第1章 12 何故・・・貴方がここに?

「そ、そんな・・・ドミニク公爵が・・・今の生徒会長・・・。」

私は震える自分の両肩を抱きしめた。あの時の夢は・・・こういう事だったんだ・・・。公爵が生徒会長だったから・・・私は夢で彼に裁かれたんだ・・。

「イ・・・イヤアアアアッ!」

私は頭を押さえて絶叫した。どうして?私は自分の未来を変える為に努力してきたつもりだったのに・・・結局運命には逆らえないのだろうか?


「おい、どうしたんだ?!ジェシカッ!しっかりしろ!お前・・・また気を失うんじゃないだろうな?!」


デヴィットが私の両肩を揺さぶり、そこで私は我に返った。


「あ・・・デヴィット・・さん・・・。」


「ジェシカ・・・お前・・・本当に大丈夫なのか・・・?今日は『魔界』から帰ってきたばかりなんだろう?それに・・追いかけられながらも、ここまで逃げて来たんだろう?俺は・・・お前が心配でたまらないよ・・・。」


言いながらデヴィットは強く私を抱きしめて来た。


「デヴィットさん・・・?」


デヴィットは私の髪に顔を埋め、肩を震わせている。え・・・まさか・・泣いてるの・・?


「デヴィットさん・・・?まさか・・・泣いてる・・・の・・?」


私が言うと、彼は顔を上げた。


「・・・!」


やはり・・・デヴィットは白い肌を赤く染めて・・・泣き濡れていた。


「どうして・・・?どうして・・・私の為に・・・貴方が泣くんですか・・?」

涙で濡れているデヴィットの頬に触れながら私は尋ねた。

するとデヴィットは涙ながらに自分の過去を語り始めた・・・。


「お・・・俺には・・この学院に・・恋人がいたんだ・・。結婚の約束までしていたけど・・ある日を境に彼女は急に俺に冷たくなり・・色んな男に手を出して浮気するようになって・・・結局・・それが原因で俺達は・・別れた・・。けど・・けど、本当はそうじゃ無かった・・・。違ったんだ・・・!」


「違った・・・?」


「彼女は・・・重い病気に侵されていたんだ・・・。もう長生きできないと分かって・・俺に愛想を尽かせるためにわざと色んな男と・・・!結局彼女の死に際に真実を聞かされて・・・。死んでいった・・・。そのショックで・・俺の髪は白くなり・・目も・・・!でも、きっとこれは罰だ。彼女の本心を知る事も無く、酷い裏切りだと罵り、彼女を傷付けて・・・!そしてそんな自暴自棄になった俺を・・救ってくれたのがライアンだったんだ・・・。」


「ライアンさん・・・・。すごくいい人ですからね・・・。」


「あの時は悪かった・・・。」


ポツリとデヴィットが言った。


「あの時?」


「ああ・・ジェシカと初めて会った時の事だ。ジェシカ、お前は・・・色んな男達に囲まれていただろう?てっきり俺はライアンを・・・弄んでいるのかとばかり思って・・つい、あんなきつい言い方を・・・。」


「デヴィットさん・・・。いいんですよ。傍から見ればそう見られても当然ですから・・。」


「ジェシカ・・・ッ!」


再びデヴィットは私をきつく抱きしめると言った。


「さっきのお前の様子を見て・・・本当に彼女のように・・・死んでしまうのでは無いかと思った・・・だって・・・お前の身体はこんなにも細くて・・顔面蒼白になった姿は・・・やせ細っていく彼女のように思えて・・見ていて耐え難かった・・・!」


「デヴィットさん・・・。大丈夫・・・私は・・死にません。うううん、絶対・・・死ぬわけにはいかないんです・・・。だって私は・・・。」


「マシューに会いたいから・・・だろう?」


デヴィットは私の身体から離れると言った。


「は・・・はい・・。」


「あんなに身分の高い王子や学院中の人気者たちから憧れの存在であった男達に言い寄られていたジェシカが選んだ男だからな・・・。相当魅力的な男だったんだろう?やっぱり・・・恋人だったんだな?」


