第3章 9 地下牢からの脱出
目が覚めるとヴォルフの姿は消えていた。今は一体何時なんだろう・・・?彼が置いて行ってくれた時計のお陰で今は時刻が分かるようになっていた。
そして・・時計の針を見ると7時過ぎを指している・
「あれ・・・・?昨日私何時に寝たんだっけ・・・?昨日は時計見ないで寝ちゃったからな・・・。それに・・ここは昼なのか夜なのかも分からないし・・・・。」
それにしても・・・私がこの地下牢に閉じ込められてからどれくらいの時が流れたのだろうか?感覚的には1週間程度なのだが、実際はもっと長いのか、短いのか分からない。
「あの後・・・ノア先輩とフレアはどうなったんだろう・・・。」
私はぽつりと呟いた。もうこれ以上魔界にいたらノア先輩は完全な魔族になってしまうだろう。魔族になってしまうと外見も変化してしまうのだろうか?ヴォルフは・・・外見だけはどう見ても普通の人間と殆ど大差ない。しいて言えば・・あのマリウスよりも背が高いという事くらいだろうか?それに肌だって冷たくはない。でも体温だけは私の為に調節をしてくれているのかもしれない。
そしてフレアの場合は・・・。少し大きめの先のとがった耳に青みがかかった肌が特徴的ではあるが、大きい耳を隠せば人間界でも暮せない事は無い。
ん?人間界で・・・?
「そうだ・・・。マシューのお母さんは・・・。」
そこまで言いかけた時だ。突然鉄格子越しの眼前にフレアが現れたのである。
「!フ、フレアさん・・・っ!」
しかし、フレアは何も答えず、口の中で小さな呪文のようなものを唱え、私が閉じ込められている地下牢の扉部分に手をかざすと、一瞬鉄格子が光り、すぐにその光は消え失せた。
「さあ、ジェシカ。今すぐにそこの地下牢から出てきなさい。鍵はもう開いているし、呪いも解いたから。」
フレアが私の方を向くと声をかけてきた。あ・・今、初めて名前を呼ばれた。
戸惑っているとフレアが焦れたように自分から扉を開けて中へと入って来た。そして私の腕をグイと乱暴に引っ張って無理やり立たせると言った。
「何をやっているの?聞こえなかったの?今すぐこの地下牢を出るのよ。・・・そして・・逃げるのよ!」
「え?に、逃げる・・・?」
一体どういう事なのだろうか?逃げる?何から?私が逃げる相手として考えられるのは今目の前にいるフレアしかいないはずなのに・・・?
「チッ!」
フレアは舌打ちすると私の襟首を捕まえて、自分の方に引きよせると言った。
「何をグズグズしているの?!早くしないと彼等がここへやって来るのよ!捕まりたいの?!」
「か、彼等って・・・?」
尚も戸惑いを隠せないでいると、ノア先輩とヴォルフが転移魔法で姿を現した。
「「ジェシカッ!」」
2人が同時に私の名前を呼び、焦ったようにいち早く私の元に駆けつけてきたのはヴォルフだった。
「ジェシカ、良かった・・・・!まだ無事だったか!」
言うなりヴォルフはきつく私を抱きしめて来る。
え?まだ・・・?まだ無事だった・・?どういう事・・・?
「おい!どさくさに紛れて勝手にジェシカに触れるな。」
ノア先輩の抗議の声が聞こえるが、ヴォルフは聞く耳を持たずに、私の両頬に手を添えると言った。
「ジェシカ、今すぐこの地下牢から脱出するぞ。すぐに第1階層まで逃げるんだ。」
「え?ねえ、どうしたの?急に・・・さっきから逃げるって言ってるけど・・一体何がどうなっているの?逃げるって・・何から逃げるの?」
もう私には何が何だか分からない。フレアもヴォルフもこの地下牢から脱出する事しか言わないが、肝心な説明を一切してくれないのだから。
「今はそんな話をしている暇は無いわ。説明は後でするから・・・・とにかく今は逃げるのよ!全く・・・もっと貴女の魔力が強ければ一気に転移魔法を使って第1階層まで飛んで移動できるというのに・・・面倒な・・・。」
フレアはイライラした様子で私をジロリと睨み付ける。う・・・そんな事私に言われても困るのだけど・・・。
「さあ、行くぞ!」
ヴォルフは私の手を取ると地下牢を抜けて、奥にある地上へと続く狭い階段目指して駆けだした。
その後ろをフレアとノア先輩が走って付いて来る。
「ねえ、ま、待って!ヴォルフ!あの地下牢はそのまま第2階層へ続いていたんじゃ無いの?!」
手を引かれて走りながらヴォルフに尋ねた。
「いや、もうあの地下牢からの第2階層へ続く道は塞がれてしまったんだ。だから今は地上にある別の第2階層へ飛べる場所まで行くんだ!」
え?塞がれた?一体誰に・・・?
