第6章 4 日本に思いを馳せた時

 今日は怒涛のような1日だった。生徒会長とアラン王子のせいで結局私は本日の授業は全て欠席してしまった。昨日だって授業を欠席してしまったのに、これで出席日数が足りなくなってレポート提出か試験でも受けさせられたら、アラン王子は責任を取ってくれるのだろうか?本当に俺様王子は困る。あんなんで将来自国を背負えるのだろうか?余計なお世話かもしれないが心底アラン王子の国の行く末を案じてしまう。それにあの生徒会長も問題だ。絶対自分の私利私欲を肥やす為に生徒会長になったに決まってる。どうか次年度は優秀な人材が選ばれますようにと願わずにいられない。


 グレイとルーク、そしてマリウスは2限目から授業に出席していた。そして彼等には事の顛末を昼休みと、授業を終えた後に話をした。その頃、アラン王子はどうしていたかと言うと、強制的に合宿を終わらせ、その上強引に応接室を貸し切らせたという事で生徒会長と共に1日かけて学院長からたっぷり油を搾られ、更には反省文まで書かされたらしい。まさに自業自得だ。でも俺様王子と暴君生徒会長にとっては良い経験になったのではないだろうか?


 夕食はエマと食べようと思っていたのに、そこへマリウスとグレイ、ルークが首を突っ込んできた為、返ってエマが遠慮してしまい、結局マリウス達と食べる事になってしまった。後からアラン王子に生徒会長、そしてダニエル先輩が加わったのは言うまでも無い。女1人に男6人、しかも学院で有名な人物だらけとくれば当然周りから目立ちまくる。お陰で最近自分が魔性の女と呼ばれている事実を耳にしてしまった時には心底彼等を恨みたくなってしまった。

今となっては最早静かに過ごせるのは自室のみ・・・。


 そして今、私は欠席してしまった分のノートをエマとマリウスから借りている。

目の前には私が日本で使用していたPCとプリンター。

さて。私はPCを起動させてパスワードを打ち込む。プリンター用紙は有り難い事にセット済みだったしインクもたっぷり入っている。私のPCなので資料作りに必要な作成ツールはインストール済み。

だとしたら、もうやる事は1つ。

「ふふふ・・・。これでもう面倒な手書きはしなくて済むわ。」

この世界の言語は、私が今迄いた世界とは全然違う。何故なら文字が一度も見た事が無い字体だからだ。しかし不思議な事に何と書かれているかは見ただけで私には容易に理解出来た。これは恐らく私がこの世界の作者だから都合良く作られているのだろう。


 肝心なのは、このPC。無事起動出来て次に私が考えた事、この世界の言語に変換されているのだろうか?初めにPCが使えるようになった時、頭をよぎった。そこで恐る恐る文書作成ツールを起動させると、きちんと言語がこの世界に変換されていたのを知った時は大喜びしてしまった。


 マリウスはM男という変わり者ではあるが、几帳面なので、きっちりまとまった読みやすいノートだ。一方勉強家のエマは板書以外に自分で気が付いた点をコメントとして書き込んである。流石、二人共優秀だ。

「さて、それじゃノートのまとめをしようかな?」

キーボードをパシパシ、マウスをカチカチ。よし、ここの文章は太文字にして、ここはアンダーライン、そうだ。この部分は表を挿入してみよう。

それを印刷にかけて・・・・よし、出来た!


「おお〜。何て素晴らしい出来栄えなの!これは教科書より分かりやすい完璧なノートだわ。しかも所要時間は、僅か40分程度。やっぱり文明の力って、大事だわ。

思えば地球では魔法なんて物は存在しない世界だったから、文明が発達したのかもね。」

1人、ウンウンと納得する私。 けれど・・・・。

「ネットは繋がっていないんだよね・・・。まあ、当然か。この世界でもインターネットが使えれば、アカシックレコードの事だってすぐに調べられたのに・・・。」

こんな事になると分かっていればPCに辞書やその他諸々の役立つソフトをインストールしていたのに。そうすればオフラインでも色々な事が出来たのになぁ。改めて日本での生活が恋しくなり終いには炊きたてご飯に焼き鮭、納豆、お味噌等々の和食が恋しくなってしまった。

