第6章 5 お呼びでありません

 ここ数日、周りが静かになり私の中で平穏な日常が続いている。

それは何故かと言うと・・・。

いつものように授業に出る為に寮を出るとそこに立っていたのはルークだった。


「おはよう、ジェシカ。」


照れたように笑うルーク。


「おはよう、ルーク。」

私も笑顔で返す。


「ジェシカ、一緒に教室まで行かないか?後・・昼も出来れば一緒に食べたいんだが・・。勿論、ジェシカの友達の中に混ぜて貰えれば構わないから。それで、夜はサロンに酒を飲みに行かないか?実は新種のカクテルが増えたらしいんだ。」


え?新しいカクテル?それは是非試さなくては!


「うん、勿論行くわよ!新しいカクテルか・・今から楽しみ。そうだ、ルーク。この間合宿所から送ってくれた果実酒、ありがとう。ごめんねお礼を言うの遅くなって。とっても美味しかったよ。あのお酒町でも売ってるかなあ?もし売ってるなら今度の休暇に買いに行こうかな?」


私はあのお酒の味を思い出す。本当に凄く美味しかった。あんまり美味しくてたったの1週間で飲み干してしまったくらいだから。


 それにしても・・・私は視線が気になり後ろをチラリと振り返った。

すると何故か私たちから20m程の距離をあけて、建物の影から彼らが後を付けているのが確認出来た。勿論彼等と言うのはマリウス・アラン王子・グレイ・ダニエル先輩・そしてついでに何故か生徒会長だ。特に気になるのはアラン王子と生徒会長の視線だ。かなり敵意を持った視線をルークに向けているようで、気の毒になって来る。後でアラン王子に酷い目に遭わされなければいいのだけど・・・。


「ねえ・・・?あの人達、一体あんな所で何してるの・・?」

私はルークに尋ねてみた。


「ああ、それは・・。以前ジェシカが俺達に毎日取り囲まれていたら、周囲の注目も浴びてしまうし、静かに学院生活を送れないので構わないで欲しいって言った事があるだろう?」


 ルークは困ったように言った。あーそう言えば、そんな事言った気がする。だって6人の男性達に始終付きまとわれていたら、エマや新しく出来た女友達に敬遠されてしまう。私だって時には女子会等を行って楽しみたいのに、アラン王子達のせいで、女子会どころではない。それに、私にはアカシックレコードについて調べなければならない使命?と記憶を無くしたアメリアと仲良くなり、何とか彼女に記憶を取り戻してもらい、本当の名前を聞きださなくてはならないのだ。


「だからアラン王子の提案で皆で話し合いをして、ジェシカが嫌がらないように日替わりでジェシカの側についてノア先輩から守るようにしたんだ。」


成程、交代で私の警護をしてくれると言う訳ね。ありがたい事だ・・。それにしても早くノア先輩の事、解決して欲しいものだ。もういい加減私の事は諦めて別の女性に興味を持ってもらえないだろうか。

「ノア先輩も物好きだよね。私なんかよりよっぽど魅力的な女生徒が沢山いるのに。私が興味を持たなかった事が余程自分のプライドが傷ついたんでしょうね。意地を張って私を自分に夢中にさせたいのかもね。」

