第2章 12 君の事が心配だから

 思い立ったら即行動した方が良いだろう。

今着ている服は昨日と同じなので別の服に着替え直すと私はトランクケースを持って、再びセント・レイズシティへと向かう事にした。

でもその前にジョセフ先生がいるかもしれないので講師室へと足を運ぶ事にした。


 講師室の前に着いた私はドアをノックしてみる。・・・・。無反応だ。やはり誰もいないようだ。 

考えてみれば明後日から冬の休暇に入る。臨時講師達の授業はもう終わっているし、誰も残っているはずはないか・・・。

それなら町へ行き、トランクケースを売り払った後に直にジョセフ先生の自宅を訪ねてみる事にしよう。

こうして私は三度、リサイクルショップへ行く事になった。



 約1時間後・・・・。

うん、今日の買取金額がやはり今迄の中で一番多かった。予想通り、私の手元にあるお金は500万を軽く超えてくれた。

よし、これだけあればマリウスの追及の手から逃れられる位の長距離逃避行は出来そうだ。

「ジョセフ先生、家にいるかな・・・。」

町を歩きながら私は呟いた。先生のお宅は路面電車を幾つも乗り継がなければ行く事が出来ない。もし、そこまで行って先生に会えなかったら無駄骨になってしまう。

「あ、もしかしたら・・。」

ラフト屋のマイケルさんはジョセフ先生の友人だ。

この場所から屋台までは歩いて行ける距離なので、まずはマイケルさんを尋ねてみる事にしよう。



「こんにちは、マイケルさん。」

私は屋台で開店準備をしているマイケルさんに挨拶した。



「おや、お嬢さん。どうだった?昨夜はジョセフと流星群、楽しめたかい。」


材料の準備をしながら尋ねるマイケルさん。


「はあ・・まあ。でも、ちょっと色々ありまして・・・。」

まさか、あの後自分の下僕に拉致されて、その相手と一晩一緒にいたなどとは、とてもでは無いが言えないので私は言葉を濁した。


「ふ~ん・・・。その口ぶりだと何かあったようだね。でも2人の間の話だから聞かないでおくけどね。」


おおっ!詮索してこないとは何て良い人なのだろう!なら早速本題に入らせてもらおう。

「あの、ジョセフ先生は今日自宅にいらっしゃるでしょうか?」


「え?ジョセフか?う~ん・・多分いるだろうけど・・何か用事でもあるの?」


「はい、少しお話したい事がありまして・・では先生のご自宅に行って見る事にします。」

マイケルさんは忙しそうなので、後は自分で確かめに行って来よう。


「そうかい、それじゃ気を付けてね。」


私は頭を下げると、ジョセフ先生の自宅へと向かった。



 路面電車を乗り継ぎ、先生の家に着いたのはお昼を過ぎた頃だった。

「先生、いるかな・・・?」

玄関を見上げて、私は神妙な面持ちでドアノッカーを叩いた。


「はーい。」


中から返事があった。良かった!先生がいた。

程なくしてドアが開けられ、私を見たジョセフ先生が驚いたような声をあげた。


「リッジウェイさん・・・!どうしてここに?」


「すみません、先生。昨夜はマリウスのせいであんな事になって・・・。」

私は声を詰まらせながら言った。


「い、いや。そんな事はいいよ。立ち話も何だから、中へ入って。」


ジョセフ先生は私を中へと招き入れてくれた。



 中へ案内してくれた先生は私を案内し、椅子に座らせるとコーヒーを淹れてくれた。


「リッジウェイさん。あの後大丈夫だったかい?心配していたんだよ。」


向かい側に座った先生が話しかけてきた。


「は、はい。大丈夫でした。ただマリウスと同じ部屋で流星群を見ただけですから。」

そう、私達はただ部屋で一晩一緒にいた。それだけだ。


「そう・・・なら良かったけど。」


何処か安心したようにジョセフ先生は言った。


「ところで、何か僕に用事があったんじゃないの?それでこんな所まで足を運んできてくれたんだよね?」


私はコーヒーを一口飲むと言った。

「はい、先生。あの後グレイやルーク、それにアラン王子達はどうなったのかと思って先生にお聞きしたくて来ました。」


「うん。やはり彼等の事、気になるよね?まずアラン殿下は一緒にやってきた彼の仲間達と一緒にあの後すぐにその場を去って行ったよ。そこで僕とハンター君にモリス君の3人で帰ったんだよ。」


