第4章 1 誰を選ぶ?
ここはセント・レイズシティのホテルの一室・・・。
今、私達は一番大きな客室を借りている。キングサイズのベッドが2台置かれている寝室が2部屋ずつ、さらにはリビングルームにバーカウンターまで付いている、言わゆるスイートルームのような部屋にいた。
「あの・・・こんな豪華なお部屋・・一泊いくらするんですか?私・・・お金殆ど持ち合わせが無いって言いましたよね?確か・・・。」
私が3人を見渡しながら言う。
「「「何言ってるんだっ!女性からお金を取る訳無いだろう?!」」」
何故か、全員が同じ回答をしてきた。
「で、ですが・・・一泊一体いくらすると思って居るんですか?」
こ・怖い・・・金額を聞くのが非常に怖い・・・っ!
「大丈夫だ、ジェシカ。金の事なら心配するな。知ってたか?聖剣士に選ばれるとな・・・毎月相当額の金額が支給される事になってるんだ。俺は金を持っている。お前に不自由な思いをさせる事は無いからな。」
何故か私の髪を撫でながら、うっとりした目つきで見つめるデヴィット。
「あ・・ソ、ソウデスカ・・・。」
一体彼はどうしてしまったのだろう?ここへ到着した時はアラン王子の件で怒りまくって大変だったと言うのに・・・。
「お金なら・・・僕だって持ってるさ。これでも僕はね、株を持っていて結構儲かってるんだからな。だから・・・いいよね。ジェシカ?」
ダニエル先輩は負けじと言う。
はて?いいよねって・・・一体何がいいと言うのだろう?何だか徐々に嫌な予感がしてきた。
そしてマイケルさんは黙っていると思ったのだが・・・・。
「お嬢さん。俺もお嬢さんには一生お金で苦労をさせる事は無いよ。実はね・・・俺の実家はこのセント・レイズ諸島の大商家なんだよ?爵位こそ無いけど、多分その辺りの貴族よりはお金を持っていると思うけどね?」
マイケルさんは私の両手を握り締めると言った。
「え・・・えええええっ?!そ、そうだったんですか?!そ、それなら・・・何故屋台などやってるんですか?実家の仕事を継がなくても良いのですか?!」
「うん。それも片手間だけどやってるよ。屋台はね・・・僕が好きでやってるんだ。おかげでお嬢さんのように素敵な女性に巡り合えたしね・・・。」
「は、はあ・・・。」
「「「さあ、ジェシカ(お嬢さん)。それでは誰を選ぶ?」」」
3人が何故か両手を私の方に向けて笑顔で同時に言う。
「え?あの・・・選ぶって・・・一体何の事ですか?」
分からない、彼等が何を考えているのか私にはさっぱり分からない。
「そんなのは決まっているだろう?」
デヴィットが言う。
「そうそう、これは大事な事だからね。」
ダニエル先輩は腕組みして頷いている。
「お嬢さん、俺が一番安全な男だと思うよ?何せ君のお兄さんだからね。」
マイケルさんが意味深な事を言う。俺が安全・・・?はて、何の事だろう・・?
