第1章 13 俺にしておけよ

「ケビンさん、先程はありがとうございました。」

女子寮迄送って貰いながら私は礼を言った。


「な〜に、美人の頼みならなんだって聞くさ。気にするなって。」


両腕を頭の上で組んで並んで歩く私とケビン。きっと、女子寮まで付いてきてくれるのも私とマリウスを2人きりにさせない為だろう。軽い男だが、その辺りの事は察しが良くて助かる。


「ほらよ、女子寮着いたぜ。」


あっという間に女子寮へと辿り着いたので、私は改めてお礼を言った。

「ありがとうございました。それでは失礼します・・・。」

頭を下げて女子寮へと入ろうとしたところ、ケビンに声をかけられた。


「それじゃ、きっちり1時間後ここに迎えに来るからお洒落して待っていてくれよ。ジェシカちゃん?」


「え・・・?」

ケビンの言葉に思わず振り向く私。あれはマリウスの魔の手から逃れるためのその場限りの話では無かったの?


「どうする?何処か行きたい所リクエストあるか?」


尚も言葉を続けるケビンに私は慌てて言った。

「ちょっと待って下さい、あの話はマリウスから逃げる為にその場しのぎの作り話では無かったのですか?」


「まさか!そんなはずないだろう?念願のデートをまさかジェシカから誘ってくれるんだもんな~役得だぜ。まあ、せいぜい出掛けたい場所をよく考えておくんだな。それじゃまた後でな。」


ケビンはウィンクをすると、口笛を吹きながら立ち去ってしまった。私はその場に立ち尽くし、頭を押さえてしまった。まさか本当にケビンと一緒に出掛ける羽目になってしまうとは・・・。でもマリウスから救って貰ったのだから断る訳にもいかない。


「早く部屋に戻って準備しなくちゃ・・・。」

私は重い足取りで部屋へと戻るのだった。



その後はシャワーを浴びて、洋服を着替えて身支度を整えた。・・・本当は部屋でゆっくりしたかったんだけどなあ・・・。

そんな事をしている内にやがて時間になったので階下に降りて女子寮の玄関を覗くと、その先にはもうケビンが背中を向けて待っていた。


防寒具のマントを身に付け、空を眺めているケビンに私は声をかけた。

「お待たせしました。ケビンさん。」


私の声に振り向いたケビンは口笛を吹いた。


「ヒュ~ッ、良く似合ってるぜ、ジェシカ。うん。あんたは色が白いから、真っ白のコートが本当に映えるな。」


そして爽やかな笑顔を見せる。


「あ、ありがとうございます・・・。」


「うん?でも首元が少し寒そうだな?ほら、俺のマフラー使えよ。」


ケビンはシュルッとマフラーを外すと、手早く私の首元にマフラーを巻き付ける。


「うん、これで良し。」


「でもそれではケビンさんが寒いのでは無いですか?」

マフラーに触れながら言うと、ケビンは笑いながら言った。


「ハハハッ。これ位は平気さ。何なら新しい女物のマフラーをセント・レイズシティに見に行こうぜ。クリスマスのプレゼントをさせてくれよ。その代わり、俺には・・そうだな。手袋のプレゼントなんかくれたら嬉しいかな?」


 ケビンは手袋をしていない両手をヒラヒラさせると言った。

うん、確かにケビンの言う通り一方的にプレゼントを貰うよりも、お互いに交換し合う方が気楽でいい。中々取引?がうまいんだなあ・・・。


 セント・レイズシティの門へ向かって歩いていると、門の前に何とライアンが待ち構えていて、私達の名前を呼んだ。


「ジェシカ・・・それにケビン・・・。お前達、2人仲良く何処へ行くつもりなんだ?」


「ラ・ライアンさん・・・っ!」

何だか罪悪感が募り、私は思わず立ち止まってしまった。


「よう、ライアンじゃ無いか。ジェシカにデートに誘われたから今からセント・レイズシティに遊びに行くところだぜ。」


「デートだって・・・?」


デートという単語を聞いてライアンの眉がピクリと上がる。

あああっ!なんて余計な事を言うのよ、このケビンと言う男はっ!ほら、ライアンが恨めしそうな眼つきでこっちを見てるじゃ無いの!


