第6章 12 突然の乱入者
ガチャッ!
その時、突然ノックも無しに部屋のドアが開いた。そして私は入ってきた人物を見て背筋が凍り付きそうになった。そこに立っていた人物は・・・。ノア・シンプソンだったのだ。
「へえ~。何か騒がしいと思って生徒会室に来てみたら・・・君が来ていたんだね。初めてじゃないの?こんな所で会うなんてさ。」
「「!」」
マリウスとルークが咄嗟に私を背後に庇う。
「ノア!お前・・・!言ったはずだろう?本日は生徒会室へは出入り禁止だと!全く普段はちっとも顔を出さないくせに・・・こんな時だけ・・!」
生徒会長が苦々し気にノアを見つめて言う。え・・・?生徒会長、貴方そんな余計な話をしたのですか?そのような意味深な言い方をされたら誰でも気になるのが人間の性。
だから理由を探るためにこの生徒会室へとやってきたのだろう。誰だって考えれば分かるようなものなのに・・・。恐らくこの生徒会長は人の心の機微に最も疎い人物ではないだろうか?それとも何か深〜い訳があって・・・?いや、この生徒会長に限ってそんな事は無いだろう。考え無しに本能のまま行動するような人間なのだから。
「ねえ・・・ずっと君に会いたかったんだよ?会いたくて会いたくて、どうにかなりそうだった・・・夜も眠れない程にね・・僕をこんな風にした責任・・君に取って貰いたいなあ?」
そう言って妖艶に笑うノア先輩。やっぱり嫌だ、この人は怖い・・・!全身に鳥肌が立つのが分る。返事をせずにマリウスとルークの背後に隠れて2人の背中にしがみ付く。
「ノア先輩・・・いい加減お嬢様に付きまとうのは止めにしていただけませんか?」
私を背に庇いながらノア先輩と対峙するマリウス。
「そうだ、俺はあんたと勝負に勝ったんだ。だからもうジェシカの前に姿を現すな。」
怒気を含んだ声で言うルーク。
「ああ、何だ。誰かと思えばまた君達か?そうやってまた彼女のナイト気取りをしているんだね?」
ルークとマリウスの事を思い出したノアに生徒会長は言った。
「いい加減にしろ、ノア!お前にジェシカは渡さない!何せジェシカは俺の物だからな!!」
「「「違うっ!!」」」
私とマリウス、ルークで同時に生徒会長の言葉を遮る。
「煩いなあ。今まで僕はね、どんな女性も黙ってたって勝手に相手から寄ってきてたんだよ。僕の意思なんか完全に無視してね・・!僕の家はね、伯爵とは名ばかりの貧しい貴族だったのさ。でも僕が、色々な女性から色目を使われているのを家族はいい事に、家の家紋を守る為にお金と引き換えに家族に売られ、色々な女性の相手をさせられてきたんだ。信じられるかい?それも僕がたったの13歳の時からだよ?それがどんなに嫌だったか・・・君達には分からないだろう?毎晩のように好きでも無い女性を相手にしなくてはならない僕の気持ちなんてね・・・。だから僕は全ての女性を軽蔑して今迄生きてきた。でもね、ジェシカ。君が初めてだったんだよ?僕を拒絶したのは。だから・・・僕は君に興味を持った。そして、どうしても手に入れたくなったんだ。」
私達は息を飲んで黙ってノアの話しを聞いていた。知らなかった・・・。そんな壮絶な過去を持っていたなんて。
「だから・・・ね。ジェシカ。僕を・・。」
ノアの瞳に狂気の色が再び宿る。
「「「!」」」
私の前に生徒会長、マリウス、ルークがノア先輩から庇うように立ちはだかる。
「ジェシカ・・・。」
ノア先輩が私の名前を呼ぶ。
「嫌!来ないで!」
怖い、怖い!お願いだから私の名前を呼ばないで!
