第10章 13 歪められた世界
え・・・?何故ライアンが生徒会の副会長を?だって副会長はノア先輩だったよね?
「ど、どうしたんだ?ジェシカ。顔色が真っ青だぞ?」
突然顔色を変えて黙り込んだ私を見てケビンは心配そうに私の顔を覗きこんだ。
「あ、あの・・・ケビンさん。ライアンさんて元々副会長でしたっけ?」
震える声で尋ねる。
「いや・・・。確か先月、帰国してから突然生徒会長から手紙が届いたらしい。やはり生徒会には副会長と言う役職も必要だから、ライアンに是非引き受けて欲しいと打診があったらしいぞ。」
「そ、そうなんですか・・・。」
ケビンの話を聞けば聞くほど、気分が悪くなって来る。ひょっとしてノア先輩が魔界に行った事でこの世界に歪みが生じて来ている・・・?皆の記憶から気えるのではなく、初めから存在していなかった事になっているのだろうか?
グラリ。
私の頭が大きく傾く。あまりのショックに意識が遠のいていく・・・。
驚愕の表情を浮かべたケビンが何事か叫び、私の方に手を伸ばす姿を目にしたのを最後に、完全に意識がブラックアウトした・・・。
カチコチカチコチ・・・。
規則正しい時計の音が聞こえる。ここは何処だろう・・・。
ゆっくり目を開けた私は周囲を見渡して見る。
すると白いカーテンに囲まれたベッドの上で寝かされている事に気が付いた。
「ここは・・・?」
ベッドから起き上がると、突然カーテンが開けれた。
「ジェシカ!良かった、気がついたんだな?!」
中へ入って来たのはケビンだった。
「ケビンさん・・・。私・・・どうなったんですか?」
「突然気絶して倒れてしまったんだよ。いや、本当にびっくりした。それで医務室に運んで来たんだが・・何で誰もいないんだ?」
ケビンはキョロキョロしながら言った。
「ごめんなさい、ケビンさん。とんだご迷惑を・・・。」
「何言ってるんだよ。俺は迷惑なんて一度も思ってないぞ?」
笑顔で答えるケビン。
「あの、ところで今何時ですか?」
「うん?ちょうど15時になるかな?」
そんな、2時間以上も・・・。私は頭を押さえた。
「お、おい。大丈夫か?ジェシカ。」
ケビンは慌てたように声をかけてきた。
「はい、大丈夫です・・・・。ところでライアンさんに会うこと、出来ますか?」
途端に不機嫌になるケビン。
「何だよ、ジェシカ。目を覚ました途端に他の男の名前を口にするなんて・・・。」
「す、すみません・・・。」
謝ると、ケビンは慌てたように言った。
「な、何だよ。謝るなって。ほんの冗談なんだからさ・・・。ライアンに用があるんだろう?それじゃ生徒会室に・・・。」
「ち、ちょっとそれは待って下さいっ!」
私はケビンの袖を握り締めて必死に止めた。
生徒会室なんて冗談じゃない!生徒会室に行こうものなら、あのポンコツ生徒会長に会ってしまう。考えただけで全身に鳥肌が立ってくる。
「お、おい・・・ジェシカ。本当に大丈夫か?」
私は頷くと言った。
「お願いです・・・。生徒会長にだけは会いたく無いんです。だから生徒会室には行きたくありません。」
「そうか・・・よほど生徒会長に嫌な目に合わされたんだな?よし、分かった。ならライアンをここに連れて来ればいいんだな?」
「はい、お願いします。」
「分かった。それじゃ少しだけ待ってろよ?」
そしてケビンは医務室を飛び出して行った。
「ふう・・・。」
私はため息を着くと、再びベッドに横たわり目を閉じた。
一体、今何が起こっているのだろうか。学院でのノア先輩の存在が消えてしまっている。と、言う事はノア先輩の家族も・・・ノア先輩は最初からいない存在としてこの世から消し去られてしまっているのだろうか・・・?
