第11章 7 一難去ってまた一難

「一緒にお酒ですか・・・?何か面白い話を聞かせてくれるなら飲んでもいいですけど?それも私が聞きたそうなお話に限りますよ?そうでなければお断りです。」


私は上目遣いに彼等を見る。私は魅了の魔力の持ち主だと言われた。それなら彼等にも通用するのでは・・・?

予想通り、彼等が私を見る目つきが変わった。何故なら全員の顔が赤くなっているからだ。ひょとすると、その気になれば自分で魅了の魔力をコントロールする事が出来るのだろうか?照れた素振りも見せているので昼間のような真似をされる心配もこれなら大丈夫だろう。


「あ、ああ・・。俺達に聞きたい事があるなら何でも話してやるよ。何せあんたは俺の右腕が折られそうになったところを助けてくれたんだしな。」


「ああ、本当にあんたのお陰だよ!俺達を逃してくれたからだ!」


「正に命の恩人だ。」


「さあ、何が聞きたいんだ?好きなだけ教えてやるよ。」


・・・何だか、彼等の態度が昼間と全然違ってしまい、正直気味が悪くなってきた。

私の魅了の魔力と言う物はそれ程強い力を持っているのだろうか?


「そう?それなら貴方達と一緒にお酒を飲んでもいいわよ?」

まるでこれでは本当に悪女の台詞そのままだなあ・・・。私がそう思っている合間に彼等はいそいそと自分たちの飲み物を持って私のテーブルに移動してくる。

一方のライアンは爪を噛みながらこちらを見ている。・・どうやらかなりイライラしているようだ。

 今私の座っている丸テーブルには4人の男性達が座っている。名前を聞くのは面倒だから向かって右側から時計回りにA・B・C・Dと勝手に名前を付けてしまおう。

どうせこの小説のモブキャラなんだしね。


「ねえ、確か貴方私と出会った時に探す手間が省けたって言ってたわよね?あれはどういう意味なの?」

Bに尋ねた。


「ああ、言葉通りの意味さ。俺達はあんたを探すように頼まれたんだ。」


「頼まれたって・・誰に頼まれたの?」


「あんたと同じ学年のソフィー・ローランて名前の女だよ。」


Aが答える。


「もともとジェシカ・リッジウェイは有名人だったからな。名前を聞いただけですぐに誰の事か分かったよ。」


Dが言った。


「俺達はまあ・・・あの学院では、はみ出し者だから授業にも出ないで、よく誰も使っていない校舎でさぼっていたんだ。そしたら今朝突然その女が現れて、あんたを探し出して、ちょっと怖い目に遭わせてくれって頼まれたのさ。金と引き換えにな。」


Cの言葉に私は危うく非難の言葉を投げつけそうになり・・・やめた。折角彼等がここまで話をしているのに、今下手な行動は取れない。


「あ、でも言い訳するつもりは無いんだが、あの時どうしても逆らえない気分にされたんだよな・・・。甘い香りも漂っていたし・・。まるで逆らったら命が無いような危険性を感じさせる妙な気持ちにさせたな・・。あれは催眠暗示だったのかも!」


Bの言葉に他のメンバー全員が同調した。


「ああ、そうだ!そうに決まってる!」


「そうでなきゃ、あんな卑怯な真似普段の俺達はしないもんな?」


「でも、本当に悪かったと思ってるよ。あんたを怖い目に遭わせて。」


「すまなかった、ジェシカ。」


そうか、やはり主犯はソフィーだったのだ。でも本当に一体何故なのだろう?