「この世界でも食べられたら良かったのに・・・。」


 私は日本での生活に思いを馳せ、今夜は嫌な夢を見ないようにと願いながら眠りに就いたのだった。



 身体がちっとも動かない・・・。意識はあるのに目を開ける事も出来ない。 

ヒック、ヒック・・・。誰かが泣きじゃくる声が聞こえる。


「遥、遥・・・。目を覚ましてくれよ。」


え?その声は・・・健一?


「ごめんなさい、先輩・・・私、先輩に酷い事、沢山して・・・。だ、だって私、すごくショックだったんです。先輩は私の憧れの人だったのに、私の事、少しも覚えていなかったから、辛くて、悔しくて、あんな真似をして・・・。お願いだから、どうか目を開けて下さい・・!」


 振り絞るような悲しげな声。

もしかしてその声は一ノ瀬さんなの・・・?

そして私の意識は闇に溶け込んだ・・・。



ジリリリリ・・・

枕元で激しく目覚ましが鳴っている。手探りで時計をバチンと止めて起き上がる。

う〜ん・・・何か大事な夢を見たはずなのに、ちっとも思い出せない。

「でも、懐かしい声を聞いた気がするんだけど・・・。」

気付けば私は言葉に出していた。



 いつものように朝食を食べる為にホールへ行くと、何故か大勢の女生徒が一斉に私に向かって駆け寄ってきた。彼女達の目的は昨日の朝の大騒動。

どうも彼女達の見解では、愛し合う2人(私とダニエル先輩)が邪魔者達に無理矢理引き離される悲劇の恋人達として今一番熱い注目の的になっていたらしい。勿論、邪魔者達と言うのは他でも無い、アラン王子と生徒会長である。


「それにしても、やはり生徒会長は横暴な人でしたわね。」

「アラン王子にも驚きましたわ。やはりこの学院一の才女であるジェシカ様を自分の将来の后にと考えていのでしょうね。あの国は代々、お相手の后となる方は優秀な人材でなければ王位を継ぐ資格を与えられないらしいですからね。」


え?!そうなの?自分の小説の事なのに相変わらず知らない事だらけだ!


「それにジェシカ様の従者であるマリウス様。いくらジェシカ様が大切でもべったりしすぎですよね。あまりに野暮と言う物ですわ。」


等々・・・もう朝食どころではない大騒ぎとなっていた。しかし、不思議な事に誰一人私を魔性の女だとか、(日本だったら)男に媚を売る嫌な女という目線で訴えられることが今回は全く無かった。ほんの少し前までは非難めいた視線を送られていたのに、彼女達の心境の変化はいったいどういう事なのだろう?


 

「どうもアラン王子と生徒会長がジェシカさんの件で合宿を強引に切り上げた事で、男子学生達が半月早くこの学院に戻って来れた事に感謝している女生徒達が沢山いるそうですよ。それで皆さん、ジェシカさんに感謝してるんですよ。」


 後でエマがこっそり理由を教えてくれたので、納得。

どうも来月開催される仮装パーティーのパートナーをお互い探すのに、毎年この時期に行われる合宿のせいで相手を見つけられない学生達が続出していたらしい。

しかし、今年は合宿が早く終わったので、パートナー選びに時間を取る事が出来るので男子生徒からも安堵の声があがっているそうだ。

 それならむしろ感謝されるべき相手は私では無くアラン王子と生徒会長でなければならないのに、何故彼等が避難される事になったのか・・・・?


「それは、ジェシカ様とダニエル様が情熱的に抱き合ってるのを見れば、2人を引き離そうとするあの方々が悪人に見えて当然です!」


そう答えてくれたのは情熱的な恋に憧れるリリス・モーガンだった。


成程、そういう事だったのね。

でも私はその時気が付いていなかった。私の事を恨めし気に見つめていたナターシャの姿に―。



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