第6章 7 私たちは罠に嵌められる
私とルーク、マリウスは何故か連行されるような形で「生徒会所属学生指導員」(ああ、長ったらしい!)の彼等に周囲を固められ、生徒会指導室へと連れてこられた。
「生徒会長、例の3名を連れてきました。」
1人の男子学生がドアをノックする。え?生徒会長が?もしや先程自分が私の警護から外された事を恨みに思って呼び出したのだろうか・・・?いや、いくら生徒会長が愚かでもわざわざそんな事で私たちを呼びだす訳が無い。となると他の理由があるのだろう。けれど私には全く身に覚えが無かった。
「よし、入れ。」
中から生徒会長の声がする。学生はドアを開けると私達に中へ入るように促した。
「3人とも、来たか。」
生徒会長は豪華な机に両手を口元で組み、これまた豪華な椅子に座って私達を待っていた。初めて入る生徒会室は豪華なインテリアで飾られている。
あの・・・もしや生徒会運営資金として、横領したりしてませんよねえ?
「よし、お前たちは下がれ。」
生徒会長は私達を連行して来た「生徒会所属学生指導員」以下、指導員達に全員部屋から出るように言った。
「え?生徒会長本気ですか?」
「我々で尋問するはずでは無かったのですか?」
「そうです、彼等は重い罪を働いたのですよ?!」
指導員達は口々に生徒会長に意見する。え?尋問?重い罪?一体どういう意味なのだろう?
「黙れ!お前達は黙って俺の指示に従っていれば良いのだ!いいから下がれ!」
指導員達に一喝する生徒会長。おお~っ!何と横暴な口の利き方だ。これでは人望もへったくれも無いだろう。よくも彼等はこんな生徒会長の下で言いなりになってる・・・?ん、ちょっと待って。何だか彼等は凄く憎しみを込めた目で生徒会長を睨んでいるよ。恐らく私の見立てでは生徒会長には人望が全く無い。どんな姑息な手を使って生徒会長になったのかは知らないが、この分だと生徒会でクーデターが起こるものなら、あっという間に失脚する事になってしまいそうな気がする。
「く!分かりましたよ。」
「どうなっても知りませんからね。」
「チッ!」
彼等は言うとドアを乱暴に閉めて部屋から出て行った。ちょっと待ってよ・・・最後の人、舌打ちしていったんですけど・・・。
それなのに生徒会長は全く気にする素振りが無い。駄目だ、この生徒会長は鈍すぎる。絶望的だ。
生徒会長は私達に豪華なソファに座るよう促すと、私に話しかけてきた。
「コホン。さて、ジェシカ?あれから何か恐ろしい目に遭ったりしていないか?そこにいる男、ルークでは護衛が物足りないのではないか?今から俺がジェシカの全ての護衛を1人で引き受けてもいいのだが?」
ニコニコと笑顔で言う生徒会長。う、普段強面だけに笑顔になられると非常に恐ろしさを感じる。
「勝手な事を言わないで下さい、生徒会長。」
マリウスがはっきり物申した。
「俺にはジェシカを守る自信はあります。」
ルークは力強く言うと、私の方をじっと見た。
「全く、お前達2人は・・。折角この俺が任せろと言っているのに・・・。」
尚もブツブツ呟く生徒会長に私は言った。
「そんなことより、ユリウス様。私達をここにわざわざ呼び出したと言う事は何かあったのですよね?先程彼等が気になる事を言っていましたが、それと関係するのですか?」
私は生徒会長をキッと見ると言った。
「うん?気になる事・・・?」
首を傾げる生徒会長。ねえ、頭大丈夫ですか?それとも認知症か難聴が悪化したのではないですか?本当は中身はお爺ちゃんで外見だけ魔法を使って若く見せかけているのかもしれない。最もそんな魔法があるかどうかなんてしらないけどね。
「そうだ!何故ここへ呼び出したのか思い出したぞ!お前達、9月4日の夜何をしていた?」
ようやくここへ呼び出した理由を思い出した生徒会長。開口一番突然質問をしてきた。
「え?9月4日の夜・・・ですか?」
う~ん・・・あの日何があったっけ?急に日にちだけ指定されても何があったのかなんて思い出せない。
「9月4日と言えば、私達が初めて町へ出た日の夜ですよね?」
おお!流石は記憶力抜群のマリウス。さすがは伊達に下僕をしている訳では無い。
「ああ、忘れる訳が無い。何と言ってもあの日はジェシカがノア先輩に攫われた日だったからな。」
そうか、ルークもちゃんと覚えていたのか?
