第2章 11 後残り2日
私は暫くの間、自分の置かれている状況が理解出来なかった。
改めて私は隣にいるマリウスを見る。よく眠っているようで目が覚める気配は無い。
よし、今のうちにさっさと起きてここから逃げよう・・・。
その前に・・・ぐっすり眠って油断しきっているマリウスを見る機会は非常に貴重なので、少しだけ観察してみる事にした。
うわ・・睫毛めっちゃ長い・・。鼻も高いし銀色に輝く髪は羨ましい限りである。
その時だ。
パチッ
突然マリウスが目を開けた。わっ!目が覚めた?!
「お嬢様からそのような熱い眼差しで見つめられるなんて幸せです。」
そして抱きしめてきた。嘘っ!目が覚めてたの?!
「マ、マリウス。も・もしかして・・起きてたの?!」
「ええ、当然です。」
ニッコリと笑みを浮かべてさらに強く抱きしめて来る。
「は、離れなさいよっ!!」
「嫌です。」
予想通りの言葉。こ、この男は・・・。どうしたら私を離してくれるのか・・・。
もがきながら必死で考える。あ、そうだ!
「私、お腹が空いたから朝ご飯食べに行きたいの!早く放しなさい!」
「そうですか、なら仕方がありませんね。」
ようやく私を離すマリウス。私は素早くベッドから降りてマリウスから距離を置くと言った。
「ねえ!どうして貴方が私と同じベッドで眠っていたわけ?しかも・・・う、腕枕までして・・っ!絶対私には指一本触れない約束をしていたでしょう?!」
するとマリウスが言った。
「ええ、確かに約束しましたよ。ですが・・・眠ってしまったお嬢様をこちらのベッドルームへお運びして、寝かせた直後に酷くお嬢様はうなされ始めたので、心配になり、隣で休むことにしたのです。」
ああ・・・そうだった。私はマリウスの言葉で一気に夢の内容を思い出した。
あの夢は一体いつの出来事なのだろうか?夢の中で私はジェシカをまるで他人事のように傍観していた。そして最後に私が地面に落下していく様を笑みを浮かべて見つめていたマリウスのあの表情が頭からこびりついて離れない。
そういえばマリウスはあの時、散々私に尋ねてきた。テラスへ連れて行かれた時、本当に夜に訪れたのが初めてなのかと・・・・。
「お嬢様、一体どうされたのですか?」
ボンヤリしていた私を不思議に思ったのか、いつの間にか私の傍に来ていたマリウスが尋ねてきた。
「べ、別に。何でもない。私、着替えて来るから。」
そして逃げるように部屋を出て行った。言えない。マリウスに私の見た夢の話など。
着替えを済ませて昨夜マリウスとお酒を飲んだ部屋へ行くと、いつの間にかマリウスが朝食の準備を始めており、私の姿を見ると声をかけてきた。
「お嬢様、朝食の準備が終わるまでゆっくりくつろいでいて下さい。」
「ありがとう。」
私は礼を言うと窓際に置いてある大きなソファに座った。時刻を見ると9時を指している。これから朝食を食べて、女子寮へ戻った後にトランクケースごと町へ売りに行った後にエマに挨拶して来ようかな・・・。等、今日の予定を考えていた所、マリウスが私を呼んだ。
「お嬢様、準備が出来ましたのでこちらへどうぞ。」
呼ばれた私はカウンター席へ向かう。
「うわ・・・これ全部マリウスが作ったの?」
私はテーブルに並べられた料理に目を見張った。
蜂蜜のかかったフレンチトーストにサラダ、スープ。特にフレンチトーストはきつね色にふっくらと焼けて見るからに美味しそうだ。
「ええ。さあ、どうぞ召し上がって下さい。」
マリウスは私の向かい側に座ると言った。
「いただきます・・・。」
私はフレンチトーストをナイフで切って口に運んだ。
・・・・。
「美味しい・・・。」
「お気に召して頂けて光栄です。」
マリウスは笑みを浮かべる。
悔しいけど、すごく美味しい、卵のしみ込んだフワフワのフレンチトーストは程よい甘みがあって最高だ。スープも絶品だし、文句なしの出来栄えだ。