ヴォルフはスピードを上げて階段を上り始める・・・。
「ヴォ、ヴォルフ。お、お願い、待って。早過ぎてついて行けな・・・。」
息も絶え絶えに言うと、突然ヴォルフが私を軽々と抱き上げた。
「え?ヴォルフ?」
慌てて彼の首に腕を回す。
「そうだな、お前を担いで走った方が速そうだ。」
ヴォルフはニヤリと笑うと私を肩に乗せるように担ぎ上げると、再び走り始める。
う、嘘?!は、早い!
私達の後ろを追って来るフレアもノア先輩もヴォルフの後を物凄いスピードで走って付いて来る。すごい・・・ノア先輩があんなスピードで走れるなんて・・・とても人間の速さとは思えない。やはり魔族化が進んでしまったせいだろうか?それとも・・・先輩はもう完全に魔族になってしまった・・?
何処までも続く長い階段を駆け上り、ようやく地上へ到着した私達。
てっきり地上は魔界の町でもあるのかと思っていたが、どうやらこの地下牢は荒野の洞窟の地下に作られていたらしい。
目の前に広がるのは荒れ果てた広大な大地・・・空はうっすらとオレンジ色に光る分厚い雲に覆われている。
「よし・・・。」
ヴォルフは担ぎ上げていた私を降ろすと、一瞬で巨大な青いオオカミへと姿を変えた。
<さあ、みんな。俺の背中に乗れ。>
頭の中でヴォルフの声が響いてくる。
「へえ~。君はオオカミに変身する事が出来たんだね。」
ノア先輩は軽々とヴォルフの背にまたがり、私に手を伸ばしてきた。
「さあ、ジェシカも早く乗って。」
「え・・・?でも・・・ヴォルフが・・・。」
3人も背中に乗せて第2階層まで走る事が出来るのだろうか?
<大丈夫、俺は魔族だ。俺の心配等する必要は無い。>
「そ、それじゃ・・・。」
ノア先輩の伸ばした手に捕まると、グイッと引き上げられて私は先輩の後ろに乗る。
「フレア、君も早く乗って。」
背後を警戒しているフレアにノア先輩は声をかけた。
「え、ええ。そうね。」
フレアはひらりと私の後ろにまたがるとヴォルフの声が再び聞こえて来た。
<よし、スピードを上げて走るから全員落ちるなよ。・・・ジェシカ。>
突然ヴォルフに声をかけられた。
「な、何?」
<いいか?ジェシカ。振り落とされないようにしっかり俺の身体に掴まっているんだぞ?>
「う、うん・・・。」
返事をするとノア先輩が言った。
「大丈夫、ジェシカ。僕の身体にしっかりしがみついているんだよ?」
ノア先輩が私の方を振り向いてニッコリと笑うと背後からフレアの物凄い殺気を感じる。ひええ・・こ、怖い・・。何やら後ろから物凄い圧を感じるよ・・
<行くぞ!>
ヴォルフは咆哮を上げると、まるで風のように一気に荒野を走り始める。相変わらず物凄い速さで息をするのも苦しい位だ。
その時背後を警戒していたフレアが叫んだ。
「大変!追手がかかったわ!」
「え?」
フレアの声にノア先輩にしがみつきながら私は振り返った。しかし・・・私の目にうつるのは草木すら生えない荒れた大地に、先程まで私が捕らえられていた巨大な洞窟が遠くに見えるだけである。
「な、何も見えませんけど・・・?」
「貴女達人間と魔族の視力を一緒にしないでくれる?・・・思ったより早く見つかってしまったわね・・。」
言いながらフレアは両手を大きく広げると、バチバチと音が弾け、広げた空間に巨大な火の玉が浮かび上がった。
そして・・・。
「邪魔をしないでっ!!」
フレアは叫びながら、後方へ向かって巨大な炎の弾を投げつけ・・・。
ドガアアアアアンッ!!
背後で巨大な爆発音が響き渡った―。
「フ、フレアさん!い、一体何を?!」
私はノア先輩にしがみつきながら必死でフレアに尋ねた。
「煩いわね!攻撃魔法を奴等にぶつけただけよ!」
キッと睨み付けながらフレアは言う。
「や、奴等って・・・?。」
尚も質問をするとフレアがヒステリックに叫んだ。
「いちいち貴方は煩いのよ!追手に炎の魔法をぶつけただけよ!!第2階層に着くまでは少し黙っていて頂戴!」
・・・フレアに怒られてしまった。
それにしても・・・一体何がどうなっているのだろうか?
だけど・・・私の知らない所で何かが起こっているのは確かだった―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます