第2章 3 皆で一緒に
「いくら髪を切って、色を染めた所でも・・・恐らくすぐにジェシカだと気付かれてしまうだろう。」
デヴィットは私に言った。
今、私はマイケルさんとデヴィットの3人揃ってカフェで今後の事について、どうすれば正体がバレる事無く私が学院の中に侵入出来るかについての話し合いをしていた。
「で、でも・・・学院の中へ入らないと、ノア先輩や、ダニエル先輩、それに他の人達の様子が・・・。」
「その事なら大丈夫。心配するな。俺がジェシカの代わりに様子を見て来るから。」
デヴィットが言う。
「だけど、君は聖剣士なんだろう?聖女に忠誠を誓っていないからマークされてるんじゃないのかな?」
マイケルさんの問いにデヴィットは答えた
「いや、その逆だ。俺は今迄訓練にすら顔を出していない。あんな女が聖女だなんて俺は認めていなかったから・・・一切聖剣士としての義務を放棄して来たんだ。俺が聖剣士だと知ってるのは・・ここにいる2人だけかもしれないな。」
デヴィットは何処か嬉しそうに言う。聖剣士・・・まさかデヴィット迄マシューと同様、聖剣士だとは夢にも思っていなかった。
デヴィットの話では聖女には2通りあるらしい。初めから全ての聖剣士の聖女となる場合・・そしてもう一つは聖剣士と特別な関係を持った場合のみ、その聖剣士専属の聖女となれるらしいが、それには基準がある。自分の身体に刻まれた紋章が光り輝かないと聖剣士の聖女にはなれないという・・・。
私はこの物語の作者であるのに、こんな話は知らなかった。やはりここは私の作った小説の世界では無く、anotherの世界なのかもしれない・・・。
「どうした?ジェシカ。ぼーっしているようだが・・大丈夫か?」
デヴィットが心配そうに私に声をかけてくる。関係を持った直後から、デヴィットの態度はあからさまに変わった。私を見る目が優しくなり、話し方にも労わりを感じる。やはり私の聖剣士となったからだろうか・・・?それにデビットは私に言った。これは儀式だけど、自分にとっては「愛」だと・・・。
デヴィットが私を愛している・・?それを思うと、デビットにもマシューに対しても罪悪感が募って来る。私は・・・やはり最低な女なのかもしれない。だってまた誰かを巻き込んでしまったのだから—。
「いいえ、大丈夫です。」
私が答えると、デヴィットはそっと私の髪の毛を撫でた。
「具合が悪ければすぐに言うんだぞ?」
そしてじっと私を見つめた。
そんなデビットの目を見つめながら思った。
深い絆を結ぶとその相手が聖剣士となる・・・。
そうなると、アラン王子・・そしてドミニク公爵も私の聖剣士といえるのだろうが・・それを確認する手段は無い。大体、公爵には恐ろしくて近付く事すら今の私には出来なかった。
「あの・・・私だとばれてしまうのであれば・・どうしたら学院に侵入できるでしょうか・・。」
私は2人を見渡しながら問いかけた。
「そこで考えてみたんだけど・・・お嬢さん。君・・・男装する気は無い?」
「え・・・・?だ、男装・・・ですか?」
私は自分を指さしながら言った。
「うん、そう。お嬢さんはとても美人だから・・・きっと素晴らしい美少年になると思うよ?」
ニコニコしながらマイケルさんは言う。・・・ひょっとするとマイケルさんはこの状況を楽しんでいるのだろうか?
