第4章 2 酔っ払いにはご用心

 私がバスルームから出て来ると、ダニエル先輩とマイケルさんはバーカウンターでお酒を飲んでいた。


「あ、ジェシカ!お風呂から上がって来たんだね。うん・・・すごくいい香りがするよ・・・。」


いきなりダニエル先輩が私の元に駆けつけてきて肩に手をまわし、首筋に顔を近付けてスンスンと匂いを嗅いできた。

こ、これは・・・流石に恥ずかしいかも!


「ちょ、ちょっと待って下さい・・・ダニエル先輩。・・もしかして酔ってます?」


何とかダニエル先輩を押しのけて、顔を覗き込むとその目はトロンとして頬は赤みが差している。


「こらこら、ダニエル君。君ねえ・・お嬢さんと距離が近すぎるよ。」


そこへソファに座ってお酒を飲んでいたマイケルさんがこちらを振り向いてダニエルさんに注意する。そして再びお酒を飲みながら、言った。



「うん、やはり最高級クラスのホテルの部屋で飲むお酒は格別だ・・・。」




相変わらずダニエル先輩は酔いが回っているらしく、私の肩に頭を乗せたまま、フフフ・・いい匂い・・等と呟いているし・・・。

あれ・・・?そうえいばデヴィットは・・・?こんな時、真っ先に俺の聖女に勝手に触れるなとか言って来るのに今夜に限ってやけに静かだ。


「ダニエル先輩、デヴィットさんは何処ですか?」

するとその声にダニエル先輩はピクリと反応して顔を上げた。あ・・・目が座ってるよ・・・。


「ジェシカ・・・。あのデヴィットとか言う男は・・・君の聖剣士には違いないだろうけど・・・ベタベタし過ぎだ!全く持って気に入らないっ!絶対・・あの男は・・・君に気があるに決まっている!でも・・駄目だ・・駄目なんだよ・・。だってジェシカは・・僕の・・・僕の恋人なんだからあ~・・・。」


言いながらソファの上に寝そべると終いにシクシクと泣きだす始末。

やだ、ダニエル先輩・・・ツンデレキャラだけじゃなく、甘えん坊な要素も持ち合わせていたんだ・・・っ!


「やれやれ・・お酒に飲まれるなんて・・・情けないなあ・・君は・・・。」


言いながら、マイケルさんは自分のグラスにどんどんお酒を注いでは飲み干していく。うわ・・・すごい、まるでザルのようだ。しかも・・えええっ!見れば空になったボトルが何本もテーブルどころか床にまで転がっている。

ま・・まさか・・・これを1人で・・・?


 そんなマイケルさんに注意を払っている間にダニエル先輩はソファの上で気持ちよさそうに眠ってしまった。


「ダニエル先輩、こんな所で眠ったら風邪を引いてしまいますよ。ほら、起きてベッドまで行きましょうよ。」


揺さぶるも、一向に起きる気配が無い。仕方ない・・・。ベッドルームに余分に毛布があったから持って来て掛けてあげよう。

そして自分が寝る客室から毛布を2枚持って戻ってみると案の定マイケルさんも空のボトルを抱えたままスヤスヤと眠りに就いている。

 私は2人に毛布を掛けてあげると、今度はデヴィットの事が気になってきた。

バーカウンターの部屋でお酒を飲んでいたのはマイケルさんとダニエル先輩のみ。

肝心のデヴィットはいなかった。

ひょっとすると・・・隣のベッドルームでもう眠っているのだろうか・・・?


 コンコン。

ドアをノックしてみる。

「デヴィットさん・・・?」

返事が無い。眠っているのだろうか・・・?

「入りますよ・・・。バスルーム開いたので、よろしければいかがですか・・・?」

言いながらドアノブを回すも、中はもぬけの殻。


「え・・・?デヴィットさん・・・?」


おかしい。・・・部屋にいないなんて・・・一体彼は何処へ行ってしまったのだろう?だけど・・。うん、デヴィットは成人男性だ。私があれこれ心配してみても仕方が無い。ひょっとすると・・出掛けているのかもしれないし・・・。


 私は改めてバーカウンターへ戻って来た。彼等が飲み散らかしたお酒を片付けようと思って居たのだが・・・久々に私もお酒を飲みたくなってしまった。


「ちょっとくらいならいいよね・・・・?」


どんなお酒があるんだろう。ワクワクしながらカウンターを覗き込み・・・危うく悲鳴を上げそうになった。

何とそこには空になったワインボトルを抱きかかえたまま、床にうずくまるように眠っていたデヴィットの姿がそこにあったからだ。


「ちょ、ちょっとデヴィットさん!起きてくださいよっ!駄目じゃ無いですか。こんな所で眠ったりしたら・・・・。」


いくら揺すっても全く起きる気配が無い。しかもデヴィットは聖剣士に選ばれただけあって、背も高く、その身体は筋肉で引き締まっている為にとても私の力ではビクともしない。

