第10章 14 戸惑う公爵

 自室に戻ろうと思い、寮母室の前を通った所で寮母さんに声をかけられた。


「ジェシカ・リッジウェイさん。」


「はい?何でしょう。」


「ドミニク・テレステオという男性からメモを預かっていますよ。」


 あ!公爵・・・。もしかして私に学院を案内して貰いたくて・・・!

「は、はい。ありがとうございます。」

メモを受け取ると、すぐにその場で読んだ。


『ジェシカ、お前に会いに女子寮へやって来たのだが不在と言う事だったのでこのメモを頼んだ。もし都合が合えば14時に学院の門の外で待っているので来てくれないか?』


 私はその内容を読んで青くなった。

大変だ!時間はもう15時。約束の時間を1時間も過ぎている。きっと公爵はもう居ないだろうが、一応約束の場所まで行ってみないと!


 私は急いで学院の正門迄走って行くと、なにやら人だかりが出来て物凄い騒ぎが起こっている。

え?一体何の騒ぎだろう・・・?


「ちょ、ちょっとすみません、通してくださいっ!」


 人混みをかき分け、騒ぎの中心が何なのか確認しようと思い一番先頭に出て来ると、私は衝撃を受けた。

 何と騒ぎの中心人物は公爵とアラン王子、そして婚約者?を連れたマリウスに何故かフリッツ王太子までいる。そしてその傍ではオロオロしているグレイにルークまでいたのだ。

 彼等は皆興奮しまくっているのか誰一人私の姿に気が付いていない。


「おい!いい加減にしろ!ジェシカはもうお前の婚約者ではないのだろう?!いい加減に付きまとうのはやめろっ!」


アラン王子は激高している。


「そんな事、お前に言われる筋合いはないがな。そういうアラン王子はどうなのだ?その様子だと、大方ジェシカに相手にされなかったのだろう?それにフリッツ、何故お前迄ここにいるのだ?」


それに対してフリッツ王太子は冷静に話している。


「そんなのは決まっている。ジェシカにもっと俺を知って貰う為にこの学院に編入してくる事にしたのだ。」


え・・・?そんな事したの・・?私はうんざりするようにフリッツ王太子を眺めた。


「フリッツ王太子!それこそ権力の乱用だとは思わないのですか?ジェシカお嬢様の事は忘れて、すぐに国へ戻り職務を全うして下さい!」


マリウスが声を荒げた。


「マリウス様っ!そんな事よりももう行きましょうよっ!ほら、物凄く注目を浴びてみっともないじゃないですか!」


ドリスは必死でマリウスの腕を引っ張っている。するとマリウスはドリスの腕を振り払うと言った。


「ドリス様!いい加減にして下さいっ!私は貴女と婚約した覚えはありませんっ!親同士が勝手に決めた事です!これ以上私に付きまとわれるのは、はっきり言って迷惑なのですっ!」


