第2章 1 興味を持たれない?ヒロイン

「おい、ジェシカッ。本当に大丈夫なのか?顔色が真っ青を通り越して白くなってるぜ?」


ケビンは心底心配そうに私の両肩を掴んで顔を覗き込んでいる。


「あ・・は、はい・・・。だ、大丈夫・・・。」

私はそこまで言うのがやっとだった。


「もしかすると・・・あの連中の会話が気になるのか?」


ケビンはこういう所は察しがいい。

黙ってコクコクと頷くとケビンは私の頭を撫でて言った。


「よし、心配するなジェシカ。俺があいつ等の所へ行って何の話をしているのか聞いてきてやる。ジェシカは取りあえず、俺が渡した指輪で姿を消してこの店から出るんだ。待ち合わせ場所は・・・そうだな。ひとまず先にセント・レイズ学院に戻っていろよ。それで、この間ジェシカと俺が初めて会ったカフェがあるだろう?そこで待ち合わせしようぜ。」


ああ、なんて頼もしい言葉なのだろう!やはりケビンは私にとってお地蔵様的なありがたい存在だ。

「すみません、よろしくお願いします。ケビンさん。」


「ああ、大丈夫だ。それじゃジェシカ、まずはこのテーブルクロスの下にでも隠れろよ。」


ケビンに言われた私はテーブルクロスの下に隠れる。幸い?周囲の人達には私の取っている奇妙な行動に誰一人注目している人物はいなかった。


「それじゃジェシカ。この指輪を握るように祈るんだ。姿が消えるようにと」


ケビンに言われた通りに私は指輪を握りしめて祈る。指輪よ・・どうか私の姿を消してっ!

すると指輪が怪しく輝き始め、徐々に指先から私の姿が消えてゆく。


「よしっ!ジェシカっ、姿が消え始めたぞ!」


やがて徐々に消えて行く範囲が広がってゆき・・・約1分後には完全に私の姿は消えていた。


姿が見えなくなった私にケビンが言う。


「いいか、ジェシカ。その指輪はせいぜい姿を消していられるのが10分位だ。その間にこの場所から出て行くんだぞ?」


「はい、分かりました。」

私はテーブルクロスの中から這い出ると改めて自分の手足を確認してみる。うん、確かに消えているな。

ケビンにはもう私の姿は完全に消えて見えなくなっているだろうから、私は彼の近くで声をかけた。


「それじゃ、先に学院に戻っていますね。よろしくお願いします。」


「ああ、俺に任せておけって。」


 ケビンはそっと呟くように言うと、生徒会長達の元へと歩いて行く。私はそれを見届けると、人にぶつからないように足早にフードコートを抜け出し、寒空の下駆け足で学院へと向かった—。




「遅いな・・・ケビン。」

あれから約1時間が経過した。

私はあの後、すぐに学院に戻ると自分の自室へ向かった。そこで元の姿に戻るのをじっと待つ事30分。

ようやく透明人間から元の姿に戻ったので、私は手持ち無沙汰にならないように以前セント・レイズシティで購入した本を持ってケビンに指定されたカフェに入り、本を読みながらケビンが来るのを待っているのだ。


「もしかして、何かあったのかな?」


更に1時間が経過し、私は不安な気持ちになってきた。

何か不測の事態が起きたのだろうか?ソフィーの暗示にかけられたアラン王子達に酷い目に遭わされたのではないか?

