第6章 15 謹慎部屋にて その③
「どうだ?美味かったか?」
先程の指導員が食べた食器を下げに、またまた私の部屋へやって来た。
「ええ、そりゃもう美味しかったですよ!」
思わず気が緩んでぞんざいな口の利き方をしてしまう。
「へえ~。それがあんたの素の姿って訳か?」
何故かおかしそうにニヤリと笑う指導員。あーもう、隠していても仕方が無いか。
「ええ、そうですが。いけませんか?だって私達を無実の罪でこんな場所に閉じ込めた貴方方に猫かぶっても意味無いじゃ無いですか?」
「ほう、そうかい。」
指導員は腕組みして頷く。
「それじゃ、俺との会話も無意味って事か?」
何か意味深な事を言う指導員。
「え?それってどういう意味・・・ですか?」
もしや話によっては味方になってくれるのだろうか?
「いや、別に。でもあんたは高位貴族なのに全然お高くとまっていないんだな。」
「ええ、よく言われますよ。変わり者だって。ま、男性達からすれば可愛げが無い女に見られてしまうかもしれませんけど、自分を偽るのって疲れるし、好きじゃ無いので。」
「それはどうかな・・・?」
何やら考え込むかのように言う指導員。
「お上品にお高くとまっているのが男に受ける条件だとしてだ、あんたはどうなんだ?あの生徒会長にも興味を持たれ、大国のやがては王になるアラン王子のお気に入り、それにあんたの従者や、アラン王子の従者達・・聞くところによると、女嫌いの
ブライアントや、ノア・シンプソンにまで狙われているらしいじゃないか。まあ、だからこそ、魔性の女やら、肉食系女等と言われているんだろうけどな。」
「何故、彼等が私の周りに集まってくるかなんて、むしろこっちが知りたい位ですけどね。あ、一緒にコーヒーでもどうですか?」
無意識に私は自分の食後のコーヒーをカップに注いでいたので、ついでに指導員にコーヒーを薦めてみた。
「え?あんた・・・俺にコーヒーどうかって聞いたのか?」
指導員は意外そうに目を丸くした。
「ええ。そうですけど。あ、もしかしてコーヒー嫌いですか?なら紅茶にしましょうか?」
私は紅茶に手を伸ばそうとすると、その手を掴んで止められた。
「え?」
「あ、悪い。手、掴んじまって。」
ぱっと私の手を放す指導員。
「いいのかよ・・じゃあ、コーヒーくれるか?」
「それにしても、一応俺はあんたの敵みたいなもんなのに、よくこの俺にコーヒーを薦めてきたよな?」
コーヒーを飲みながら指導員は不思議そうに言う。だってそれはそうだろう。いつもの癖で食後のコーヒーを淹れてしまったが、貴方がいつまでも居るから勧めたんでしょうが。いくら何でも私は誰かが部屋にいるのに自分一人でコーヒーを楽しめるような人間では無いからだ。
それから約10分後・・・・コーヒーを飲み終えた指導員はごちそうさんと言って私の食べ終えた食器を持って部屋を退室した。ふう~。やっと一人になれた。
時計をチラリと見ると時刻は20時ちょっと過ぎ。
こんな時、お酒が飲めればいいのに・・・。実は謹慎部屋はアルコール類一切禁止となっている。まあそれはそうかもしれないが、やはり口寂しい。でも言っておくが私は決してアル中などでは無い。
不意に部屋のドアの外が騒がしくなった。耳を澄ませると・・・・。
「何故だ!他の連中はジェシカに面会できるというのに、何故この俺だけが面会を許されないのだあっ!!」
「駄目です!貴方はまだ一応生徒会長という立場、個人的感情で2人を会わせる訳にはいきません!」
あ、あの声は・・・暴君生徒会長だ。よし、外の指導員、頑張れ!何としても暴君生徒会長を追い払うのだ!
数分後・・・押し問答していた生徒会長は結局再び気絶させられたようで(何と過激な生徒会だ!)外へ引きずられていったようだ。何故、分かったかというと、塔の出口付近で大の字に伸びた生徒会長の姿が窓の外から見えたからだ。・・・あんなところに放り出されて風邪でも引かないだろうか・・・?
