第10章 12 ヒロインに絡まれる悪女?

 ダニエル先輩に自分の全財産の通帳を預けた後、私は自室へと久しぶりに戻って来た。

ベッドに寝転んで天井を見上げる。

そう言えば、エマ達はもう寮に戻ってきているのだろうか・・・。

時計をチラリと見ると時刻はそろそろ12時になろうとしている。もうそろそろお昼か。私はベッドから起き上がった。

レースのカーテンを開けて窓から外を眺めてみる。・・・一刻も早く魔界へ行く為の鍵を見つけなくては。でもどうやって探す?手掛かりも全く無いと言うのにどうすればいいのだろう。

学院の図書館へ行けば何か分かるだろうか・・・?

そこまで考え・・・。


「よし、とりあえずはお昼を食べに行こうかな?」

私は防寒着を着ると女子寮を後にした。


 1人で学院のメインストリートを歩いていると不意に背後から声をかけられた。


「あら、ジェシカさんじゃありませんか?」


「!!」

その声は・・・。一気に全身に緊張が走り、私は恐る恐振り返ると、やはり今一番会いたくない女性がそこにいた。


「ソフィーさん・・・。」


ソフィーはざっと数えると10名程の男子学生達と一緒にいた。・・もしかして彼等は彼女の取り巻きだろうか・・・?


「珍しい事もあるのですね?いつも大勢の男性に囲まれているジェシカさんが今は1人きりでいるなんて。ほら、貴女の忠実なナイトのマリウス様はどうされたのかしら?」


何故か勝ち誇ったような言い方をするソフィー。

「・・・・。」

 私は黙ったまま、まじまじとソフィーを見つめた。何だろう?初めて会った時の彼女は可憐な美少女というイメージがとても印象に残ったのに・・・今のソフィーは何だか眼つきも怖くなり、メイクも濃くなった気がする。それに・・・確か私の小説の中のソフィーは聖女だったので、彼女の側にいるだけで人は温かく、穏やかな気持ちになれると書いていたのに・・・まるで今のソフィーは真逆だ。

 彼女の近くにいるだけで、胸が何となく息苦しくなってくるし、どす黒いオーラ―の様な物すら感じる。


 私が黙ったまま、ジロジロとソフィーを見ていたからだろうか・・・彼女がイライラしながら言って来た。


「何ですか?私の話聞いてましたか?それなのに黙ったまま、私の事をジロジロと・・・。」


「あ・・・ごめんなさい。べ、別にそんなつもりでは・・・。」


傍から見たら公爵令嬢が男爵令嬢にペコペコするなんてあり得ないシチュエーションなのだろう。だけど・・・私は元々身分の上下など気にしないタイプだったし、何よりソフィーが私に魔法攻撃を仕掛けてきた事を思い出すと、どうしても卑屈な対応になってしまう。


「まあ、いいわ。それより聞いたわよ?ジェシカさん・・・貴女とうとうマリウスさんに捨てられたのよね?」


「え?私がマリウスに捨てられた?」

はて・・聞き間違いでは無いだろうか?誰が誰に捨てられたって?


「あら、惚けるつもり?それともショックで認めたくないのかしら・・?だってマリウスさんは冬期休暇の間に同じ爵位を持つ女性と婚約されたそうじゃないですか。先程仲良さげに歩いているのを見たのですよ?」


「ああ・・・そうだったんですね。はい、マリウスは確かに婚約したみたいですよ。」


 そう答えるものの何故かソフィーの気に障ったようで、彼女は益々イライラしてくる。


「ふ・・ふん、どうせ負け惜しみを言っているのでしょう?!」


「負け惜しみ?誰が誰に対してですか?」

何だろう、ソフィーは一体何が言いたいのか・・・訳が分からず首を傾げた。


「あ・・・貴女って人は!」


急にソフィーは怒り出すと手を振り上げた。え・・う、嘘でしょう?!