「それで9月4日の夜、私達が一体何をしたと言うのですか?」
一体生徒会長は何を言おうとしているのだろう。不吉な予感が沸き起こって来る。
「ナターシャと言う女生徒から被害届が出ているぞ。ジェシカの手引きでマリウスとルークに風呂場を覗かれた挙句、下着まで盗まれたと。」
「「「えええ?!」」」
私達は一斉に驚きの声を上げてしまった。
「ど、どういう事ですか?!私たちがナターシャ様のお風呂を覗き見だなんて!」
マリウスは青ざめている。
「大体、ナターシャという女生徒なんか俺は知らないぞ?!覗き見どころか、下着すら盗んでもいない!」
いつもは冷静沈着なルークが珍しく興奮して生徒会長に詰め寄っている。
「生徒会長!どうして私が2人を手引きした疑いをかけられているのですか?!私達全員全く身に覚えがありませんよ?!」
生徒会長と呼ぶな、名前で呼べと言われたが、そこはもう完全無視だ。
冗談じゃない、どうして私が手引きしたなんて根も葉もない噂が飛び交っているのだろう?大体そんな話は初耳だ。
「そ、そうだ!私たちが犯人だと言われる証拠はあるのですか?!」
私は更に生徒会長に詰め寄った。
「そうだ!ジェシカの言う通りだ!証拠を出せ!」
ルークも完全に頭に血が上っている。ふーん、彼にもこんな情熱的な一面が・・・なんてそんな事今言ってる場合ではない!
一方のマリウスは完全に頭を抱えている。
「私がナターシャ様のお風呂を覗き見し、下着を盗むなど・・そんな事全くする気も起きないのに・・・私がこの世で興味を持てる女性は唯一ジェシカお嬢様只1人だと言うのに、どうしてそのようなデマが・・・。」
何やらまた私が鳥肌を立てるような恐ろしい呟きをしているマリウス。お願いだから今はそんな気持ち悪い事を言わないで欲しい。
生徒会長は私たちの興奮が治まるのを待ってから・・・おもむろに口を開いた。
「残念だが・・・証拠はある。」
「はあ?!」
と私。
「嘘だ!先程も言ったが、第一俺はナターシャなんて女は知らない!」
ルークが切れてる・・・。
「私はもう二度とナターシャ様とは関わりたくないのに・・・。」
落ち込むマリウス。
「落ち着け、3人とも。今から事の経緯を説明する。」
生徒会長は言うと、卓上に置いてあったレポート用紙をパラリとめくった。
「ナターシャの言い分によるとだな・・・9月4日、入浴する為に大浴場へ行った際に窓の隙間から2人の男が自分を覗き見している姿を発見したそうだ。」
「そんな!」
「嘘に決まってる!」
交互に喚くマリウスとルーク。
「まあ、落ち着け。話はまだ続く。時刻は21時だったそうだ。大浴場の入浴時間は22時までなので、この時間ならまだ余裕で入浴出来ると考えたらしい。ナターシャは特にマリウスの事を気に入っていたからあの姿は見間違いようが無いと言っていた。それにルーク、お前もアラン王子の従者だから顔はよく覚えていると言ってたぞ。」
何か言いたげな様子の2人だが、ぐっとこらえて話を聞いている。
生徒会長は今度は私を見ると言った。
「次に登場するのがジェシカ、お前だ。あの日、お前は寮母の経由でマリウスからメモを預かっただろう?」
あ・・・そう言えばメモ、預かったっけ・・・。
「寮母の話だと、メモにはマリウスから暗号とも取れる内容が書かれていたそうだ。
つまり、寮母の話とナターシャの話から、お前が二人を入浴施設へ案内する手はずを整え、下着を盗ませる手伝いをしたと2人は訴えている。」
「そんな!滅茶苦茶です!大体あのメモは私に謝罪したいから噴水前広場に来て欲しいと書かれたメモだったのですよ!」
「では、そのメモは?」
生徒会長に尋ねられるが・・・私は口籠る。
「す、捨てました・・・。」
はあ~っ。男3人の盛大なため息が聞こえた。だって仕方無いじゃない。たかがメモだと思っていたのだから。
生徒会長の話はまだ続く。
「それで、最期はOKサインをベランダにいるジェシカにルークが出している姿をソフィーという女生徒が目撃していたのだ。証拠写真もある。」
生徒会長が私達に見せた写真・・・それはルークとマリウスの後姿で、ベランダには確かに私の姿が写っている。そしてルークはOKサインを出していた—。
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