第13章 7 傍迷惑なマリウスの手紙
「ねえ、マリウス。どうしてわざわざ手紙を書いてよこすの?口で直接話せばいいでしょう?」
授業が終了後の休憩時間・・・私はマリウスから受け取った封筒をヒラヒラさせながら尋ねた。
「それは口頭では説明出来ない内容のお手紙だからです。」
早口で言うマリウス。まるで早く読んでくれと急かされている気分になってくる。しかも口頭では説明できないとは・・・こ、怖い。一体どんな恐ろしい内容がこの手紙に書かれているのだろうか・・・。久しぶりに胃が痛くなってきた。
それにしても・・・。こんなに分厚い内容の手紙は読むのに時間がかかりそうだ。
「分かったよ。それじゃ次の授業は魔法学の授業だからその時に抜けて手紙を読むことにするからね。」
するとマリウスが言った。
「お嬢様、ひょっとすると魔法学の授業をサボるおつもりですか?」
こ、この男は・・・。仮にも主に対してサボるつもりかと尋ねて来るとは・・・。
「だ、だって仕方が無いでしょう?私にはもう魔法学の授業に付いて行くのは無理なんだから。」
そう、このクラスは特にエリート揃いの特別クラス。全員勉強も良く出来るだけでなく魔力の腕も相当な強者揃い。
授業で習う魔法も相当ハイレベルなもので、コップに水をためるどころが、火を起こす魔法すら出来ない私にとってはとてもついていける内容の授業では無いのだ。
その為私はこの授業を毎回レポートで免除してもらっている。本来なら魔法を行使できない私は特別クラスに籍を置けるような身分では無いのだが、魔法学の筆記試験では毎回満点を取っているし、魔力測定値では針を振り切る程の強い魔力を持っている。さらに教授達の間では私が『魅了』という特殊な魔力の持ち主で、魔法がダダ洩れ状態である事も知れているので、魔法学の実技の授業は特別に放免されている。
「お嬢様が授業をサボるなら私も一緒にサボります。さあ、2人でこれから何処へ行きましょうか?」
意味深な目で私を見つめて来るマリウス。何か怖い・・・。まるで蛇に睨まれた蛙状態だ。
ううう・・いやだ、誰か助けてよ。私は目でグレイとルークを探す。それなのに2人は私と目が合うと視線をサッと逸らせてしまった。あ、薄情者!
だけど・・・考えてみればグレイはマリウスによって大怪我を負わされた経験があるし、マリウスがヤバイ男だと言うのはクラスの誰もが知っている。これじゃあ誰も口を出せるわけ無いよね・・・。
しかし、そこに救いの手が。
「マリウス・グラント君。次の魔法学の授業だが、ちょっと助手をやってもらえますか?」
魔法学の初老の男性教授が突然私達の元へやってきてマリウスに声を掛けてきたのだ。
「え・・・ええ・・?わ、分かりました。」
露骨に嫌そうな顔をするも、不承不承、返事をするマリウス。
やった!教授。貴方は私の救いの神です!
「それでは教授、この授業は私にとっては無理ですのでまたいつもと同じレポート提出でも宜しいでしょうか?」
私はさり気なく教授に尋ねた。
「ああ、そうですね。いいですよ、リッジウェイさん。それでは今週中にレポートに本日の課題をまとめて提出して下さいね。」
「はい、ありがとうございます。」
私は丁寧に頭を下げると、恨めしそうなマリウスを尻目に鞄を持つと教室を出て行った・・・。
学生の姿が1人もいない校内の外を歩く私。
ダニエル先輩に会いたいな・・・。後2日で私はこの学院を去ってしまうのだ。その前に私はダニエル先輩に手紙を渡さなければ・・・
「あれ?ここは・・・。」
ダニエル先輩の事を考えながら歩いていたせいだろうか、気が付くと私はダニエル先輩と初めて会った南塔の校舎前の中庭へと来ていた。しかもベンチが設置してあるでは無いか。
「そうだ、ここでマリウスの手紙を読もうかな。」
うう・・・でも読みたくない。何故かこの手紙からは不気味なオーラが漂っているようにすら感じる。果てしなく嫌な予感しかしないのだが・・・。
私はため息をつきながら封筒から手紙を抜き取った。
マリウスの寄こした手紙はこうだった。
いかに自分が私に対して激しい恋情を抱いているかを様々な表現を用いて書き綴っている。おまけに自分を選んでくれなければ最早自分には死ぬ道しか残されていないなど書いてあるでは無いか。これではラブレターというよりはまるで脅迫文だ。
はっきり言って・・・重い!男のくせになんて重たい男なのだっ!冗談じゃない。
いくらマリウスが飛び切りの美形であろうと、これは無理、論外だ。
さらには私と結婚した場合は、子供は最低でも男の子3人、女の子も3人は欲しいだとか・・・(一体どれだけ産ませたいのだ!)
