第6章 3 死の淵に立たされたマリウス
「え?私とマリウスって、隣同士の部屋だったんですか?」
ふ~ん、やっぱり主と下僕の関係だったから、何か用事があった時はすぐに対応して貰えるように隣の部屋になっていたのかな?
「ええ。更にジェシカお嬢様とマリウスの部屋は中のドアで繋がっておりますよ。」
「そうなんですか。中で・・・えええっ?!そ、その話本当ですか?!」
「ええ、冗談でこのようなお話はしませんよ?」
アリオスさんは何処か楽しそうに話をする。
「ほら、ご覧ください。」
アリオスさんが差した先には確かにドアが付いている。そしてドアノブを回すと・・・空いた先には私の部屋へと繋がっていた。
「私と・・マリウスの部屋って・・ず、随分距離感が近かったんですね・・・。」
私は内心の焦りを感じながら言うと、アリオスさんは答えた。
「ええ、これはジェシカお嬢様のご希望だったので。」
「ええっ?!」
これまたとんでもない発言だ。な、何故ジェシカはマリウスと自分の部屋をドア一つ隔てて行き来出来るようにしたのか・・・。
「お嬢様は・・・マリウスに冷遇していましたが、ある意味ではお気に入りだったようですからね。」
何故か含みを持たせたような言い方をするアリオスさんに私はマリウスが以前話したことを思い出した。
<お嬢様の命令は絶対ですからね・・・歯向かうなんて無理な話です。お嬢様と私は何度も男女の関係を持ちました。>
ま、まさかマリウスがジェシカの部屋の隣にあるのはそういう意味だったの・・・?
ひょっとすると・・・・ここにいるアリオスさんを始め、屋敷中の人間がジェシカとマリウスの関係を知っているのかも・・・。
私はチラリとアリオスさんを見たが、彼からは何を考えているのかさっぱり読み取る事が出来ない。
うう・・・で、でも絶対に知っているに決まっている。でも今の私は本当のジェシカでは無い。
「い、今はマリウスを看病する為に便宜上私もこの部屋を使いますが、マリウスが回復したら私は別の部屋に移動します。なので、簡易ベットがあれば、この部屋に運んで貰えますか?」
私はアリオスさんに頼むと、彼は目を細めた。
「ジェシカお嬢様がマリウスを看病すると言うのですか?しかし、今のマリウスにはジェシカお嬢様が何もしてやれる事は、ありませんよ?」
「だ、だけどいつまでもこの状態なら衰弱してしまいます。そうなると回復も時間がかかりますよね?だから、せめて傍で見守って・・・。」
私が言うと、アリオスさんは真剣な表情を見せた。
「実は・・・お嬢様。本当の事を申し上げますが・・今のマリウスは危険な状態にあるのです。」
「え?どういう事ですか?!」
「魔力を完全に使い切ってしまった為、生命エネルギーにも影響を及ぼしているのです。その為に眠りについても魔力を溜める事が出来ないでいます。このままでは、もって後3日・・・。」
「もって3日って・・・ま、まさか・・死ぬって事ですか?マリウスがっ?!」
私はその話を聞いて、全身が凍りつきそうになった。
黙って頷くアリオスさん。
「助ける方法は無いのですか?!」
「今のところは・・・魔力を回復させる魔石が、ある事はあるのですか、この国には無いのです。しかし、トレント王国にはその魔石を採掘出来る鉱山があるそうで、代々その国の王家が管理しています。ただ・・・とても貴重な魔石なので、持ち出しは絶対に許されず、トレント王国に行かなければ使用させて貰えないそうです。」
私は絶望的な気持でアリオスさんの話を聞いていた。
「今、マリウスにしてやれる事は定期的に魔力のある者がマリウスに魔力を分け与えて命を永らえさせるしかありません。それを私が今行っています。」
確かにアリオスさんの表情には疲れが滲んでいる。だけど・・・っ!
