第11章 6 私が、やってみます
「え~と・・・それは・・・。」
私が口籠ると、ライアンは切なそうな眼つきで私を見ると言った。
「駄目・・・か?」
そして私の手の上に置かれたライアンの手にますます力がこめられる。
「駄目って事は無いですけど・・・。」
私はライアンの視線から逃れるように顔を背けた。脳裏にマリウスの機嫌が悪そうな表情が浮かぶ。マリウスは何て言うかな・・?
すると、私の考えを見透かしたのか、ライアンが声をかけてきた。
「もしかして、マリウスの事考えてるのか?」
「え?」
驚いて顔を上げるとライアンは俯いて私の手を離した。
「教えてくれよ。ふたりの2人の関係ってやつを。」
ライアンは真剣な顔で私を見つめている。
「か、関係も何も・・・私とマリウスは主と下僕の関係ですけど?」
少なくとも私はそう思っている。だが、下僕が主にキスしたり、よりにもよってあんな!場所に連れて行ったりするだろうか?押し黙ってしまった私を見て勘違いしたのか、ライアンはガックリした様に言った。
「そうか・・・やっぱり2人は・・・。」
「ちょっと待ってください、それだけは絶対無いですから。断言します。」
「お、おう・・・。」
面食らった様に返事をするが、すぐにライアンは笑顔になった。
その時、奥のテーブル席から話声が飛びこんできた。
「全く、あの女の依頼を受けたせいで酷い目にあったぜ。」
「まさか、あそこまで強い男がついていたとはな。」
「あいつ・・・普通じゃないな。骨を折ろうとしたんだぞ?」
「でもジェシカ・リッジウェイのお陰で助かったじゃないか。」
「え・・・・一体どういう事なんだ?ジェシカ。」
ライアンは私の名前が突然出てきた事を聞くと、両肩に手を置き質問してきた。
「どういう事かと言われても・・・。」
どうする?ここは正直に言うべきなのだろうか?でもきちんと話をしない限りはライアンだって納得出来ないだろう。仕方が無い・・私は溜息をつくと、本日起こった経緯を説明する事にした。
「な・・・何だって?アイツらにそんな事されたのか?!くっそ・・・!よくも俺のジェシカに・・・っ!」
ライアンは悔しそうに4人組を睨み付けている。ん?所で今俺のジェシカって言った?何だか語弊があるように感じる。
「ま、まあまあ。ライアンさん、落ち着いて下さい。この通り私は無傷だったのですから。」
落ち着いてと宥める。けれどもライアンは納得いかない様だった。
「だけどなあ、ジェシカ・・・ッ。結局あんたを助けたのはマリウスなんだろう?」
「は、はい・・・。」
「それもやっぱり気に入らない。俺がジェシカを助けに行きたかったよ。」
がっくりしたようにライアンが言うので、私は言った。
「だったら、今度私が危険な目に遭った時はライアンさんが助けてくださいよ。」
ライアンは驚いたように顔を上げると言った。
「ああ、そうだな。今度あんたが危ない目に遭った時に助けるのは俺だ。」
「だけど、一体誰があいつらにジェシカを襲うように指示したんだろうな・・・。」
ライアンは考え込むように言った。
「そうですね・・。もう少し彼等の会話が近くで聞き取れるといいんですけど・・。」
「ああ・・そうだな。」
私達は観葉植物の陰に隠れたように座っている彼等に再び注目する。そのとき・・・。
「あれ?あいつ・・・。」
ライアンが何かに気付いたように呟いた。
「どうしたんですか?」
「いや、1人知ってる奴がいたんだ。」
「ええ?!」
そんな、まさか私を襲った男の1人がライアンの知り合いだったとは!