挙句の果てに、マリウスは自分のベッドテクニックがどれだけ凄いのか具体的な例を挙げて書いてあるではないか。まるで18禁のような文章を目にした時には仰天してしまった。あり得ない、女性に向かってこのような過激な内容の文面を書いて寄こすとは・・・。次第に恐怖なのか怒りなのか分からない震えに襲われる私。
しかも最後に付け加えられた極めつけは・・・。
『アラン王子より満足させてあげられますよ』であった。
バ・バレてる・・・。マリウスにアラン王子との事が完全にバレていた・・・!
全身から血の気が引くのが分かった。前々から危険な男だとは思っていたが、ここまで狂気に囚われていたとは・・・。
そして最後に入っていたのは手紙では無く2枚の書類。
1枚目の書類は自分の今所有している資産について。そして将来的に自分がグラント家の家督を継いだ場合に得られる収入、及び支出額について事細かに記載されてある報告書。
はて・・?これは一体どういう意味なのだろうか?マリウスが何を考えているのかがさっぱり意味が分からないし、理解したいとも思えない。
2枚目の書類は・・・。
「キャアアアアアッ!!」
とうとう我慢できずに私は絶叫してしまった。
その書類は婚姻届けだったのだ。マリウスは自分の記入するべき箇所は全て書き込んであり、後は私のサインを入れるだけになっていた。
そして小さく折りたたまれた紙が婚姻届けの間に挟まれている。
「・・・な、何・・・これ・・?」
震える指先で紙包みを広げて見ると・・・紫色のダイヤが埋め込まれた指輪が入っていたのだ。こ、これはまさか・・・!
指輪を包んでいた紙にはこう書かれていた。
『婚約指輪です。受け取って下さい。』
グラリ。私の頭が大きく傾く。あまりのショックに一瞬意識が遠のきかけてしまった。危ない危ない。
要はこの手紙はラブレターでもなく、脅迫文でもない・・・私に対するプロポーズの手紙だったと言う訳だ。
嫌だ、怖い怖い怖い。私は両肩を抱えてチワワの様にブルブル震えた。ま、まずい!このままでは、少しでも気を抜けば私の貞操のき・危機が・・・!
恐らくあのマリウスの事。絶対に読んで下さいと言って来たのだから、必ず返事を待っているはず。どうしよう、いや、悩むまでも無い。私の返事は絶対にNOに決まっている。しかし、私の返事を受け入れてくれるかどうか・・・。
大体、只でさえ私は後2日後には魔界へ向かい、ノア先輩を助け出してこなくてはならない。今はマリウスの事で頭を悩ませている余裕すらないと言うのに・・・そこまで考えて、私はある考えに閃いた。
そうだ!返事を後3日伸ばして貰えば良いのだ!2日後、私はマシューと共に魔界へ向かう。魔界へ行けば必然的に私の記憶はこの世界からは消えてなくなってしまうのだ。
「な~んだ。悩む事は無かったかあ・・・。」
今迄散々悩んでいた自分が急に馬鹿らしく思えて来た。深呼吸をして、ようやく気分も落ち着いたので、マリウスの手紙を封筒にしまっていると・・・。
サクサクと枯葉を踏みつけてこちらへ近づいてくる足音が聞こえて来た。
「ジェシカ?」
呼ばれた私は顔を上げると・・・・。そこに立っていたのは私が会いたいと思っていたダニエル先輩がいた—。
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