そうか、やはりあの後解散になったのか・・・。

「グレイの傷の具合はどうなのでしょうか?」


「そうだね、実は傷に良く効く魔法薬があるから、これを持って今から学院に戻る所なんだよ。リッジウェイさんも一緒に行くかい?」


おお!それは願ったり、叶ったりだ。

「はい、是非お願いします。」

やった!これでグレイに会う事が出来る。



そして私は先生と再びセント・レイズ学院へと戻る事になった。

町の中心部に着いた時、先生が言った。


「リッジウェイさん、今から一緒にマジックアイテムの店へ行こう。」


そして私の手を引いて歩き出す。


「え?何故ですか?」

すぐに学院へ戻るのかと思っていた私は何故なのか不思議に思い、歩きながら尋ねた。


「うん。実はどうしてもグラント君の事で気になって・・・。君にもっとマジックアイテムを持たせてあげたいと思ったんだ。」


「え?」

先生の言葉に私は背筋が寒くなる。マリウスが気になる?一体どういう事なのだろうか?

すると先生は立ち止まると、真面目な顔で私に言った。


「いいかい、自分の生徒をこんな風に言うのは気が引けるけども・・・君の事が心配だからこの際はっきり言うよ。彼は何処か危険だ。恐ろしく強いし、何を考えているのか得体の知れない所もある。明後日は彼と一緒に国へ帰るんだよね?」


「はい。そうですけど・・・。」


「僕はリッジウェイさんが心配だから何処にいるのか把握しておきたい。その為のアイテムが売っているから、それを常に身に付けておいて欲しいんだ。」


「先生・・・。ありがとうござます。」

この世界にもGPSのような物が存在しているのか。だとしたら心強い。



 そしてマジックアイテムの店で先生は言葉通り、私に魔力がかけられたイヤリングを買ってプレゼントしてくれた。

先生は方位磁石のようなものを首からぶら下げている。


「先生、これは?」

私は先生が持っているマジックアイテムを見て尋ねた。


「ああ、これはそのイヤリングを着けた相手が何処にいるか把握する事が出来るアイテムだよ。だからいいね、絶対に君はこのイヤリングを常に身に着けておくんだよ。」


私は頷くと返事をした。

「分かりました、先生。必ず身に着けて置きます。」


そして私と先生は学院に向かった。


「リッジウェイさん、ハンター君が心配なんだよね?そこのカフェで待っていてくれるかい?魔法薬を使った後で彼を連れてくるから。」


「はい、お願いします。」

私は先生に指定されたカフェに入り、カフェオレを頼むと、窓の外をぼんやりみながら考え事をしていた。

ジョセフ先生には私がこの学院から逃げ出そうとしている事を伝えるべきだろうか?でもそんな事をすればあっという間に他の人達に広がってしまう。それならマリウスから逃げ切った後に落ち着いたら手紙を出した方が良さそうだ。


その時、ジョセフ先生がグレイとルークを連れてカフェにやってきた。

「グレイ、ルークッ!」


「ジェシカッ!」


グレイが私の名前を呼んだ。良かった、先生の薬が効いたのか、元気そうだ。


「良かった、グレイ。心配してたよ。」

私はグレイを見ると言った。


「ああ、先生の薬が良く効いたみたいだよ。」


「ジェシカ、大丈夫か?マリウスに何もされなかったか?」


ルークは私を頭のてっぺんから爪先まで見渡すと尋ねてきた。


「大丈夫、心配するような事は何も無かったから。」


ジョセフ先生は用事があるからと帰って行った後、私達は色々な話をした。

 

 そして分かった事は何故かアラン王子はあれ程アメリアに夢中だったのに、今ではソフィーと親しげにしていると言う。

それを聞いた私は段々小説の世界に近付いて来ていると、感じざるを得なかった・・・。








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