第13章 2 現れた意外な人物

「ドミニク様、昨日の初めての休日はどのように過ごされていたのですか?」


2人でセント・レイズシティの町を歩きながら公爵に尋ねてみた。


「ああ、昨日か・・・。何だか頭がボンヤリしていたから殆ど外出せずに1日自室にこもっていた。最も昼食と夕食は食べに学食へは行ったけどな。ずっと自室で本を読んで過ごしていたよ。」


「そうですか、ドミニク様は読書が好きなんですね。」


「いや・・・本を読んでいたと言っても自宅から持ってきた魔術書だけどな。新しい魔法を覚えようかと思っているんだ。」


「そうですか。今度はどんな魔法を覚えるつもりなんですか?」


「今度は・・・?」


そこで公爵は足を止めると私を見つめた。


「今度はと言うのはどういう意味だ?ジェシカは俺が前にも違う魔法を覚えた事を知っているのか?」


「あ、い、いえ・・・。」

しまった、うかつだった。つい、うっかり口が滑って言ってしまった。公爵には私との記憶が無いのだから、怪しまれても仕方が無い。


「ジェシカは・・・ひょっとすると俺の事を何か知っているのか?」


さらに距離を詰めて来る公爵。うう・・・困ったな・・・。その時、ふと気が付いた。そうだ、この近くに屋台通りがあったっけ。公爵にも「ラフト」を食べさせてあげたいな。


「そ、そう言えばドミニク様。この近くに屋台通りがあるんです。そこですごく美味しい食べ物があるんですよ。よろしければ御一緒に行ってみませんか?」


「屋台か・・・面白そうだな。では行ってみるか?」


公爵も興味を持ったのか。笑みを浮かべた。


「はい、行きましょう。」




「こんにちは、マイケルさん。」


私は早速公爵を連れてラフトの屋台に行った。


「やあ、お嬢さん!久しぶりだね。元気にしていたかい?またこの店に来てくれたのかい?」


そして後ろに立っている公爵を見ると言った。


「おや?お嬢さん。今日もデートなのかい?この間とは違う男性だね。」

からかうように言う。


「今日も・・・?」


公爵が眉をひそめる。


「違いますよ、マイケルさん。デートでは無く、本日はこちらの男性にセント・レイズシティの町を案内させて頂いているんです。こちらのラフトをどうしても食べて頂きたくて。」


「そうだったんだね。最近お嬢さんの姿を見かけていなかったから、今日又会えて嬉しいよ。よし、それじゃ特別だ。サービスするよ。5分程待っていてくれるかな?」


マイケルさんは鉄板に生地を敷きながら言った。


「はい、分かりました。それではドミニク様。あちらのテーブルでお待ちいただけますか?焼きあがりましたらお持ちしますので。」


私は公爵に言うが、何だか公爵は少し不機嫌そうにも見えた。


「?あの・・どうされましたか?ドミニク様?」


「あ、いや。何でも無い。ではあの席で待っていよう。」


公爵がテーブル席に座るのを見届けると、私はマイケルさんに話しかけた。


「マイケルさん。最近ジョセフ先生とは会っていますか?」


「うん、会っているよ。ジョセフが冬期休暇中だった時は夜、2人で毎晩のようにジョセフの家でご馳走になっていたしね。」


「ジョセフ先生は料理が上手ですからね。あ、でもマイケルさんの焼くラフトも最高ですよ。」


するとより一層機嫌を良くしたのかマイケルさんは言った。


「ハハ。それは嬉しいな。よし、じゃあいつもより具材を増やして焼いてあげるよ。」


「うわぁ、有難うございます!」

私は笑顔で言った。うん、きっと公爵も喜んでくれるはず・・・だったのだが・・。




「お待たせ致しました。ドミニク・・・様・・?」


焼きあがった2枚のラフトを皿に乗せて公爵の元へ行くと、何故か不機嫌そうにこちらを見ている。


「あの?どうされましたか?ドミニク様。」


私は公爵の向かい側の席に座りなながら尋ねた。


「ジェシカ・・・。」


「はい?」


「随分、あの屋台の男性と・・・仲が良いのだな?」


「あ、マイケルさんの事ですか?」


「何?マイケルだって?名前まで知っているのか?」


より一層不機嫌度が増してくる公爵。


「あの・・・もしかすると・・・何か怒ってらっしゃいますか?」

私は公爵の様子を伺いながら質問してみた。


「いや、別に怒って等は・・・。」


視線を逸らせながら公爵は言った。


「・・・?そ、それよりもドミニク様。美味しいですよ?冷める前に頂きませんか?」

そう、何と言ってもラフトは焼き立てが一番!


