第6章 13 謹慎部屋にて その①

 私達は今、指導員によって謹慎処分を受ける部屋へと連行されている。


あの後、生徒会長は私達に対する不当な処分や、自分をないがしろにした生徒会役員たちに不平不満をぶちまけていたが・・・結局最終的には、何と彼等から魔法によって気絶させられ(この展開には流石の私も驚いた)、その間に連れ出されてしまったと言う訳だ。勿論私達もこのまま大人しく連行されるつもりは無かったのだが、抵抗すると余計に処分が重くなると言われて、渋々従う事になってしまった。


「いいか、これからお前たちが謹慎処分にされる部屋は魔法を使えないように魔力が封印されている部屋となっている。そしてお前たちの指につけたリングだが・・。」


歩きながら説明する指導員は不敵な笑みを浮かべると言葉を続けた。


「そのリングを付けられたものは、処分期間中は部屋から1歩も出る事が出来なくなっている。勿論、外側の人間からは出入りは自由だがな・・・。ま、せいぜい2日間大人しくしている事だ。最も・・・・お前たちの無実が証明出来るとは思えないがな?」


「き、貴様・・・!」


 ルークはギリギリと悔しそうに歯ぎしりしているし、マリウスも今迄見たことも無いほどの仏頂面をしている。でも私だって2人と同じ気持ちだ。あんな稚拙な出まかせを、生徒会役員達が信じるなんてあり得ない。何かが裏に絶対隠されているに違いない。けれど今の私達にはどうする事も出来ないのが現状。早く、ジョセフ講師が学院に戻り、あのスケッチブックを見て私達の無実を証明してくれない限りは・・!



「さあ、お前たちが閉じ込められる部屋に着いた。リッジウェイ、お前は一番手前側の部屋だ。その隣がグラント、そしてハンター、お前だ。」


指導員は指で各々が入れられる部屋を指さした。


「何故、グレイに引き続き、俺まで謹慎部屋に・・・。」


ルークは余程ショックを受けているのか、何やらブツブツ呟いている。


「お嬢様、私達お隣同士ですね。」


「ええ、そうね。」


何故か笑顔で私に話しかけて来るマリウス。どうして貴方はそんな風に笑っていられるのよ。私達、これから2日間無実の罪でここに閉じ込められてしまうのよ?ああ、せめて授業のノートだけでも・・・?


「あの、すみません。」

私は指導員の方を向いた。


「何だ?リッジウェイ。」


「この謹慎部屋って・・・確か30分間は面会可能なのですよね?」


「ああ、よく知っているな。」


そりゃそうよ。だってグレイの面会に一度来ているもの。

「あの、謹慎処分を受けている間の授業のノートを友人にお願いしたいのですが・・伝えて頂けないでしょうか?」


「ほう?流石は学年1位の才女だな?まあ、いいだろう。では友人の名を教えろ。」


とことん上から目線の指導員。なにやら無性に腹が立つが、ここはぐっと怒りを抑えて冷静に。

「エマ・フォスターと言う名前の女生徒ですが、お頼み出来ますか?」


「ほう?お前は男に媚ばかり売る女だと思っていたが、同性の友人が一応いたのだな?」


とことん、嫌みな言い方だ。もしかすると喧嘩を吹っかけているのだろうか?


「あ、でしたら私にもお願いします。」


「俺も頼む。」


私に便乗してノートを頼むマリウスとルーク。うん、やはり彼等は真面目な優等生だからね。


「ああ、分かった、分かった。全く・・・図々しい奴らだ。」


うん、聞こえない聞こえない・・・。と言うか、聞く耳を持ってはいけない。こんな奴の相手をいちいちしていたらこちらの身が持たないしね。


「では、お前達中へ入れ。」


指導員の命令?に仕方なく従い、私達は各々与えられた部屋へ足を踏み入れた。


「では、これからお前たちを48時間この部屋で監禁する事になった。脱出など不可能であるから、決しておかしな真似をしないようにな!」


そしてドアは閉ざされた—。



 閉じ込められた私は部屋の中をグルリと見渡した。広さは約10畳位だろうか?

