第1章 14 不穏な集まり
「ジェシカ、昨日は1日何して過ごしていたんだ?」
ここはカフェ。
今日は昨日よりもかなり冷え込む日だったので2人で暖を取る為にカフェに来ているのだ。
ケビンの突然の質問に私は一瞬戸惑った。
「え?昨日・・・ですか?」
「ああ!ちなみに俺はもうすぐ里帰りするから1日寮にこもって荷造りしていたぞ。ジェシカはもう帰省する準備は出来ているのか?」
そうだった、もうすぐ国に帰ると言うのに私は何一つ準備をしていなかった。それどころか一緒に帰省する相手がマリウスだと思うと憂鬱でたまらない。
「そう言えば、私何一つ準備していませんでした。それに一緒に里帰りする相手がマリウスだと思うと・・・。」
私は深いため息をついた。
「そうなのか?そんなにマリウスと一緒に帰省するのが嫌なら俺が一緒にジェシカの故郷に付いて行ってやろうか?」
ケビンの提案にギョッとした。
「だ、駄目ですよ!そんな事したらマリウスがどんな暴挙に出るか分かったものじゃないですよっ!ケビンさんはマリウスの怖さを知らないからそういう事を言えるんですよ・・・。」
私がつい愚痴を言うと、ケビンは苦笑いしながら言った。
「まるでジェシカとマリウスの関係は主従関係が入れ替わっているみたいだな?仮にもジェシカはマリウスの主なんだろう?どうしてそんなにビクビクしているんだ?」
「ケビンさんは何も知らないから、そんな事を言えるんですよ。マリウスは本当に危険人物なんです。怒ると何をしでかすか分からないんですから。この間だって私がもし止めなければ相手の腕を本気で折ろうとしていたし、おまけに最近は一緒にいると自分の貞操の危機を・・・!」
ここまで言って私は慌てて口を閉じた。しまった、つい話過ぎてしまった。
私はケビンの顔をチラリと見ると、案の定ケビンは口を大きく開けて唖然とした表情をしている。そして、我に返ると慌ててたように私に詰め寄ってきた。
「おいおい、一体それはどういう意味なんだ?腕を折ろうとした?喧嘩した相手の腕でも折るつもりだったのか?それに貞操の危機って一体どういう事なんだ?確かに今朝見た時のマリウスはジェシカを絞め殺しそうな勢いで抱きしめていたけど・・。」
「はい、ケビンさんの言葉のままですよ。」
私は溜息をつきながら言った。
「まじかよ・・・・。」
ケビンは頭を押さえて椅子の背もたれに寄りかかると言った。
「あんた、大変な男を従者にしてしまったもんだな?」
「別に好きで従者にしたわけじゃありませんよ。気が付いてみたらマリウスが従者になっていただけです。」
「う~ん・・・。」
暫くケビンは何事か考え込出いたが、やがて立ち上がると言った
「よし、ジェシカ。今からマジックショップへ行くぞ。」
そして私の手を掴むとすぐに歩き出し、2人分のコーヒー代を支払うとさっそうと歩きだした。
セント・レイズシティのメインストリートを抜け、私達はマジックショップへと辿り着いた。店内へ入るとケビンはショーケースに収められている様々なマジックアイテムを見て回っている。
一体ケビンは何を探しているのだろう・・・?
「あ!あった!これだ!」
ケビンはガラスケースに顔を近づけて何かを見つけて大声を出した。
「ケビンさん、何を見つけたんですか?」
私が近づいて声をかけると、ケビンはガラスケースを指さした。
「ほら、この指輪だよ。」
「この指輪がどうしたのですか?」
「いいか、この指輪は自分の姿を消す事が出来るんだ。値段によって体を消せる回数や時間も限られているんだが・・・使い方は簡単だ。指輪を嵌めて祈れば姿を消す事が出来る。よし!俺がこの指輪を買ってやるから身の危険を感じたらこの指輪に祈るんだ。いいな?」
ケビンは真剣な眼差しで言うと、私の返事も聞かずに勝手に店主を呼んでさっさとお買い上げしてしまった。
う~ん・・でもマリウスに捕まった段階で姿を消しても意味無いよね?これって。
でもそれ以外に使い道がありそうだし・・ここはありがたくプレゼントしてもらう事にしよう。ケビンにはまた別に後でお礼をすればいいしね。
「ほら、ジェシカ買って来たぞ!どうせなら今すぐ指輪を嵌めた方がいいな。よし、俺が嵌めてやるよ!」
言うと、ケビンは私の左手を取って、するりと嵌めてしまった。
ち、ちょっと!これってまるで結婚式の時の指輪の交換みたいじゃないの!
