第13章 3 レオの申し出
「え?俺が誰だって?人に名前を訪ねる時にはまずは自分から名前を名乗るべきだろう?」
レオは私の身体を離すと公爵に向き直って言った。
「俺はドミニク・テレステオだ。ジェシカと同じセント・レイズ学院の学生だ。今日は彼女に町の案内をして貰っているのだ。お前は一体誰だ?」
「俺は・・・レオだ。お前と違って苗字は無いけどな。ジェシカとは・・・親しくしている。
何故か親しくを強調して言うレオ。・・・何だか嫌な予感がする。2人の間に一種即発的な・・・。だけど私にはどうしてもレオに聞きたい事があった。どうしよう・・・。公爵とは明日でも会う事が出来るけど、レオとは今しか話が出来ないし・・。
あ、そうだ。
「あの、申し訳ございません。ドミニク様。実は彼と・・・レオと少しお話したい事がありますので、恐れ入りますがこの町の図書館でお待ちいただけないでしょうか?ここ、セント・レイズシティの図書館には珍しい魔導書が置いてあるそうなんですよ。そこまでご案内しますので。」
すると・・・やはり不機嫌そうな顔をする公爵。
「・・・俺がいるとまずいのか?」
「い、いえ・・・そういう訳ではありませんが・・・。」
どうしよう困ったな・・・。
そこへレオが助け舟を出してきた。
「おいおい、ジェシカは俺と2人で話がしたいと言ってるんだ。そこを察してやることが出来ないのか?誰にだって聞かれたくない話だってある訳だしな。」
レオ・・・。その言葉はありがたいけれども、公爵の前で私の肩を抱いて話すのはどうかと思うけどな?!
「・・・・。分かった。今日はもう帰る。」
「え?ドミニク様?!」
そ、そんな!
「おう、そうか。あんたが聞き分けの良い男で助かったよ。
レオが言うと、途端に公爵の顔が険しくなる。
「レオ!あ、貴方なんて事を!」
思わず青ざめる私。公爵は悔しそうに唇を噛み締めていたが、背を向けて去って行く。
「待って下さい!ドミニク様!後で・・必ず後で伺いますから!」
必死で呼び止めるが、公爵は私の方を振り向く事は無かった・・・。
「ドミニク様・・・。」
呆然と佇む私を見兼ねたのか、レオが背後から声を掛けて来た。
「ジェシカ・・・何か悪かったな。」
「ううん・・・いいの。レオ。」
そうだ、レオはちっとも悪くない。
「ごめんね、レオ。貴方に・・嫌な役目をさせてしまって。私の為を思って公爵に話をしてくれたんでしょう?」
「ジェシカ・・・。」
「レオ、貴方にどうしても聞きたい事があるの?少しだけ・・・時間を貰える?」
顔を上げてレオを見ると、彼は嬉しそうに笑った。
「ああ、勿論。お前にずっと会いたいと思っていたんだから、嬉しいよ。」
私とレオは手近なベンチに並んで座るとレオに言った。
「ねえ、レオ。貴方・・・魔界の門へ行ったんでしょう?その時の事詳しく話してくれる?」
「あ、ああ。別に構わないぞ。」
「その前に一つ確認したい事があるのだけど・・・レオは誰と行ったの?」
「ああ、俺とボス、それに・・ジェシカと同じ学院の学生1人と一緒に行ったぞ。それで、門を1人で守っていた聖剣士が俺達の代わりに万能薬の元になる花を摘んで来てくれたのさ。」
やはり・・・レオもノア先輩の事を覚えてはいなかったんだ・・・。
「ねえ、魔界の門のある場所は、どんな所なの?」
「うん、そうだな。・・・何て言うか・・・すごく綺麗な所だったな。青く澄み渡った空に広い草原、真っ白な花びらが散って・・。」
レオは瞳を閉じると言った。
「そう・・・。ねえ、『ワールズ・エンド』から、魔界の門までは・・・遠いの?」
「うん・・。割と遠かった気がするなあ・・・って言うか、ジェシカ。何故そんな事を聞いて来るんだ?」
「・・・・。」
「ま、まさか・・・まさか。ジェシカ・・・お前、魔界の門へ行くつもりなのか?」
「うん、行くつもり。」
「え?嘘だろう?何で魔界の門へ行くんだ?何の用事があるって言うんだよ?」
