第5章 2 いざ、神殿へ

時刻は午後2時—


今、私達は神殿付近の岩陰に身を隠す様にして内部の様子を伺っている。


「前回、俺達が潜り込んだ時間は午後4時で・・・アラン王子は神殿の最上階にいたんです。」


グレイが説明する。


「ふ~ん。なるほどな・・・。しかし・・やはり昼間は夜に比べると圧倒的に見張りの数が少ないな。」


デヴィットは神殿を注視しながら言う。


「それは当たり前じゃ無いの?だって一応今は授業中なんだし・・・・でも、あんな怪しい連中の授業なんて受けるだけ、はっきり言って時間の無駄だね。多分全校生徒の半分はボイコットしてるんじゃないのかな?真面目に出てる学生はソフィーの息のかかった連中だけなんじゃないの?」


ダニエル先輩がつまらなそうに言う。


「そうですね。俺達も授業に出るのはやめていたから・・・。」


ルークの何気なく呟いた言葉に驚いた。

「え?その話・・・本当なの?」


「ああ、本当だ。ジェシカ・・・お前と仲の良い女子学生達がいただろう?彼女達も全員授業に出るのをボイコットしてるようだぞ?今はお互いの寮の部屋で互いに勉強を教え合っているらしい。

「そうなんだ・・・・。」

彼女達に会いたい。でも今は・・・。


「そ、そんな事より・・・ジェシカ。お前・・・男装しても・・そ、その可愛いな・・。すごく良く似合っているよ。」


頬を染めて言うグレイ。


「グレイ・・ありがとう。」

男装を褒められるのは少し複雑な気分だ。


「ジェシカ。もっと俺の近くに来い。」


突然デヴィットが私の腕を引き寄せて自分の腕に囲い込んできた。


「な、な、何ですか?一体?」


デヴィットは私を抱き締めながら言う。


「いいか、俺の側から離れるなよ?今、こうして側にいれば互いの絆が深まる。そうすれば神殿で万一離れ離れになっても、ジェシカの気配を感じ取れれば、お前を俺の腕に引き寄せることが出来るからだ。」


「なるほど、便利な物ですね。」


その様子を見ていたダニエル先輩が頬を膨らませる。


「チエッ!聖剣士だか、何だか知らないけど・・・こんな事なら僕も誘いに乗って聖剣士になってれば良かったよ。そうしたらジェシカの一番になれたのにさ。」


「ええ?!ダニエル先輩・・・聖剣士のスカウト話が来ていたんですか?」

ダニエル先輩の言葉に驚いた。


「スカウトって単語は良く分からないけど・・・。そうだよ、ジェシカ。僕はね・・・とても強いんだからね?」


ダニエル先輩は自信たっぷりに言う。


「ああ・・・そうなんだ。ジェシカ。ダニエルはな・・・女のような話し方、女のような外見のくせに・・・さらに女のように華奢な身体つきをしていても・・強いんだ・・・。」


デヴィットは溜息をつきながら言う。何だろう・・・やけに女を連呼している気がする。それに・・私から見ればダニエル先輩は十分男らしく見えるけど・・背だって私よりずっと高いし、細見だけど筋肉はついて引き締まっているし・・・。だけどデヴィットからは女性的に見えるのだろうか?


