第6章 14 謹慎部屋にて その②
取り合えず30分間と言う面会時間が終わり、アラン王子は退室した・・・というか、強制的に指導員達の手により退室させられた。
それにしてもあの暴れっぷりは凄かった。俺は王子だ、もっと居させろと言うわ、挙句にこの俺を追い出すのなら学院への寄付金の援助を打ち切るだのと脅迫し・・・結局私は生徒会役員達に泣きつかれ、アラン王子を退室させる事に成功したのだ。
あ~疲れた・・・。
「本でも読んでようかな・・・。」
私は私物の本を取り出し、パラパラとめくっていると再びドアをノックする音が聞こえた。
「ジェシカ・リッジウェイ、またお前に面会だ。」
うんざりしたかのような指導員の声に私はドアを開けると、そこにいたのはエマ、リリス、シャーロット、クロエ。そして彼女の後ろに立っていたのはグレイだった。
「「「「「ジェシカさん(様)!」」」」」
全員が一斉に私の名前を呼び、私に飛びついてきた。
「ジェシカさん・・・!私、絶対にジェシカさんがナターシャさんにあのような事をしたなんて信じていませんからね!」
エマが必死になって言う。
「そうです!そんな真似をしてジェシカ様に何の得があると言うのですか?言いがかりも酷いですよ!」
クロエはかなり憤慨している。
「ジェシカ様・・・。謹慎されている間は暇だと思い、私刺繍セットを持ってきたんです・・。よろしければ使って下さい・・。」
半分べそをかいたようにシャーロットが私に刺繍セットを手渡した。
「私は本を持ってきたんです。確かジェシカ様はファンタジー小説と恋愛小説がお好きでしたよね?」
リリスは抱えていた本を私に手渡してきた。
私はすっかり感動してしまった。だってあんな事があったから皆私の事を軽蔑してしまったのでは無いかと恐れていたからだ。
「皆さん・・・本当にありがとう。私の事信じてくれるのね・・・?」
「当たり前じゃ無いですか!だって私達親友ですよね?」
エマがぎゅっと手を握ってきたので私も握り返す。
「クラスの皆だって噂してますよ。全部ナターシャさんが仕組んだ罠なんじゃないかって。」
リリスの言葉に私は驚いた。
「え?その話、本当に?」
「ええ、それにほら、マリウス様とルーク様の私物の鞄からナターシャさんの下着が出てきたと言ってましたけど・・・。あれ、明らかに生徒会役員の人達が探すフリをしている時、こっそり入れたんじゃないかって言ってますよ。だってその瞬間を見ていた生徒がいるらしいですから。」
クロエがここだけの話だが・・・と言わんばかりに小声で説明した。
そうか、やはりこれは全て仕組まれた罠だったのだ。誰が仕組んだのかは一目瞭然。
ソフィーとナターシャの仕業に決まっている。そしておそらく寮母も。
「ナターシャさんは・・今どうしているの?」
不意に私は彼女の事が気になり質問してみた。
「実は・・・前以上に厄介な事になっていて・・・。」
リリスがポツリポツリと話し出した。
私達がナターシャの風呂場をマリウスとルークに覗かせ、その上下着すら盗んだと言う話はあっという間に寮の中で広がった。しかし、これは私に嫉妬したナターシャの仕組んだ罠で、口裏を合わせたのは寮母だという噂も広まった。結果、前以上に女生徒達はナターシャの存在を徹底的に無視するようになったと言う。それだけでなく、寮母の話にも耳を貸さなくなり、誰も彼女の言う事に従う者は無く、寮母は今ノイローゼ気味になってしまったらしい。
「いい気味ですよ!私達のジェシカさんをこんな処罰に追い込んだ張本人たちですから!」
おっとりした外見とは裏腹に中々強い発言をするシャーロット。
その時。
「あ、あの~俺も一応いるんですけど・・・。」
グレイが遠慮がちに手を上げた。
「あ、そう言えば忘れてました。私達グレイ様と一緒にこちらへ来ていたんですよね。」
クロエがしれっと言う。
「そ、そんな・・・元はと言えば俺から先に言い出したことなのに・・。」
グレイが情けない声を出す。
「心配してくれていたのね。来てくれてありがとう、グレイ。」
私が笑顔で言うと、グレイは顔を赤らめて言った。
「い、いや・・・それは気になって当然だろう?だって俺は・・・。」
「ルークが心配で来たのよネ?」
うん、そうだ。グレイは仲間想いで、しかも王子に忠実な真面目人間だ。ルークの様子を見るついでに私の所へも来たのだろう。
「え・・・?」
私の言葉に一瞬嫌そうな顔をするグレイ。はて・・?何かおかしなことを言ってしまっただろうか?
