第2章 1 私の住む新たな場所

チュンチュン・・・・。

鳥の鳴き声が聞こえる・・・・。鳥の声か・・・何だか・・・久々に聞いた気がするな・・・。

え?鳥・・・?一気に頭が覚醒し、私はベッドから飛び起き・・自分が下着すら身に付けていないことに気が付く。え?え?一体どういう事?

どうも疲れが酷すぎたのか・・・あまり昨夜の記憶が無い。でも・・アラン王子に会ったような気がするのだが・・・。

「フフ・・まさかね・・・。だってアラン王子は私を捕えるために『ワールズ・エンド』で待ち伏せしていた相手なんだから・・・。ここで見つかっていたら確実に掴まっているはずだしね。」


 取り合えずシーツを身体に巻き付けると、私は持ってきたリュックから着替えを探した。

「良かった・・・予備の服・・・持って来てて。」



コンコン。

丁度着替えが終わった頃、ノックの音が聞こえた。


「はい。」


ガチャッとドアを開けると、そこにはデヴィットが立っていた。


「お早う、ジェシカ。」


デヴィットが何故か若干頬を赤らめながら挨拶して来た。


「お早うございます、デヴィットさん。」


「あ・・あのさ。これから朝食を食べに行くんだが・・・一緒に行かないか?」


朝食かあ・・・。丁度お腹が空いていた頃だったんだよね。

「はい、是非。」

勿論、ここは即答だ。


「そうか、良かった。それじゃ行こう。」



私とデヴィットは向かい合って座り、トーストにハムエッグ、サラダ、コーヒーという定番のモーニングセットを食べていた。

デヴィットが私に語りかけている。


「昨夜の事もあるだろう?実は・・この辺りはあまり治安が良くない場所だったんだ。あまり深い考えを持たずに俺が勝手に宿を手配したばかりに・・昨夜は酷い目に遭わせて・・その、悪かったな。」


「いえ、いいんですよ。だって・・・結局助けてくれたじゃ無いですか。それにしても・・・デヴィットさんて・・強かったんですね。格好良かったですよ。」

笑みを浮かべながら言った。


「そ、そうか?」


頬を染めて明らかに動揺しながら返事をするデヴィット。ん・・・?そんなに大した台詞言ってないんだけどな・・・。


「所で・・・昨夜あんな格好で眠ってしまったようだが・・ちゃんとあの後・・・着替えたのか・・?」


頬を赤らめながら質問してくるデヴィット。

え・・?

「デヴィットさん・・・。何故、あんな格好って・・・私がどんな姿で眠ったか・・・知ってるんですか?」


「え”・・・?!」


何故かその一言で硬直するデヴィット。


「ジェ、ジェシカ・・。」


「はい、何でしょう?」


「お、お前・・・昨夜の事・・・ひょっとして何も覚えていない・・・のか?」


「え、ええ・・・。すみません。余程疲れていたんでしょうね・・・。さっぱりです。ただ・・何となくアラン王子の夢を・・見た気がするんですけど・・。きっとアラン王子に追われたのが余程ショックで、あんな夢を見てしまったんでしょうね。」


カラーン。


うん?何の音だろう?すると床の上にフォークが落ちている。どうやらデヴィットがフォークを取り落してしまったようだ。


「デヴィットさん、どうしたんですか?フォーク落ちましたよ?」

拾い上げてテーブルの上に起きながらデヴィットを見ると、彼は顔面蒼白になっている。はて・・?一体どうしたのだろう?


「ジェシカ・・・。う、嘘だろう・・・?いや、でも昨夜は大分疲れていたようだしな・・。だとしたらアラン王子はかなり哀れな男かも・・・。」


何やらデヴィットは始終ブツブツと呟いている。うん、きっと今後の事で色々考える事があるのかもしれない、ここはそっとしておこう。

そして私はトーストをかじるのだった・・・。



「ジェシカ。これからどうするんだ?」


コーヒーを飲みながらデヴィットが尋ねて来た。


「あ、あの・・・それなんですが・・・やっぱりマイケルさんの家でお世話になろうかと思っているのですが・・・駄目ですか?」

遠慮がちに尋ねてみた。


「何で・・・俺にそんな事聞くんだ?」


不思議そうな顔で私を見つめる。


「だ、だって・・・昨夜言ってたじゃ無いですか。私は男を誘惑しているって・・。」


「い、いや・・あの話はもう忘れてくれ。お前が意識して誘惑する事はしていないって事が・・・分かったからな。現に俺だって・・・・。」


うん?今何て言ったんだろう?最期の方は語尾が小さすぎて聞き取れなかった。


「だが・・・男の1人暮らしの家に・・ジェシカが一緒に住むなんて・・・何か間違いがあったらどうするんだ?」


真剣な顔で話しかけてくるデヴィット。


「まさか~。だってマイケルさんは親切心で言ってくれてるんですよ?彼はそんな人じゃありませんよ。何でも部屋が余ってるので私1人位どうって事無いって言ってましたから。」


