番外編 これが最後です
僕はノア・シンプソン。家の家紋を守る為、13歳の頃から両親に男娼として女性達に売られてきた。最初の夜、発狂しそうだった僕の心を救ってくれた女神。
その正体はジェシカ・リッジウェイだった。何故8年後の世界に存在する彼女が僕の前にあの時現れたのか・・・そんな事、今となってはどうだっていい。だって壊れそうだった僕の心を救ってくれた、唯一無二の存在だったのだから。
正直この学院の女子学生達は煩わしい。盛りのついた発情期の猫みたいにいつでも僕に付きまとい、身体の関係を迫ってくる。僕は1人が好きなんだ。だから彼女達に言う台詞はいつも同じ。1度だけ抱いてやるから、その代わり2度と僕の前に姿を現すなと―。
この学院に入学して以来、何人の女生徒達と身体の関係を持ったかなんてもう覚えちゃいなかった。これでは何のために入学して来たのか分からない。
本当は勉強をしたい、でも授業に出れば、また他の女生徒達に取り囲まれる。
だから僕は講義に出る事を一切やめ、この裏庭のベンチで1人黙々と勉強をしていた。
そんな時、僕はジェシカ・リッジウェイと出会った。
彼女との初めての出会いは僕がいつも授業をさぼる時に使っていた裏庭のベンチ。
いつもの僕なら声など絶対にかけたりしない。けれど僕の気まぐれか、何故か彼女にだけは声をかけたくなってしまった。
「ねえ、こんな所で何してるの?」
けれど彼女は何故か困ったような表情を浮かべ、一言も喋らない。珍しい女の子だ。そう思った僕はもう一度声をかけてみようと思った。
「もしかして・・・僕に見惚れちゃった?」
それでも彼女は口を開かず、首を左右に大きく振るだけ。そしてようやく口を開いたと思えば僕を失望させる台詞だった。
「いいえ、違います。授業に出る為に教室へ向かっていたのですが迷ってしまったので、たまたま目に入ったこちらのベンチで休んでいただけです。」
何それ?僕が誰だか知らないの?戸惑っていると、何と彼女はその場から去ろうとしているから驚きだ。
逃がしてたまるか!そう思った僕は壁際に彼女を追い詰めると、何故か恐怖にひきつった顔で僕を見る。一瞬募る罪悪感。
その隙に僕を突き飛ばして、彼女は逃げて行ってしまった。くそっ!何故僕から逃げるんだ?どうしようもない苛立ちが後から後から湧き上がる。
その後も偶然彼女と再会する機会があった。
あれは僕に付きまとう女達と渋々カフェに行った時の出来事。そこで僕は何処かで見た事があるような後ろ姿を発見した。あれは・・・。
そう、僕を突き飛ばして逃げた彼女だ。一緒にいる偉く顔の整った顔の男は彼女の事をお嬢様と呼んでいたので、2人は主従関係の中なのだろう。だけど、男の腕の中にいる彼女は僕に対して震えている。
まただ、また彼女は僕を恐れている!他の男の腕の中にいるだけで、十分気に入らないのにこの上、僕を拒絶するなんて。カッとなって放つ魔法は呆気なく銀の髪の男の手で握りつぶされてしまう。
僕は負けを認め、カフェを出るしか無かった・・・。
次に会ったのはサロン。僕には恐怖の顔しか見せなかったのに、バーテンと時折笑みを浮かべながら話す彼女に何故か憎しみが募る。しかも相手は僕が憎んでいるバーテンだった。あの男は僕が女たちを相手にしたくない為、アルコールに睡眠薬を入れて眠らせた隙に寮に戻っていたのに、アイツは僕が彼女たちを酔い潰して、女を食い物にしている等と根も葉もない噂を立てるような憎いヤツ。そんな男と仲良くするなんて許せない—。多分僕は嫉妬していたのだと思う。
だから僕は勝手についてきた女たちを追い払い、彼女に近付く。
ナターシャと言う女のせいで困ったことになったと悩んでいた彼女を振り向かせたくて僕は飲み比べで勝てたらナターシャを誘惑してあげるけど、僕が負けたら、今すぐ僕の物になってと無理難題を押し付けた。でも本当はそれは口先だけの事。ただ僕は彼女と2人きりでゆっくり話がしたかっただけなのに・・・・。
脇から男が現れた。この男にだけは負けたくない、僕は卑怯な手を使って勝とうとしたけど何故か負けてしまったのはこの僕の方だった。何故なんだ?どうして君は僕以外の男の元へ行ってしまうんだ・・・?
飲み比べの翌日、負けてしまった僕は渋々ナターシャを誘って町へ出た。
適当にお茶でも飲んで帰ろうかと思っていたのに、あろう事かあの女は町へ着くとすぐに僕に身体の関係を迫って来たから驚きだ。
何故?何故僕が君を抱いてやらなくちゃならないんだ?頼まれれば僕は誰とでも関係を持つような男だと思っていたのか?何て汚らわしい女なんだ!
だから僕は言ってやった。
悪いけど、君のような女には—。
もう、あの時の僕には正常な判断力が無くなってしまっていたのかもしれない・・。
翌日僕は上着に配合を多めにした睡眠薬を忍ばせて、彼女を探した。
邪魔な男達が彼女に張り付いている。思わず嫉妬で胸を掻きむしりたくなる衝動を抑え、僕はチャンスを伺った。
そしてようやく時は満ちた。隠し持っていた睡眠薬で彼女を気絶させると僕は隠れ家へと彼女を抱えて連れ去る。
倒れて眠っている彼女を見ていると、自分から初めて女性を自分の物にしたいという気持ちが起こった事に僕は驚いた。
けど、いざ激しい抵抗をされると僕は自分が何て恐ろしいことをしようとしてたのかと自分自身を呪いたくなってしまった。
あの時、駆けつけてきた生徒会役員達に捕まった時、本当は心の中で感謝をしていたくらいなのだから・・。
そう、彼女・・ジェシカはいつでも僕を恐怖の対象としてしか見てくれなかった。
でも昨日ようやく彼女と僕はお互いを分かり合えることが出来た。
今迄はジェシカにとって恐怖の対象でしか無かった僕は、これからは彼女を守りぬくと誓った。
そして今、彼女はピンチに陥っている。それはナターシャ・ハミルトンという女のせいだった。
僕を救ってくれた彼女を、今度は僕が救う番。だから・・・・
「ねえ、ナターシャだよね?」
カフェで1人寂しそうに食事をしているナターシャに僕は声をかけた。
「え?ノア様?」
彼女は嬉しそうに僕を見た。だから僕は妖艶に笑い、彼女の耳元に口を寄せて囁いた。
「ねえ?今夜一晩僕と一緒に過ごさない?」
途端に真っ赤になるナターシャ。でもそんな顔を見ても僕の心は何も感じない。
けれど言う事だけはきちんと伝えよう。
「その代わり・・・僕の言う事を何でも聞くって約束してくれるね?」
そう、これが最後。
ナターシャの返事は・・・聞くまでも無かった—。
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