第11章 7 私は魔界へ行く手掛かりを閃いた

「ジェシカ、今何て言った?思い当たる節があるのか・・・?」


公爵は私の両肩を掴むと問い詰めてきた。


「あ、あの・・・そ、それは・・・。」

言えない、言えるはずがない。ど、どうしよう・・・。


と、その時。


「ジェシカーッ!!」


誰かが私の名前を呼んでこちらへ向って走ってくる。ま、まさかあの声は・・・?


「ジェシカッ!!」

鼻息を荒くして、私達の前に現れたのは生徒会長だった。


「せ、生徒会長何故こちらに?!」

私は公爵から慌てて離れると言った。


「つい先程ソフィーに会って、その時に教えてくれたのだ。お前が見らぬ男と一緒にここにいると言う事をな!」


そして公爵をジロリと睨み付けた。


「おい、貴様。どこのどいつかは知らないが俺のジェシカから離れろ。」


生徒会長はあろうことか、公爵を指さすと言った。


「俺のジェシカ・・・?」


公爵はその言葉にピクリと反応し、ユラリと立ち上がり、生徒会長に近寄ると正面に立った。背の高い公爵は自然と生徒会長を見下ろす形になる。


「俺のジェシカとはどういう意味です?」


「な、何だ?言葉通りの意味だが?」


公爵の迫力に押されながらも言い返す生徒会長。あ・・・まずい。公爵は生徒会長の性格を良く知らないから、今の言葉を本気に取ってしまったようだ。


「あ、あの・・・2人共落ち着いて下さい・・・。」


「「お前は口を出すな。」」


「はい・・・。」

2人から同時に注意されてしまった。 


「いいか、俺はこの学院の生徒会長をしているユリウス・フォンテーヌだ。」


生徒会長は偉そうに親指を立てて自分を指し、胸を晒せながら言った。


「生徒会長・・・?ああ、ジェシカが言っていたのは貴方でしたか。強面で実は大のスイーツ好きらしいですね。」


公爵はニヤリと笑いながら言った。


「な・・・何いっ?!ジェ、ジェシカ・・・!お、お前・・俺の秘密をこの男にばらしたのか?!」


生徒会長は驚いた様に叫ぶと私を振り返った。


「ええ?あれは秘密だったのですか?!」

そんな馬鹿な。だったら何故私やエマをスイーツカフェに連れて行ったり、堂々とスイーツについて周囲に語っていたのだ?全く理解に苦しむ。


「当たり前だ!男でスイーツ好きなど知られたら周りから気持ち悪く思われるだろう?!」


別にそこまで思われる事は無いだろうけど・・・。相変わらず変人ぶりは変わらない。


「そ、それよりだ!」


突然生徒会長は私にズカズカ近寄ると、肩をガシイッと掴み顔をググッと近づけて言った。


「おい、ジェシカ!怪我の具合はもう大丈夫なのか?お前が冬期休暇中に弓矢で死にかけたという話を聞いたときは心臓が止まるかと思ったぞ?!だから俺はお前を守らせるために生徒会長の権力を使って聖剣士にお前の護衛を頼んだのだ!」


「せ、生徒会長・・ですからもっと離れてくださいってば!」


ギャ~ッ!!相変わらず距離が近い!だからそんなに睫毛が触れる位に顔を近付けないでよ!それにとうとう言っちゃったよ。生徒会長の権力を使って・・・と。この男は生徒会どころかこの学院の聖騎士まで私物化しているのだろうか?


