第7章 4 貴方を信じたい
ドンドンドン・・・・ッ!
ドアが激しく叩かれている。もう誰だろう?折角の読書の時間が・・・今丁度物語が佳境に入っている所だったのに。
「大丈夫か?!ジェシカ!無事か?!」
え?あの声は・・・ライアン?私がドアを開けると息せき切って部屋の中に飛び込んできたライアン。その慌てぶりに何事かと私はすっかり驚いてしまった。
「どうしたんですか?ライアンさん。」
「ジェシカ!大丈夫だったか?何も無かったか?!」
ハアハア荒い息を吐きながら私の肩をバシバシ叩くライアン。一体彼はどうしたというのだろう?
「あの~ライアンさん?」
「何だ?」
未だに私の事を上から下までジロジロ見ているライアンに声をかけた。
「一体どうしたっていうんですか?そんなに慌てて。」
「これが慌てずにいられるか!ジェシカの所にノア・シンプソンが面会に訪れたって話を聞いて急いであんたの所へやって来たんだぞ?!」
「ええ、そうですよ。確かに午前中ライアンさんがいなくなってから、割と早い時間に尋ねてきましたね。」
「何故だ?!あいつはあんたにとって危険人物だろう?どうして自分の部屋へ招き入れたりしたんだ?何かあったら遅いんだそ!幸い・・・今回は何事も無かったみたいだが・・・。」
心底ほっとしたように溜息をつくライアン。もしかして、それで慌てて私の部屋へやって来たと言うのだろうか?
「ライアンさん・・・もしかすると私の事心配して、急いで戻って来たのですか?」
まさかな~と思いつつ一応確認の意味で聞いてみる。
「そんなの当たり前だろう?」
返ってきた言葉は予想外な回答だった。え?嘘。何で?
「ああ、もしかすると私とノア先輩の風紀の乱れを心配していたのですね?それなら御心配には及びませんよ。」
私はにこやかに答えるが、何故か気に入らないと言う風にライアンは言う。
「違う!俺はお前がノア・シンプソンに襲われたりしていないかどうかが心配だっただけだ!」
え?私を心配?う~ん・・・。いわゆる生徒会委員の使命感というものだろうか?流石生徒会委員は正義感の固まりだ。
「成程、さすが生徒会の指導員をやっているだけの事はありますね。」
「え?」
ライアンは私の顔を見る。
「学生の身の安全を守るのも指導員の仕事の一つですからね!」
私は元気よく言うと、ライアンの顔を見た。
「あ?ああ・・・ま、そうだな。」
何故か歯切れが悪いライアン。それよりも私は確認したい事がある。
「ライアンさん、所で私の私物の洋服の件はどうなりましたか?後、エマさんから借りられる予定のノートの件もですが。」
「ああ。その事ならもう連絡済みだ。実は真っ先にジェシカに伝えたい事があってここへやって来たんだ。」
嬉しそうな顔で言うライアン。
「私に・・・。ですか?」
「ああ、喜べ、ジェシカ!実はあんた達が話していた天体観測のスケッチブックだが、ジョセフ講師が素晴らしいスケッチだと感動していた。ほぼ寸分の狂いもなく記入出来ているとべた褒めしていたんだ。だからグラントの罪状は取り消されたぞ!」
え?ちょっと待って・・・グラントは。って・・それじゃ私やルークはどうなのだ?