その時、カーテン越しから声がかけられた。
「ジェシカ・・俺だ。ライアンだ。入っても大丈夫か?」
「はい、どうぞ!」
私はベッドから起き上がって居住まいを正すと返事をした。
シャッとカーテンが開けられて中を覗いたのはライアンだ。ああ・・・何だかすごく懐かしい気がするなあ・・・。
「久しぶりだな、ジェシカ。俺に用事があったんだって?」
ライアンは笑顔で私に声をかけ、近くにある椅子に座った。
「何だか凄く懐かしい気がします・・・。冬期休暇から1カ月しか経っていないのに・・。」
でも、それはきっとあまりにも冬期休暇の間、めまぐるしい位私の周囲で色々な出来事があったからだろうな・・・。
「そんな風に言って貰えると嬉しいな。それで、どんな用事なんだ?」
「ケビンさんに聞いたのですが、生徒会長から副会長に任命されたそうですね。」
「ああ、そうなんだ。突然の事だったから驚いたよ。まあ確かに生徒会長はいて、副会長の席が空いているのは普通に考えてみればおかしな話だもんな。」
ライアンは腕組みをしながら言った。
「ライアンさん・・・妙な事を聞くかもしれませんが・・いいですか?」
「うん?いいぞ。俺の応えられる範囲ならどんな質問も受けるぞ?」
「本当に・・・副会長の席はずっと空席だったのでしょうか・・?誰かが副会長を務めていたような記憶は無いですか?」
多分、副会長の席はずっと空席で当たり前だろうと言われると思っていたのだが、ライアンからは意外な返事が返って来た。
「うん・・・その事なんだけどな、どうもおかしな感じがするんだ。」
ライアンは首を捻りながら言った。
「え?おかしな感じ?」
もしかして誰かが副会長を務めていたような記憶でも残っているのだろうか?
「ああ・・・。本当にずっと副会長の役職は無かったのか、最近思うようになってきているんだ。だって、考えても見ろよ。生徒会長の仕事って本当に山積みなんだぜ?その上この学院の生徒会長が、はっきり言って・・・・アレだろう?なのにあの生徒会長を補佐する副会長がいないってのは何とも奇妙な話だと思ってるんだ。」
「・・・確かに言われてみればそうですね・・。」
私は当たり障りのない返事をした。
やっぱり・・・ライアンさんもノア先輩の記憶がすっかり消えている様で、返って来た返事は期待外れの物だった。
少しでも期待していた私はそれを聞いて落胆してしまった。
「おい、大丈夫なのか?ジェシカ。ケビンからジェシカが話の途中で気絶してしまったと聞かされて、本当に驚いたんだぞ?」
言われてみれば、先程からケビンの姿が見えない事に気が付いた。
「あの、ライアンさん。ケビンさんはどうしたのですか?」
「ああ、ケビンは俺を生徒会室からここに呼ぶために生徒会長の目をごまかしてくれて、今相手をしてくれている最中だ。」
なんと!ケビンがそんな事を・・・。
「それは・・ケビンさんに悪い事をしてしまいましたね。」
「いいって。気にするなよ。」
「ライアンさん、明日始業式があるので色々忙しいんですよね?すみませんでした。個人的な用事でわざわざ医務室まで足を運んで頂いて。」
深々と頭を下げると、ライアンは笑った。
「いいって、気にするなよ。俺・・・嬉しかったんだぞ?ケビンからジェシカが俺の事を呼んでいるって聞かされた時は。」
「ライアンさん・・・。」
「ジェシカ、それじゃ悪いけど・・・俺、そろそろ生徒会室へ戻らないといけないんだ。途中まで送るから部屋まで戻れるか?」
「はい、大丈夫です。」
ベッドから出て靴を履くと、少しよろけた。
「あ・・・。」
それを咄嗟に支えるライアン。
「うん・・・。やっぱり歩いて帰るのは大変だな。転移魔法で女子寮の前まで送ってやるよ。」
言うが早いか、ライアンは私を抱き寄せるとグニャリと周りの景色が歪み、気が付くと私は女子寮の正面玄関の前に立っていた。
「ありがとうございます、ライアンさん。」
笑顔でお礼を言うとライアンは照れたように言った。
「いや、気にするなって。それで・・また時間が取れたら一緒に食事でもしようぜ?」
「はい、いいですよ。」
「それじゃ、またな!」
そして再びライアンは転移魔法でその場から姿を消したのだった—。
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