「ジェシカ・・・。何故そこまで僕を拒絶するの・・?」
その時、私は聞いた。余りにも悲しげなノア先輩の声を。
「ほら、ジェシカがどれだけお前を怖がっているかこれで良く分かっただろう?!お前のような男には俺達の大切なジェシカは渡せない!それに俺達は今、大事な話し合いの最中なのだ。分かったら早くここから立ち去れ!」
そこへ追い打ちをかけるような生徒会長の叱責が飛ぶ。
「クッ・・・!」
ノア先輩は悲し気に顔を歪めると走り去って行った。その表情を見た時、私の胸は何故か締め付けられるように苦しくなってしまった。どうしよう、いくら怖かったとは言え、ノア先輩を傷付けてしまった・・・。
「大丈夫でしたか?お嬢様。」
「大丈夫だ。ジェシカ。またあの男がお前の前に現れても必ず俺が守るから。」
マリウスとルークが私を気遣ってくれる。だけど私の頭からはノア先輩の悲しそうな表情がどうしても頭から離れない。
「全く、ノアにも困ったものだ。自分の置かれた立場をまだ理解していないらしい。相手にどれだけ嫌われてるか気づいていないとは愚かな奴だ。」
・・・生徒会長、私も人の事言えませんが、空気読んで下さいよ。あんな傷付いた顔してる人に残酷な台詞を投げつけるなんて。絶対生徒会長の前世は鬼に違いない。この鬼畜め。こんな男に気に入られるとは、私はなんて不幸な女なのだろうか・・・。私は深いため息をついた。
「まあ、あれだ。話はそれてしまったが、後2日はジョセフ講師はこの学院には来ないのでそれまでは各自寮で謹慎している他ないだろうな。」
生徒会長の言葉に私たちは唖然とした。
「ち、ちょっと待って下さい!5日間の猶予を生徒会長から頂きましたよね?それなのに何故ジョセフ講師が来るまで謹慎処分を受けなければならないのですか?!」
私はあり得ないと思い、興奮して思わず声を荒げてしまった。
「ジェシカ・・・だから俺の事は生徒会長ではなく、ユリウスと呼べと前から言っているだろう・・?」
生徒会長の自分の名前の呼び方についての言い分はこの際、完全に無視して私は頭を抱えてしまった。
「し、仕方が無いだろう。いくら俺が五日間の猶予を与えても生徒会の審議委員会にかけてOKが貰えるまでには二日間かかってしまうのだから・・・。これで証拠が見つかっていれば、すぐにでもお前たちの罪状を取り下げる事が出来たのだが・・。」
その時だ。突然ドアが開けられ、先程生徒会長から追い出された3人の指導員がズカズカと部屋へ入って来た。
「何事だ!お前達にはこの部屋から出ていくように命じたはずだが?!」
生徒会長は睨みを利かせて指導員達に言った。それを見て私は思った。何と強気な態度なのだろう・・・。まるで軍人のような言い方だ。強面顔で軍人のようなコスプレに軍人の様な話し方をする生徒会長。に、似合い過ぎている・・・!
しかし、3人はそれに動じる事も無く、交代で話始めた。
「ところが、そうはいかないんですよ。生徒会長。只今我々は貴重な昼休みの時間をわざわざ割いて、生徒会審議委員会を開いて話し合いをしていたのですよ?ああ、今何故自分を会議に参加させないのだと思いませんでしたか?私情まみれの今の貴方を会議へ出席させるわけにはいかないんでねえ。」
「ええ、そこにいるジェシカ嬢にすっかりのぼせてしまった今の貴方じゃ全く使い物にならないんですよ。審議委員会にかけた結果、この3名の疑いが晴れなかった場合は、責任を取って生徒会長、貴方の任も解く事に決定しましたよ。何せ強引に五日間の猶予を与えるなんて書類を勝手に作って・・・最後の文章にきっちり署名してありましたよねえ。『彼等の疑いが晴れなかった場合は全ての責任は自分が取る』とサインされてますよ。」
「ま、貴方みたいなお飾り生徒会長はこちらとしても操作しやすかったですね。
それにしてもこんなにも上手くいくとは思いませんでしたよ。やはりあの人物の言う通りに動いて正解だったな。」
「あの人物だと?」
ルークの眉がピクリと動いた。
「ば、馬鹿!お前何余計な事口走ってるんだ!」
最期に話をした男子学生をリーダー格と思われる学生が叱責した。
おかしい・・・絶対に彼等は何かを隠している。しかし・・・。
「お前たちは寮ではなく、謹慎部屋へ連れて行く事が決定した!」
もう1人の指導員が無情にも私達に言い渡す。
謹慎部屋・・・。以前グレイが閉じ込められていた部屋だ。まさか自分がそこへ入れられるとは思いもよらなかった。
こうして私、ルーク、マリウスは指導員達に謹慎部屋へと連れて行かれる事となったのだ―。
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