「ほら、ジェシカ様もああ言ってる事だし、早くルーク様の所へ行ってあげたらどうですか?」
エマに促されて、渋々部屋を出るグレイ。そして残りの時間、私達は短いながらも楽しい女だけの話題に花を咲かせるのだった―。
「あの~夕食はまだでしょうか・・?」
私は部屋の様子を見回りに来た指導員に声をかけた。時計の時刻は18時半を指している。いい加減、お腹が減って来たところだ。
「ああ、そう言えばお前の所に来客が多すぎたから手続きが遅くなってしまったんだな。肉料理と魚料理、どちらが良い?」
何と!料理を選べるのですか?流石は私の造った小説の世界だ・・・。感動。
「あ、あの・・・それではお肉料理でお願いします。」
すると何故かにやりと口元に笑みを浮かべる指導員。
「あの・・・何か?」
「いや、流石肉食女だと思ってな。」
ムッとした私は尋ねた。
「それはどういう意味なのでしょうか?」
「お前は肉食女だから、ガツガツと男を漁っているのだろう?」
カッチーン!
「分かりました、それでは魚料理でお願いします。」
「何だ?今度は魚料理に変えるのか?」
「ええ。私は肉食女では無いので。」
「へえ~。やはりその顔同様、性格もきつそうだな?」
「ええ。そうですね。自分でもそう思います。せめてもう少し優し気な目元だったら少しはしおらしい女として世間の目も見てくれたのではないでしょうかね?」
だから私はこんな目に遭わされているのですか?と言わんばかりにジロリと指導員を見る。
「まあ、別に俺はきつく見えようが、優し気に見えようが、美人の女なら何でもいいけどな。」
「そうですか。だとしたら私のお勧めは、儚げな美少女を推しますよ。」
そう、あのソフィーの様な・・・ね。
「ふ~ん・・。じゃあ、例えばどんな女だ?」
指導員は面白そうに言う。全く、いつまでこの部屋にいるつもりなのだろうか。早く私のリクエストを聞いて、夕食を持って来て貰いたいのに。
「いいんですか?言っても?」
「ああ、聞くぜ。」
「そうですね・・・。私の推しは、髪はフワフワとなびく珍しいストロベリーブロンド、海のように青い瞳、そして思わず庇護欲を誘うような細身で小柄な美少女・・。
こんな女性はどうですか?」
「え・・・?」
その時、指導員の肩が一瞬ビクリと動いた・・様な気がした。そしておもむろに部屋を出る。そして去り際に言った。
「色々・・・悪いな・・。」
え?今何と言った?でも聞き返そうとする前にドアはバタンと閉められた。
約30分後・・・
再び部屋のドアがノックされ、私はドアを開けるとそこに立っていたのは先ほど私の部屋を訪れていた指導員だった。
「ほら、お待ちかねの夕食だ。」
カートに乗せられた盆には銀の蓋がかぶせてある。指導員は私の部屋まで運び、テーブルの上に置くと蓋を外した。
皿の上には私が最初にリクエストした肉料理だったのだ・・・。うわあ・・美味しそう・・じゃなくて!
「あ、あの・・・私お魚料理を選んだんだけど・・・どうして・・?」
「いや・・だってあんたが最初に頼んだのは肉料理だっただろう?それで俺が変にからかったから魚に変更したんだよな?その・・悪かったと思ってる。からかって。」
照れてるのか、そっぽを向いて答える指導員。気を利かせてくれたのだろう。一応お礼を言っておくか。
「ありがとうございます。指導員さん。」
「指導員・・・。」
ガクッと肩を落とす指導員。
「あのなあ、俺にも名前があるんだよ。そんな呼ばれ方されたのは初めてだ。」
「仕方ないじゃ無いですか。名前が分からないのだから。」
「んー。確かに言われてみりゃそうだな。じゃあいいや。指導員でさ。じゃあ、味わって食えよ。」
そうして指導員は部屋を出て行った。
やった!私の楽しいディナータイムだ—。
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