「お、おい!勘違いするなよ。ジェシカ、そんなんじゃ無いんだ。俺と同じクラスメイトの男がいるんだよ。ただな、親しく話した事が無いだけなんだ。」
「そうなんですね。」
「よし、ジェシカ。すまないが今夜はもう寮に戻ってくれないか?俺があいつらの所へ行ってさり気なく、さぐってきてやるから。あんたがここにいたら色々とマズイだろう?俺に任せろ。」
ライアンは親指を立てて、自分を指さすと言った。でも、私には前回の苦い記憶がある。私達にかけられた濡れ衣を晴らすためにライアンが動き、その結果大怪我を負って入院する羽目になった事を。
「駄目ですよ、ライアンさんっ。また変に行動を起こして危険な目にあったらどうするつもりなんですか?私はもう、誰かが私の為に傷つくのは嫌なんです。」
私は小声でライアンを止めた。
「だ、だけど・・・問い詰めなくちゃ犯人が分からないだろう?」
「いいです。それなら私が今、直接彼等の元へ行って確かめてきますよ。」
「何言ってるんだ?自分で言ってる意味分かってるのか?!」
弾かれたように私を見るライアン。彼の言いたい事は良く分かる。だけど、私はもうこれ以上ライアンに迷惑をかける訳にはいかない。
それに・・私を襲うように命じたのは、恐らくソフィーだろう。
昨夜アメリアを平手打ちする現場へ連れて行ったマリウスを私と勘違いして、逆恨みしての犯行に違いない。ただ、どうすればそれを彼等に白状させられるか・・・。
何とか、彼等を上手い具合に誘導尋問できればいいのだが、生憎私にはそのような技量は持ち合わせていない。ここはもう当たって砕けるしか無いだろう。
「大丈夫ですってば。ここは学生ばかりのサロンですし、それにいざ何かあった時にはライアンさんが助けに来てくれるんですよね?」
私はライアンを心配させないようにわざと笑顔で言った。
「ああ・・・それは絶対助けるが・・・。」
「それなら私は大丈夫です。ライアンさんは彼等に見つかりにくい席に移動していてください。」
ライアンが黙って頷くのを見届けると、私はゆっくり彼等のテーブル席の近くへと移動して席に座った。彼等はまだ話に夢中になっていて、誰も私に気付いていない。
そこへ先程のバーテンが注文を取りに私のテーブルへとやって来た。実はこの席へ来る前にバーテンと少しだけ打ち合わせをし、私が席へ着いたら注文を取りに来てもらうように頼んで置いたのだ。
「いらっしゃいませ、何に致しますか?」
バーテンが静かにメニューを手渡し、すかさず私はアルコールを注文する。
「バカルディを下さい。」
わざと大きめの声で彼等に聞こえよがしに度数が強めのカクテルを注文する。最もこれもバーテンと打ち合わせ済みで、アルコール濃度を下げて持って来てもらうようにお願いしておいた。
それに気づいたのか、1人の男がヒュ~ッと口笛を鳴らして、3人に報告する。
「おい、そこに今1人でいる女・・・かなり強い酒を頼んだようだぜ。」
「へえ~やるなあ・・・ってあの女・・!ジェシカ・リッジウェイじゃないか!」
フフフ・・・彼等はすぐに私に気付いたようだ。そして私も彼等の声に今更気が付いたように演技をする。
「あら?貴方達は確か、昼間の・・・。」
私はアルコールに酔っているフリをして4人を交互に見る。
このジェシカ・リッジウェイという女はまだ18歳なのに、物凄く大人の色気を放っている。なので今回はそれを利用してみようと考えた。
私はマリウスに腕を折られそうになった男性に話しかけた。
「そう言えば・・・怪我の具合はどうですか?私の従者のマリウスは頭に血が上ると主人の私でも手に負えない所があるので。」
そして心配そうな視線を相手に送る。
「あ、ああ・・・。お・俺は大丈夫・・だ。」
よし。相手は明らかに動揺している。他の3人にも声をかける。
「皆さんは大丈夫でしたか?」
全員、呆気に取られた感じではあったが、互いに視線を送ると黙って頷きあう。
「そうですか、それなら良かったです。」
わざとにっこりとほほ笑んでみせる。すると・・・全員が私に見惚れているかのようにボ~ッとしている。うん、さすが悪女のジェシカだ。
丁度その時、バーテンが度数を薄めたバカルディをテーブルの上に置いた。
私はグイッとそれを一気飲みすると、1人が声をかけてきた。
「俺達と、良ければ一緒に飲まないか?」
よし、かかった―。
私はライアンに目を移す。
そこには心配そうに私を見つめるライアンの姿があった・・。
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