「けど・・・それでも俺は心配だ。」


う~ん・・・。ひょっとして私の保護者にでもなった気でいるのかもしれない。確かにこの世界では彼は私よりも年上だけど、実年齢は私の方が上なのに。


「やっぱり・・1人暮らしの男性の家に居候になるの・・駄目でしょうか・・?」

本当ならデヴィットの許可なく勝手にすれば良いのだろうが、彼には色々お世話になったのでなるべくならデヴィットの考えを尊重したい。」


「駄目というよりは・・俺が・・嫌なんだ。」


そう言うと、フイと視線を逸らせるデヴィット。


「え?何故・・・・ですか?」


「お、お前・・・それを俺に聞くのか・・・と言うか・・聞かないでくれっ!」


言いながらコーヒーをグイッと一気飲みするデヴィット。


「・・・分かりました。それではマイケルさんの家にお世話になるのはやめにします。」

デヴィットがこれだけ嫌がっているなら仕方が無いか・・・。今後も彼には色々お世話になるだろうし、機嫌を損ねられて協力を断られる方が私にとっては痛手だ。


「え・・?やめに・・・してくれるのか・・?俺の・・・為に・・?」


信じられないと言わんばかりの目で私を見つめるデヴィット。


「はい、そうです。デヴィットさんの(機嫌を損ねない)為にやめます。」

頷いて答える。でもそうなると・・・困ったな。今後は何処に暮らせば良いのだろう?

あ~あ・・・別荘でも持っていれば良かったのに・・・。アラン王子のように・・・。

そう言えば・・・。

「ノア先輩・・・。」

私は口に出して呟いた。


「ノア先輩?あの魔界に連れさられていた・・・『ノア・シンプソン』か?」


「はい、そうです。ノア先輩はセント・レイズシティに小さな家を1軒借りているんです・・・。そこに住まわせて貰えないかな・・・。あ、でも生徒会には場所が知られてるから、そこも無理かも・・・。」


「へえ・・・。あの男、この町に家を借りていたのか・・・でも何故そんな事をジェシカは知ってるんだ?」


不思議そうな顔で尋ねて来るデヴィットについ、私はポロリと答えてしまった。


「はい、以前にノア先輩に連れて行かれた事があるので・・・。」

そこまで言いかけて、私は何やらデヴィットから黒いオーラのようなものを感じ・・顔を上げた。みると彼は険しい表情で私を見つめている。


「おい、ジェシカ・・・。連れて行かれたって・・・どういう事だ・・・?」


「あ・・あの、そ、それは・・・・。」

駄目だ、とても言えない。睡眠薬で気絶したところを無理やりその家に連れ去られたなんて・・・。


「そう言えば、聞いたことがあるぞ?あの男は気に入った女子学生を次々と自分の隠れ家に連れ込んでるって話・・・。ま、まさか・・・ジェシカ!お前迄・・・!」


「ち、違いますっ!な、何もされてません!(その時は)」


「そうか・・・それなら良かった・・・。」


デヴィットは安堵の溜息をついている。

だ、駄目だ・・・い、いくら夢の世界の出来事とは言え・・・ノア先輩に抱かれている事を絶対に知られては・・・!

もしバレれば、それこそ大変な目に遭いそうだ。きっとデヴイットの信頼を一気に失ってしまうことになりかねない。だって、今私が確実に頼れる相手は目の前にいる彼だけなのだから。


「そ、それならこれはどうだ?俺がお前の為にこの町で何処か住む場所を借りてやるのは・・。」


何やらとんでもない事を言いだしてきた。


「だ、駄目ですよ!そんな事・・させられるわけ無いじゃ無いですか!」

そう。これではまるで愛人に囲って貰う女みたいじゃないの。そんな事だけは絶対に避けたい。


でも・・・。

私は食堂に飾ってある時計に目をやった。


「あの・・・実は10時にマイケルさんと約束してるんです。どのみちあの人には会いに行かないとならないので・・・。改めてそこで・・話をさせて頂けますか?」


「何だ?またあの男に会うのか?」


何故かイライラした口調になるデヴィット。


「はい・・・。」

それにしても・・・・。

「あの・・・何故デヴィットさんは・・そこまでマイケルさんを毛嫌いしてるのですか?」


「!べ、別に毛嫌いなど・・・俺はただ・・お前があの男と・・・あ~ッ、もうどうでもいい!いいぞ、ジェシカ。お前・・・マイケルとか言う男と一緒に暮らせばいいさ。」


そう言うと、ガタンと席を立つデヴィット。


「あ、あの?デヴィットさん?」


「俺は・・・今日は学院に行くつもりは無い。ここで・・・ジェシカが戻って来るのを待ってるから・・行って来いよ。約束してるんだろう?」


何故か少し寂しげに言うデヴィット。


「は、はい。分かりました。」


そして私は食事を終えると、マイケルさんとの待ち合わせ場所へと向かった—。













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