第11章 9 催眠暗示のかけかた
「え?デート?」
「そう。デート。」
マシューはニコニコしながら言う。
「私は別に構わないんだけど、他の人達が何て言うか・・・。」
するとマシューは言った。
「ジェシカは恋人いるの?」
「!そ、そんな人は・・・。」
うん。私の事を好いてくれている人達はいるが、誰とも付き合ってはいないのだから・・・。
「いないんだね?」
「う、うん・・・まあ・・。」
私は言葉を濁した。
「なら決まりだね。俺は週末必ずセント・レイズシティのある場所に通ってるんだ。ジェシカもそこに一緒に付き合ってくれると助かるな。」
「ある場所・・・?」
「それは行ってみてからのお楽しみ。それじゃ今度の週末約束したからね。」
そう言って去ろうとしたマシューの制服の端っこをムンズと掴み、私は言った。
「ね、ねえ。ちょっと待って。そ、そんな簡単に約束出来ないよ・・・。」
「どうして?さっき構わないって言ってくれたじゃ無いか?」
「だ・・だから、私は構わないのだけど、ほ・・他の人達が何て言うか・・・。」
もごもごと口籠りながら言った。
「他の人達?ああ・・・そう言えばジェシカはこの学院で女生徒達から人気のある男子学生達に気に入られている女性だからねえ。」
「べ、別に好きで気に入られている訳では・・・。だから余計困ってるんだし。ねえ、マシュー。何か私と一緒に出掛けられる口実を考えてよ。」
私は必死でお願いした。
「口実か・・・う~ん・・・口実ねえ・・。あ、それならこれでいいんじゃない?俺達は正式にお付き合いする事になりましたって言うのは。」
マシューはポンと手を打つと言った。
「ねえ、ふざけないでくれる?」
私は恨めしそうな目つきでマシューを見た。
「う~ん・・・別にふざけている訳じゃ無かったんだけどなあ・・・。それじゃあ今度の休暇までの間に考えておくよ。」
マシューはそう言って逃げようとする。
「駄目よ!絶対にその間に誰かに一緒に休暇を過ごそうと言われてしまうもの!ちゃんと理由考えて!」
逃がすものかとマシューの腕にしがみ付いていると・・・。
「お・・おい、お前達・・・一体そこで何をしているんだ・・?」
背後から突然声をかけられた。
「え?ま・まさか・・・その声は・・・?」
恐る恐る振り向くと、そこに居たのは青ざめた顔をしたアラン王子におなじみグレイとルークがそこに立っていた。
「ジェシカ・・・また新しい男を見つけたのか・・?」
ああ!グレイ!人聞きの悪い事言わないでよ!
「な・・何だって?そうなのか?ジェシカ!」
ルークはグレイの言葉を真に受けているし・・・。
「おい!貴様!どこのどいつか知らんが俺のジェシカから離れろ!」
アラン王子はマシューを指さして怒鳴りつけた。
「離れるも何も・・・ジェシカの方から俺にしがみついているんですけど?」
マシューに指摘されて、その時私は気が付いた。確かに傍から見れば私から腕を絡めてしがみつくように見えてしまう。
「お・・・おい!ジェシカ・・・その男は・・何者なんだ?!」
アラン王子は声を震わせながら私に質問を投げかけてきた。
「ああ・・・成程、こういう訳か。これじゃ確かに困ってしまうよね。」
マシューはアラン王子を見て呟くと、突然アラン王子達に向かってパチンと指を鳴らした。すると・・。
彼等はピタリと動かなくなってしまった。
そしてマシューは言った。
「今、ここで見た事、聞いたことは全て忘れる事。そして指を鳴らすと、教室へ向かうように。」
言い終わるや否や再度指をパチンと鳴らすと、再びアラン王子達はまるで目を覚ましたかのように動きだし、口々に言い合った。
「何だ・・・?一体俺達は何をしていたんだ・・?」
アラン王子が口を開いた。
「さ・さあ・・?何でしたっけ?」
首を捻るグレイ。
「それより、アラン王子・・・。そろそろ教室へ向かわないと遅刻しますよ?」
ルークの提案にアラン王子は頷いた。
「ああ、そうだな。急ごう。」
まるで3人は私とマシューの姿が見えていないかのよう目の前で会話をすると、立ち去ってしまった。
「あ・・・あの・・マシュー。今のはもしかして・・・。」
私は恐る恐るマシューに尋ねてみた。
「そう、今のが催眠暗示さ。」
「だ、だってアラン王子達・・・・まるで私達の姿が見えていない様子だったけど?あれも催眠暗示で出来るものなの?」
「ああ、勿論。だって俺とジェシカの姿が見えていたらまずいだろう?だから俺達の姿は一時的に認識出来なくしたのさ。」
マシューは涼しい顔で言う。ええ?!あ、あんな凄い催眠暗示があるの?!
