第11章 8 ジェシカ、ついに2本の鍵を手に入れる
緑の草が揺れる大平原に私は立っている。空はやはり真っ青で風が吹き、白い花びらが散っている・・・。そして目の前には巨大な門。
間違いない。ここは前に見た夢の景色と一緒だ。私はあの時と同じ夢を見ているのだ。けれどもあの時の夢とは状況が違う。今回の夢の中の私は自分の意思をしっかり持ち、行動をする事が出来ているようだ。
門に近寄り、そっと扉に触れてみるとひんやりした感覚が伝わって来る。
その時私は自分が2本の鍵を握り締めている事に気が付いた。1本は金色に輝き、鍵の頭の部分には青い小さな水晶が埋め込まれている。もう1本は銀色に輝くカギで同じく鍵の頭部分には小さな赤い水晶が埋め込まれていた。しかもこの鍵の形状はよく見ると2本とも同じ形をしている。
門には当然の如く鍵穴がついているが、やはり思った通り鍵穴は1つのみ。
間違い無い。この門の鍵穴は同じなのだ―。
『狭間の世界』へ行ける門の鍵はどちらになるのだろう?もし間違えて魔界の門を開ける鍵の方を使ってしまえば取り返しのつかない事になる。
私は2本の鍵をそれぞれ右手と左手で握り締めた・・・。
鍵を握り締め、じっと意識を集中させた。
すると・・・右手に握り締めている銀色の鍵から冷たい冷気のような物を感じる。
ここで転寝をしていた時に見た夢の中でノア先輩が言っていた言葉を思い出す。
魔界はとても寒い世界なのだと・・・だとしたら、魔界の鍵はこの赤い水晶が埋め込まれている鍵が魔界の門を開く鍵なのかもしれない。
私は意を決して赤い鍵を鍵穴にさそうとしたその時・・・。
「「ジェシカーッ!!」」
遠くから私を呼ぶ声が風に乗って聞こえた。その声には聞き覚えがある。
後ろを振り向くと、私に向かって駆けよって来る2人の聖剣士の姿が。
「そ・・そんなまさか・・・。」
その姿を確認した時、私はまるで頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
夢の中で自分が声を発する事が出来るのにも驚いたが・・それ以上に驚いたのが2人の聖剣士がアラン王子と公爵だったからだ。そんなまさか!マシューは何処へ行ったの?!
「やめろ!ジェシカ!早まった真似をするな!!」
アラン王子は必死で叫んでいる。
「ジェシカ!今ならまだ間に合う!学院へ戻るんだ!」
公爵も必死で私を止めようとこちらへ向かって走って来る。移動魔法を使ってこないと言う事は・・・このフィールドは何らかの魔法がかけられていているのかもしれない。
ならば・・!
私は急いで銀色の鍵を回して門を開けた—。
チュンチュン・・・・。
小鳥の鳴き声で私は目が覚めた。
「え・・・?朝・・・?」
呆然としたままベッドの上で呟く。
「う・・・嘘でしょう・・?」
どうして?どうして後もう少しだけ夢の続きを見る事が出来なかったのだ?!
私はあの鍵が本当に『狭間の世界』へ行く為の鍵だったのか確認する事が出来なかった。
「あ~っ!私の馬鹿!!」
思わずベッドの上で頭を抱えて転げ回った。どうしよう?今晩もう1回眠ったらあの夢の続きを見る事が出来るのだろうか?そこまで考えてハッとなった。
「鍵!鍵は何処?出来ているの?!」
あわててベッドから起き上がると机の上や引き出しの中など、鍵が無いか探し回ってみる。夢で見たあの鍵を・・・。
「そ・・・そんな・・無い・・。」
私はへたり込んでしまった。でも、何でもかんでもそう都合よくいく訳無いか・・。
ひょっとしたら明日には鍵が現れるかもしれないし、明後日に現れるかもしれない。
それでも駄目なら・・・。
ベッドの上に座り、枕を持つとギュッと抱きしめた。
「それでも駄目ならどうしよう・・・。でも夢の中で私は確かに鍵を持っていたし、あの夢は絶対予知夢に決まっている。大丈夫、必ず鍵は現れる。」
うんうんと頷いた時、突然机の上が眩しい光に包まれた。
「え?!な、何?!」
枕を置くと慌てて机に向かい、息を飲んだ。光り輝いていたのは机の上に乗っていた2本の鍵であった。
「ま、まさか本当に・・・・?」
鍵に触れようと手を伸ばすと、眩しい光が鍵の中にスーッと吸い込まれていく。
そして2本の鍵は完成した・・・のかな?光こそ失ったものの、頭に取り付けられた水晶はそれぞれ鈍い光を放っている。恐る恐る2本の鍵を手に取ってみる。
「冷たい・・・。」
赤い水晶の鍵は驚く程冷たかった。まるで氷に触れている様である。
一方の青い水晶の鍵は不思議な事に温もりを感じる。
「やっぱり・・。こっちの鍵が絶対『狭間の世界』の鍵に決まってる。」
私は2本の鍵をギュッと握りしめると言った。
「ノア先輩・・・私、鍵を手に入れましたよ・・・。」
「マシュー・・・中々出てこないなあ・・・。」
小声でそっと呟く。
私は男子寮の近くに生えている植え込みの中に隠れて出入り口を注視していた。
それにしても・・寒い。
おまけに身体を動かすと茂みがガサガサなるのであまり身動きをする事も出来ない。
私に構ってくる男性達さえいなければ、こんな風に植え込みの中にしゃがんで隠れている事もしなくていいのに・・・。
「はあ~・・・。」
何度目かのため息をついた時・・・。
「!」
私は息を飲んだ。
なんとソフィーが学生寮へ向かって歩いてきているではないか。
「え・・・?誰かを迎えに来たの・・?」
誰を迎えに来たのだろうか?でも心当たりがある人物といったら公爵か、アラン王子しかいない。
「マリウス様っ!!」
私はその時ソフィーにしか注目をしていなかったので、突然マリウスの名前を呼ぶ女生徒の声が聞こえたので本当に驚いてしまった。
え・・?
