第1章 13 夢の中で呼ぶ人は
「ア・・・・アラン王子・・・?な、何故・・・?ゴホッ!ゴホッ!」
再び激しく咳き込む私。
「ジェシカ?駄目だ、今はまだ喋るなっ!お前・・・バスルームで溺れかけていたんだからな?!」
アラン王子は赤い目をして私を見つめながら言った。・・・ひょっとして・・泣いていたの・・・?
その時・・・
バアンッ!!
激しくドアが開かれ、デヴィットが室内に飛び込んできた。
「どうした?ジェシカッ!何があったんだ?!」
そして・・・バスタオル1枚でくるまれアラン王子に抱きかかえられている私を見ると、デヴィットの顔色がサッと変わる。
「ジェシカッ?!」
そしてアラン王子を激しく睨み付けると言った。
「おい、お前・・・確か1年で聖剣士のアラン・ゴールドリックだったかな・・・?フン、偽物聖女の犬め。一体ジェシカに何をしていたんだ・・?さっさと彼女から離れろッ!」
「何だと・・・?お前・・・俺の事を良く知ってるようだが・・。ジェシカはここでおぼれ死にそうになっていた所を俺が助けにきたんだ。お前こそジェシカの何なんだ?」
言いながらアラン王子はますます強く私を抱きしめて来る。私は2人の会話をまだ靄のかかった頭で聞いていた。分からない・・何故、アラン王子がここにいるの・・?何故私は抱きかかえられてるの・・?だけど・・・。徐々に頭の中の靄が晴れていく・・・。アラン王子は・・ソフィーの聖剣士・・・。ソフィーの・・・。
「い・・・や・・・。」
私は力の入らない身体で抵抗した。
「?どうした?ジェシカ?」
不思議そうな顔で私を見つめるアラン王子。
「は・・・放して・・アラン・・王子・・・。」
「っ!ジェシカ・・・・ッ!」
途端に傷ついた顔を見せるアラン王子。一瞬罪悪感が募る。だけど・・・彼は・・。
私は目を泳がせてデヴィットを探し・・・視線がぶつかった。
「デ・・・デヴィット・・さん・・・。」
弱々しい声しか出せないが、必死で笑顔を作ると、力の入らない手を何とか持ち上げて、デヴィットの方へ向けて、再度声を振り絞った。
「お・・・願い・・・き・・・て下さ・・い・・。」
「ジェシカ・・・ッ!」
そんな私を見て、アラン王子の目にみるみる内に涙が溜って来る。
「ジェシカ・・・それ程俺が・・・嫌・・・なのか・・?」
嗚咽を堪えるように声を振り絞るアラン王子。
「おい!アラン王子!ジェシカが嫌がってる!彼女を離せ!」
デヴィットは強引にアラン王子の肩を掴むと・・アラン王子は観念したのか、抱きかかえた私の身体をデヴィットに預けた。
「ジェシカ・・・。大丈夫だったか?」
デヴィットの身体に収まると、私は彼の首に腕を回し・・・安堵の溜息をついた。
「・・・・!」
アラン王子の息を飲む気配を感じたが・・・今のアラン王子は私にとって脅威以外の何者でもない。私を捕えてソフィーに引き渡すつもりでここに来たのだろうか?