コンコン・・・再びドアのノック音が聞こえる。今度は誰だ?どうして次から次へと・・・。
「はい、何でしょうか?」
ドア越しに返事をすると、声が聞こえた。
「おい、またあんたに面会だぞ?」
おや?あの声は・・・先程から何度も行き来している指導員の声だ。私はドアを開けるとやはりそこに立っていたのはあの指導員。
「ほら、後ろにいる男だ。」
指導員の後ろに立っていたのは、ダニエル先輩だった。
「ダ、ダニエル様?!」
ダニエル先輩は憔悴しきった顔で立っていたが、私を見ると途端に笑顔になった。
「ああ、良かった・・・ジェシカ!」
そして指導員の前をすり抜けると私の身体を何も言わずに突然ギュッと抱きしめてきた。
それを見て唖然とする指導員。
「ダ、ダニエル様?!ほ、ほら。生徒会の方の目がありますから!」
それなのに気にもせず、ダニエル先輩は言った。
「いいじゃないか?だって僕たちは恋人同士だったろう?」
「恋人だあ?」
後ろで指導員のイラつく声が聞こえる。あ、まずい・・・。
「と、とにかく中へ入って下さい。それじゃ指導員さん、30分たったら教えてくださいねっ!」
所が・・・。
「いや、俺も中で見張っている。」
「はあ?」
綺麗な顔を歪めて指導員を睨み付けたのはダニエル先輩。
「ねえ?何でかな?君は只の生徒会の指導員だろう?僕と彼女の2人きりの面会時間を邪魔する権利は無いと思うんだけどね?」
背の高いダニエル先輩は指導員を見下ろすように言うが、彼はそれを気にする風でも無く言った。
「神聖なる謹慎部屋で2人きりで不埒な真似をされても困るからな。それを防ぐのも我々指導員の仕事だ。言い分があればお前も生徒会に入り、校則を変えてでも見るんだな。」
何故だ?一体何故この2人の間に不穏な空気が立ち込めているのだろう?私はさっぱり訳が分からず、オロオロするばかりだ。
カチコチカチコチ・・・・・。
私達3人は無言のまま椅子に座っている。うう・・・何だかこのパターン、つい最近もあったような気がするんですけど・・・。
「あ、あの。ダニエル様。」
折角面会に来てくれたのだ。黙っていても仕方が無い。
「何だい?ジェシカ?」
やたらめったら愛想を振りまいて私にほほ笑みかけるダニエル先輩。
「わざわざ私などの為に面会に来て頂いて有難うございます。本当は不安だったんです。呆れて嫌になってしまったかなと思って・・・。」
そうだ、夢の中ではダニエル先輩は私の味方をしてくれた。だから絶対ダニエル先輩が敵に回るのだけは嫌だ。そんな思いで私は言ったのだが・・・。
「ジェシカ・・・。」
何故か、感極まるように私を見つめるダニエル先輩。そして再び私をギュっと抱きしめた。ちょっと待てーっ!先輩!指導員が見てるじゃないですか!
そんな私の思いをよそにダニエル先輩は言う。
「馬鹿だなあ。ジェシカ、君は世界で一番僕の大切な人なんだよ?そんな君をどうして嫌になるって言うんだい?」
そしてダニエル先輩は私の髪に顔を埋めて摺り寄せる。さ、流石にこれは恥ずかしい・・・!
「言ってる傍から風紀を乱すな!」
何故か立ち上がって私達を引き離す指導員。
「さっきから何なんだ?!君は!君に僕たちの邪魔をする権限など無いだろう?!」
「う、煩い!俺はこの女を見張る立場にある人間なんだ!権限ならある!」
妙に食い下がる指導員。う~ん・・。どうしたものか・・・。
「あ、あの指導員さん・・・?」
私が恐る恐る声をかけると、指導員はキッと私を見つめて言った。
「指導員では無い!いいか?俺の事はライアンと呼べ!分かったな?ジェシカ!」
ええ~っ何でダニエル先輩の前でそんな事今更言うんですか・・・?
何だか果てしなく嫌な予感がするのだった—。
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