「あ、ああ・・。」


公爵は頷くとラフトを一口食べ・・・あ・固まってる。

「どうしました?ドミニク様。」


「美味しい・・・。」


「え?」


「すごく美味しい!今まで経験した事の無い味だ!見た目は今一だが、味は最高だ。」


公爵は笑顔で言った。


「そうですか!以前、アラン王子もこの屋台に案内したことがあるのですが、とても美味しいと喜んでくれていたんです。良かったです。ドミニク様にもそう言って貰えて。後でマイケルさんにも伝えておきますね。」


しかし・・・何故か私の言葉に再び顔を曇らせる公爵。


「ジェシカは・・・。」


「はい?」

首を傾げて公爵を見るが、彼は視線をフイと晒せると言った。


「いや、何でも無い。」


「そうですか・・・?」

う~ん・・・。何か気に障る事をしてしまったのだろうか・・?



 その後、ラフトを食べ終えた私達は再び町の散策を続けた。町のメインストリートを歩いていると船の汽笛の音が聞こえて来た。


「汽笛の音か・・・。確か、この町は海のある港町だったな。」


海か・・・。そう言えば公爵に以前夏になったら海に行ってみないかと誘われた事があったっけ・・・。そうだ!


「ドミニク様。海を見に行ってみませんか?このすぐ側に港があるんですよ?」

私は公爵を仰ぎ見ると言った。


「海か・・・うん、いいな。是非行ってみたい。」


嬉しそうに言う公爵。


「はい、では行きましょう。」

5分程歩くと、潮風に匂いが強まって来た。そして時折聞こえて来る波の音。やがて眼前に広大な海が見渡せる港町へと着いた。


「海だ・・・。」


公爵は感無量といった様子で呟いた。


「ドミニク様は海がお好きなのですか?」


「ああ・・・。好きだ。俺達の国、リマ王国は海が無いだろう?だから・・余計海に強い憧れを持つのだろうな・・・。」


じっと海を眺めながら言う公爵。


「なら・・・また来れば良いでありませんか。セント・レイズ学院にいる限りはすぐに海を見に来る事が出来ますよ?」


「そうだな・・。今はまだ冬だが、夏の海にも是非・・来てみたい。ジェシカ・・・いきなりだが、夏になったら俺と一緒に海へ・・・。」


そこまで言いかけて公爵は頭を押さえた。


「どうしましたか?ドミニク様?」


「い、いや・・・。何故か以前にも俺はジェシカに海へ行こうと誘ったような気が・・。」


まさか、思い出したのだろうか?

「ドミニク様・・もしかすると・・・。」


しかし、公爵は言った。


「まさか、気のせいだな。それで、先程の話の続きなのだか・・・。」


その時だ。


「ジェシカ?ジェシカじゃないかっ?!」


誰かの私を呼ぶ声が聞こえてきた。え?もしかしてこの声は・・・?

驚いて振り向くと、何とそこに立っていたのはレオだったのだ。


「ま、まさか・・・レオ?」


レオは肩からナップザックを背負い、右手には大きな布の袋を持って立っていた。


「ジェシカッ!会いたかったっ!」


突然レオは荷物を放り投げると私に駆け寄ってきて力強く抱きしめて来た。


「レ、レオ・・・。」


「まさか、こんな所でお前に会えるとは思わなかった!良かった・・・今日はこの島に来て本当に俺はラッキーだった!」


レオは嬉しそうに言うと、ますます力を込めて抱きしめて来る。


確かに私もレオに会えて嬉しい・・・が、タイミングが悪すぎた。背後で何やら強い視線を感じる。


「おい?お前・・・一体誰だ?ジェシカから離れろっ!」


厳しい口調で公爵はレオを非難した—。
















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