第9章 11 危機管理ゼロの私
「え~と・・・つまりマリウスは仮装ダンスパーティーで私の姿に化粧で変装したいっていう事なの?」
私は腕組みをして尋ねた。
「はい、その通りです。」
大真面目な顔で頷くマリウス。う~ん・・・。一体マリウスは何を考えているのだろう。
「ねえ、マリウス。」
「はい、ジェシカお嬢様。」
身を乗り出すマリウス。
「もう一杯カクテル頼んでもいい?」
何だかシラフの状態では聞きたくないような話になりそうな予感がする・・・。
「お嬢様・・・少し飲み過ぎでは無いですか?と言うか、私の話をちゃんと聞いていましたか?」
マリウスは心配そうに私を見つめている。テーブルの上には私が飲んで空になったグラスが1、2、3、4・・・もういいや。数えるのやめよう。
「へーきへーき、大丈夫よ~ちゃんと話聞いていたから。つまり、仮装パーティーでマリウスが私そっくりに変装してしまえば、アラン王子たちはマリウスを私だと勘違いして、捕まえるだろうって事でしょう?」
酔いが回っていい気分になった私はマリウスの話を復唱した。
「はい、きっとこの方法ならジェシカお嬢様がパーティー会場に仮装して紛れ込んでいたとしても、彼らの注目は私に来るはずなので、きっとお嬢様は最後まで見つかることは無いと思います。」
マリウスは言うと、握りしめていたグラスの中身を一気にあおった。
それにしてもかなりマリウスはアルコールに強いようだ。あれだけ飲んでいるのに、顔色一つ変えずにいる。
「私は・・・何としてもお嬢様を冬の休暇にはリッジウェイ家の邸宅にお連れしたいのです。絶対に彼らとの賭けに負けてはいけないのですよ?お嬢様、今自分がどれ程危うい立場に置かれているのかお分かりになっているのですか?もし負けてしまえばそれこそ取り返しのつかない事になってしまうかもしれないのですよ?どうして・・・お嬢様は私に一言も相談せずにそんな大事な事を決めてしまわれたのですか・・?」
最後の方はまるでこの世の終わりとでも言わんばかりの絶望した様子のマリウスを見て、流石の私もいささか不安になってきた。大体相談も何も、私の意思とは無関係に話を進めていったのは彼らなのに、何故私が責められるのだろう?
「え?だって仮に誰かに私だと見破られたとしても、その相手の領地でクリスマスの2日間を過ごせば良いだけの話でしょう?」
しかし、マリウスは深いため息をつくと黙ったまま首を左右に振った。
え・・・?ちょっと今の態度は一体どういう意味なの・・・?
何だか今の様子で一気に酔いが冷めてしまった気がする。
「ねえ・・・マリウス・・。なぜクリスマスに誘われた男性の領地に行くことが危うい状況になるのか・・教えてくれる?」
恐る恐る尋ねる私。
「お嬢様・・・やはり何もご存じなかったのですね。ちなみに・・・ですが最初にお嬢様をクリスマスに自分の領地に来て欲しいとお願いしたのはどなたなのですか?」
ググッと真剣な表情で私に顔を近づけ、何故か小声で私に尋ねてきた。
「え・・・?ラ・ライアン・・・さんだけど・・・?」
首をかしげながら答えると、マリウスは目を見開いた。
「ま、まさか・・・あの方が・・?本当に?信じられない・・・。」
余りにショックが大き過ぎたのか、マリウスの身体がグラリと揺れる。
「ちょ、ちょっと大丈夫?一体どうしたのマリウス。何故そんなに驚いているのよ?」
「い、いえ・・・あまりにも意外な人物だったので・・・・。てっきりアラン王子か生徒会長あたりだと思っていたので・・・。しかし、まさかライアン様だったとは・・・。」
何だろう?あまりにもマリウスのもどかしさに、ついに私は痺れを切らした。
「ねえ、いい加減に教えてよ。何故私が危険な立場に置かれているのか理由を聞かせて!」
またまた私はマリウスの首を締めあげていた。
「わ、分かりました・・・お嬢様・・く、苦しいです・・。」
「ご、ごめんなさい!」
慌ててパッと手を放すと、マリウスは若干顔を青ざめてネクタイを緩めると言った。
「いいですか?お嬢様。未婚の女性がクリスマスに誘われた男性の邸宅で過ごすと言う事は、相手の男性と結婚しても良いとの意思表示を表すのですよ?!」
マリウスの言葉に私の頭の中は真っ白になってしまった。はい?今マリウスは何と言ったのだろう?クリスマスを男性の邸宅で過ごすと結婚の意思表示?それってつまり・・・ライアンは私に・・結婚を前提に付き合って欲しい相手と見ているっていう事なの?!
