第6章 4 突然の魔力発動

「つ、疲れた・・・・。」

私はフラフラになりながら、自室へ戻った。

取りあえず、メイドのミアにはマリウスの事が気になったので、部屋の移動は無しにしてもらったのだ。・・・それにしても落ち着かない部屋だ。まさか部屋の内装が全て紫に統一されると、これ程人をイラつかせる雰囲気の部屋になってしまうとは・・。

私は別に紫色が嫌いなわけでは無いが、こうも自己主張の強い色合いの紫色だと、何だか嫌いになってしまいそうだ。ひょっとすると・・・ジェシカが周りにきつくあたっていたのは、このどぎつい紫色のせいかのかもれない。


「マリウスの様子でも見てこようかな。」

私はポツリと呟いた。あの後、アリオスさんが何か良い方法が無いか調べてみると言っていたけど、進展はあったのだろうか?

 マリウスの部屋へと続くドアをカチャリと開けると、何とそこにはマリウスの手を両手で握りしめて椅子に座っているアリオスさんの姿があった。


「ア、アリオスさんっ?!」

私が呼びかけると、アリオスさんはこちらを見た。


「これはジェシカお嬢様。お食事はもう終わられたのですか?それではお部屋で入浴されて、今夜はお早めにお休みください。さぞかし旅の疲れもおありでしょうから。」


にこやかに言うが、その表情には疲労が滲んでいる。

「あの・・・アリオスさん。今何をしていらしたのですか?」


「ええ、いまマリウスに私の魔力を分け与えていたのですよ。こうして自分の魔力を分け与える相手に触れる事により、自分の魔力を移すのです。」


ずっと休まず1人で魔力を移し続けていたのだろうか・・・。

「アリオスさん、顔色が悪いです。・・・少し休まれてはいかがですか・・?」


「ありがとうございます。お気持ちだけで結構ですよ。さあ、ジェシカお嬢様はもうお休みになられて下さい。」


「でも・・・。」

こんな酷い顔色のアリオスさん1人にマリウスを任せるなんて・・・。

すると私の気持ちを読み取ったのか、アリオスさんが言った。


「ジェシカお嬢様。私はこれでもマリウスの父です。息子の命は必ず私が助けます。心配はご無用です。」

アリオスさんの目には強い決意が見えた。それなら・・・。


「わ、分かりました・・・・。マリウスの事、よろしくお願いします。アリオスさんもどうか、無理をしないで下さいね。」

遠慮がちに言うと、アリオスさんは微笑した。




「ふう~・・・気持ちいいなあ・・・。」

私は広々としたバスタブの中でゆっくり手足を伸ばした。

流石は公爵家のお嬢様。紫色の部屋はちょっと趣味が悪いけど、この大きな湯船にバラの香りのする石鹼はとても良い香りで私は満足したバスタイムを贈る事が出来た。



「あ~気持ち良かった。」

私は長い髪をバスタオルでひとまとめにすると、以前セント・レイズシティで買ったカシュクールドレスタイプのナイティに着替えた。普通はあまりこういうナイティは買わないのだが、本来のジェシカならきっとこういうナイティを好んで着るのだろうと踏んで、購入しておいたものだ。


その時—

ドサッ!

マリウスの部屋で何か重たいものが落ちる音がした。え?一体何?!

私は急いでドアを開けると、そこには真っ青な顔で床に倒れているアリオスさんの姿があった。

「アリオスさんっ?!しっかりして下さいっ!」

私はアリオスさんを揺さぶった。お願い!どうか・・!目を開けてっ!ああっ!私にも他の皆のように魔力があれば・・・今目の前にいる2人を助けられるのに・・・!


 すると突然不思議な事が起こった。私の身体から光の粒子のようなものが溢れ出し、その粒子が触れているアリオスさんの身体に流れ込んでいくのをはっきりと目にしたのだ。

え・・・?これは何・・・?