「そ、そんな酷い・・・。」

ドリスは途端に目に涙を浮かべる。


 うわ・・・。マリウス・・・。もうこの男は私の中でクズ男決定だ。まさかここまで性根が腐っていたとは。女性に優しく出来ない男など私の中ではノー・サンキューだ。

 グレイやルークも流石にマリウスの言葉に軽蔑の眼差しを送っているし、野次馬達からもブーイングが起きている。


 ああ・・・。でもどうしよう。

このままだと私が今この場に出て行けばますます場が混乱してしまうだけだ・・・。

と、その時背後から肩を叩かれた。

驚いて振り向くとそこに立っていたのはジョセフ先生では無いか。


「ジョ・・!」

名前を呼びかけると、先生は唇に人差し指を立てて私に静かにするよう言うと、手招きして私を人混みから連れ出した。


「ジョセフ先生、お久しぶりです・・・と言ってる場合じゃ無かった!」


「うん、大変な騒ぎになっているね。ここは教師である僕に任せて。」

ジョセフ先生は私にその場で待機するように言うと、人混みをかき分けて騒ぎの中心部へ行くと公爵たちに近付き、言った。


「君達、ここは学院の正門だよ。騒ぎを起こすのはやめてくれないか?これ以上騒ぎが大きくなるなら学院長に報告しなければならなくなるよ?」


すると流石にそれはまずいと感じたのか、彼等は口を閉ざして大人しくなった。


「うん、それでいい。ほら、周りで見ている君達もだよ。もう解散して行きなさい。」


 ジョセフ先生の言葉に周囲のギャラリー達はゾロゾロと去って行く。

しかし、公爵たちはまだその場に留まり睨みあいを続けていた。

「・・・君達ももう行きなさい。ほら、彼女が困ってるじゃないか。」


 ジョセフ先生は建物の陰に隠れていた私に声をかけたので、恐る恐る私は皆の前に姿を現した。


「ジェシカ!そこにいたのか?!」


嬉しそうな声で真っ先に声をかけたのはアラン王子だった。


「お嬢様・・・。」


 マリウスは先程自分がクズ発言をしたのを私に聞かれたと感づいたのか、硬い表情で私を見る。その隣では今にも泣きだしそうなドリスがマリウスの袖をギュッと握りしめていた。

・・・あんな酷い態度を取られてもマリウスの傍にいるなんて・・・。そのいじらしさに、マリウスに対して怒りが込み上げてきた。


「マリウス・・・。」


「は、はい・・・。」


「ドリスさんを・・・早く連れて行ってあげて。これは・・主として命令です。」


「ジェシカ様・・・。」


ドリスは目に涙を浮かべて私を見たので、私は笑みを浮かべた。


「・・分かりました・・。では行きましょうか?ドリス様。」


マリウスはドリスの手を繋ぐと、門の中へと入って行く。そして私はマリウスがすれ違う時に声をかけた。

「マリウス・・・。女性には優しくしてあげるものよ?これ以上ドリスさんを傷つけるような真似はしないで。」


「!」

マリウスは小さくうなずくと、黙って私の横を通り過ぎて行った。残された彼等は全員静かに私の方を見ている。周囲を見渡すといつの間にかジョセフ先生はいなくなっていた。

 

 私は小さくため息をつくと言った。

「皆さん・・・今日はこちらにいるドミニク公爵様が初めて学院に来たのです。そして私をここまで連れて来てくれたのも公爵様です。私は公爵様に学院を案内する約束をしているので、どうか今日の所はお引き取り願えませんか?お願いします。」

丁寧に頭を下げた。


「ジェシカ・・・。」


公爵は嬉しそうに私を見ている。


「・・・。」


それを悔しそうに見つめているアラン王子。

グレイやルークも複雑な表情を浮かべて私を見ている。


「やれやれ、分かったよ。それじゃ我々は引き下がるしか無いだろう?」


肩をすくめて言ったのはフリッツ王太子だった。

そして全員を見渡すと言った。


「さあ、ジェシカがああ言ってるのだ。我々は大人しく引き下がろう。皆行くぞ。」


そしてさっそうとフリッツ王太子は去って行った。

おおっ!なんて大人な対応なのだろう。俺様王子とは大違いだ。


「・・・分かった。またな、ジェシカ。」


アラン王子は私に声をかけると、グレイとルークを引き連れて去って行く。


「「ジェシカ・・・。」」


「ごめんね、グレイ。ルーク。また明日ね?」

グレイ、ルークは心配そうに声をかけて行ったので私は声をかけると、彼等は少しだけ笑顔を浮かべて、慌ててアラン王子の後を追って行った。


 後に残されたのは私と公爵の2人きり。


「ジェシカ・・・。」


公爵が私を見つめて口を開いた。


「は・・・はい。」


「これは・・・一体どういう事なのか説明してくれないか?」


「え・・・?」



「彼等は一体何なのだ?何故あんなにもジェシカに執着しているのだ?彼等以外にも・・ジェシカに付きまとう男達がいるのか・・・?」


じっと私を見つめながら公爵は尋ねて来た。


「せ、説明と言われましても・・・。」

公爵の瞳には戸惑いの顔を浮かべた私が映し出されていた―。







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