「ちょっと・・・女のようなくせにって・・・一体どういう意味さ。僕はれっきとした男だし、そんな風に言われたのは君が初めてだよ!」


ダニエル先輩がデヴィットに抗議し、しまいに2人は言い争いを始めた。

う~ん・・・この2人・・本当に気が合わなそうだなあ・・・。


「まあまあ。落ち着いて下さいよ、そんな事よりも今は兜を被っている見張りの兵士を探さないと・・・。」


グレイが2人を宥めている。うん、流石はグレイ。彼がいればこのチーム?もまとまるかもしれない。


「おい!1人見つけたぞ!兜を被った兵士が!」


岩陰から様子をうかがっていたルークが言う。見ると神殿の入口の左端の方に手持ち無沙汰にしている兵士がいた。


「「「「・・・誰が行く?」」」」


突然4人の男性陣は互いの顔を見渡した。


「俺は・・出来れば最後までジェシカの側から離れたくない。」


デヴィット。


「僕だってそうだ、ジェシカが心配だからね。」


ダニエル先輩。 


「「お、俺達も・・・。」」


グレイとルークが言いかけ・・・。


「よし、お前達、どちらか行ってこい。」


デヴィットが言う。


「ええ?!」


「そ、そんなっ!!」


グレイと、ルークは互いに悲鳴混じりの声を上げる。あ〜あ・・・気の毒に・・・。仕方が無い・・・。

「ごめんね。グレイ、ルーク。お願い・・・出来る?」

2人に頭を下げると、途端に彼等は態度を変えた。


「大丈夫だ、俺達に任せろ。よし、俺が一番に行ってくる。」


グレイが名乗りをあげた。


「いいか、見張りの兵士は殺すなよ?失神だけさせておけ。」


デヴィットが何やら物騒な事を言っている。


「何言ってるんですか。殺す訳無いでしょう?恐ろしい事言わないで下さいよ・・・。」


ブツブツとグレイは文句を言いながらも自分の気配を消す魔法をかけると・・・あら不思議!グレイの姿が消えてしまった。


「え?グレイ?何処に行ったの?」

私がキョロキョロ辺りを見渡すと突然、背後から声が聞こえた。


「ジェシカ、ここにいるぞ。」


そして何故か抱き寄せられる。


「おい!どさくさに紛れて何をしている!さっさと行って来い!」


デヴィットに一喝され・・・渋々グレイは見張りの兵士の元へと・・・向かったようだ。

私達は物陰に潜んでその様子をじっと伺っていると・・・。


「ウッ!」


風に乗って兵士の短いうめき声が聞こえ・・・次の瞬間、兵士は床に倒れ込む。

そして目に見えない何者かに引きずられるように建物の陰に消えていく・・・。


「どうやらうまくいったようだね。」


その様子を見届けていたダニエル先輩が言う。


「ああ、そうだな。あいつ・・中々やるな。よし、後で褒めてやろう。」


ニヤリと口元に笑みを浮かべ、デヴィットが言った。


それから待つ事数分・・・兵士が迷わずこちらに向かって駆けよって来る。

恐らく、グレイだろう。


私達の元へ来るとグレイは兜を脱いで言った。


「どうです?うまくいったでしょう?」


「ああ。お前、中々やるじゃ無いか、褒めてやろう。」


言いながらワシャワシャとグレイの髪を激しくなでるデヴィット。・・・何だかお兄ちゃんみたいだ・・・。


「よし、グレイ。引き続き他に兜を被った兵士がいないか探して来るんだ。見つかったら俺達に手招きしろよ。」


完全にその場を仕切るデヴィット。でも誰一人文句は言わない。・・・中々リーダーシップのある人だなあ・・・。


「そして・・・当然次に行くのはお前だからな。ルーク。」


ビシイッとルークをデヴィットは指さすのだった・・・。


 その後は順調にルーク。そして次にダニエル先輩、デヴィットが鎧を手に入れた。

残りは私一人なのだが・・・。


「う~ん・・・。困ったな・・・。」


デヴィットが腕組みして考え込んでいる。


「だけど、仕方が無いよ・・・。ジェシカのように背の低い兵士はいないんだから・・・。」


ダニエル先輩は溜息をついた。


「「・・・・。」」


一方のグレイとルークは無言で私を見ている。そう、全員が神妙な面持ちで私を見るのは・・・それは、兵士の鎧が大きすぎると言う事だった・。

まるでサイズが合わず、ブカブカで違和感この上ない。兜だって重くて大きすぎて頭がぐらつき、まともに歩く事もままならないのだ。


「ど、どうしましょう・・・。何としてもアラン王子に近付かなくてはならないのに・・。」

うう・・・。これも全てジェシカの身長が極端に低いせいだ・・・。


「どうする、デヴィット。」


ダニエル先輩の言葉にデヴィットは言った。


「・・・こうなったら・・・強引にアラン王子を誘拐して・・ジェシカの元へ連れてくるしか・・・無いか・・?」


「ええっ!駄目ですよ!そんな事をしたら大騒ぎになりますっ!」


グレイがすかさず反対する。


「そうですよ、大体アラン王子は大人しく誘拐されれるような人間ではありません。」


ルークの言葉に私も思った。うん・・確かに俺様王子は大人しく誘拐されるような人間じゃないな・・・・。

全員で考えあぐねいていると、何とマイケルさんがこちらに向かってくる姿が目に入った。


「やあ。皆。鎧は手に入れたんだね。」


マイケルさんは笑顔で私達の元へやってくるとすぐに岩陰に身を隠す。


「馬鹿ッ!マイケル!何故ここへ来た?!ホテルにいろと言っただろう?」


おおっ!つ、ついに・・・デヴィットが4歳も年上のマイケルさんを馬鹿呼ばわりしてしまった!

しかし、当の本人はそんな事全く気にしない素振りで言った。


「君達がお嬢さんの件で困ってるんじゃないかと思ってね・・・。マジックショップでアイテムを買って来たんだ。ほら、これは自分の気配を完全に隠すドリンクだよ。そしてこのマントはね、羽織ると完全に視界から消え去る事が出来るマントなんだよ・・。」


言いながらマイケルさんがマントを羽織ると、あっという間に姿が消えてしまった。


「凄いじゃ無いか、マイケル。この俺でさえ、今・・お前の姿を見破れなかった。これなら・・・所詮寄せ集めの兵士共には絶対にバレるはずはない!よし、ジェシカにはこのアイテムを使わせよう!」


デヴィットは言った。

そして・・・私は気配を消すドリンクを飲み、マントを羽織ると、デヴィット達と共に神殿に足を踏み入れた—。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る