「だ、だったら尚の事!何故、あんな屋根裏部屋に1人マリウスを寝かせておいたのですか?」
「旦那様の御命令だったからです。」
アリオスさんは表情を変えずに言った。
「え?」
「ジェシカお嬢様を守る事が出来ず、命の危機に晒したマリウスに旦那様が激怒し、あの屋根裏部屋に入れるように命じたのです。」
「そ、そんな・・・酷いっ!」
ジェシカの父はマリウスを見殺しにするつもりなのだろうか?
「ほ、他に・・・。」
「ジェシカお嬢様?」
「他にアリオスさん以外にマリウスに魔力を与えられる人はいないのですか?!」
私は必死で尋ねた。
「魔法を使える人物でなければ無理ですね。この城にいる方で魔法を扱えるのは、旦那様と奥様、ジェシカお嬢様のお兄様のアダム様だけですが・・・恐らく不可能です。貴族が自分より下位の者に、魔力を分け与える事は合ってはならない事なのです。」
私は下を向いて唇を噛んだ。そんな・・・人の命がかかっているのに、階級が関係するなんてあり得ないっ!
「大丈夫ですよ。ジェシカお嬢様。マリウスは私の息子です。何としても私がマリウスを助ける方法を探しますのです、ジェシカお嬢様は何も心配される必要はありません。」
アリオスさんは、そこで初めて優しい笑みを浮かべた。それが何とも悲しくて・・・私は気付いたら、涙を流していた。
「ジェシカお嬢様?泣かれているのですか?」
アリオスさんが困った表情をして、私を見つめている。
「ごめんなさい・・・。私に魔力が、あれば・・・魔法が使えていれば、魔力を分けてあげられたのに・・・。」
「ジェシカお嬢様?そう言えばお嬢様が学院に入学する事が出来たのは、魔力に目覚めたからですよね?」
アリオスさんが、私に訊ねた。
「はい、そうなんですが・・・。魔力はあっても、何一つ魔法が使えなくて。」
「そうですか・・・。でもジェシカお嬢様は何も気にする必要はございません。何とか他に方法を探し、私が息子を助けます。それよりお嬢様、そろそろアダム様もお帰りになるお時間です。夕食の時間になりますので、ダイニングルームに参りましょう。」
こうして私はアリオスさんに案内されてダイニングルームへと連れて行かれた。
中へ入ると、ジェシカの両親は既にテーブルに着いている。そして私を見ると父が言った。
「おお、ジェシカ。遅かったな。うん?何だ、まだ着替えてはいなかったのか?お前はいつも夕食時にはイブニングドレスに着替えていたでは無いか?」
見ると母も素敵なドレスを着ている。
「いえ、私はこのままで結構です。動きやすい服が一番なので」
「まあ、そうなの?ジェシカ、貴女本当に記憶を無くしてから人が変ってしまったようね?」
ドキンッ!
私の心臓が大きく鳴った気がした、その時。
「ただいま戻りました。」
ダイニングルームに1人の青年が入ってきた。
栗色の巻き毛に紫の瞳・・・人目を引く美しい外見をしている。
もしやこの男性は・・・?
「ああ、ジェシカ。やっと帰って来たのだな?記憶喪失になったうえ、矢に当たり、死にかけたと言うから心配したのだぞ。でも無事で本当に良かった。」
言いながら、その男性は私の頭をなでた。
この人はひょっとしてジェシカの兄のアダムなのだろうか
「ジェシカに記憶は無いだろうが、お前の兄のアダムだ。お帰り、ジェシカ。」
そっけ無い言い方ではあったが、この人は悪い人ではなさそうだ。
「た、ただいま・・お兄様。」
兄はそれを聞くと、フッと笑った。
その夜の家族水入らずのディナーは、それは見事な食事だった。
ただ・・・今夜の私はあまりにも緊張し過ぎて、何を食べ、どんな会話をしたのかは殆ど記憶に残らなかった―。
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