「いいえ・・・。そうじゃありません・・・。」


「え・・?違うのか・・?」


「私が・・・彼を愛してると気付いたのは・・・マシューが死んだ・・後だから・・・。」


ギュッと両手を握り締めると私は言った。


「私は・・・やっぱり最低な人間です・・・。マシューが私の事を好きなのを知っていて・・その上で彼を利用して『魔界』へ行ったんです。彼の命を犠牲にして・・・。だから・・・もし、マシューが生きているなら・・・私の気持ちを伝えたいんです。貴方を愛していますって。もし・・マシューが私を恨んでいて、彼の心が変わっていたとしても・・・ただ自分の気持ちだけでも彼に伝えられれば・・私はそれだけで十分なんです・・・。」


「そうか・・・。マシューって男・・・生きてるといいな・・・。いや、きっと生きてるに決まってるさ。だって仮にも聖剣士だったんだろう?でも・・・もし・・。」


デヴィットはそこまで言うと口を閉ざしてしまった。


「もし・・?何ですか?」


「い、いや・・。何でも無い。」


フイと視線を逸らせるとデヴィットは言った。


「ジェシカ・・・。もう今夜は休んだ方がいい。まだ・・・話したりない事は山ほどあるが・・・続きは明日話そう。いいな?」


「はい、分かりました。」

私は返事をすると、デヴィットの部屋を後にした。




  部屋に戻った私はバスタブにお湯を溜めながら、今日1日の出来事を振り返ってみた。

ノア先輩・・。『ワールズ・エンド』で別れた切りになってしまったけど・・先輩は今何処にいるのだろう?私はこんなにもはっきり『魔界』の出来事も『狭間の世界』の出来事も覚えているけど・・本当に・・忘れてしまったのだろうか・・・。

「確かめたい・・・。ノア先輩に何とかして・・会えないかな・・・。」


やがて、お湯が溜まって私は久しぶりに入浴する事が出来た。


「ふう~やっぱりお風呂は気持ちいいなあ・・・。」

すっかり短くなってしまった自分の髪の毛に触れてみる。髪の毛は洗ってしまったので、すっかり色が取れてしまい、元の栗毛色に戻っている。

どうしよう・・・。幾ら髪の毛を切ってもこの髪の色と紫の瞳では・・・完全に私だとばれてしまう。そう言えば・・・何か・・マイケルさんが話していたような・・・。

温かいお湯に浸っていたら、今までの疲れが溜まっていたせいか・・・急激な眠気が襲って来た。意識が遠くなっていく・・・。


「・・・・・・。」


ゴボゴボゴボゴボ・・・・・。温かい・・・深い海の底に沈んでいく・・。

苦しい、息をしようとすると大量のお湯が口の中に流れ込んでくる・・・。


その途端・・・・


「ゴホッ!ゴホッ!」


「ジェシカッ!しっかりしろっ!」


誰かに胸を強く押される。すると突然何かが口の中からせりあがってきて・・たまらず咳き込む私。そして激しく咳き込むと同時に大量のお湯が口の中から出てくる感覚があった。途端に今ままで苦しくて息を吸う事も出来なかった肺が・・新鮮な空気を吸い込んでいる・・。

途端にまた激しく咳き込み、再びお湯を吐き出し・・・そこでようやく意識が戻った。

「あれ・・・私・・・。」

目を開けると、そこには涙を浮かべて私をじっと見つめている・・・。

その人は・・。

金の髪にアイスブルーの瞳・・・。も、もしかして・・・。


「え・・・?ア、アラン・・・王子・・・?」


「・・・・っ!」


アラン王子はまるで子供の様にクシャリと顔を歪め・・・その直後、私は強く抱きしめられていた。


「ジェシカ・・・・ッ!良かった・・・・無事で・・・・っ!また・・お前が死んでしまうのでは無いかと思った・・・っ!」


そう、私はバスタオルに身体をくるまれ・・・気付けば泣いているアラン王子に抱き締められていたのだった—。


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