けれども当のケビンはその事に気付いていないのか、私の指輪を見て満足そうに頷いている。
「あ、ありがとうございます・・・。後で何かお礼させて下さいね。」
私が言うと、ケビンは笑顔で言った。
「ああ、楽しみにしてるぜ!」
その後はセント・レイズシティの巨大フードコートで2人で食事をしに行った。
食事も大分大詰めを迎えた時の事・・・。
突然ケビンが言った。
「あれ?あそこにいるのはアラン王子じゃないか?それに・・うん、生徒会長に副会長までいるなあ・・あいつら生徒会の仕事もしないで何やってるんだ?他にも何人かいるみたいだな。随分大所帯でやってきたんだな。」
「え・・ええ?!」
私はケビンの言葉を聞いて焦った。何故私が焦らなくてはならないのだと頭の中で思いつつも、焦る物はしょうがない。
嫌な汗をかきつつ、私は固まってしまった。
「おい?どうしたんだ?ジェシカ?顔色が悪いぞ?」
ケビンは私の突然の態度の変化に驚いたのか心配そうに声をかけてきた。
「しっ!ケビンさん・・・彼等はもうすぐ食事終わりそうな感じですか?」
私はアラン王子達には背を向ける格好で座っているので彼等の様子を探る事は出来ない。
「う~ん・・。どうだろうなあ?人が大勢いるからあんまりよく見えないんだよ。どうしたんだ?まさか彼等に姿を見られたくは無いのか?」
私は黙ってコクコクと頷く。
「な~んだ、そんな事か。でも安心しろジェシカ。今お前の左手には俺がプレゼントした指輪が嵌められているだろう?その指輪をして祈れば姿を消す事が出来るんだから、彼等に見つかる事はないさ。」
おお!ナイスチョイス!
「そうでしたね!早速こんなに早く指輪を役立てる時が来るなんて思いもしませんでした!それなら安心ですよ。」
「だろ~?だから安心しろよ。それにこんなに大勢客が来ているんだから、アイツらがジェシカに気付く事なんか無いさ。それにしても一緒にいる女2人は一体誰なんだ?」
ケビンの言葉に素早く反応する私。え・・・・?女2人・・・?まさか・・・っ!
私は思わず持っていたスプーンを取り落しそうになった。
「あ、あの。ケビンさん、女2人って・・1人はストロベリーブロンドの美少女、もう1人は眼鏡をかけた女性ではありませんか?」
「あ、ああ。そうだけど・・・何でジェシカはそんな事知ってるんだ?」
尚も何かケビンは私に話しかけてきている様だったが、今の私はそれどころではない。間違いない、ソフィーとアメリアだ。アラン王子だけなく、生徒会等やノア先輩もいると言う事は、ダニエル先輩もあの場にいるはずだ。
やはり私の思った通り、再び彼等はアメリアを愛してしまったのだろう。
ただ、前回と違うのは一緒にソフィーがいるという事だ。
何故だろう?何だかすごく嫌な予感がするのは・・・・。もうすぐ冬の冬期休暇に入ると言うのに不安な気持ちばかりが募って来る。
私を夢で裁いた黒髪の男性はまだ現れてはいない。彼が現れるまでは自分の身は安泰だろうと何処かで、たかをくくっていた。しかし、あの夢で出てきた光景は寒い真冬の出来事だった。凍えるような寒さを私は夢の中で体験し、その感覚が未だに身体に残っている。
彼等が一堂に揃っていると言う事は・・ひょっとするとソフィーがあの場である事無い事、私を罪に陥れる為の作り話を彼等にしているのではないだろうか?
私は自分の足元がガラガラと崩れ落ちて行くような感覚を覚えるのだった—。
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