それにしても・・・・こんなに酔い潰れていては・・ソフィー達が攻め込んできた時に対応出来るのだろうか?今床の上で転がっているデヴィットを目にして、私はこのまま彼に身辺警護を任せて大丈夫なのだろうか・・?と思わず不安に思ってしまった。


うん、でも・・・・これはある意味チャンスかも・・・?恐らく、ダニエル先輩は学院の寮には当分戻らないだろう。今の学院は神殿もろともソフィーの手に堕ちてしまったと考えて間違いは無さそうだ。そうなるとソフィーのお気にいりのダニエル先輩もいつ、捕らえられるか分かったものじゃ無いし、マイケルさんに至っては家の場所が完全にアラン王子にばれてしまっている。そんな場所へノコノコ帰ってもあっという間に掴まって・・・マイケルさんと引き換えに私を捕えようとするかもしれないだろう。

そう考えると・・・

うん!きっとあと数日は確実にこのホテルに泊まるはず。幸いにも彼等は皆リッチマンのようだし・・・デヴィットのお陰でアラン王子のマーキングも消されてる。

そして今私の目の前で繰り広げられているこの光景・・・・。

全員お酒で酔いつぶれている・・。

と言う事は・・・。

「よし、明日は早めに彼等にお酒を沢山飲ませて酔い潰してしまおう!」

そうすればアラン王子に会いに神殿へ行けそうだ。

思わず口から言葉が飛び出し、慌てて押さえる。・・・・そして私の足元に転がっているデヴィットをチラリと見て・・・。

ホッ・・・良かった・・・。眠ってるようだ。規則正しい寝息が聞こえて来る・・。


 それにしても・・・私はマジマジとデヴィットの顔を見つめた。本当に・・・髪の毛真っ白だなあ・・・。本人はこの髪色とても嫌っているけれど・・・。

「何故嫌うんだろう?こんなに綺麗な髪色なのに・・・・。」

そしてデヴィットの髪の毛にそっと触れてみる・・・が。

その時・・・突然パチリとデヴィットが目を覚まし、至近距離で目と目が合う。

うわ・・本当に瞳の色まで白い色をしている・・・。


「あ・・・ジェシカ・・・か・・?」


アルコールが入っているからか、いつもの白い肌をうっすらと赤く染めてデヴィットは私を見上げた。


「はい、私です。・・・大丈夫ですか・・・?こんなに飲んで・・。」


まともに会話を出来るかどうか分からなかったが、とり合えずデヴィットに話しかけてみた。


「こんな所で眠っては風邪をひきますよ。デヴィットさんに何かあったら困るのは私ですから・・・。もっとお身体をご自愛下さい。」


しかし、デヴィットは何を聞き間違えたのか・・じ~っと私を見つめながら言った。


「ジェシカ・・・今・・・何て言った・・?」


「え・・?今ですか?お身体をご自愛下さいと・・・。」


「そうか・・・俺に愛を下さいって言うんだな・・・?いいだろう。お前になら・・・いや、お前だから・・・俺の愛をくれてやる。」


「え・・・・?」

一体彼は何を言っているのだろう?

そしてデヴィットは戸惑ったままの私の頭をガシイッと掴むと、自分の方に引き寄せて突然強く唇を押し付けて来た—!


く・苦しい・・・。深い口付けとアルコールの香りで頭がクラクラしてくる。

しかしデヴィットは私が苦しんでいるのを知ってか知らずか、お構いなしにますます深い口付けをしてくる。

振りほどこうにもデヴィットの力が強すぎて話にならない。


う・・・も、もう駄目・・・。い・意識が・・・


とその時、ガクリとデヴィットが私の上に崩れ落ちて来た。


「え・・?ちょ、ちょっと!」


何とデヴィットは私を下敷きにしたまま、眠りに就いてしまったのだ。


「お・・・重い・・・・。」


何とか必死にデヴィットの身体から這い出て・・・私は逃げるように一人用のベッドルームに駆け込み・・・鍵を掛けて布団を被った。


う・・。も、もう二度と酔っ払いの前では勘違いさせるような言葉を使うのはやめにしよう・・。私は心に誓った—。





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