう。」
「ありがとうございます・・・。デヴィットさん・・・。」
俯くと、テーブルの上に置いてい両手にデヴィットがそっと触れて来ると言った。
「言っただろう?俺はお前の聖剣士だ。聖女のお願いは・・・どんな事でも聞き入れる。当然の事だ。」
そしてデヴィットは笑みを浮かべた—。
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