第9章 12 昨夜の件は無かった事に
う〜ん・・・。何だか身体がフワフワするなあ・・・。
何処かで誰かの話し声が聞こえてくる・・・。けど瞼が重くて目を開けていられないからこのまま寝てしまおう・・。
ジリリリリ・・・
目覚ましの鳴る音で私はパチリと目が覚めた。慌てて飛び起き、バチンと目覚まし時計を止めて、辺りを見るとそこは見知ったいつもの自分の部屋である。
「あれ・・・?私、いつの間に自分の部屋に・・・?」
よく見ると制服はきちんとハンガーにかけられているし、一応パジャマも着ている。
謎だ・・・。
ひょっとすると昨夜は無意識の内にマリウスと別れて、寮に帰ってきたのかもしれない・・・かな?でも誰かに運ばれてきた気もするし・・。
う〜ん・・・。何故か私の中で、これ以上昨夜の事は思い出すなと警鐘を鳴らしている。
もう深く考えてもしょうがない。それにしても頭が重いなあ・・・。シャワーでも浴びて来よう。
私はベッドから起き上がり、何気なくベッドサイドのテーブルに目をやり、メモが乗っている事に気がついた。
「・・・?」
不思議に思い、メモを手に取って中身を読む
ジェシカお嬢様、本日の体調はいかがでしょうか?
お酒はほどほどになさって下さいね。
本日も魔法の補講訓練を受けられるのでしょう?どうか頑張って下さい。
私はエマ様達とセントレイズ・シティへ行き、<ジェシカお嬢様へ変身作戦>の為の必需品を買って参ります。
お嬢様、本番の日は私をお嬢様そっくりに仕上げて下さいね。よろしくお願い致します。
本日は補講訓練が終わりましたらアラン王子達に狙われる前に速やかに女子寮へ戻られるようにして下さい。夕食の心配はなさらなくて大丈夫です。エマ様達にお願いしてありますので。
貴女の下僕マリウスより
PS:
申し訳ございません。制服のまま眠られてはシワになってしまいますので、失礼ながら着替えさせて頂きました。
ハラリ
私の手元からメモが落ちる。
一気に眠気は吹き飛び、代わりに全身に嫌な汗が滲み出る。
え?なになに?どういう事?マリウスが制服を脱がせて、尚且つパジャマに着替えさせたって言う訳?
でも・・絶対お互いの寮には異性が入って来てはいけないのでは無かったっけ?
あ!考えてみれば今女子寮には寮母がいない。その隙を狙って女子寮に入り込んだのだろうか?
おまけに・・・このパジャマ、まさかマリウスが着替えさせたっていうの?!
し、信じられない・・・。やはり2人の間には何かがあるのだろうか?
マリウスの話では「夜のお務め」なるものをかつてのジェシカは毎晩命じていたようだし・・。この夜のお務めと言うのがそもそも謎に包まれているのだ。どんな内容なのか尋ねる事も出来ない。
や、やっぱりジェシカとマリウスは主人と下僕の仲を超えた、男女の関係が・・?
「う、嘘でしょ~っ!!」
私は思わず頭を抱えて叫んでいた。い、いや。落ち着け私。あの変態M男のマリウスをジェシカが相手にするようには思えない。大体2人が男と女の関係にあるのだろうか?いや、絶対にそれはあり得ないし、あってはならない!!
「な、悩みすぎて頭痛がしてきた・・・。」
私はズキズキと痛む頭を押さえてベッドに座り込んでしまった。
と、とにかく様々な理由から私は・・。
「そうよ!こ、こんな時こそシャワーを浴びて頭をすっきりさせるのよ!」
クローゼットから着替えを引っ張り出し、シャワールームへ直行。
パジャマを脱いで、下着姿になった私はまじまじと自分の身体を見つめる。
うん、大丈夫。多分異変は・・無い・・・。何も問題はおきていないはず。
シャワールームで熱めのお湯を頭から被ると、徐々に頭痛は消え、頭も冴えて来る。
「そうよ、絶対マリウスと私の間にはそんな不健全な関係は無いに決まっている。だからマリウスと顔を合わせても、冷静に・・ポーカーフェイスを貫き通すのよ!」
私はシャワーを浴びている間に自分に言い聞かせるのだった・・・。
制服に着替え、朝食を食べにホールへ降りて行くと、何やらちょっとした騒ぎが起きていた。
「ねえねえ、昨夜物凄い美人の女性が校内を歩いているのをご覧になりましたか?」
「ええ!月の光に照らされて、まるで女神の様に見えましたわ。」
「まさに男装の麗人でしたね!」
「それにしても、ジェシカ様の知り合いだったとは・・・。」
え?何?今私の名前が聞こえたような・・・?