「それは・・・。」
思わず俯くと、レオは私の両肩を掴み、覗き込んできた。
「教えてくれ、ジェシカ。」
「レオは・・・と言うか、皆誰も覚えていないだろうけど・・私の事を助ける為に魔界の門へ一緒に行った人がもう1人いたの。その人は、七色に光り輝く花と引き換えに魔界へ行ってしまったのよ。魔界へ行った人間は・・・人間界から忘れられてしまうんだって。私はその人を助けたい。ううん、助けに行く。だから・・どんな場所が少しでも知っておきたくて。」
私の話を黙って聞いていたレオの顔色がどんどん青ざめていく。
「お、おい?ジェシカ・・・その話は本当なのか?俺たち以外にもう1人あの場所に居たのか?そ、それに・・・魔界の門へ行くなんて・・本気なのか?!」
「・・・本気だよ、私は。レオも会った事のある聖剣士・・・マシューという人が私を門まで連れて行ってくれる事になってるの。」
「だったら俺も行く。」
レオが言った。
「レオ?!何を言ってるの?本気なの?!だ、だって・・・魔界へ行った人間はこの世界の人達から忘れられてしまうのよ?無事に戻って来れるかどうかも分からないのに・・・!」
「だからだっ!」
レオは私の両肩を強く握りしめると言った。
「ジェシカ、お前は俺の命の恩人だ。本来ならあの時死んでいたのは俺なんだ。だからこそ、俺は命を懸けてもお前を助ける。それに約束しただろう?この先、お前に危機が迫った時には俺の命を懸けてお前を守る。お前の盾になる事を誓うって。」
「レオ・・・。本当に・・・いいの・・・?私を・・助けてくれるの?」
「ああ、当たり前だ。」
「あ、ありがとう。レオ・・・。」
思わず涙ぐむ私を見て慌てるレオ。
「お、おい。泣くなって。それで・・・ジェシカ。いつ魔界の門へ向かうんだ?」
「マシューの話では、次に彼が門番をするのが3日後だって。その日に私が門へ向かえるように手はずを整えてくれるって話してくれた。」
「そうか、ならマシューって聖剣士に伝えておいてくれ。おれもジェシカと一緒に門へ向かうって話を。そして3日後の・・時間や待ち合わせ場所を知らせてくれ。と言っても・・どうやって連絡取り合えばいいか・・・?」
レオは腕組みをしながら考える。
「そうだよね・・・。マシューに相談してみるね。彼ならきっと何か良い方法を知ってると思うから。」
うん、マシューなら解決してくれそうな気がする。
「ああ、よろくな。ジェシカ。それで・・・話は変わるが、ジェシカ。さっきの男は誰だ?随分変わった男だったな。髪の毛は珍しい黒だったし、それに・・・左右の瞳の色も違っていたしなあ・・何だかミステリアスな人間だったな。」
「え?ドミニク公爵の事?」
「ああ、あいつは公爵だったのか?だからあんな横柄な態度を取っていたんだな?だけど、ジェシカ・・・お前随分あの男に気を使っている様に見えたぞ?」
「う、うん・・・。実は・・あの公爵、ある女性に強い暗示をかけられてしまって、記憶が混乱しているみたいなの。以前から知り合い同士だった私の事も忘れていて・・。それで今日は記憶を戻す為に一緒に行動していたのよ。」
かなり重要な事を省いてレオに説明してしまったが、言ってる事に嘘はない。
「え?そうだったのか?!そうとも知らず・・・ごめん、ジェシカ。邪魔してしまったよな?」
レオがすまなそうに謝って来た。
「そんな事、気にしないで。だってレオに会えて話をする事が出来たんだもの。今日港に出て来て本当に良かったって思ってるんだからね?」
にっこり微笑んで言うと、レオは顔を赤らめた。
その後、私達はまた連絡を取り合う約束をしてレオと別れた。
私は腕時計を見た。もうすぐ12時になろうとしている。公爵は・・・男子寮へ戻ったのだろうか?
取り合えず、男子寮へ行ってみようかな?
私は立ち上がると、門へ向かって歩き出した―。
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