簡易机に椅子、そしてベッドが置かれている。私は取りあえずベッドの上に寝転んでみる。うん、寝心地は悪くない。

次に備え付けのバス・トイレ・シャワールームを覗いて見る。

おお、中々良いじゃ無いの。まるで日本のビジネスホテルみたいな感じだ。

床にはカーペットが敷かれているし、ワードローブには個々の部屋の謹慎処分が決まってから持ち込まれた私の私物の服や本が置かれている。

まあ、少し退屈な休暇だと思って過ごせばよいか・・・。

どのみち、ナターシャや寮母がいる寮に戻りにくかった私にとっては謹慎部屋に入れられた方が丁度良かったのかもしれない。

 そしてする事が何も無くなった私は・・・取り合えず眠る事にした。

 

 どの位眠っていただろうか・・・ドンドンドンドンッ!

ドアを激しくノックする音が聞こえてくる。


「おい!ジェシカ・リッジウェイ!面会だ!早く出て来い!」


すると今度は


「おい!貴様!ジェシカに対して何て口の利き方なのだ!」


ヒエッ!あ、あの声は・・・・。

慌ててドアを開ける私。そして目の前に現れたのは指導員を羽交い絞めにしたアラン王子だったのだ。



「アラン王子、何もありませんがお茶をどうぞ。」


私はカップに紅茶を注ぎ、椅子に座るアラン王子に勧めた。しかし・・。


「いや!お茶など、どうでもいい!お前が罪を犯して謹慎部屋へ閉じ込められてしまったと聞かされた時の俺の気持ちが分かるか?!どれ程お前を心配し、心を痛めた事か・・・!!」


そしてどさくさに紛れて私をガバッと抱きしめる生徒会長。ち、ちょっと!何するのよ!

そして私の気持ちなどお構いなしにギュウギュウに抱きしめて来るアラン王子。

く、くるし・・


「あ、アラン王子!く、苦しいですからっ!早く離れて下さいっ!」

私が必死で腕の中でもがくと、ようやく私が苦しんでいる事に気付いた様子でアラン王子は私から離れた。


「す、すまなかった。つい我を忘れて。」


「い、いえ・・・。」

私は顔を青ざめさせながら、何とか返事をする。それにしても凄い力だ。危うく締め殺されてしまうのではないだろうかと思う位に。


「ジェシカ?どうだ?こんな所へ入れられて何か不自由してないか?必要な物があったらどんなものでも持ってこさせるぞ?何、俺は王子だ。出来ない事等何一つない。」


あ~出たわ。俺様王子っぷりが。いや、そんな事よりまずは私達の濡れ衣を晴らす為の動きを何か頼みたいくらいだ。

そこで私はある一つの事に気が付いた。


「あの、アラン王子。私の親友エマはどうされたか何かご存知ですか?」


「ああ。あのエマか?」


「はい、そのエマです。」


「彼女なら来ないぞ。」


「え?何故ですか?」


「何故なら・・・。」


フッフッフッと笑いながら、アラン王子が何処からかノートを取り出す。


「さあ、受け取れ!エマからノートを借りてきた!お前が頼んだのだろう?今日の授業のノートを借りたいと!」


何故か大袈裟な素振りで私にノートを渡すアラン王子。はい、確かにノートを頼みましたが・・・アラン王子。何故貴方が?よし、尋ねてみよう。


「あの・・・私はエマにノートを頼んだのですが・・・何故アラン王子がこれをお持ちになったのですか?」


「何、簡単な事だ。俺がエマからノートを借りてきたのだ。指導員からエマのノートをジェシカが借りたいと言う話を耳にしてな、放課後お前の元に届けようとしていたエマからノートを借りて、届けに参上したのだ。どうだ?嬉しいだろう?この俺に会えて・・。」


「はあ・・・まあ・・。」

私は曖昧な返事をするのが精一杯だった。








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