第1章 10 特製アイテムは猫のコスプレ?

「貴女には魔物から身を守る魔法がかけられていた痕跡が残されているけど、残念ながらもう効力は消えてるわ。だから別の方法を考えないとね。」


魔女は私を見ると言った。


「え?私に魔法がかけられていたのですか?」

そんな話は知らなかった。


「え、ええ。そうよ。」


何かにハッと気が付いたかのように魔女が返事をした。


「あ、でも今はその魔法が使えなくなっているんですよね?一体何故ですか?」


「ハルカ・・・。」


何故か悲し気な顔で私をみつめるアンジュ、そして意味深な表情を浮かべる魔女。

え?2人とも・・・一体どうしてしまったのだろう?

「あ、あの・・・?」

思わず声をかけると、魔女が言った。


「ま、まあ・・・どうしてその魔法が消えてしまったのかは・・きっと魔界に行った時に思い出せると思うわ。だから今は気にしなくてもいいわよ。それより、まずはいかに魔界の門をくぐった後、最深部にある第3階層まで無事に辿り着くかを考えないとね・・・。」


魔女はティースプーンでグルグルとハーブティーをかき混ぜながら考え事をしている様だった。そして少しの沈黙の後やがてポンと手を叩くと言った。


「よし、貴女の存在を一時的に魔族に見えるように魔法をかける事にしましょう。」


「「ええええっ?!」」


私とアンジュが同時に声をかけた。


「そ、そんな事が・・・出来るんですか?!」


アンジュは相当驚いたのか、立ち上がった。


「ええ、勿論。と言っても魔族の姿に変える訳じゃ無いわ。私が作った特製アイテムを身に付ければ、魔族に見せかける事が出来るのよ。ちょっと待ってて。今持って来るから。」


魔女は言うと席を立った。残された私とアンジュは顔を見合わす。


「ハルカ・・・。大丈夫?顔色が優れない様だけど・・・?」


アンジュが心配そうに声をかけてきた。


「え?ええ?そうなの?まあ確かにこれから魔界へ行くのかと思うと緊張はしているけど・・・。」

なるべくアンジュに心配を掛けまいと振舞っていたつもりだが、アンジュにはばれていたようだ。


「・・・ごめんね。ハルカ・・・。ボクも付いて行ってあげればいいんだけど・・この世界の王になってしまうと、もう『魔界』へ行く事が出来なくなってしまうんだ。

ボクの力が強すぎて、魔族達に存在がバレてしまうからね・・。」


アンジュは申し訳なさそうに言う。


「そ、そんな事気にしないで。だってこうして私を魔女の所までつれてきてくれたんだし・・。」


そこまで言いかけていると、魔女が何やら大きな箱を抱えて私達の元へ戻って来た。


「お待たせ、2人とも。ちょっと探すのに手間取っちゃって・・・ね。何せ随分昔に作ったものだったから、何処へしまったのか忘れてしまって。」


アハハハ・・・と魔女は笑いながら言った。


「それで、どんな特製アイテムなんですか?」

この世界の魔女が作ったのだから、きっと凄いアイテムに違いない。私はワクワクしながら尋ねた。


「ふふふ・・・まあ、見てみなさい。きっと驚くから。」


魔女は得意げに蓋に手を掛けた。

私とアンジュは期待に目を輝かせながら箱の中身に注目する・・・。


「ジャーン!どう?すごいでしょう!この特性アイテムは!」


大袈裟に蓋を開ける魔女。私とアンジュは箱を覗き込み・・・・・。

え・・・?う、嘘でしょう・・?私は信じられない気持ちで箱の中身を見た。

アンジュもかなり動揺した様子で注視している。


「あ、あの~・・・そ、それは一体なんでしょうか・・・?」


私は魔女が手にしているアイテムを指さすと言った。


「ああ?これね?これは・・・猫耳のカチューシャよ!」


ああ・・・やっぱりね・・・。

そう、魔女が手にしているのは黒い縁取りにホワイトカラーのフワフワのファーがついた可愛らしい猫耳のカチューシャである。そして、さらにもう一つが・・・。


「あ、あの~・・・まさかとは思いますが、それは・・・?」

私はもう一つのアイテムを指さした。


「これ?これは猫のしっぽよ!」


またまたドヤ顔で言う魔女。うん、そうだよね、猫耳とくれば次は猫の尻尾と来ても当然だ。しかし・・・これでは単なるコスプレにしか見えない。まさか・・・本気でこれを付けて見ろと言いたいのだろうか・・?