本当に憎たらしい程ハイスペックな男マリウス。内に狂犬を秘めた変態M男で無ければ最高なのに・・・。
「お嬢様、本日のこの後のご予定は・・・。」
言いかけたマリウスの言葉を遮るように私は言った。
「私、今日は里帰りの準備をしないといけないから忙しいの。マリウスも今日は寮で準備をした方がいいと思うよ?」
「いえ、私の準備は全て終わっておりますが・・。」
何か言いたげに私を見る。もしや今日1日自分と付き合えと言っているのか?冗談じゃない。もう今日はこれ以上マリウスの側にいるのはごめんだ。この男と一緒にいると心穏やかに過ごせないのだから!それにどうせ2日後にはマリウスと帰省しなければならない。その間位は自由にさせて欲しい。
「兎に角、私は今日から忙しくなるの。だから次に会うのは2日後だからね。」
なるべくマリウスの神経を逆なでしないように言うと、意外な台詞がマリウスから飛び出した。
「ええ、実は私も他にやる事が残っておりますので次にお迎えにあがれるのは出発日になりますと、お伝えしたかったのです。」
あ・・・そうなんだ・・・。良かった~。でも安堵した顔を見せてはいけない。
「それじゃ、明後日よろしくね。マリウス。」
食後のコーヒーも飲み終えたし、そろそろ帰ろうかな。
そう思った私は席を立つと言った。
「マリウス、それじゃ私は女子寮に帰るね。」
「お嬢様、お待ちください。ここが何処なのかご存知なのですか?お1人で女子寮まで帰れるのですか?」
マリウスが呼び止めた。
あれ・・・そう言えばここは何処なのだろう?昨夜はマリウスの転移魔法でいきなりこの部屋にやってきたので、私にはここが何処なのか全く見当がつかない。
よし、もうこの場を去るので、思い切って尋ねてみる事にしよう。
「ねえ・・・ところでここは何処なの?」
すると思い切り含みを持たせる笑みを浮かべるとマリウスは言った。
「もう大方見当はついているはずなのでは?ここは・・・以前にお嬢様と一緒に入ろうとしていた場所ですよ?」
「・・・・。」
やっぱりね・・・。良かった、昨夜のうちにこの場所が何処なのか尋ねておかなくて。もし尋ねていたら前回私を連れてきた時に言ったマリウスの言葉通り、2人の距離を縮められるような行為をされていたかもしれない・・・。
思わずブルリと身震いした。
「そ、そうだったのね~知らなかったわ。」
私はわざとしらばっくれると急いで身支度を済ませてさっさと出ようとしたのだが、マリウスに腕を掴まれて阻止されてしまった。
「一緒に学院へ戻りましょうね。お嬢様。」
有無を言わさない表情で迫って来るマリウス。その気迫に押された私は大人しく言うことを聞くしかなかった・・・。
「あ~疲れたっ!」
女子寮に戻った私はベッドの上に大の字になって寝そべった。
1時間程休んだら、もう一度セント・レイズシティの町に戻って、トランクを売ってこよう。
私は部屋の中をチラリと見渡した。
・・・殆ど荷造りが終わっていない。これらを何とかしなければならないと思うと気が重くて仕方が無い。
全く余計な用事が多すぎて、ちっとも自分の時間が取れない環境を呪いたくなってしまう。
そう言えば・・・ふと昨夜の出来事が頭をよぎった。あの後、皆はどうなってしまったのだろう?マリウスの強引な転移魔法であの場を抜ける事になってしまったが、残されたグレイにルーク、そしてジョセフ先生・・。
さらにソフィーと一緒に現れた生徒会長達と彼等の元へ行ってしまったアラン王子は?
グレイの怪我の具合も気になるが、どうすれば会えることが出来るのだろう?
「・・・。」
暫く考えていたが、そこで私は閃いた。
そうだ、ジョセフ先生を尋ねてみよう―と。
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