笑いながら言うと、ルークは真顔で言った。


「いや・・・俺はそう思わないけどね。だって俺から見てもジェシカは魅力的な女性だと思う・・・から・・。」


顔を赤らめながらも必死で言葉を探すルーク。


「ルーク・・・。」

そこで私達が見つめ合うと・・・。


「コラ!そこの2人!必要以上に見つめ合うな!」


暴君生徒会長の喚き散らす声が聞こえた。

あ〜もう、うるさいなあ。


「ルーク!それ以上ジェシカに近寄るな!距離が近過ぎる!」


アラン王子に叱責されて、ルークの肩がビクリとする。他のメンバーは傍観者に徹していると言うのに・・・。

私はため息をつくと、ルークに言った。


「ルーク、ちょっと待っててね。アラン王子と話をつけてくるから。」

そして私はアラン王子達の元へ向かった。


「ん?どうした?ジェシカ?」


声をかけてきた生徒会長を無視し、私はアラン王子の前に立った。

「アラン王子、お話しがあります。」


「ああ、ジェシカの話しならどんな事でも聞くぞ?」


嬉しそうなアラン王子。そうか、それなら遠慮なく言わせて貰おう。

「アラン王子。今日はルークが私の護衛をして下さる日なんですよね?」


「そうだ、不本意ながらな。」


頷くアラン王子。何それ?不本意ながらって。どうにもアラン王子の言い方が気に入らない。


「アラン王子、ルークに聞きましたが、アラン王子の提案で私を交代で警護する事をとり決めたと聞きましたよ?それなら本日は私とルークの2人きりにさせて頂けますか?アラン王子にそう睨まれてはルークが気の毒です。勿論、他の方々にも言える事です。」

私は毅然とした態度で全員を見渡しながら言った。


「う、し・しかし・・・。」


尚も言い淀むアラン王子。そこで私は念押しする。

「い・い・ですね?」


「わ、分かった・・・。」


仕方無く頷くアラン王子。


「なるほど、確かにジェシカの言う通りだ。」


生徒会長の言葉に私は切り返した。

「ユリウス様、それは貴方にも言える事ですよ?それと、ユリウス様は私の警護よりノア先輩を何とかして頂けますか?」


「何故だ?!何故俺の警護はいらないと言うのだ?そんなにこの俺では頼りにならないと言うのかぁっ?!」


またまた大袈裟によろめくリアクション生徒会長。ほら、マリウスやグレイ、ダニエル先輩だって呆れているよ。こんなウザイ生徒会長に警護されるなんて御免こうむる。こんな男に付きまとわれるなんて冗談じゃない。

大体、貴方は生徒会長。忙しい身分なのでは無いですか?


「生徒会長、ご安心下さい。私はジェシカお嬢様の下僕ですから、その分しっかり警護させて頂きます。」


出た、変人M男マリウス。すると今度はダニエル先輩が言う。


「元々は僕が先にジェシカの警護を言い出したのだから、僕に生徒会長の分まで任せてくれれば良いよ。だって僕達は君たちよりずっと親しい間柄だしね?」


「何をおっしゃるのですか?ダニエル先輩。私は10年前からずっとお嬢様付だったのですよ?」


マリウスが前に出てくる。


「な、なら俺も・・・。」


グレイが手を挙げるが


「グレイ!お前は黙っていろ!!」


アラン王子に一喝され、しゅんとなる。これにはもう我慢出来ない。


「もう警護をしてくれる方は私が選ばせて頂きます!ルークとグレイ、そしてダニエル先輩とマリウスにお願いします!アラン王子と生徒会長にはご遠慮願います。」


「「何故だ!!」」


またまた綺麗にハモる2人。案外彼らは気が合うのかもしれない。

まさか俺様王子と暴君生徒会長はお断りと言えないので私は最もらしい理由を述べる。

「アラン王子は一国の王太子様です。そのような方に警護をお願いするなど恐れ多い事は出来ません。またユリウス様は生徒会長なのですから、副会長のノア先輩を何とかして下さい。」


アラン王子達はがっくり肩を落としているが、やむを得まい。なにせ一番危険な相手はアラン王子なのだ。あの夢が正夢なら下手に側にいると身の危険を感じるし、ソフィーが何より恐ろしいからだ。


 一方、嬉しそうなのはマリウス達だ。

何か妙な言葉を口走りそうなマリウスを手で制し、よろしくねと3人に握手すると私はルークの元へ戻った。

勿論、今日はこれ以上私とルークに付きまとわないように言い聞かせてから。


 すごすごと去って行く彼等の後ろ姿を見送りながら、ルークは私に言った。


「ジェシカ、今日は俺とだけで過ごしてくれるのか?」


「勿論、だってあまりに大勢に付きまとわれてたら気が休まらないもの。今日はよろしくね。ルーク」


言うと、ルークは照れたように笑うのだった・・・。



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