第13章 6 手紙を書く、そして受け取る

 ジリジリジリジリ・・・・。

目覚まし時計の鳴る音で目が覚める。

「う~ん・・・煩いな・・・。」

目を閉じながら手探りで目覚まし時計を探し、バチンと音を止める。

ふう~・・・やっと静かになった・・。ってあれ・・・?


 ガバッとベッドから起き上がると、そこはいつもの自分が見慣れた部屋だった。

「え?え?一体どういう事・・・?」

全く訳が分からない。昨夜、私は公爵と港の近くにある宿屋に泊る事にして、その後私は公爵と・・・・。


 確かに私は公爵と波の音が聞こえる宿に泊まり、そこで私は公爵に・・・。


「ま、まさか・・・あれは・・ゆ、夢だったの・・・?」

あり得ない、もし仮に夢だとしたら・・私は絶対、どこか病んでるのかもしれない!

「アハハ・・・そ、そんな・・・。」


 思わず頭を抱える私。・・・そうだ、こんな時こそシャワーを浴びて頭をすっきりさせよう。幸い時刻はまだ朝の5時半。時間に余裕があるし、まずは熱いシャワーを頭から浴びてすっきりさせた方が良いだろう。

 と言う事で私はベッドから起き上がり、シャワールームで全身くまなく洗い、部屋へ戻った。


「ふう~さっぱりした。」

制服に着替えながら何気なくサイドテーブルを見ると小さくたたまれたメモが乗っている事に気が付いた。

「ん?何だろう、このメモは・・・。」

メモを広げて、中身に目を通す。


ジェシカへ。

昨夜は・・・俺の為にありがとう。

ジェシカのお陰で、あの女の幻聴が全く聞こえなくなった。

やっとあの女の呪縛から解き放たれたようだ。

本当に感謝している。

朝起きた時顔を合わせるのが恥ずかしいので、勝手に部屋へ運んでしまった。

きっと驚かせてしまっただろうな。

すまなかった。

PS:

今日から1週間、聖剣士になる為の訓練が行われるので当分会えそうにない。

また訓練が終わったら、お前と色々話がしたい。

その時は時間を作ってもらえないだろうか?

よろしく頼む。

別れたばかりなのに・・・もうお前に会いたいと思うなんて我ながら呆れてしまう。

                           ドミニク・テレステオ


 メモを読み終えた私は追わず安堵?の溜息をついた。

「良かった・・・夢じゃ・・無かったんだ・・。」


 でも・・いくら公爵に乞われたからと言って・・あんな真似をして本当に良かったのだろうか?もし私がマシューの手引きで・・魔界の門に行こうとしている事が公爵の耳に入れば・・いや、あの夢が予知夢であれば確実に私は公爵とアラン王子に見つかってしまう。 

私は・・・公爵とアラン王子を傷付ける事になるのだ。


「ごめんなさい・・・。公爵・・・アラン王子・・・。」


 時計を見ると、まだ時間に余裕があったので、私は手紙を書く事にした。

宛先は・・ピーター。魔界へ行く日程が決定したので、いよいよ私が兼ねてから計画していた事を実行する日がやってきたのだ。


 私はペンを取ると、ピーターに手紙をしたためた・・・。


「ふう・・やっと書けた。」

便箋を封筒にしまいながら溜息をついた。

どんな内容の文章にしようか、あまりにも迷い過ぎてしまい書き終えるのに30分以上も時間がかかってしまった。

 その後は・・・ダニエル先輩だ。ダニエル先輩に今日絶対に会って、明後日魔界の門へ行く事を伝えておかなけれれば。私が魔界へ行けば、恐らく私の記憶が先輩の中から消えてしまうだろう。だから先輩にも手紙を書いておかなければ。


 ダニエル先輩への手紙も書き終えるのに時間がかかってしまい、結局朝食を取る時間が無くなっていた。

「う~ん・・・。仕方ない。マシューから貰ったケーキでも食べて行こうかな。」


紙袋からフルーツケーキを取り出して、そっとセロファンを外すとブランデーの芳醇な香りが辺りに漂った。

「いい香り・・・。いただきまーす。」

パクリ。

うわ!何、これ・・・。すごく美味しい!甘すぎもせず、フルーツの味はしっかり残っているし口の中でホロホロと崩れていくとブランデーの芳醇な味が広がって・・・。最高!