「お・・お願いです・・。アラン王子・・・。」
何とか声を振り絞る。
「お願い?何だ?何でも言ってくれ。」
「おい、ジェシカ。この男に何を頼むつもりなんだ?」
デヴィットは私をしっかり抱きかかえたまま尋ねて来た。
「どうか・・・今は・・見逃して・・下さい・・・。お願い・・・。」
そして益々デヴィットの身体にしがみつく。
「おい、聞いたか。アラン王子。ジェシカがこれ程にお前の事を怖がっているんだ。・・・早くここから出て行け。そして・・・少しでも彼女を想う気持ちがあるなら・・彼女の言葉通り・・今回は見逃してやってくれ。」
「くっ・・・!わ・・分かった・・・。ジェシカ・・・。」
下を向いて唇を噛み締めるアラン王子。・・・ひょっとすると、私は今・・・すごく彼の事を傷付けているのかもしれないが・・・。それでも今のアラン王子は私にとって脅威以外の何者でも無かった。
次の瞬間・・・一瞬でアラン王子はこの部屋から居なくなってしまった。
2人きりになると、デヴィットが言った。
「ジェシカ・・・。大丈夫だったか・・・?いや、あまり大丈夫そうには見えないな・・。お前・・・そこの風呂場で溺れかけたんだろう?」
「はい・・・そう・・・みたいです・・。」
「まあ・・・でも溺れかけたお前を助けたんだから・・アラン王子には一応感謝だな・・・。ところで・・・。」
コホンと咳ばらいをし、顔を赤らめたデヴィットが言った。
「1人で着替えられるか?ジェシカ。」
そこで私は今も自分がバスタオルを巻き付けただけの姿をしている事に気が付く。
「あ・・・。」
道理で先程からデヴィットの顔が赤らんでいる訳だ。着替えはしたいが・・腕に力がどうしようもなく入らない。
「あ、あの・・・今は・・・着替え・・・無理そう・・です・・。だ、だからベッドまで・・運んでもらえますか・・・?」
途端に耳まで真っ赤に染めるデヴィット。
「な?な・な・な・・。い、今・・何を言ってるか自分で分かってるのか?!」
「?はい・・。もう今夜は・・この恰好で・・眠ろうかと思って・・・。それが・・何か・・?」
「あ、ああ・・。何だ、そういう事か・・・。」
溜息をつきながらデヴィットは苦笑した。そしてデヴィットは私を抱きかかえたままベッドに運ぶと、寝かせてくれた。
「風邪・・引かないようにしろよ?」
毛布をかけながらデヴィットは言う。
「はい・・気を付けます。起き上がれるようになったら・・着替えるので・・・。」
素直に返事をする。
「ああ。そうした方がいい。それにしても・・。」
コホンと咳払いするとデヴィットは言った。
「ジェシカ・・・お前、軽すぎる。その・・・もっと沢山食べないと・・。」
「え・・?」
「あ・・そ、その何でも無い。お休み。」
それだけ言い残すとデヴィットは部屋から出て行った。
「ふう・・・。」
私は天井を見上げると溜息をついた。それにしても・・何故突然この場にアラン王子が現れたのだろう?ソフィーの命令で私を捕えに?でも・・・それだったらさっさと私をあの場から連れ去っても良かったはず・・・。それに私を見て泣いていた・・。
あの時のアラン王子は正気だったのかもしれない。だとしたら・・・。
「私・・すごくアラン王子を・・・傷付けてしまったかも・・・・。」
そして、そのまま私は急激な眠気に襲われ・・・・結局そのまま眠ってしまった・・・。
<ジェシカ・・・・ジェシカ・・・・。>
誰・・・?誰が私を呼んでるの・・・?
気付けば私は見知らぬ森の中に立っていた。
<お願い、ジェシカ・・・こっちへ来て・・・。私を助けて・・・。>
弱々しい声が何処か遠くから私に呼びかけて来る。
うん、待っていて。今・・・そっちに行くから・・・。
私は何処までも森の中を月明かりを頼りに歩き続ける。
やがて・・・目の前が開けると、そこには月の明かりに照らされて古びた城のシルエットが浮かび上がっていた。・・どうも助けを呼ぶ声はこの城から聞こえていたようだ。
ねえ・・・私、来たよ。何処?何処にいるの・・・?
途切れてしまった声の主に必死で呼びかける。すると、再び声が聞こえて来た。
<この・・・城の・・塔の・・一番高い所・・・。>
私は城を見上げた。すると確かに城の最も最上階に窓が付いた塔が見える。あの場所は・・・相当高い場所にありそうだ。
ねえ、もしかして閉じ込められてるの・・・?
心の中で呼びかけてみる。
<ジェシカ・・・どうか・・・どうか・・・私の名前を・・・呼んで・・・。早くしないと・・もう時間が・・・。貴女しか私を助ける事が・・・。>
時間?時間て・・・一体何の事?今の私は学院から追われる身。それに魔法も使えないのに・・そんな私がどうやって助ける事が出来るって言うの?
けれど・・・二度と『声』は答える事が無かった—。
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