「駄目だ!それでも・・もしバレたらどうするんだ?!そんな危険な真似をジェシカにさせられるわけ無いだろう?!」
デヴィットはテーブルをバンバン叩いて抗議する。う~ん・・。何だか人が変わったみたいに過保護になってしまったようだ。
「だいじょうぶ、俺もお嬢さんに付き添うからさ。そうだな・・・。この学院に入学希望の美少年とその兄って設定はどうかな?」
うん?何だか何処かで似たようなシチュエーションみたいだけど・・・。
「いいですね・・・。それ、使えそうです。」
私は言った。
「だけど・・ジェシカじゃあまりにも身長が低いし、華奢過ぎる。とても男装なんて無理だ!」
う・・・た、確かにそれは言えるかも。ジェシカの身長は153㎝。この世界ではまれに見る小柄な身体をしている。
「うん、だからさ。庇護欲を掻き立てられる美少年になりそうじゃ無いか。」
そしてマイケルさんはウィンクした。
「ねえ。この衣装なんかどう?お嬢さんにぴったりだと思うんだけどな?」
マイケルさんが楽しそうにブルーの燕尾服を私に見せながら言う。
「駄目だ、ジェシカにそんな格好させたら、ひょっとすると男子学生にまで興味を持たれて、襲われでもしたらどうするんだ?出来ればもっと目立たない平凡な服を・・・。」
デヴィットはマイケルさんの選んだ服に文句を言いつつ、持論を述べている。
そんな2人の様子を私は椅子に座って眺めていた。
ふわああ・・・まだかなあ・・・。
あの後―カフェを出た私達はその足でブティックへと来ていた。そして私の為の男性用の服をマイケルさんとデヴィットが見立てるという話だったのだが・・・。
「あー駄目だよ、こんな服じゃ・・・。折角のお嬢さんの魅力が半減してしまう。」
「何言ってるんだ!魅力的にしたら男色の男に狙われるかもしれないだろう?!」
等、こんな感じでちっとも意見が一致しない。
・・・どうでもいいけど、早く終わらせてくれないかなあ。すっかり私は待ちくたびれてしまった。それに・・・。
「マイケルさん。もうそろそろ屋台をオープンさせないといけない時間ですけど・・・?大丈夫なんですか?」
「あ!いけない!もうそんな時間か・・・。あ、でも屋台を開ける前にお嬢さんを俺の家に連れて行ってあげないとね。よし、服選びはまた明日にしよう。おいで、お嬢さん。」
マイケルさんが手を伸ばしてきたので、私も何も考え無しに手を伸ばし・・・。
「おい、ジェシカは俺の聖女だ。気安く触らないでくれないか?」
言いながら、さっとマイケルさんの手を払うデヴィット。
ええええ~っ?!ちょ、ちょっと・・・そんなキャラでしたっけ?これではまるで、あの俺様王子やドミニク公爵と変わらないじゃないのっ!
「デ・・・デヴィットさん・・・。」
「うん、何だ?」
デヴィットは私の手をしっかり握りしめると笑顔を向けた。
「何だか・・・キャラ・・・変わりましたね?」
「キャラ・・・?キャラって何だ?」
不思議そうな顔をする。ああ・・・そうか、キャラって言う言葉知らないか・・・。
「所でジェシカ。おまえ・・。本当にこの男の家に居候するつもりか?」
真剣な顔で私に問い詰めて来る。
「えええ?!だ、だってデヴィットさん・・・いいって言ってくれませんでしたっけ?!」
今更何を言い出すのだろう。
「あの時と今とでは状況が変わったんだ。」
じっと私を見つめながら距離を詰めて来るデヴィット。そしてそんな私達を意味深な目で見つめるマイケルさん。
「ふ~ん・・・。そういう事かあ・・・。」
「何がそういう事なんだ?」
グルリと顔をマイケルさんに向けるデビット。お願いだから、そんな喧嘩腰にならないで欲しいのだけど・・・。
「いや、何でも無いよ。でも、そんな事を言ってもお嬢さんは行き場が無いんだよ?気の毒じゃ無いか。」
「・・・俺も泊まれるだけのスペースはあるか?」
ヒエエエッ!とんでもない事を言いだしてきた。
「あ、あの・・・。デヴィットさん・・・?」
「俺はお前の聖剣士だ。いつどこでソフィーの手下がお前を狙って襲ってくるか分からない。24時間警護が必要だとは思わないか?」
熱のこもった目で訴えて来る。う・・確かに言ってる事は正論だけども・・・。
「俺は別に構わないよ。」
マイケルさんがのんびりした口調で言う。
「ええ?!」
ほ・・・本気で言ってるのだろうか・・?
「だって、3人で同居なんて・・楽しそうじゃ無いか。」
そう言ってマイケルさんは笑みを浮かべるのだった—。
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