「ソフィーッ!」

すると取り巻きの1人の男がソフィーの手首を捕えた。


「な、何故止めるのよ?!」


「おい、やめておけって。仮にも相手は公爵家の令嬢なんだろう?そんな人間に手を上げて後で問題になったらどうするんだ?」


「そうだ、俺もそう思うぞ。」


他の取り巻き男性も同意する。


「まあ・・・貴方達がそう言うなら・・・。」


ソフィーはこちらをチラリと見ながら言った。


「まあ、今日は貴女も1人寂しそうにしているから、この位で見逃してあげる。」


そしてソフィーはくるりと私に背を向け歩き去って行く。それを後からゾロゾロとついて歩く彼女の親衛隊。

その内の一人の男性が去り際にポンと私の肩に手を置いた。


「え?」

驚いて見上げると、男性はニイッと笑い、言った。


「悪かったな、怖がらせてしまったようで。」


「い、いえ・・・別に・・。」


すると男性は最後に言った。


「俺はあんたの味方だからな。」


「?それはどういう・・・?」

しかし、男性は私の質問には答えず、ソフィーの後を追いかけるように去ってしまった。

私は首を傾げながらその男性を見送っていたが、気を取り直してブラブラと食事を求めて歩き出した・・・・。



 学院併設のカフェに入り、窓際の席でホットサンドを食べている時だった。

マリウスとドリスが腕を組みながら歩いている姿が見えた。

ふ~ん・・・仲が良さそうで良かった。

そう思いながらよくよく観察してみると、どうもドリスが一方的にマリウスに纏わりついているようで、肝心のマリウスは必死でドリスの腕を払っている。

その表情も露骨に嫌そうな顔を見せている。

あ~あ・・・あれじゃあドリスがあんまりにも可哀そうだわ・・・。

ドリスに同情してため息をついてその様子を見ていると、不意に声をかけられた。


「よおっ、ジェシカちゃん。会いたかったぜ!」


「え?」

顔を上げると、そこには笑顔で立っていたケビンだった。

「ケビンさん!ケビンさんも今日学院に戻って来てたんですね?」


ケビンは私のテーブルの向かい側に腰を降ろすと言った。


「いや、俺は昨日学院に戻って来ていたんだ。いい加減実家にいるのも飽きて来た頃だし、ひょっとすると早めに学院に戻ればジェシカに会えるかなと思ってたんだけど・・。どうだ?ジェシカ。俺はジェシカが学院に戻ってから何番目にあった男なんだ?」


何故かウキウキしながら尋ねて来るケビン。


「え?ええと・・・。3番目ですね。」


「3番?!何だか微妙な数値だな・・・?」


何やらブツブツ呟いている。


「ケビンさん。お昼は食べたのですか?」

疑問に思って私は尋ねた。


「ああ、俺は今さっき飯を食ってきたところだから平気さ。」


「所でケビンさん。ライアンさんは一緒じゃ無かったですか?」


「ライアン?ああ、アイツも早めに学院に帰って来てるけど・・・何だ?ジェシカはライアンに興味があったのか?」


面白くなさそうな顔で私を見るケビン。


「い、いえ。そうではありませんが・・ただ、ライアンさんとケビンさんは親友同士でしたよね?」


「まあ、親友というよりは悪友にちかいけどな?」


「そうなんですか?とても仲が良さそうに見えたんだけどな・・・。まあ、それは置いておいて、とに角よくお2人は一緒にいられてますよね?今日はライアンさんはどうしたんですか?」


「ああ・・あいつは忙しいだろう。だって考えてもみろよ。あいつは生徒会役員なんだぜ?新学期が始まる時は忙しいからなあ・・・。」


生徒会役員—。

そうだった、生徒会役員なのだからライアンは忙しいに決まっている。ライアンどころか生徒会長だってノア先輩の事を絶対に覚えていないだろうな・・・。


私はケビンの話を半分だけ聞き、後の半分は適当に相槌を打っていたのだが、ケビンの次の発言に思わず凍り付いた。


「全く、何でよりにもよってライアンの奴、生徒会の副会長なんかやってるんだろうな~。」


え?ライアンさんが・・・副会長?!

一体どういう事なの—?
















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