何故彼女は毎回私を罠に陥れようとするのだ?私は彼女に対して何一つ嫌がらせをした記憶が無い。それなのに、どうしてソフィーは・・・?何を考えているのか全く掴めない。


「もう一つ、教えてくれる?」


「おう、知っている事なら何でも答えるぜ。」


Dが言った。


「アメリアって女性の事知ってる?ソフィーの近くにいる女性で・・・メガネをかけているのだけど?」


「アメリア・・・?う~ん・・。知らないなあ・・・。」


Aは暫く思い出すように考え事をしていたが、首を振った。他のメンバーも首を振る。


「ああ!もしかしてアメリアって・・・あれか?あんたに付きまとっていた男達が今朝から急に別の女にしつこく言い寄っていたのを見たぞ?あの女の事なのか?」


突然Cが大きい声で言った。


「あ~あれかあ!俺も見たぞ。あいつら有名人だしなあ・・。しかし驚いたぜ。まさかあんな野暮ったい女に我が学院の有名人たちが現を抜かすなんてな。」


Aが言うと、


「全くだ!とうとう焼きが回ったんだろうな!特にあの生徒会長の騒ぎは見ものだったぞ!」

Dも大笑いして、彼等は勝手にアメリアを巡るアラン王子達の話題で盛り上がり始め、私の存在すら忘れてしまったかのようだ。

そこでこれはチャンスとそろそろと私はその場を抜け出し、ライアンの元へと戻って行った。


「ああ、良かった!心配していたんだぞ!ジェシカッ!」


私がライアンの隣に戻って来ると、いきなり力強く抱きしめてきた。

「ラ・ライアンさん・・・く、苦しいですよ・・。」


「あ!ご、ごめんっ!」


私の苦しげな声にすぐ身体を放すライアン。しかし・・・ここの小説の世界の人物達はどうしてこうも簡単に強く抱きしめてくるのだろうか?


「で、どうだった?何か分かったのか?」


ライアンは小声で尋ねてきた。


「はい、でもその話は後にしましょう。彼等に気付かれる前にすぐこの店を出て・・・。」

そこまで言いかけた時だ。


「ウワアアアアアッ?!」


「?!」

突然背後で悲鳴が上がった。私やライアンを含め、サロンにいた全員が一斉に声の方向を振り向くと、そこには恐ろしい表情のアラン王子に生徒会長、そしてダニエル先輩にノア先輩が先程のA・B・C・Dを囲むように立っていたのだ。

え・・・う、嘘でしょう・・・?何故この4人が揃ってこの場にいる訳・・?


「おい!貴様ら・・・!よくも俺のアメリアを侮辱してくれたな!」


怒りに身体を震わせたアラン王子が男性Dを締め上げている。


「違う!アメリアは俺の物だ!しかし貴様ら許さんぞ!」


生徒会長はカンカンになって全員を威嚇するように睨みを利かせている。


「君達・・・僕の魔法で黒焦げにしてやろうか?」


ノア先輩が言えば、ダニエル先輩も負けてはいない。


「それなら僕は氷漬けにしてあげるよ。」


この学院で有名な凄腕の4人に睨まれては彼等もたまったものでは無いだろう。全員ガタガタと震えて必死に謝罪の言葉を繰り返している。


「ライアンさん・・・。私達もここにいてはまずい気がしませんか・・・?早々に出ましょうよ。」

私はこっそり耳打ちをすると、ライアンは頷いて私の手を握って立ち上がった。


「よし、それじゃ行くぞ。」


そして誰にも気づかれないようにソロリソロリと店の出口へと近づき、ドアを開けようとしたところ・・・。


「おや?あそこにいるのはジェシカとライアンじゃないか?」


この店にいた野次馬の1人がわざとらしく大声で言った。


「「「「何っ?!」」」」

一斉にアラン王子、生徒会長、ダニエル先輩、ノア先輩がこちらを振り向く。


ば、馬鹿!あの男、なんて余計な事を言ってくれるのよ!私は思わず、その学生を睨み付けて・・・え?その人物に何か違和感を感じた。彼は一体・・?

しかし、今はそんな事を言ってる場合では無い。


「逃げるぞ!ジェシカッ!」


突然ライアンは私を抱えると、目の前がグニャリと歪み・・・・気が付くと私は女子寮の近くに立っていた。



「うっ!」

ライアンはうずくまると、ハアハア荒い息を吐いている。


「ライアンさん!大丈夫ですか?!一体何をしたのですか?」

私はライアンの背中をさすりながら言った。


「あ、ああ・・・ちょ、ちょっと瞬間移動の魔法を・・こ、この魔法って体力を消耗するんだ・・・。」


青ざめた顔で苦し気に言うライアン。


「大丈夫ですか?立てますか?」

ライアンの身体を支えて起こしてやると、私の方を見て言った。


「大丈夫・・・だ。でもこれでジェシカを助ける事が出来た・・・かな?」


苦しいくせに無理に強気な笑顔で言うライアン。2人で向かい合って見つめていると・・・


「そんなところで何をしているのですか?お嬢様。」


背筋が凍り付きそうになる程に冷たい表情を浮かべたマリウスがそこに立っていた・・。












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