驚いてホールの前に立ち尽くしていると、噂をしていた女生徒達が私の姿に気が付き、駆け寄ってきた。
「ねえねえ。ジェシカ様。昨夜一緒にいた女性はどなたですの?」
「驚きましたわ。あれ程の美女がジェシカ様をおんぶして女子寮に入って来られたのですから。」
「それにしてもあのような細腕なのにとても力持ちの様に見えましたわ、ねえ。ジェシカ様。あの女性はどなたですの?」
矢継ぎ早に話しかけて来る女生徒達。
「え?あ、あのちょっと待って下さい!私をおんぶしていた美しい女性?女子寮まで私を運んでくれたのですか?」
むしろこちらが聞きたい位だ。
その時、エマ達が私を呼ぶ声が聞こえた。
「ジェシカさん!こっちこっち!」
見るとリリスが私に向かって手を振っている。他にもクロエ、シャーロット、エマの姿も見えた。
「あ、あのすみません。今呼ばれたので失礼致しますね。」
頭を下げると、急いで私はエマ達の元へ向かった。
「おはようございます、ジェシカさん。」
エマが笑顔で挨拶すると、他のメンバーも声を揃えて言った。
「あ、あの・・・所で昨夜の事なのですが・・・どなたか事情を知ってる方はいらっしゃいませんか?」
恐る恐る皆に尋ねる私。
「え・・・?」
クロエの顔色が変わる。
「知らないのですか?」
シャーロットは驚いている。
「でも、ジェシカ様・・・完全にあの時泥酔していたように見えましたし・・。」
クロエが躊躇いがちに言う。
「ジェシカさん。それでは私達から知ってる範囲内でお話致しますね。」
エマが私を見ると言った。
「お、お願いします。」
私は両手を握りしめ、覚悟を決めた・・・・。
フウ・・・・。ホールで食事を終え、1人女子寮へと戻って来た私はベッドに倒れ込み、天井を見上げた。
昨夜、どうやら私はサロンで強いカクテルを飲んでしまったせいで、泥酔してしまったらしい。
困ったマリウスは女子寮へと私を運ぶ為、何とジョセフ先生から頂いた女性化する為のマジックアイテムを少しだけ飲んだそうだ。
見事女性へと変身したマリウスは私をおんぶして女子寮へと入り・・・私の部屋の前に立っていた所をエマ達に見つかり、事の顛末を説明した。
エマ達が私を代わりに部屋まで運んでおくとの申し出をマリウスは断り、私をおんぶしたまま部屋へと入り・・・。
その後の出来事はエマ達にも分からない。
と言う事は・・・やはり私の制服を脱がせてパジャマに着替えさせたのはマリウスだったと言う事になる・・・。
「マ、マリウス・・・一体何を考えているのよ・・・っ!」
まさか、昨夜そんな出来事があったなんて。それは確かに泥酔した私をここまで運んできた事には、確かに感謝する。感謝するが・・・しかしっ!
勝手に制服を脱がして、パジャマに着替えさせるなど、私達は恋人同士でも何でも無いのに普通そんな事をする?!
いや、絶対にそんなのあり得ないでしょう?!日本だったらこんなの犯罪だ、訴えてやってもいいくらいだ。だがしかし、悲しい事にここは私が書いた小説の中の世界。
そして・・・恐らく私とマリウスの間に昨夜は何も無かった・・・はず。
だとしたら、私の取るべき行動は1つしかない。
「もう、昨夜の事は忘れよう・・・無かった事にするのよ。実際何も無かったわけだし・・・。そう、何も知らないフリをしていればいいのだから!」
私はそう言って、無理に自分を納得させるのだった—。
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