「あら?何よ2人とも?その嫌そうな顔は・・。」


魔女は心外だとでも言わんばかりの口調で言う。


「い、いえ・・・。本当にそのような物で魔族にみえるのかどうか・・・。」


アンジュが作り笑いをしながら言う。うん、私だってそう思う。こんなもので本当に魔族に見えるとは思えない。


「まあ!私の能力を疑ってるのかしら?いいわ!それならまずは実際に試してみればそのすごさが分かるはずよ。さあ!この猫耳と猫の尻尾を付けてみなさい!」


魔女は言うと私の頭に猫耳のカチューシャを被せ、強引に尻尾までクリップで着けてしまった。ひええ~っ!な、なんか恥ずかしい・・・。

しかし・・・・。


「う、うわあっ?!」


アンジュが私を見て驚く。え?な、何?


「何?アンジュ、どうしたの?」


私がアンジュに尋ねるとアンジュは何故か私の足元を見ながら言う。


「ハ、ハルカ・・・ね、猫の姿になってるよ・・・?」


「う、嘘っ?!」

だって、どう見ても私の目には何も変化が無いように見えるけど?!


「ふふふ・・・。百聞は一見に如かずよ。鏡で自分の姿を確かめて見なさい。」


魔女は何処からともなく大きな姿見を出すと、私に見せた。するとそこには・・・・。


「え・・・えええっ?!」

何とその鏡に映っているのは真っ白でフワフワの毛並みが美しい猫がうつっているではないか。


「う、嘘っ!こ、これが私・・・?私、猫の姿になってるの・・・?」


「そうよ、このアイテムを付けるとね、自分以外には相手からは猫に見えるようになるアイテムなのよ。最も鏡を通してみれば、本人も今みたいに猫の姿に自分自身が映って見えるけどね・・・。いい?その猫の姿はね、魔界では何処にでも普通に生息している猫なのよ。だから、魔族達の中に紛れ込んでも誰も気にする事は無いわ。その姿で第3階層まで問題無く行けるはずよ。ただし・・・絶対にその2つのアイテムは取り外してはいけないからね。」


魔女は私をビシイッと指さしながら言った。

「あ、あの・・・仮に・・・もしこのアイテムが取れてしまったら・・・?」

念の為に最悪の事態を想定して私は魔女に尋ねてみた。


「勿論、当然その場で魔法は解けて、元の貴女の姿に戻ってしまうわ。そうなるともうこちらでは何とも手の打ちようが無い。」


「そ、そんなあ・・・。」

何とも怖ろしい話だ。凶暴な魔族達が住む第1階層で、このアイテムが外れてしまえば、最悪私はその場で一巻の終わりなのか・・・?


「でも、大丈夫。それ程恐れる事は無いわ。だって、貴女からは魔界の香りがするし、魔族特有の魔力を身体の内側から感じるもの。・・・何故かしらね?」


「え・・・?私から魔族の魔力が・・・?」

一体どういう事なのだろう・・・。こればかりは魔女も謎なのだから私に分かるはずが無いのだが・・・。何か、思い出せそうな気がする・・。


「まあ、とに角貴女からは魔族の力を感じるから、仮に人間の姿に戻ってしまっても胡麻化せるかも知れないから、余り気負わずに魔界へ行ってみるといいわよ。」


「そうだよ、ハルカ。僕も君に言おうかと思っていたんだけど・・・この世界にやって来た時から魔族特有の魔力を君から感じていたんだよ。だから・・・きっと第3階層まで行く事が出来るとボクは信じるよ。」


アンジュが私を見つめながら言う。・・・ただし、アンジュの視線が足もと部分にいってるのが気になる私であった―。




















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