夢中で食べきってしまった。すっかり満足した私は授業へ出る為に鞄を持つと自室を後にした―。



「おはようございます、お嬢様。」


教室に入るなり、いきなりマリウスのお出迎えだ。しかも入口の前に仁王立ちになっているではないか。

「お、お早う・・・マリウス・・。ねえ、マリウス。入り口の前で人を待つものじゃ無いよ?通りの邪魔になるでしょう?」


「それなら大丈夫でした。何故か皆さん私があそこに立っていたら、別の入口を使って教室へ入っていかれたので。」


ニコニコしながら答えるマリウス。

あ~それはそうでしょうよ・・・。この間教室で魔法弾をぶっ放してから、クラスメイト達に恐れられるようになったのをマリウスは気が付いていないのだ。

陰でクレイジーな男だと囁かれていると言うのに・・・。


 溜息を1つついて、席に着くと何故か普通に私の隣の席に座って来る。


「ねえ・・・マリウス。」


「はい、何でしょう。お嬢様。」


何でしょうって・・・。

「その席・・・ドミニク様の席だけど?」


「ええ、そうですよ。」


「マリウスの席は一番前のはずだったよね?何故そこに座るの?」


するとマリウスは一気にまくしたてた。


「何故ですって?そんな事は決まっているではありませんか。元々お嬢様の隣の席は私の座っていた席だったのですよ?それなのにドミニク公爵が転入してきた途端、あの教師が有無を言わさず勝手に席替えをしてしまって・・・!お嬢様の隣の席は私です。誰1人としてお嬢様の隣の席に座る事は許せません。幸いなことにドミニク公爵を始め、あの口うるさいアラン王子も本日から1週間、聖剣士としての実習訓練があるとかで不在になるわけですからね。こんな機会滅多に無いではありませんか。ですので本日からは公爵が戻るまでは、私はここに座らせて頂きます。」


私は呆れながらマリウスを見た。よくもまあ、こんなにもペラペラと口が回る物だ。しかも話をしている途中から、何だかマリウスの目に狂気が宿ってきたようで、クラスメイト達はみんなドン引きして私達を遠巻きにしているのにすら気が付いていない。何しろ、エマもグレイもルークも側に来るのを躊躇っていたのだから。


「あ・・・そ、そうなのね・・・。それじゃ好きにしたら?」

教師にも影で恐れられているマリウスの事だ。きっと誰にも咎められる事は無いだろう。


 やがて授業が始まった。今日の1時限目は歴史の授業。

今更何一つ聞く事も無いので、私は欠伸を噛み殺しながら隣に座っているマリウスの様子をチラリと見た。

・・・先ほどから何を熱心に書いているのだろう?教壇に立つ教師はボードに何も記述はしていない。教科書を読み上げ、資料の説明をしているだけなのにマリウスは何か一心不乱に書き続けている。

勉強熱心なマリウスの事だ。ひょっとすると教師の話している言葉を一言一句書き綴っているのだろうか・・・。

あ~あ・・・。それにしても退屈だ。どうせ後二日もすれば私は必然的にこの学院を去る事になっているのに今更授業を熱心に聞くのも馬鹿らしくなってきた。

もう1限目の授業だけ出たら、さぼってしまおうかな・・・。


 眠くてつい、うつらうつらしていると不意に隣に座っているマリウスに小声で話しかけられた。


「お嬢様、ジェシカお嬢様。」


「!」

その声に驚き、一瞬頭が覚醒した私はマリスを見た。


「お嬢様、先程お嬢様にお手紙を書かせて頂きましたので、絶対に読んで下さいね。」


そう言って渡してきたのは妙に厚みのある封筒だった。も、もしやこれを読めと言うのだろうか・・・?

「あ、あの一体何枚書いたのかな?」


「ご心配なさらないで下さい。せいぜい5枚程度ですから。」


「え・・・・?」

露骨に嫌そうな顔を浮かべた私を見たマリウスは・・・・。

全身を震わせて、真っ赤になって嬉しそうに見つめていた。


やはり久しぶりにマリウスのMっ気が現れたようだ。ううっ!相変わらず気色の悪い男だ。


ああ・・・早く授業が終わらないかな—。





















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