もう居ても立っても居られなくなった頃・・・ようやくケビンが現れたのだ。


「よっ、ジェシカ。待たせたな。」


私の心配をよそに飄々とした態度のケビン。何だか心配していた自分が馬鹿みたいに思えてきた。


「遅かったじゃ無いですか・・・・。ケビンさん。」


「あれ?どうしたんだ?何だか機嫌悪そうだけど?」


「別に悪くなんかありません。」

ケビンから目を逸らしながら言う。


「何だよ、だったらこっち見ろってば。」


ケビンが無理やり私の顎を掴んで自分の方を向かせる。


「あ?なーんだ。やっぱり怒ってるんじゃないか。」


私が恨めしそうにケビンを見ていたので、彼は怒っているのかと勘違いしたようだ。

「違いますっ、怒ってなんかいません。ただ・・・。」


「ただ?」


首を傾げるケビン。


「ものすごーく心配していただけですっ!」

あ、駄目だ。ケビンの変わりない様子を見て、安心して涙腺が緩んできた。


「何だよ、こっち向けって・・・!」


ケビンは再び私を自分の方に向かせ、そこで初めて私が涙を浮かべているのを見て息を飲んだ。

しまった。ケビンに泣き顔を見られてしまった。ウウ・・彼にだけは自分の弱みを見せたくは無かったのに。


「ジェ、ジェシカ・・・泣いているのか・・?」


驚いているケビンに私は言った。

「ち、違います!目に・・ゴミが入っただけです。」

そして両目をゴシゴシ擦る。


「あ、そうか・・・ゴミか・・。」


ケビンは言ったが、あの表情から嘘をついているのは分かった。でも私自身嘘をついているので、人の事は言えない。


「それで、アラン王子や生徒会長の話を聞く事が出来たのですか?」

気を取り直して、改めてケビンに尋ねた。


「ああ。ばっちり聞いて来たぜ。まあ・・要約するとあれは単なる痴話喧嘩だな。」


「痴話喧嘩?」


「そう、誰がこの中で・・えっと・・アメリア・・だっけ?その女の恋人として相応しいかどうかを話し合っていた、実にくだらない痴話喧嘩さ。」


呆れたように言うケビン。

それではソフィーは一体何のためにあの場に居たのだろう?

「あの、もう1人女生徒がいましたよね?ストロベリーブロンドの美少女ですよ。

名前はソフィーと言うんですけど・・彼女は何の為にあの場にいたのですか?!」


「う~ん・・・それが俺にもよく分からないんだよな。何せ、あの場にいた男どもはみんな、アメリアに夢中になっていて、もう片方の女生徒には全く興味を示していなかったんだよなあ。」


ケビンは不思議そうに言う。


「そうですよね?ソフィーはあれ程に美少女なのに、何故アラン王子や生徒会長達が全く興味を持たないのか、おかしいですよね?」

私は身を乗り出してケビンに言ったが、当のケビンすら考え込んでいる。


「うん、そこなんだよな・・・。確かにあのソフィーという女は美少女なのかもしれないが・・・悪いけど、俺もちっとも興味が湧かないんだよな?不思議な事に。余程アメリアって名前の女性の方がマシだと思うぜ。自分でも不思議だと思うよ。」


 なんと!私の小説の中で所詮、モブキャラにしか過ぎないケビンでさえ、ソフィーには全く興味が湧かないとは・・・。一体何故なのだろう。

だってヒロインはソフィーだ。アメリアなんて女性は名前すら出てきたことは無い。


「と言う訳だから、な?安心しろよジェシカ。誰もお前の話をしていなかったからさ。恐らくあいつらの中では、もうお前の存在はきれいさっぱり忘れていると思うぜ?」


ケビンはポンと私の肩に手を置くと言った。


「そうですよね・・・。きっと。」

呟くように私は言った。


「だからさ、ジェシカ。」


いきなり口調が変わるケビン。


「はい?」


「もう付き合う相手、この俺にしちまえよ。」


私の肩に腕をまわすと、急に馴れ馴れしい態度で接し始めてきたケビン。


「ち、ちょっと待って下さいよ。私、まだ誰かと付き合うなんて・・。」


そこまで言いかけた時、何やら背後に強い視線を感じて私は振り向いた。

するとそこにはライアンが立っているではないか。


「おい・・ケビン・・・。お前一体ジェシカに何してるんだ・・?」


拳を握りしめてブルブル震えているライアン。あ、マズイ・・。何だかすごく怒っているよ。


「あれ~、ライアン。お前良く俺達の居場所が分かったな?」


「あ・・当たり前だっ!普段からお前が利用しているカフェはこの店だからな。案の定、来てみるとジェシカと一緒だったとは・・・。」


う、まずい・・・。このままだと2人は喧嘩になりかねない・・っ!

そう思った時、私はセント・レイズシティで買ったライアンへのプレゼントを思い出した。


「ラ・・ライアンさんっ!これ私が町で買って来たプレゼントなんです。良かったら受け取って下さい!」


ケビンの腕から抜け出すと、私はライアンの元へ駆け寄って紙袋を手渡した。


「え・・?これを俺に・・?」


途端に態度が変わるライアン。


「はい、気に入っていただけたら良いのですが・・・。」


ライアンは紙袋から帽子を取り出すと、驚いたように私を見た。


「これを俺に・・・くれるのか・・?」


私が黙って頷くとライアンは帽子を抱きしめて言った。


「ありがとう、ジェシカ。一生使わないで大事に取っておくよ。」


う~ん。やはり親友同士、同じことを言う2人であった・・・。

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