第6章 6 突然の呼び出し

「ジェシカ、さっきはありがとう。その・・・アラン王子に意見を言ってくれて。」


歩きながらルークが私にお礼を言う。やっぱりルークもアラン王子に対しては色々言いたい事があるのだろうな。

「ルークもグレイも大変だよね。アラン王子が相手なら苦労が絶えないでしょう?こんな学院にまで付き合わされて・・・。」


「いや、でもアラン王子には感謝してるんだ。俺もこの学院に入りたかったから。勿論グレイもそうだけど。」


それは意外だ。この学院はもしかすると若者たちの憧れの学院なのかもしれない。

「そうだったの?全然知らなかった。でもこんな言い方したらいけないのだろうけど、アラン王子はあまりにもルークやグレイにきつく当たり過ぎてると思うのよ。だからルークとグレイには一時的になるだろうけど私の警護をお願いしちゃったんだよね。だって私の警護をしてる間はあのアラン王子から離れていられるわけでしょう?」

それを聞くとルークの目が丸くなった。


「ジェシカ・・・もしかして俺達の事を考えてお前の護衛に選んでくれたのか?」


「うん、まあそんな感じかな。」

でも本当はアラン王子と生徒会長だけは絶対お断りしたかったからでもあるのだけど。でもそこは伏せておこう。だってルークが何だか嬉しそうな顔をしていたからわざわざ余計な事は言う必要はあるまい。


 やがて私たちは教室の前までやってくるとルークが言った。


「それじゃ、今日の昼食・・一緒に食べていいか?」


「うん、大丈夫。でも友達数人と一緒でも大丈夫?」

女だらけの空間に男1人は居心地悪いのではないだろうかと思い、私は尋ねた。

けれども、全く問題は無いとの事だったので、ランチを一緒に食べる事を約束し、私達は教室の中へと入って行った。

ルークは一番前の座席で、アラン王子とグレイのすぐ傍の席である。着席するやアラン王子から何事か責め立てられているような・・・?もういちどアラン王子には強く抗議しておく必要があるかもしれない。


「お嬢様・・・。少し教室に入るのが遅かったのではありませんか?」


着席するや否や、いささか不満げな目で私を見つめて来るマリウス。う、何故マリウスにそのような言い方をされなくてはならないのだろう。

「そうかな?別に普通に歩いてきただけなんだけど?」


「あの後、アラン王子が荒れて大変だったのですよ?私達だけでなんとかアラン王子を治めましたが・・・。でもいささか疲れてしまいました。もうこの疲れを癒やすにはお嬢様からきつーいお仕置きをしていただく他ありません。さあ、以前のようにお願いします!」


さあさあと私に強請るマリウス。くっ・・・・本当にこの男は救いようが無いM男だ。よし、それならば・・・!私はある考えが閃いた。


「ねえ、マリウス。もうすぐ仮装パーティーが行われるのよネ?」


「ええ!今からとても楽しみです。お嬢様、当然エスコート役はこの私に任せて頂けますよね?!ああ・・・今からとても楽しみです。お嬢様の手を引いてダンスホールに入場する瞬間が・・・。」


 マリウスはうっとりしたように語っている。だけど、残念だったね。マリウス君。私は仮装パーティーになんて、これっぽちも出たい気持ちがないのだから。

そこで私は言った。

「ねえ、マリウス。私素敵なお仕置きを考えたのよ。」


「そ、それはどんなお仕置きですか?」


嬉しそうなマリウス。そこで私はすかさず言う。


「そう、今回のお仕置きはこうよ。貴方は仮装パーティーで女装してドレスで出席する。そして最低3人の男性からダンスを申し込まれなけばならない事。そして、最後まで女装だとばれてはいけない・・・どう?」


「え?ええ?!私に女装しろというのですか?!」


情けない声をあげるマリウス。ここですかさず追い打ちをかける。腕組みをすると私は冷たい瞳でじろりと睨み、吐いて捨てるように言った。

「何?もしかして貴方・・・ご主人様の命令が聞けないとでも言うの?」


「い、いえ!そんな事ありません!つ、謹んでお受けいたします!」


マリウスは顔を真っ赤にさせ、興奮に震えている・・。まあ、マリウス程の美形だ。女装すればかなりの美人になるだろう。私も密かにマリウスの女装を拝みたいと思っている。メイドの恰好をして安全な場所から・・・。ただ問題は、マリウスの身長である。どうみても180㎝越えの身長で男と言う事がばれないだろうか・・・?まあ、バレたらバレたでその時はその時だ。何せ、マリウスは極度のM男。周囲から軽蔑の眼差しで見られる事はマリウスに極上の喜びをもたらしてくれるに違いない。

隣に座っているマリウスを見ると、もうすでに彼は仮装パーティーで自分がどのうような恰好をすれば良いか計画を練っているようだった・・・。本当に変な所が生真面目なので、私には未だにマリウスと言う人物が理解出来ない。


 今日の1限目の授業は天文学。この学院では天文学は必須科目となっているが、やはりこの天文学は、中々難解な授業で毎年落第点を取る学生が少なからずもいる。

その為、誰もが真剣になってこの授業を受けているのだ。かくいう私も天文学には少々抵抗があるので、これに関しては真剣に教授の話に耳を傾けている。

ちなみにこの天文学の臨時講師は分厚い、まるで牛乳瓶の底のような眼鏡をかけているし、無造作に伸ばした髪の毛のせいで表情も読み取れないし、年齢不詳の男性教師である。


「え~ですから、大きな満月と、最も光り輝く恒星が多い月は宇宙からの恵みの力を多く得られ、魔力も高まると言う仕組みになっております・・。」


教室に良く響き渡る声が耳に心地よく聞こえる。確かこの教授は天文学倶楽部の顧問もしてると言っていたっけ・・・。でもこんな堅苦しい倶楽部、入部している学生はいるのいだろうか・・・。ふと隣の席のマリウスを見る。マリウスは一生懸命授業を聞き、ノートもきっちりまとめて書いている。そう言えば以前、マリウスが私に謝罪したいと言ってきた時、スケッチブックに夜が明けるまで星の数を数えさせたことがあった時、綺麗に座標まで書き込んでいたっけ・・・。きっとマリウスは天文学が好きなのだろう。それなら私の事等気にせずにさっさと天文倶楽部に入部してしまえば良いのに。

私も何か倶楽部に入るつもりだったのだが、アカシックレコードの件、および図書館司書のアメリア(仮称)と親しくなると言う目的が出来たので、倶楽部に入部するのは当分お預けとなりそうだ。いや、そもそも呑気に倶楽部活動をしている余裕など今の私には無い。今後1年以内に必ず私が悪女として裁かれる未来がやってくる。裁判にかけられたら間違いなく私は罪人になってしまう。それを回避するためには周囲から足を引っ張られる事の無いよう、そして一刻も早くアメリアの記憶を取り戻し・・

私を罪人に陥れるソフィーと、まだ出会っていない黒髪の男性と決着をつけなければならない。


 そう思っていた矢先、事件は起こった・・・・。

1限目の授業が終わり、ルークとお昼ご飯に行こうとした矢先に突然、以前グレイを拘束した「生徒会所属学生指導員」を名乗る3名の男子学生が教室に入って来ると、声を張り上げて言った。


「ジェシカ!マリウス!ルーク!至急生徒会指導室へ来るように!」


「「え・・・?」」

私とルークは思わず顔を見合わせた。マリウスとグレイは怪訝そうな顔をしているし、アラン王子に至っては顔をしかめている。

一体何があったというのだろう—?



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