「そうか・・催眠暗示か・・・。これを使えば良かったんだな。」
少し考え込んでいたマシューは口の中で何か小さく呪文のような物を唱えはじめた。
「どうしたの?マシュー?」
しかし彼は私の問いかけに答えない。
「・・・?」
思わず首を傾げたその時・・・。突然マシューが私の方を振り向き、肩をガシッと掴んできた。
「え?マシュー?」
マシューの顔が近づいて来たと思った次の瞬間—。
気が付いてみると私はマシューにキスされているでは無いか!
しかもただのキスでは無い。息が止まるのでは無いかと思う位の熱烈なディープキスだ。
え?え?え?な・何ーッ?!あまりの事に固まっている私。
マシューは私が頭の中でパニックを起こしているのを知ってか知らずか深い口付けをやめようとしない。
「ん・・・・。」
マシューの唇がようやく離れた瞬間私は大きく息を吐いた。
「プハッ!!」
やっと解放された時はまさに呼吸困難一歩手前。ま、まさかいきなり・・・。
しかも大人しそうな、私に一切の好意も持っていない様な男性からそのようなキスを受けると思わなかった私は、ただただ呆然とその場に立ち尽くしてマシューの顔を見つめているのがやっとだった。
「大丈夫?ジェシカ。」
そんな私を心配そうに見るマシュー。大丈夫も何も・・・。
「な・な・な・・・突然なにするのよ!!」
私は顔を真っ赤に染めてマシューに抗議した。
「い・い・一体どういうつもりなのよ、マシュー!。な、何で突然キスを・・し、しかもあんなキスをしてきたの?!だ、大体私達、そんな雰囲気すら無かったよね?!」
「あ・・・ごめん。でも事前に話せばジェシカに拒否されそうな予感がしたから・・・。」
あれだけのディープキスをしておきながら私だけがパニックを起こし、一方のマシューは平然としている状態に納得がいかず無性に腹が立ってきた。
「どういう事なのよ!何故あんな真似をしたのか私が納得いく説明をしてよ!」
マシューに激しく詰め寄る私。
「わ、分かったよ。ちゃんと説明するからまずは落ち着いて。」
マシューは興奮した私を宥めるように言った。
「今、俺はジェシカに催眠暗示をかけたんだよ。」
「催眠暗示?」
一体マシューは何を言っているのだろう?
「そう、催眠暗示。でも只の催眠暗示じゃない。ジェシカの口から直接暗示をかけられるようにしたのさ。」
「え・・・?それは一体どういう意味?」
マシューの話している意味が良く分からない。
「つまり、こういう事だよ。例えば・・・アラン王子がジェシカに今度の休暇を一緒に過ごそうと言ってきた場合・・・。」
「言ってきた場合?」
「ジェシカ。君はこう相手に伝えるんだ。『ごめんなさい、今度の休暇は先約があるので、またの機会にお願いします』って。」
私は黙ってマシューの次の言葉を待った。
「そうすると・・・。」
「そうすると?」
「相手は暗示にかかって、納得してくれる。」
「え?ほ・・・本当に?」
「うん、本当の話だよ。さっきのキスでジェシカの口から出てくる言葉に催眠暗示の能力を与えたんだよ。でも・・・いきなりあんな事して・・・本当にごめん。驚かせちゃったよね?」
マシューは言うと頭を下げて来た。何だ・・・そういう事だったのか・・・。
キスの理由が分かったら何だか急にあれ程あった怒りが嘘のように引いていった。
「マシュー。私の為に催眠暗示の力を分けてくれたんだよね?ありがとう。そして・・・怒ってごめんね。」
ペコリと頭を下げると、マシューは照れたように笑った・・・。
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