いやいやまさかね・・・さすがにそれはないだろう。だから私は言った。
「あのライアンさんが?そんなはずないでしょ~。だって今まで一度も彼は私に好意があるような態度を取った事が無いんだよ?マリウスの考え過ぎじゃないの?」
「お嬢様・・・本気でそう仰られているのですか?」
マリウスは信じられないとで言わんばかりの顔で私を見ている。
「もちろん、そうだけど?」
「まさか、お嬢様がここまで異性の機微に疎く、周囲の人々に無関心だとは思ってもいませんでした・・・。これではライアン様があまりにもお気の毒です・・・。」
そして深いため息をつく。
何だろう?何だかものすごーく今マリウスにけなされているように感じたのは気のせいだろうか?しかし仮にも私は主、マリウスは下僕。その主人に対してここまでの物を申すとは・・・私はマリウスを睨み付けようとして・・・やめた。ここで睨み付けてマリウスのM心に火をつけて喜ばせるのも何だか癪に障る。
「いいですか?ジェシカお嬢様。ライアン様は間違いなくジェシカお嬢様に恋しています。彼の態度を見れば一目瞭然です。だからこそアラン王子達をはじめ、他の男性方も皆必死になってジェシカお嬢様を探す賭けに臨んでくるはずです。」
え・・・・?そ、それはちょっと・・・かなり嫌だ!と言うか、絶対にお断りである!!仮に私がアラン王子か、生徒会長と結婚でもしたとする・・・。ダメだ!私の想像力が限界で全く何も情景が浮かんでこない。考えただけで全身に怖気が走る。
私の様子が変化したのに気が付いたのか、マリウスが声をかけてきた。
「ジェシカお嬢様、ようやくご自分の今置かれている状況が理解出来たようですね?いいですか?今回の賭けはそれこそお嬢様の将来にかかってくる事なのですよ?」
「そ、そんな・・・どうしよう・・マリウス・・。」
気付けば私は何とも情けない声を出していた。
「お嬢様・・・私が必ず何とかしてさしあげます。私を信じて頂けますか?」
マリウスは熱のこもった眼で私を見つめる。
お酒の力も加わってか、いつものM男とはまるで別人の頼りがいのある1人の男性に見えるじゃないの。
「うん・・・よろしくね。マリウス・・。」
私はコクンと頷いた。
「それで・・条件を変更して頂きたいのですが・・・。」
マリウスが口ごもりながら言う。
「え?条件って?」
「お嬢様、もしやお忘れなんじゃないでしょうね?確か最初に私が仮装ダンスパーティーで女装をして参加するという話の中で、私に3人の男性から声をかけられてみなさいとおっしゃったではありませんか。」
あ~確か、言ったような気がする。そんな事・・・。今まで色んなことがありすぎて、今まですっかり忘れていたよ。
「あ・あはは・・・。いやだな~覚えていたわよ・・?」
ごまかし笑いをするが、マリウスにはばっちりばれていたようだ。
「その様子ではやはりお忘れだったみたいですね・・・。とにかくその条件を変更させて下さい。3人の男性から声をかけられるのではなく、仮装ダンスパーティーの時間、私の正体がアラン王子達にばれない事に条件を変更させて下さい。でもお嬢様の言う通り、何とかアラン王子を誘い出してソフィー様と言う女性と引き合わせる事はやり遂げてみせます。」
おおっ!何と頼もしい言葉。よし、それならば・・・。
「マリウス、私達の勝利を目指して乾杯するわよ!さあ、マリウスもグラスを取って・・。」
「は、はあ・・・。」
私に言われるままウィスキーのグラスを手に持つマリウス。
「「かんぱーい!」」
2人でグラスを鳴らし、私は先程頼んでおいたカクテルを一気に飲む・・・あれ・・?視界が回る・・・。
へなへなとソファに崩れ落ちる私。
「お、お嬢様?!一体今何を飲まれたのですか?」
あれ・・マリウスが2人に見えるなあ・・・。
「何って・・・以前・・バーテンの人に勧められた・・事のあるカクテル・・らよ?確か名前は・・<ホワイトレディ>?だったっけ・・?」
「ええ?!そんなアルコールがきついカクテルを飲まれたのですか?!そんな強いカクテルを飲まれたら・・・!」
あ・・何だか急激な眠気が・・・・。
目を閉じる私に誰かが近付く気配を感じた。
「お嬢様・・私は必ずお嬢様を・・・・貴女は私にとって・・・・・。」
マリウスの声が段々遠くなっていく。ねえ・・・最後の台詞は何て言ったの・・・?
そして私の意識はブラックアウトした—。
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