「う・・・。」


アリオスさんは小さく呻くと、目を開けた。


「い・・今のは何だ・・・?急に身体が温かいものに包まれたと思ったら、力が湧いて来た・・。」


アリオスさんは信じられないと言わんばかりに起き上がると自分の両手をじっと見つて言った。


「ま・・・まさか今のはジェシカお嬢様が・・・?!」


ハッとなってアリオスさんが私の方を振り向いて、息を飲んだ。


「ジェシカ・・お嬢様・・そ、そのお姿は・・・?」


「それが、わ・・分からないの・・。急に体の中から光に粒子のようなものが溢れてきて・・・。」

私の身体からは今も光の粒子が出続けている。


「ジェシカお嬢様・・・それが・・魔力です・・・、一体何故突然に・・・。で、ですが今なら・・・。」


アリオスさんが私に言った。


「ジェシカお嬢様っ!どうか・・マリウスに触れて下さいっ!」


私は慌ててマリウスの右手を握りしめた。するとそこから少しずつ光の粒子がマリウスの中へ流れ込んでゆく。

「こ・・これでいいの・・?」


「はい・・・。マリウスの魔力が完全に抜けきってしまっておりますので、時間はかかるかもしれませんが・・・ジェシカお嬢様がマリウスに触れている限りは、魔力は流れ込んでゆきます。」


アリオスさんは疲弊しきった顔で言った。


「なら、後は私が替わってマリウスの身体に魔力を送ります。アリオスさんは今夜はもうお休みください。」


「いえ、しかしそれでは・・・ジェシカお嬢様だけに負担が・・・。」


「それがね、私こうして魔力を送っているけど何ともないのよ。だから大丈夫。本当に心配しないで。疲れたらちゃんと休むから。マリウスは私にとって大事な下僕だから、彼が危機の時は主である私が助けなくちゃね?」


「ジェシカお嬢様・・・・。本当に・・・貴女は変わられましたね・・・。マリウスが貴女を思う気持ちがようやく理解出来ました・・・。」


アリオスさんは声を震わせながら言う。

 

「アリオスさんも本当に、ちゃんと休んでくださいね?」


「はい、ジェシカお嬢様。マリウスを・・・私の息子をどうぞよろしくお願い致します。」


 アリオスさんは深々と頭を下げると部屋を後にした。部屋に残されたのは私と意識を失った状態のマリウスの2りだけ。

「お願い、マリウス。早く目を覚まして・・・。」

私は少しでも多くの魔力を送れるようにマリウスの右手を強く握りしめた。

けれども、一向に血の気は無く真っ青な顔をして意識を失っているマリウス。

「ひょっとすると・・・もっと密着すれば・・・より一層魔力を送る事が出来るのかな・・?確か、マーキングの時にマリウスが言ってたよね・・?」

もうこうなったら躊躇している場合では無い。

よし、それなら・・・・。


 私はまず2人の部屋のドアのカギをかけた。そしてマリウスの眠っている布団をそっとめくると、マリウスの隣に横たわった。

「ごめんね、マリウス。お邪魔しま~す・・・。」

照れ臭さを隠す為に私はわざとそう言うと、意識を失っているマリウスに腕を回した。マリウス、早く良くなって・・・・・。やはり思った通り強く密着する事によって魔力の流れる量が増えた気がする。徐々にではあるが、マリウスの身体が少しずつ温かみを取り戻し、強張っていたマリウスの身体が徐々にときほぐれていくのを感じ取る事が出来た。真っ白だった肌にも徐々に色がついてゆく。

良かった・・・この分だと、きっとマリウスは明日にでも・・・良くなって・・・。


 マリウスを抱きしめたままベッドの中にいると、徐々に体が温まってゆき、最早目を開けているのも困難になって来た。

「フワアア・・・。」

私は何度目かの欠伸をした。。いけない、マリウスの目が覚める前に、起きて自分の部屋へ戻ろうと思っていたのに・・・。

けれど、ついに私の意識はブラックアウトしてしまった―。















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