すると眼前にはいつの間にかマリウスと・・・確かドリス・・?だっただろうか?
その2人が激しくもみ合って?いた。
「な、何ですか?!ドリス様!あれ程こちらに来られては迷惑だと申し上げたでは無いですか!」
「嫌です!そんな事を言ってどうせマリウス様はジェシカ様の所へ行くつもりだったのでしょう?!」
「そんなのは当たり前です!ジェシカお嬢様は私の大切な主ですから!」
「だったら私の事も大切にして下さいよ。私達婚約者同士ではありませんか・・・。」
しゅんとなるドリスにマリウスはぴしゃりと言った。
「いいえ、私は貴女を一度たりとも婚約者だと思った事はありません。はっきり申し上げて迷惑ですからもう付きまとって来ないで下さい!」
マリウスはドリスの絡みついてくる手を振り払うと、校舎へ向かって歩いて行く。
それを必死で追うドリスの姿が遠ざかっていく。
・・・。
何だろう?ひょっとして・・・あの2人、すごくお似合いなんじゃないの?!やはりマリウスにはああいった押しの強い女性が合っているように思う。うん、2人の将来をお祝いしてあげよう。
はっ!そ、それよりソフィーは・・・・?
慌てて男子寮に視線を移すが、そこにはもうソフィーの姿は消えていた。
あ・・・。しまった、やってしまった。
マリウス達に気を取られていたからソフィーを見過ごしてしまった。
・・・気になる。一体ソフィーはあそこで誰を待っていたのだろうか・・。
いつの間にか校舎から出て来る男子学生達の姿もまばらになってきた。
恐らくマシューも校舎へ向かってしまっただろう。
私は溜息をつくと、植え込みの中から這い出してきて・・・。
「う、うわ?!ジェ、ジェシカ?!こんな所で何をしていたの?!」
上から声が降ってきて、思わず見上げると・・・そこに偶然立っていたのはマシューであった。
「マ・・マシュー。良かった・・貴方に会えて・・。もう校舎に向かってしまったと思ったから。」
「え?ジェシカ。ひょっとして俺を待つためにこの中に隠れていたの?」
マシューは驚いた様に植え込みを指さして言った。
「うん、そうよ。だって・・・他の人達にマシューを待っている事がバレたら騒ぎになるでしょう?だから・・・。」
私はキョロキョロ辺りを見渡した。よし、誰もいない!
「マシュー!私と一緒に来て!」
「え?」
マシューの手を握り締めると私は全速力?で今は使われていない旧校舎へと向かった。
「マシュー、大事な話があるの?聞いてくれる?」
私は壁際に追い詰めたマシューを見上げると言った。
「あ、ああ・・。わ、分かったよ。」
私の迫力に押されたかのように上ずった声で返事をするマシュー。
「私ね・・・ついに『門の鍵』を手に入れたの。」
言うと、肩から下げていた鞄からハンカチにくるんでおいた2本の鍵を取り出した。
「!こ、これは・・・?」
珍しくマシューが驚いた表情を見せた。
「そう、私ね・・・魔法は全然使えないけど、何故か眠っている間に強く念じた物を作る事が出来る力を持っていたみたいなの。昨夜、必死で門の鍵が欲しいって祈りながら寝たら、この鍵が現れたのよ!それにね、私予知夢を見る事もあるの。その時見た鍵と同じなんだから!」
興奮を抑えきれず、さらにマシューにグイッと身体を近付けるようにして鍵を見せる。
「・・・。」
マシューの顔が赤らんでいる。あ、近寄り過ぎたかもしれない・・・。
さり気なくマシューから距離を置くと言った。
「だから・・・ね?マシュー。貴方にお願いがあるの。今度マシューが門番をする時に・・・どうかお願い!私に狭間の世界の鍵を開けさせて下さい!!」
パンッと手を合わせると、私はマシューに深々と頭を下げる。
「え・・ええ~っ!そ、そんな無茶言うなよ。大体、どちらの鍵が狭間の世界の鍵が分かってるの?」
「勿論!」
多分ね・・・。
「お願い!貴方の言う事、何でも聞くから!」
再び私は頭を下げた。
「ふ~ん・・・何でも・・・ねえ。」
マシューは何処か考え込むように言った。
「本当に何でも言う事聞いてくれるの?」
マシューは私の目を覗き込むように言った。
「え?ええ・・・まあ・・。私にできる範囲内だったら・・・。」
「それじゃ、今度の休暇の日は俺とデートして貰おうかな?」
「え・・?デート?」
「そう、デート。これ位のお願いなら簡単でしょう?」
マシューは楽しそうに私にウィンクすると言った—。
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