第4章 3 『狭間の世界』で痴話喧嘩
ゆっくり門を開けて、中に入ると目の前はうっそうと茂った森の前だった。
私は2人の方を振り向くと言った。
「この森の側では・・・十分注意して下さい。この森は・・・生きています。そしてこの『狭間の世界』の門番なんです。」
「え?門番・・・?」
「この森が?一体どういう事なのよ。ちゃんと分かるように説明しなさい。」
確かにフレアの言う事は最もだ。
「はい、今から説明します。この森はただの森では無いんです。この世界の住人に聞いたのですが・・・意思を持っているそうです。悲しい、辛い記憶を持って、この世界にやって来た者達は・・記憶を消されてしまうし、時には邪悪な心を持った侵入者が来れば捕まえて、自分たちの森の1つとして取り込んでしまうそうです。この世界では誰かの悲しい感情によって雨が降るそうですが、『森』はこの世界の雨を凄く嫌っているそうなんです。」
「こ、この森が・・・。」
ノア先輩は驚愕の表情を浮かべ、じっと森を見つめている。
そしてフレアは私を意味深な目で見つめていたが、ふいに尋ねて来た。
「ねえ・・・ひょっとするとジェシカ・・・。貴女、ここで記憶を消された?」
「は、はい・・・。その通りです・・。」
「え?何?ジェシカ。君・・・記憶をこの森の力で消された事があるの?一体何故?何か余程辛い事でもあったの?」
ノア先輩が真剣な目で私を見つめて来た。あ・・・ま、まずい・・・。
その時だ。
「う~ん・・・。」
ヴォルフが小さく呻いた。
「もしかして気が付いたのかな?」
ノア先輩がヴォルフを降ろして、木の下に寄りかからせるように座らせると、ヴォルフの瞼が動いてゆっくり目を開けた。
「あ・・・こ、ここは・・・。」
私はヴォルフの目の前に来て座ると言った。
「ここはね、『狭間の世界』だよ。ノア先輩がヴォルフの事を背負って、皆でここまでやっと来れたの。」
「そ、そうか・・・・。あ!お、追手は?!追手の魔族達はどうなったんだ?!」
ヴォルフが辺りを警戒するようにキョロキョロ見渡すとフレアが言った。
「あいつ等なら、大丈夫よ。ヴォルフ・・・貴方が全員倒してくれたから・・・。」
「ありがとう、君は・・・僕達の命の恩人だね。」
ノア先輩が素直にお礼を言っている・・・。
「そうか・・・ジェシカ・・・。やっと魔界から逃げ出す事が・・出来たんだな?これで・・・俺達人間界へ・・行けるんだな?」
ヴォルフの言葉にフレアが反応した。
「何?ヴォルフ。貴方・・・もしかして人間界に行くつもりなの?」
「ああ、そうだ。フレアはどうするんだ?」
「そんな事聞くまでも無いわ。私の隣にはいつもノアがいるんだから。」
「俺だってそうだ、俺の隣には常にジェシカがいないと駄目なんだ。」
言いながらヴォルフはグイッと私の腕を引いて、自分の腕に囲いこんでしまった。
「え?ちょ、ちょっと待ってよ、ヴォルフッ!」
慌てて私が言うと、ヴォルフは悲しそうな顔をして私を見つめた。
「え・・・?お前の側にいたら駄目なのか?だってお前が言ったんだろう?一緒に人間界へ行かないかって・・・。」
「ヴォルフ・・・やはり君までジェシカの魅力に当てられちゃったんだね・・・。」
ノア先輩が神妙な面持ちで言うと、フレアがノア先輩に詰め寄って来た。
「な・・・何よ!ノア!私という者がありながら・・・貴方はまだジェシカに対して思う所があるって言うの?!」
「い、いや・・・僕は別にそんなつもりじゃ・・・。」
慌てて弁明するノア先輩。
・・・何、この状況は・・・。こんな所で痴話喧嘩なんかしてる場合じゃ無いのに・・。
「あ、あの!そろそろお城へ向かいませんか?」
私はまだ揉めているフレアとノア先輩の間に入って口論を止めた。
「ああ・・・。そうだな。所でジェシカ。城の場所は知ってるんだろうな?」
「え?場所・・・・?場所は・・・?」
ど、どうしよう・・・。そう言えばあの時はフェアリーの魔法で一瞬で城へ着いたんだっけ・・・。
「まさか・・・知らないのか?」
ヴォルフが私を覗き込みながら尋ねて来た。
「ちょ・・・ちょっと・・信じられないわ!」
フレアが呆れた声を出す。
「これは・・ちょっと困ったことになりそうだね。」
ノア先輩は神妙な面持ちで言う。
ああ・・・・やはり、私は何処へ行っても役立たずな人間なんだなあ・・。
しかし、その時上空から声が響き渡って来た。
『やあ、ジェシカ。またここに戻って来てくれたんだね。ずっと君の事を待っていたよ。今からその場所と城を繋ぐ門をだしてあげるね。』
そして言葉が終わると、目の前に突然大理石で作られた門が現れた。
「これは・・・相当な魔力がこの門に込められているのを感じるわ・・・。」
フレアがじっと門を見つめながら言った。
え?そんな事が分かるの?!すごい!