「あの・・・何を選べば良いのか全く分からないのですが?」
するとデヴィットが呆けた顔になった。
「う・・嘘だろう・・・本当に分からないのか?」
「相変わらず・・・ジェシカは鈍いねえ・・・。」
ダニエル先輩は溜息をつく。
「まあまあ。そこがお嬢さんが男心をくすぐるポイントだよね?」
マイケルさんの言葉にますます謎が深まっていく。
「だから、私は何を選べば良いのですか?」
「そんなのは決まっている。」
デヴィットが私の肩を掴むと言った。
「いいか、ジェシカ。俺はお前の聖剣士なんだ。そして今、お前はソフィーと神殿にいる者達に狙われている。俺を傍に置くのが当然だろう?」
「何勝手な事言ってるのさっ!僕だって攻撃魔法も防御魔法も剣だって使えるんだからな?!」
「う~ん・・力では叶わないけど・・・包容力なら誰にも負けていないと思うけどなあ・・・。」
もう何が何だか私には分からない。
それに・・・今夜は疲れたし・・・。
「あの~・・・皆さん。今夜はとても疲れたので、申し訳ありませんが1人でベッドルームを使わせて下さい。部屋に置いてあるベッド・・・すみませんがもう一つの寝室に運んで頂いて・・・皆さんはご一緒の部屋で休んでいただけますか?お願いします。」
「「「え・・・・?」」」
何故か3人同時にお互いの顔を見渡し・・・がっくり肩を落としてしまった。
「あの~・・皆さん・・・どうされたのですか?」
「ハハハ・・・そうだよな・・・やっぱり当然そうなるよな・・・。」
デヴィットは乾いた笑いを見せる。
「ジェシカ・・・まさかそんな答えを用意していたなんて・・・僕はちっともそこまで頭が回らなかったよ・・・。」
項垂れるダニエル先輩。
「フフフ・・・やっぱり流石お嬢さんだ。やられたようだね・・・。」
マイケルさんも白けた笑いをしている。そして3人は力を合わせて?キングサイズのベッドをもう一つの客室に運ぶのだった・・・。
そう言えば・・・結局何を選べば良かったのだ?私は・・・?
「ふう~・・・気持ちいいいなあ・・・。」
バスルームでお湯に浸かりながら私は天井を見上げた。・・・それにしてもこっちの世界へ戻ってからおかしな事ばかり起こっている。
何故今迄一度も私の左腕の紋章が反応したことが無かったのに、ここへきて突然聖女の力?に目覚めたのだろうか・・・。
でも・・ひょっとすると・・聖剣士が近くにいるようになったから?でもそれを言えばマシューだって聖剣士だった。それなのに・・・私達は紋章が光る事は無かった。一体何故・・・?ある意味、私とマシューも聖女と聖剣士の誓いの契りを交わした仲だと言えるのに・・・。でもあれは・・・絆を深めるのが目的では無く・・ただお互いを求め合って・・・。
だけど・・・え・・?私は重要な何かを忘れている気がする・・。
そう言えば・・・アラン王子の時は記憶が無いので分からないが、ドミニク公爵の時も、デヴィットの時も・・・彼等の右腕には聖剣士の証となる紋章が浮かび上がっていた・・・。だけど、マシューには?マシューにはそんな紋章は無かった・・・。
「マシューは・・・ひょっとして・・・正式な聖剣士では無かった・・の・・・?」
だとしたら・・本当に酷い話だ。もしかすると学院側はマシューが人間と魔族のハーフだから紋章が無いのにマシューに聖剣士の役割を押し付けたのかもしれない・・。
もし・・・もし・・マシューが本物の聖剣士だったら?私と聖女と聖剣士の誓いの契りを交わした事になっていたはず・・・。そうしたら・・・マシューは聖剣士の本来の力を発揮して・・・。
「死ななくて済んだかもしれないのに・・・。」
思わず再び涙がこぼれそうになるが・・・まだマシューは死んでしまったとは限らない。絶対に・・・何処かで生きているはず。
ノア先輩を助け出すときに・・・同時にマシューの事も探しだして・・。
その時、私はアラン王子に肝心な事を聞くのを忘れていた事に気が付いた。
そうだ・・・アラン王子はマシューの事を知っている。それに・・『ワールズ・エンド』で対面だってしてるのに・・・。何故・・何故アラン王子はマシューの事
を話してくれなかったのだろう?
こうなったら・・・少々危険かもしれないけれど・・・。
「もう一度・・・もう一度アラン王子に会わなくちゃ・・・。」
私は思わず言葉にしていた。どうすればアラン王子に会う事が出来るのだろう?
明日の夜・・・何かうまい言い訳を考えて・・1人でこっそりアラン王子に会いに行く事は出来るだろうか・・・?
お湯に浸かりながら必死で何か良い方法が無いか考え抜いたけれども・・結局何もアイデアが浮かばなかった—。
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