「ジェシカ・・・ケビンとデートって・・本当なのか?」


悲し気な声で私に尋ねて来るライアン。うっ・・・!そ、そんな顔で見ないでよ・・・。何だかすごく悪い事をしている気持ちにますますなってきてしまう。


「あ、あのですね、実は、これには深いわけが・・・。」


「俺から話すよ。ジェシカがマリウスに襲われかけていた。そこを偶然通りかかった俺がマリウスからジェシカを助ける為に彼女とデートの約束があるからと言って連れ出してきたのさ。」


ライアンに説明するケビン。まあ、大筋は当たっているけれども・・・するとやはり彼は私が思っていたのと同じ疑問を口に出した。


「マリウスから助けるための口実に過ぎないのなら、実際にデートをする必要など無かったのではないか?」


「いや、それは役得ってもんだ。折角ジェシカとデートできる口実が出来たんだから、実際に利用しない手は無いだろう?それにどうせお前は冬季の休暇前の生徒会の仕事が残っているから遊びに行く事だって出来ないじゃ無いか。」


言うと、ケビンは私の肩にするりと腕をまわすと、わざと耳元で囁くように言った。


「それじゃ行こうぜ、ジェシカちゃん。」


「お、おいっ!ケビン!お前・・・っ!」


ああっ、ライアンを怒らせちゃってるよ。これはまずい・・・。

「ご、ごめんなさい。ライアンさん。何か町でお土産を買ってきますから・・っ!」

私は半ば強引に門へと連れて行かれたのだった。



 ここは洋品店。

私とケビンはセント・レイズシティに着くとすぐにこの店へとやってきたのだ。


「う~ん・・・ジェシカにはどんなマフラーが似合うかな・・・?」


 ケビンは色々なカラーのマフラーを見比べて真剣に吟味している。別にマフラーなんてどんなものでも私は構わないのだけどなあ・・・。もうかれこれ30分以上は悩んでいるよ・・。

私は欠伸を噛み殺しながらケビンがマフラーを選ぶのを待っていた。

やがて・・・。


「よし!これに決めたっ!」


ケビンが指さしたマフラーは薄いサーモンピンクのマフラーだった。


「うん、ジェシカには絶対にこの色が似あうと思う。」


ケビンは私の首にマフラーをフワリとかけると言った。


「それじゃ、カウンターへ行こうぜっ。」


私の手を握り、店員がいるカウンターへ進むケビン。お金を支払い、お包みしますかと聞かれたのを、このまま使うから大丈夫だと断りを入れる。


私はと言えば、とっくに選んだ手袋を紙袋に入れて、そっとケビンに手渡した。

「あの、私の選んだ手袋はグレーの手袋です。気に入って頂けるといいのですか。」


「ジェシカが選んだものが気に入らない訳は無いだろう?」


ケビンは包み紙を開けて、中から手袋を取り出すと破顔した。


「嬉しいな~。ジェシカからの初めてのプレゼントだ。一生使わないで大事にしまっておくよ。」


「いやいや、手袋なんだから使って下さいよ。その為に買ったのですから。」


全くケビンはどこまで本気で言っているのかが分からない。


「それで、ライアンには何か買ったのか?」


ケビンがもう一つの私が手に持っている紙袋を覗き込むように尋ねてきた。


「はい、どんなプレゼントが良いか迷ったのですが、ライアンさんの故郷は雪深い国と伺っていたので、毛糸の帽子を選んでみました。・・・喜んでくれるといいのですが・・・。」

少し心配顔で私が言うと、ケビンは言った。


「何言ってるんだよ、大喜びするに決まっているだろう?ライアンはな、ジェシカが思っている以上にあんたの事が好きなんだぜ?」


「そ、そうでしょうか・・・?」

ケビンの言葉に声が上ずる私。そこへ追い打ちをかけるように私に言った。


「でもまあ、選ぶなら俺にしておけよな?」


全く、ケビンは本当に何処まで本気で言っているのだ?でも、明るい性格なので一緒にいても楽しい事は事実であった—。


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