「お、おい!ジェシカッ!死にかけたとは一体どういう事なのだ?!俺はそんな話初耳だぞ?!」


そこへ公爵が生徒会長を押しのけて私の前に立ちふさがった。

あ・・そうだった。公爵にはこの話はした事が無かったんだっけ・・・。

「は、はい・・・。実は冬期休暇中に、あるトラブルに巻き込まれて弓矢で撃たれて死にかけた事があるんです・・・。」

まあ実際は死にかけたと言うよりは、本当に一時的に死んでいたみたいだけど・・。


「な?何だって!どうしてそんな大事な事を俺に話さなかったのだ?それもやはりあの女の仕業なのか?!」


「いいえ、それは違います!直接的な関係はありません。」


必死で否定すると生徒会長が割り込んできた。


「おい!お前!俺がジェシカと話をしていたのに勝手に割り込んで来るな!」


公爵の肩を掴んで喚く生徒会長。


「大体、貴様は何者なんだ?さっきも2人きりで妙に親密そうに話をしていたし・・・。おまけに見かけない顔だ。転入生なのか?」


「俺は・・・ドミニク・テレステオ。一時はジェシカの婚約者だった男ですよ。」


「な・・・何いいいいいっ?!こ・こ・こ・・・婚約者だとおっ?!」


身体をグラリと大きく傾け、小刻みに震えている生徒会長。

おお~っ!相変わらずそのわざとらしい演技がかった様子が素晴らしい・・・。

と言うか・・・。


「ド、ドミニク様!な、何と言う事を生徒会長の前で言うのですかっ?!」


「おい!嘘だろう?!ジェシカッ!!」


 生徒会長はギャーギャー騒ぐし、公爵には怪我をした経緯を詳しく聞かせろと問い詰められるしで、この日静かだったはずの夜が一転し、大騒ぎの夜となってしまった。結局騒ぎを聞きつけた他の学生達から報告を受けた寮長達がやってきて、何とか騒ぎを収める事が出来、その場で強制的に解散させられる事になったのである。

 

 公爵と生徒会長は名残惜しそうに去って行ったが私は内心ほっとしていた。

何故なら公爵にはアラン王子との関係を話さなくて済んだし、生徒会長には公爵との関係をしつこく聞かれる事も無くなったのだから。ある意味寮長達に感謝だ。


「ふう~・・・・疲れた・・・。」

部屋に入ると私はベッドの上に倒れ込んだ。

まさか新学期早々、こんなにトラブルが勃発するとは思わなかった。私は重たい身体をノロノロ起こすと、シャワールームへ向かった。

 コックを捻り、バスタブに熱い湯を張るとお風呂の準備をする。

お湯が溜まるのをぼ~っと見つめながら、今後の事を考えていた。

さて、これからどうしよう。マシューには私が魔界へ行きたい理由は話してある。多分・・・彼なら私が魔界へ行く事を止めない気がする。

だとしたら、マシューが1人だけで門番をしている時に訪ねれば、私を通してくれるかもしれない・・・。


「あ、お湯がたまった。」

考え事をしていたらお湯が溢れそうなくらい溜まってる事に気が付いた。

衣類を脱いでシャワーを頭から浴びて髪の毛から身体迄くまなく洗ってバスタブに身を沈めて天井を見上げた。

「あ~気持ちいいなあ・・・。やっぱりお風呂は最高・・・。温かいし・・・。」

そこで私は言葉を切った。

あの時の・・・ノア先輩の言葉を思い出したからだ―。





 夢の中でノア先輩に初めて抱かれた時、ノア先輩の身体が驚く程冷えきっている事に気が付いた。


「ノア先輩・・・。何故こんなにも身体が冷えているのですか?ひょっとすると・・体調が悪いのですか・・・?」


するとノア先輩は悲し気に笑って首を振って答えた。


「ジェシカ・・・ここの世界は素敵だよね・・・。こんなにも温かいし、君の身体もとても温かくて・・・。」


ノア先輩は私を抱きしめ、髪に顔を埋めながら切なげに囁いた。


「ジェシカ、魔界はね・・・とても寒い世界なんだ・・・。身体を温めてくれるような場所も無いし、道具も無い。僕はいつも寒さで震えて・・寒くて寒くておかしくなりそうなんだ。やっとこの世界に来ることが出来て・・今この世界で、ジェシカとこうして肌を重ねていられる事がどれだけ幸せな事なのか僕は身を持って実感しているよ。だから・・ジェシカ。僕を温めさせて。もっと・・強く抱きしめさせて・・。」


そしてノア先輩は・・・・。




ピチョーン


「わっ!冷たっ!」

突然バスルームの天井から冷たい雫が降ってきて、私の額を直撃した。

「う~・・・・私・・お風呂で転寝しちゃってたんだ・・・。」

お湯に浸かりながら気持ち良くなり、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。


「今・・・あの時の夢・・・見ていた・・。」


あの時、ノア先輩はとても寒がっていた。魔界という所はそれほど寒い場所なのか・・・・。

「私に公爵のような身体を温める事が出来る魔法を使えたら良かったのに・・・。」


しかし、悲しい事に私は少しも魔法を使う事が出来ない。強いて言えば、強く念じた物を具現化する事しか・・・そう、例えば以前私が作り上げたパソコンやオリハルコンのように・・・?

え?ちょっと待って・・・。そうだ、私は物を作りだす力なら持ってるじゃない!


 そうと決まればっ!

急いで風呂から上がり、お湯を抜いて寝間着に着替えると髪を乾かした。

すっかり寝る準備が整った私はハーブティを用意した。このハーブティーは安眠効果をもたらしてくれる。

これをゆっくり飲み干すと、明かりを消してベッドへ潜り込んだ。


「おやすみなさい、ノア先輩。」

そっと呟くと瞳を閉じた。

どうか、明日の朝目覚めた時に「魔界の門の鍵」と「狭間の門の鍵」が出来ておりますように・・・・・。





























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