「あ、あの・・ちなみに私やルークの罪状は・・どうなっているのでしょうか・・・?」
何故か嫌な予感がする。すると私の言葉を聞いた途端に顔が曇るライアン。
え?ちょ、ちょっと待って・・・。
「あ、あの。ライアンさん、私とルークは一体どうなるのですか?マリウスと一緒にここを出られるんですよね?」
いつの間にか私はライアンの制服を握りしめ、縋るように見詰めていた。冗談じゃない。何故マリウスだけがここを出られて、私とルークが出られないのだ?こんなの納得出来る訳が無い。だって私達はナターシャやソフィー、ついでに寮母によって濡れ衣をきせられてこんな所へ閉じ込められたのだから。
「お、おい!落ち着けって!ジェシカ!」
一方、慌てているのはライアンの方だ。でもこれがどうして落ち着いていられよう。
あの変態M男を1人、学院に野放しにするなんて、そんな状況絶対に認めるわけにはいかない。
「いいか、良く聞け。ジェシカ。」
突然ライアンは私の両肩をガシッと掴むと言った。
「必ず俺が何とかしてお前とハンターをここから出してやる。だから心配するな。」
「え?どうし・・・て?」
私はライアンの言葉を信じられない思いで聞いた。今の言葉は聞き間違いでは無いだろうか?そもそも私達をここに入れたのはライアン達だ。そのライアンが私達をここから出してやるだなんて・・・。
「大丈夫、俺を信じろ。」
いつになく真剣な眼差しのライアン。これは・・・彼を信じて良いのだろうか・・?
「本当に・・・信じていいのですか?」
私は再度ライアンに確認する。
「ああ、当たり前だ。俺は絶対お前に嘘はつかない。」
頷くライアンはとても嘘をついている人物とは思えない。
「で、でもどうして?ライアンさんは私達の罪状を認め、この謹慎部屋に閉じ込めた指導員でしょう?」
本当に彼を信じていいのだろうか?まだ私の中ではライアンを疑う気持ちが残っている。
「そうだよな。お前が俺の事信用出来ないって気持ちは分かるよ。だってお前達の言い分を聞く事も無く、強引にここへ連れて来て閉じ込めたんだからな。今では・・・後悔してるよ。」
フッと自嘲気味に笑うライアンの顔には後悔の念が宿っていた・・ように見えた。
「ライアンさん・・・?」
私が名前を呼ぶと、ライアンはこちらを振り向いた。
「グラントの星座のスケッチのお陰で、アイツは罪状を免除されたが、実はまだ危うい立場にあるんだ。知ってるかもしれないがグラントとハンターの鞄から女性用下着が出てきたからな。けれど、それは仕組まれた罠だ。俺は現場を直接見てはいないが、俺達の仲間内が二人の鞄を探すふりをして下着を中に忍ばせたらしい。そしてさもカバンの中から見つかったように見せかけたそうだ。」
私はライアンの話を聞いて息を飲んだ。やはりクロエの話しは事実だったのだ。
でも生徒会の人間がどうしてそんな真似を・・・?
「俺はその2人に心当たりがある。必ず2人を問い詰めて、下着を入れた事を認めさせる。そうすればあんた達全員、晴れて自由の身だ。だからジェシカは安心して待っていろよ。」
俺に任せろと言わんばかりのライアン。でも何故だろう・・・。何だかすごく嫌な予感がする・・。私はこの世界に来て、第六感・・と言うか、直感が良く当たる気がしている。この胸騒ぎは一体何だろう。
「ライアンさん・・・。」
私はライアンに近付くと、そっとライアンの腕に触れた。
「ジェシカ・・・?どうしたんだ?」
不思議そうに私を見るライアン。
「あ、あの・・・。こんな言い方すると、不安にさせてしまうかもしれないけど・・。」
私はライアンを見上げた。
「何だか、すごく嫌な予感がします。だ、だから・・・あまり無理な事はしなくていいですからね?危険だと感じたら・・やめていいですよ?」
「ジェシカ・・。もしかして俺の事心配してくれているのか?」
驚いたように言うライアンの言葉に私は黙って頷く。
「ありがとな。あの・・さ、ジェシカ。無事に今回の件が片付いたら、俺・・お前に伝えたい事があるんだ。だから・・そんな心配そうな顔するな。」
ライアンの笑顔に私も笑顔で返す。
そして、その夜。
ライアンは大怪我を負い、意識不明で町の総合病院へと運ばれたのだった―。
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