「うん、そうだね。並大抵の魔力をもつ人物しかこんな門は作れないよ。」
え?ノア先輩までそんな事が分かるの?
一方のヴォルフは・・・。
「おい、ジェシカ。さっきの声の人物は・・・一体誰なんだ?」
「はい?」
私の両肩を掴んで瞳を覗き込んでくる。
ええ?そ、そこなの?ヴォルフが気になる所は・・・?
「あ、ほ、ほら・ヴォルフ。門が開いたから中へ入ろう?」
気が付いてみると、ノア先輩とフレアはさっさと門をくぐって先を歩いている。
「分かったよ・・・。でも後で絶対さっきの声は誰だったのか教えてくれよ?」
念押ししてくるヴォルフ。・・・・どうせ、すぐに会えるのに。
だけど・・・今の声がこの国の王様のアンジュだと知ったら、ヴォルフはどんな反応をするのだろう・・・?
「ジェシカッ!また再びボクの元へ戻って来てくれたんだね?本当に嬉しいよっ!」
門を抜けると、いきなりそこはお城の大広間で、眼前には眩しいほどの美貌の持ち主のアンジュが両手を広げて待っていた。
「ア・・・アンジュ・・・。随分大袈裟なお出迎え・・・だね・・?」
見ると大広間の左右には何処から集めてきたのだろうか・・・この世界の住人達がズラリと勢揃いしている。その時、私の目にふとある生物が目に飛び込んできた。
炎に包まれたオオトカゲ・・・。あれ・・あそこにいるのは以前クロエが召喚したことのあるサラマンダーじゃ無いの?!
あ!あれはペガサスに・・・隣にはユニコーンまでいるよ・・・。
他の3人もあまりの光景に驚いて唖然とした表情をしている。
でもまさか・・・魔族であるフレアやヴォルフまでがあんな、呆気に取られた顔を見せるなんて。・・・・。
「どうしちゃたの?ジェシカ。そんなにキョロキョロしちゃってさ。」
気付けばアンジュが私の肩を抱いて、至近距離で見つめていた。
「あ、あの。余りにも大勢集まっているから、びっくりしちゃって・・・。」
その時、私の頭上で威圧的な声が聞こえた。
「おい、誰だ?お前・・・。ジェシカから離れろ。」
見上げるとヴォルフが金色の目を光らせて、今にも牙をむきそうな勢いでアンジュを睨み付けている。
ヒエエエッ!この国の王様に・・・何て目を向けるの・・・!
「ふ~ん・・・。君は・・・魔族の男か・・・。別にボクは君をここへ招くつもりじゃなかったんだけどな・・・・。でもジェシカの仲間なら追い出すなんて出来ないしね。」
言いながらアンジュはわざとこれ見よがしに私の前髪をかきあげ、キスをしてきた。
「な!」
途端に殺気を放つヴォルフ。ノア先輩とフレアはあきれ顔でこちらを見ている。
「うん?何か文句でもあるの?」
一方のアンジュは腕組みをして、何やらニコニコとしている。
「ま、待ってよ!落ち着いてってば!彼・・・アンジュは・・仮にも、この世界の王様なんだからっ!」
私は今にもアンジュに攻撃を与えそうなヴォルフに必死で訴えた。
「「「「え・・・?王様・・・?」」」
次の瞬間、ヴォルフ、フレア、ノア先輩の声が一斉にハモるのだった―—。
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